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第23話 【I・H予選(7) 柊vsきらら、再戦】

 I・H編、第23話です。

いよいよ予選の最終日を迎えた光陵部員一同。その初戦、柊は新人戦で勝利を収めた獅堂 きららと再び対峙する……










 8月7日、日曜日。I・H神奈川県予選の最終日となる今日は、光陵高校女子ボクシング部員……とりわけ下司 ナミには忘れられない日となった。

「準備はいいか?」

顧問・植木の号令一下、戦場となる総合体育館へと向かう一同。今日出場するナミ、柊、心、アンナの4人はそれぞれに気合いの入った、又は緊張した、或いは普段と変わらない落ち着いた表情を見せながら歩いていく。
観戦組となる越花、順子、都亀の3人やセコンドとして試合に関わる由起や陽子なども、皆思い思いの表情をしていた。

最寄りの駅に着き、電車に乗った際「あ、城之内さん!」と声を掛ける者があり、アンナが振り向く。そこには光陵と同じく上下ジャージ姿の女子高生の一団が椅子を陣取っていた。
その胸元には『三笠(みかさ)女子』と刺繍が施されている。三笠女子校ボクシング部の一団であった。その中から声を掛けてきたのは、アンナが第2回戦で下した相手からのものだった。

志紀 龍子(しき りゅうこ)。アンナを呼び止めた少女の名前である。どこか物腰の穏やかな人物で、とても同じ一年生とは思えない落ち着いた雰囲気を醸し出していた。
龍子とアンナは試合後既に友人関係となっていたらしく、何事か話している。その脇で、「高頭さん」と呼ぶ別な声に振り向く柊。そこには、陽光に照らされて光る茶色がかった黒髪を三つ編みに束ね、メガネを掛けた少女の姿。

「………誰?」

見覚えのない少女からいきなり声を掛けられ、小首を傾げる柊に若干呆れた顔をしつつ、

「はぁ? なにボケかましてんのよアンタ。獅堂(しどう)さんに決まってんじゃない」

ナミは少女の正体を伝えた。

「獅堂って、あの獅堂か!?」

信じられねーな、とばかりにメガネの少女……獅堂 きららの事をまじまじと見る柊。そんな柊を見て苦笑しながら、これなら分かるかな? とメガネを外してみせた。

「う~ん……確かに獅堂だ」

メガネを外した事で、柊はようやく得心のいった顔をする。

「お前、目悪いのか?」

醜態を晒したと恥ずかしく思ったのか、まるで照れ隠しのように柊はふと浮かんだ疑問をきららに投げ掛けてみた。

「え……ああ、コレ? ううん、ちょっとしたカムフラージュなんだ」

そう言いながらネガネを両手で弄るきらら。彼女が言うには、小学生の頃父親に勧められて着用するようになったのだという。理由は2つ。


ひとつは腫れた顔、特に瞼などが人目に晒されないように。
もうひとつは、その方が頭が良さそうに見えるから、なのだという。


「自慢じゃないけど、こう見えても成績、学年6位なんだよボク」

そこそこ見映えのいい胸を反らし、きららは明らかに自慢する。

(コイツ、こんなキャラだったのか)

ファイトスタイルから考えてもっとキツい性格と思っていたのだが、案外調子に乗りやすいタイプなのかと、意外な一面を見た思いの柊とナミであった。

後、6位と中途半端な件は敢えて突っ込まなかった。



「まあそんな話は置いといて。今日は新人戦の時みたいに上手くいく、なんて思わない方がいいよ。高頭さん」

 メガネを掛け直し、きららは強気な表情で仇敵を見据える。無敗の元・世界チャンピオンの娘という肩書きに相応しい、風格の伴った双眸から放たれる光。
メガネ越しからでも分かる程の圧迫感に晒され、だが柊はサラリと受け流すと、

「別に上手くいく、なんて思ってねーよ。ただ、オレも負けるのはキライなんでね」

静かに言い返した。口調は確かに静かだが、その内容は多分に攻撃性を孕んでいる。


今回も勝つのはオレだぜ


暗にそう言っているも同然なのだ。柊の返答、その真意を汲み取ったきららは強気な表情から一転、にぱっと満面の笑顔を見せると、

「勝敗はどうあれ、とにかくお互い精一杯闘いましょ」

右手を差し出してきた。その変わり身に軽く虚を突かれながらも、

「そうだな。本気でやらせてもらうぜ」

しっかりと手を握り返していた。



 駅に着き三笠女子の一行と別れた後、光陵の面々も目的地へと向かう。黙々と体育館を目指す一同の、重苦しい空気がひしひしと伝わってきて、これはいかんと緊張感を溶かすべく植木は頭を捻る……が、情けないかな気の利いた言葉ひとつ思い浮かばなかった。

「4人とも頑張ってね。しっかり雄姿は撮るから」

顧問として、大人として自己完結し勝手に打ちひしがれていた植木の後ろ、そう言ってカメラマンのような仕草をするのは、間延び口調に笑顔を浮かべる越花。
今日は昨日にも増して大掛かりな荷物を持ってきていた。彼女が言うには、愛用のカメラの他に三脚なども持参しているらしい。

「しっかり形に残されるんじゃ、あんまりみっともない所は見せられないわね」

重苦しい空気の中、ちゃっかり越花の構えるカメラの視線にフレームインし、ナミがおどけてみせる。その言葉に一同気を紛らわせつつも、出場するメンバーは思いも新たに気を引き締め直していくのであった。










「光陵、高頭選手! 出番です」

 係員から試合の呼び出しを受け、準備万端の柊は長椅子から立ち上がる。普段あまり見せない柊の強張った表情が、嫌が応にも周囲に緊張感をもたらす。

「行ってくる」

ただ一言だけを告げると、皆に見守られる中を柊は出陣していった。最終日では初めての、予選で通算4回目のリングイン。周囲から聞こえてくる歓声には相変わらず慣れないものの、リング上でしか感じられない独特の緊迫感は、実は嫌いではなかった。



ワァァァァーーッ!



青コーナーに控える柊の対角、赤コーナー側からきららがセコンド陣に伴われ入場してくる。脇目も振らず一直線にリングへと向かい、セコンドの広げてくれたリングロープを潜り、無事リングインを果たした。
リングインを果たしたきららの視線は鋭く、ただ対戦相手だけを見据えていた。熱した炎と冷ややかな冷気を併せ持った、非常に戦闘的な双眸。
いかにきららがこの対戦を切望していたかが、いかにも伝わってきそうである。

対する柊は実に普通……自然体で受け流していた。少なくとも見た目は軽く受け流しているように見える。だが、

(ヤロー……なに睨み効かしてやがんだよ)

実の所、内心かなり激昂していた。高頭 柊という女性は、見た目の麗しさとは裏腹に相当な負けず嫌いである。また、挑発行為に対して無償で微笑みを返してやれる程、出来た性格でもなかった。
売られた喧嘩は買う、侮辱にはそれに見合った代償を払わせる……それこそが、柊という人の本性であった。ただ、あまり面には出さないだけの話である。



 レフェリーの注意を受ける間、共に気合いの入った表情でお互い見つめあう。いや、この場合は睨み合っているといった方がより適切であっただろうか。
ともかく、両者は片時も……グローブタッチを済ませ各コーナーへと下がるその瞬間まで、視線を外す事はなかった。外した方が負け、というどこか喧嘩じみた部分があったのは確かである。
が、新人戦での因縁を知る観客は勿論の事、事情を知らない観客もこの曰くありげな2人の睨み合いに、何かを敏感に感じ取り勝手に盛り上がっていく。

結果、因縁のライバル対決などと妙な想像力を働かせる者も決して少なくはなかった。

「1回勝ってる相手だからって舐めてかかるなよ。ああ見えても県内……いや、全国トップクラスの実力者なんだからな」

普段はあまり見せない柊の態度に一抹の不安を感じたのか、植木が厳しい喝を入れた。もはや柊の天才性は、ナミや由起ならず植木をもして認める所。
ただ、そういった天才肌のタイプはひとつ歯車が狂うだけで、得てして跡形もなく崩壊する者が多数……という事実は否めない。
天才肌、という意味では相手のきららも同様であったが、彼女は既に中学時代でナミ、また高校に上がって早々、新人戦でこの柊に敗北を喫している。
しかし、その挫折をバネにして今またリングに立ち準決勝まで勝ち上がってきているのだ。

負けた事で、今まで築き上げてきた名声に若干の傷はついた事だろう。が、それを乗り越えた分確実に実力は上がっていた。この天才ボクサーは、虚構ではなく本物になりつつあるように植木には思えていた。

一方の柊はどうであろうか? 見目麗しき日本人形は、ことボクシングに関しては未だ敗北……挫折を知らない。
もし柊の精神が打たれ弱く、繊細で脆かったら? いざ敗北を知った時、立ち直れない程に打ちのめされたら?

たった一度の挫折で崩れ去った“天才”を幾人か直に見てきた植木だけに、この手の悩み・不安は尽きない。が、

「分かってるって。心配しすぎだせ、センセー」

植木の気苦労など知らぬ顔で、柊はマウスピースを噛み締めていた。

(全く、コイツは……)

ゴングを前に落ち着いた柊の顔を見ている内、植木は内心自分の不安は杞憂に過ぎないのでは? と思えてくる。

「そうか? これでも一応顧問だからな。教え子の心配ぐらいはするさ」

柊に対する不安は表面に出さず、尤もらしい言葉でおどけてみせる。そんなやり取りをしている内、『セコンドアウト!』という声が聞こえた為、植木はリングを降りた。

いっそ杞憂であってくれればいい、と願いながら。



カァァァァンッ!



 試合開始のゴングが鳴る。両者リング中央でグローブを合わせ、互いの動きを確認していく。柊は左構えのサウスポースタイル。片やきららは右の半身構えで、ほぼ直角に曲げた左腕を左右へ小刻みに振るヒットマンスタイル。

「シュッ」

お互い様子見の中、最初に手を出してきたのはきらら。漏れる呼吸と共に、父親譲りのフリッカージャブが数発、柊の顔面目掛けて襲い掛かった。



ビュッ、ヒュンッ! ビシュッ!!



軌道が読みにくく、且つ速いフリッカージャブを、柊は普段より若干大きい動作でかわす。

(くッ、相変わらず可愛げのねーパンチだな!)

不規則なジャブの軌道を目で捉えつつ、それと直結した反射速度でかわす。類稀なる動体視力と反射神経……その2つが直結しているからこそ、彼女のディフェンスは鉄壁たり得ているのだ。
並の選手なら、まず避け切れない。が、本人はそんな事を知るべくもなく、きららのフリッカージャブに対し内心で悪態を吐く。

試合開始前には、きららの挑発にも似た目つきに激昂していた柊。だが、いざ試合が始まりパンチが飛んでくると、自分でも不思議なくらいにかわしている。
あまつさえ、心の中で悪態を吐ける程に冷静さを保っている自分に、大したモンだな……と我が事ながら感心を抱いてしまいそうであった。

その後もきららのフリッカージャブの雨に晒され、それらを的確にディフェンスしながら柊は反撃の機会を窺う。だが、その左はまるで永久機関であるかの如く動き続け、容易に反撃の隙を与えてくれない。

(くそッ! 前より明らかにパンチスピードが増してやがる!!)

防戦一方の中、柊は予想以上に鋭く迫ってくるきららの左拳に、正直舌を巻いていた。


新人戦の時とは全くの別人のようなスピードだ……


柊とて、夏の合宿を経て更に磨きをかけたスピードに、多少なりと自信はつけてきているのだ。そんな天才・高頭 柊をして、懐へ潜り込ませない程のフリッカージャブを放ち続けられる獅堂 きららも、また紛れもなく天才であった。



パシッ!



「くッ」

 1R1:06、遂にフリッカージャブが柊の頬を捉えた。アマチュアボクシングのグローブ独特の白い部分……ナックルパートで殴打した訳ではない為ポイントにならなかったが、これはある意味でファーストヒットと同義であった。

(当たった!? よし、いけるッ)

新人戦の時にはついぞかすらせる事すら叶わなかった自分のパンチが、クリーンヒットではないにせよ柊を捉えたのだ。これは、きららにとって士気を高める要因となった。



ビュッ、シュシュッ! ヒュンッ、バババッ!!



弾幕のようなきららのフリッカージャブ。通常、ジャブというのはあくまで牽制や間合いを測る意味合いが強い。故に、一発一発の威力などたかが知れたものなのだが……この試合に関してはその限りではなかった。

理由は2つ。

まずひとつは、きららが新人戦で敗北して以降、徹底的にフリッカージャブを磨き続けてきた事。その成果として、この準決勝に上がるまでの間、実に2試合このフリッカージャブで相手からダウンを奪い、KOするにまで到っている。

もうひとつは、柊の耐久力の問題である。柊のスピードは、この神奈川県予選に出場している全階級・全選手の中でも頭1つ、或いは2つぐらいは飛び抜けているかも知れない。

ハンドスピードも群を抜いている。ただ、その反動として柊はかなり打たれ弱かった。夏合宿で東京・建陽(けんよう)高校の加藤 夕貴と試合形式のスパーリングを行った際、奇跡にも近い勝利は収めた。
だが、たった1発のパンチを貰っただけで脚に来てしまい尻もちをついてしまった事は、まだ部員たちの記憶に新しい。如何に夕貴が稀に見るハードパンチャといえど、ただの1発で脚が立たなくなるとは考えにくい。
これは、柊の打たれ弱さが露呈した事を物語る良い例であったろう。

パンチが当たった事で気を大きくしたきららは、更に柊を攻め立てる。今度はフリッカージャブだけでなく、フェイントを絡めた右ストレートなども織り交ぜていった。



 猛然と襲い来るパンチを何とかかわし、ブロッキングしながら追撃だけは許さない。だが、一向に止む気配のない雨に柊は業を煮やしたのか、多少浴びる覚悟で突っ走る覚悟を決めた。
最近では華麗なアウトボクシングが板につきつつある柊には珍しい、接近戦の決意。遠距離からのパンチの刺し合いに分が悪い彼女としては、この選択しか勝機の見出しようがない。
そして突進を試みようとした結果……見事にフリッカージャブが邪魔して接近は叶わなかった。

確かに、きららのパンチは速度・威力共に明らかな成長を見せている。だが、被弾を覚悟の上なら決して越えられぬ絶壁ではないと、柊は確信していた。

(よーし、いっちょ行くか!)

意を決し、歯を食いしばりガードを固めながら柊は再度突進を開始。きららの真正面から堂々と、まるで猛禽の如き鋭さで迫る。だが、それはあまりにも単調に思われた。
迎撃の立場にあるきららは、当然のようにそれを行使するべく拳を振るう。

迫り来るフリッカージャブが猛禽を捕らえたと思われた、まさにその瞬間……



ズササァッ!



側面からバネに弾かれたような反発力で、柊は右側へサイドステップを行っていた。ガツッ! と左肩にパンチを浴びながらも、柊はようやくきららの懐に潜り込む。
反動をつけ身体をきららに向けざま、右腕は既に振りかぶられ右フックのモーションに移行。



ドスゥッ!



そのまま振り抜かれた右フックは、きららの伸び切った脇腹を思い切り抉る。

「ぐはッ、ぁ」

脇腹に走る焼け付くような痛みに、きららは耐え切れず口からマウスピースを吐き出してしまうのだった。





to be continued……
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Author:チャパロット
基本的に携帯サイトで書かせて頂いているもののリメイク(?)ですが、ちょくちょく文を変更してたりします(あと拙いですが自作絵なども)。
何かある方は、ckcwb305あっとまーくsutv.zaq.ne.jpにご連絡下さい。

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