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第19話 【I・H予選(3) 因縁の再戦】

 I・H編、第19話です。

I・H神奈川県予選初日。心は敗退した都亀へ宛てた言葉を実践してみせ、2回戦へ進出。1回戦は次のライト級、アンナの出番を残すのみとなっていた。










 I・H神奈川県予選、第1回戦。バンタム級の杉山 都亀を除く4名……

桜 順子
高頭 柊
下司 ナミ
知念 心

は既に2回戦への進出を決めており、後は最後の出場者であるライト級・城之内 アンナの試合を残すのみとなった。その頃控え室では、唯一黒星を喫してしまった杉山 都亀が処置を終え、試合着から制服へと着替えを済ませていた。

「じゃ、葉月さんと合流してるね」

そういうと、湿布の貼られた顔に僅かな笑みを乗せ、都亀は応援席で1人応援している葉月 越花の下へと向かう。

「杉山さん、応援よろしく!」

一同を代表するように、主将であるナミが都亀に声を掛ける。任せて! とひとつ頷き、都亀は控え室を後にした。

「さて、わたしも気合い入れ直さないと」

都亀を見送った後、先の1回戦で観客や同階級の他の出場選手を騒がせる秒殺KOを演じてみせたナミが、ここにきて新たに気を入れ直す。
その表情は、普段の強気な彼女の見せるそれとは少々異なっていた。2回戦の相手……それは、ナミにとって看過し得ない因縁を持つ相手であったからだ。


都和泉(みやこいずみ)高校女子ボクシング部主将、中村 香澄(なかむら かすみ)


中学時代のナミの先輩に当たる人物である。

過去に、ある大会の出場を賭けて2人はグローブを交え、結果はナミのKO勝ち。その後、都和泉高校との練習試合に於いてもナミは彼女を下しており、香澄にしてみればまさに怨敵ともいえる、リベンジの対象であった。
過去2度に渡る敗戦は香澄のボクサーとしてのプライドを著しく傷付けた筈で、今回こそは! と死に物狂いで勝ちにくるだろう。
例え実力的に劣る相手でも、そういった手合いには意外な苦戦を強いられる事が往々にしてあるのを、ナミはこれまで得てきた経験によって思い知らされていた。

だからこそ、ナミは気合いを入れ直したのである。《勝って兜の緒を締めよ》といった心境であろうか。



 着替えを終え、都亀がカメラのフレーム越しにリングを眺める越花と合流した時、アンナの試合は終わる寸前であった。青コーナーに凭れかかるように座り込んだ対戦相手と、ニュートラルコーナーでその様を見下ろしているアンナ。
“ソリッドパンチ”という、しなるパンチを先天的に有するアンナは、心との勝負や夏合宿での特訓を経て、KOパンチャーとしての才能を開花させ始めてきたように見える。

コーナーに凭れかかったまま、レフェリーのカウントにも立ち上がる素振りを見せない対戦相手の姿が、その証明といえよう。結局、10カウントを数え上げられても立ち上がる事は叶わず、アンナは第1R終了間際でのRSC勝ちにより2回戦へとコマを進める事となった。


アンナが無事1回戦を突破した時点で、光陵の全出場者が予選の第1回戦を終了。6階級の出場者の内、実に5名が2回戦に進出という、ある意味で快挙を成し遂げる事に成功したのである。

1回戦を終了した事を受け、植木は控え室から部員たちを呼び出し2回戦に向けてのミーティングを行っていた。

「杉山の事は完全に俺のミスだった。これに関しては後でたっぷり謝るとして……今はお前たちの次の試合についてだ」

植木はそう告げ、由起に資料を見せて貰いながら1人ひとりの特徴や短所、それを基にした戦術などを伝えていく。それは、自身がプロボクサーとして実際に体感した経験を基にした、実に理に適った実戦的な戦術といえた。
ただ、ナミに関しては敢えて必要最低限の情報を伝えるだけに止めた。相手が、彼女の良く知る中村 香澄であった為である。

「こないだの練習試合でナミちゃんにやられてゲロ吐いてた人? だったら楽勝だよ」

などと、若干腫れた顔で楽観的且つ無責任な発言をするアンナ。ただ、今回は相手が相手だけに悪ノリに付き合う気分にもなれないナミであった。
ナミにとって、全国への切符を手にするに当たり当面の強敵として認識していた2人の相手……洛西の樋口 静留、都和泉の中村 香澄の2人とぶつかる結果になるのは、正直彼女にとって願ってもない。
県の代表になる以上、1番強くなければならない。強敵が潰し合って後、偶然得た出場権にどれ程の価値があるのか? というのが、ナミの考えである。


要は自分も覇権争いの直中にいて、たった1人勝ちを奪い取りたい、というのだ。勝ち気なナミらしい考え方だった。


幾らかの休息の後、2回戦が開始される。順子、柊、ナミの3人がエントリーしている各階級は参加人数が他の階級に比べて多く、初日で3試合、2日目でA・B各ブロックの決勝、及び各ブロックの優勝者による真の決勝戦を行う。
対する心、アンナの2名は他の階級に比べ選手人口の密度が薄い。従って、2日目は各ブロック優勝者による決勝戦のみとなっていた。



「それじゃ行ってくるわ!」

 気合いを入れ、トップバッターの順子が2回戦へ向け控え室を出ていく。必要以上に気負うでもなく、いい気合いの入り方だな……とナミは思った。

「順子の2回戦の相手って、誰?」

ナミが周囲に訊ねる。が、自分の事に集中している部員たちは誰1人として答えない。友達甲斐のない連中ね、とブツブツ文句を垂れながらナミは由起のバッグの中身を拝借し、順子の気合いの入れように合点がいく思いがした。


愛蘭(あいらん)女学院・山崎 淳子(一年)


由起の資料には、その名前が記載されていたのである。

(なるほどねぇ。気合い入るはずだわ)

順子にとって、この2回戦は思わぬリベンジマッチの機会となった。先の新人戦・決勝でグローブを交え、大量の鼻出血によるドクターストップの為惜しくも敗れた相手である。
実は、あの後こっそりとメールを交換し合う間柄となっていたのだが、友人関係と進退を賭けた真剣勝負とはまた別問題であった。

新人戦以来2度目となる“じゅんこ”対決。だが、湘南スポーツセンターで行った夏合宿での特訓は伊達ではなかった。
まず、1Rで順子の右フックが頬を抉りダウンを奪うと、そこからは順子のワンサイドゲームの様相を呈していく。元々、新人戦の時でも若干順子の方に有利が付く程度で実力は拮抗していた。
そんな両者の間には、この数ヶ月間で光陵での密度の濃い練習や優秀なコーチ陣の存在、加えて夏合宿での徹底的なハードトレーニングによって、埋めがたい差が出来ていたのだ。

結果として、2R中盤に連打を浴びた淳子を庇うようにレフェリーが割り込み試合をストップする、という形で順子は3回戦へ進出。と共にリベンジを果たす事にも成功したのであった。



 順子が2回戦も突破した事を受け、嫌が応にも湧き上がる光陵高校応援団。応援席に移動していた都亀が順子の勝利に歓喜していた隣で、物凄く真面目な表情の越花は愛用のカメラでリング上をひたすらに撮っていた。
撮影し続けるその姿は、まるで人が変わったかのように鬼気迫るものであった……とは、都亀が後に語った感想である。

一方、ライト・フライ級のリングでは柊が2回戦へと挑んでいた。柊が出てくるや、ひと際大きな歓声が会場内に降り注ぐ。その大半は近しい年齢の男性からのものであった。
どうやら、勝手に打ち立てられた偶像としての柊が、人伝いに流れ伝播していったらしい。


曰く『リングに咲く可憐な一輪の花』、『現代の大和撫子』、『美少女ボクサー』などなど……


(うっせーな、気安く下の名前で呼ぶんじゃねーよ!)

「柊ちゃーーん!」だのという、どこか勘違いしたファンクラブ会員のような男共の声援を耳にした瞬間、柊は鳥肌が立つのを感じる。次いで不機嫌な顔を隠そうともせず心の中で悪態を吐いていた。
最も、その不機嫌な表情も前髪とヘッドギアの影に隠れてしまい、観客がそれに気付く機会はなかったのだが。

対戦相手は二年生。上級生である。が、柊に緊張した様子は見られない。むしろ一年生とは思えない落ち着きようを見せていた。
ゴングが鳴り、柊は相変わらずのスピードで相手を翻弄していく。常人離れしたスピードに加え、相手はサウスポー対策が出来ていないらしい。
柊にいいように右ジャブを浴びせられ、自身のパンチはただただ空を切っていた。

第1Rが終了し、続く第2R。相変わらず柊のスピードを捕らえる事も叶わず、パンチを空振りさせる上級生。次第に腕の振りが鈍り出し、それに伴いガードも下がり始めてきた。
そこを突くように柊はジャブやストレートを打ち込むと、相手の頭が左右に揺れ動き、後ろへと下がる。ヘッドギア越しに流れる髪に絡みついた汗が、パッと飛び散っていく。
口からも唾液の飛沫を飛ばし、赤コーナーに追い詰められると、後は一方的な連打に晒される事となった。

何発ものクリーンヒットを貰いつつも、相手は寸での所でコーナーから脱出。そのまま2R終了のゴングが鳴り救われる形となった。だが、コーナーに戻る相手の息は荒々しいもので、スタミナが切れる寸前であろう事は誰の目にも明らか。
さすがに次のRは棄権するのではないか? と誰もが思ったものだったが……事実、相手側セコンドは止めようとしていた。が、上級生としての意地であろうか。
コーナーから気だるそうにリング中央へと歩み寄り、最終第3Rが開始された。だが、気力と意地だけでどうにかなる程2人の力の差は拮抗してはいない。
何より、逆転を狙うにも既にスタミナを使い果たしてしまっていた。結局、前の第1、第2Rと同じような展開に終始する。違う所といえば、柊がジャブやストレートから、曲線的なフックやアッパーも多用し出した事であろうか。
スタミナ切れから来る中途半端なガードの隙間へ、柊のパンチが面白いように突き刺さる。



ガツンッ!



そして第3R終盤、柊の放った左アッパーで思い切りアゴを跳ね上げられた瞬間、その勝敗は決した。





 何事か理解に苦しむような表情で、時折小首を傾げる柊が控え室に戻ってきたのは、ナミが次の出番に向けアップをし始めた頃。ほとんど殴られた痕が見られない事から察するに、どうやら3回戦への進出は確実のようだ。
が、試合に勝てた喜びや安堵は、その顔から窺う事は出来ない。むしろ、普段ポーカーフェイスを通す柊にしては珍しく狼狽の色を露にしていた。

「お帰り。って、どうしたの? アンタ」

少しおかしいクラブ仲間の様子が気になったらしく、ナミが声を掛ける。

「ああ。ちょっと、な………」

まだ柊の頭の中で整理でもつかないのだろうか。しばしの沈黙の後、こう答えた。

「“貴女は上を目指してね”ってさ。言われたんだよ……さっき試合が終わった後、満面の笑みで」

柊は、その言葉にどういった意味が含まれていたのかが分からない、といった風で答える。自分を負かした相手、しかも下級生に何故あそこまで満面の笑みを見せられるのか? とも。
柊にしては珍しい悩みだな、とナミは思った。今まで、勝敗後の相手とのやり取りに関して彼女があまり悩みや疑問を口にした事がなかったから。
先の夏合宿の際、幼馴染みである加藤 夕貴に対してKO勝ちを収めた時でさえ、柊はほとんど自身の感情を交えての感想を漏らしてはいなかったのだ。
この時、ナミは柊の悩み具合を見てふと思う事があった。


(コイツもなんだかんだで人の子か)


と。そして、柊の悩みの種となっている相手の言葉……その真意について、ナミはひとつの推測を立てるに至る。

「それってさ。その相手的に満足出来たから出た言葉、なんじゃないの? 多分」

「満足?」

「うん。わたしが推測するに、その人はもう引退するんだと思う。多分冬の選抜とかには出ないんでしょ。で、最後の試合で高頭 柊という名の、ダイヤの原石に出会えた。それが嬉しかったのよ」

きっと、かなり人間的に出来た人だったんでしょうね、とナミは付け加えた。


そういうモンかね、と未だ納得し切れていないといった風の柊。が、試合後相手がリングを降りた時、大層な数の部員らしき女生徒たちに取り囲まれていたのを思い出し、確かに人望はあったのかもな……と思い直すのであった。



「光陵、下司選手。出番です」

 係員の呼び出しにより気合いを入れ、控え室を飛び出すように出ていくナミ。この時点で、部員の中の誰1人としてナミの心配をしている者はいない。
普段は間の抜けた事を言ったり、唯我独尊な部分が目に付いたりするナミであるが、ことボクシングに関しては皆の信頼を得る事に成功しているようであった。


ナミが県予選程度で敗退する訳がない。そんな姿は想像がつかない


それは確信、といっても差し支えない部員たちの共通見解のようであった。





ナミが本日2度目のリングインを果たし、観客からの声援に慣れた仕草で応えている頃、対角の赤コーナー側入場路から対戦者……中村 香澄が現れ、悠然とリングインを果たす。
公式戦・練習試合を合わせて、都合3度目の対戦となる両者。レフェリーを挟んで、ナミと香澄は目から見えざる火花を散らす。特に香澄は、今日負ければ3連敗とあってか気合いの入り方がナミのそれを凌駕しているようにも見えた。

試合前のグローブタッチの後、青コーナーに戻ったナミに対して植木の告げた作戦は、少々意外なものであった。

「いいかナミ坊。ゴングが鳴ってグローブタッチした後、速攻で仕掛けろ!」

普段なら決まって最初は様子見を指示する植木が、今回に限ってはいきなりラッシュの指示。訝しい表情のナミを正面から見据え、両肩を掴みながら「俺を信じろ!」と告げる。
その瞳に力強さを見たナミはコクッと頷き、由起から差し出されたマウスピースを銜え臨戦態勢を整えた。

(四五兄ィにはなにか確信があるんだ……だったら、わたしは四五兄ィの指示に従うわ!)

ウグイス嬢のアナウンスの後、両者は静かにその時を待つ。



カァァァァンッ!



 香澄との3度目の対戦が始まった。お互い、グローブタッチを交わす。途端……ナミがガードを固めながら香澄目掛けて突撃し、クンッ! と一旦上体を屈めてから伸び上がるように右ストレートを叩きつけた。



バシィンッ!



予想を超える不意打ちに対処し切れなかった香澄は、ガードの隙間を縫われて鼻っ柱にパンチを叩きこまれ苦痛に顔を歪める。怯んだ香澄の脇腹に、ナミは左右のボディーフックを打ちつけ更に、わざとガードしやすいように左ストレートを放つ。
わざガードさせ、顔に意識が傾いた所で右のボディーストレートを打つと見せかけ、寸止め。今度は腹に意識を向かせ、素早くサイドステップしてからの左フックで香澄のテンプルを殴りつけた。

その、あまりにスムーズなフェイント混じりのラッシュに全く反応出来ない香澄は、テンプルにフックを貰った瞬間身体の自由を失い、ドスンッとキャンバスへと尻もちをついてしまうのであった。





to be continued……
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Author:チャパロット
基本的に携帯サイトで書かせて頂いているもののリメイク(?)ですが、ちょくちょく文を変更してたりします(あと拙いですが自作絵なども)。
何かある方は、ckcwb305あっとまーくsutv.zaq.ne.jpにご連絡下さい。

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