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第12話 【悪夢のような夏合宿(中編)】

 前回の更新から随分と経ってしまいましたが、12話をお送りします。皆様も体調にはくれぐれもご用心を……

ついに始まる光陵・建陽合同の夏合宿。この果てに、悪夢のようなある出来事が待ち受けていようなど、誰もが予想だにしていなかった。









 世間は夏休みシーズンに入り、世の学生たちは普段とはひと味違ったリアクションを起こしていた。アルバイトに明け暮れる者、恋愛に興じる者、惰眠を貪る者、青春の汗を流す者、等々……
そんな中、光陵高校女子ボクシング部の面々は今日から始まる夏合宿の為、AM8:00には部室へと集合していた。

「よし、みんな集まったな。それじゃ出発前のミーティングを始めるぞ」

部員全員の集合を確認した後、顧問の植木 四五郎はその口を開く。

「今日から1週間、お前らは湘南スポーツセンターで合宿に入る訳だが」

その前に報告事項がある、と植木はペンのキャップを外しホワイトボードへと書きつけていく。

「ッ!?」

次第に部員たちから起こるざわめき。植木によりボードへと書かれたもの……それは、I・H神奈川県予選への出場選手、その一覧であった。
ちなみに、通常のI・Hと異なり女子選手は人数が少ない為、予選の優勝者がそのまま全国大会へと駒を進める事となる。そして、植木の手により書かれた出場選手は、以下の通りであった。


桜 順子(ピン級)

高頭 柊(ライト・フライ級)

下司 ナミ(フライ級)

杉山 都亀(バンタム級)

知念 心(フェザー級)

城之内 アンナ(ライト級)


以上6階級6名。

「ちょっと待って」

突如口を開いたのは、フェザー級の出場選手として名が挙がったばかりの知念 心である。何事か、とこの場にいる全ての視線を一身に浴びながら、心は皆と同様に自分を見つめてくる葉月 越花の方へと振り向き言葉を続けた。

「選手として選ばれたのは勿論嬉しいけど、でもなんで越花は外されてるの!? 越花だって頑張ってるのに!!」

彼女だって出場選手になる権利はある筈なのに……そう続ける心。彼女にしてみれば、自分のせいで越花が除外されてしまったように見えたのだ。
ナミはその答えを返そうとするものの、越花は手の平を差し出す事でその言葉を遮り、心へと諭し始めた。

「ありがとう心ちゃん。でもね……今回は私がナミちゃんにお願いした事なの」

爽やかな笑みを浮かべ、越花は更に述べる。

「ホントならどっちが出場選手になるか決める為に“部内選考”とかいうのをしないといけないらしいんだけど、正直今の私が心ちゃんと試合してもまた前みたいにあっさりやられちゃうだろうし」

それに今はある試みの最中だから、と付け加える越花。ある試み、という部分に気になるものを感じつつも越花の意思は固いと判断し、とりあえず納得する事にした。

「という訳で、だ。俺は今日と明日の2日間参加出来ないが、その分は大内山に任せてある。各自しっかりと練習しろよ」

植木の激励を受け、光陵女子ボクシング部は合宿先となる湘南スポーツセンターへと向かう。
出発の際、「引率者なしかよ」と柊が小声で皮肉を言うのが聞こえたが、敢えて聞こえないふりをして場所までの引率をナミに託し、植木は新校舎へと引っ込んでしまった。



 湘南スポーツセンター。すぐ近くに海があり、夏の時期にはサーファーなどマリンスポーツの愛好家で賑わうこの場所の館長の名を、下司 拓人(しもつかさ たくと)という。
ナミの1つ下の弟であるタクトと同じ名だが、これは兄であるナミの父親がこの弟にあやかって息子に付けたものである。

「叔父さーーん!」

そんな叔父の耳に、可愛い姪の元気いっぱいな声が響き渡ってくる。

「おう、来たなナミ!」

筋骨逞しい叔父の、その硬そうな胸元へ思い切り飛び込む姪。その光景に、女子ボクシング部員一同が見入っていると

「柊ちゃあーーんッ!」

大層実った胸を震わせ、見覚えのあるセーラー服姿の少女がポニーテールを靡かせつつ柊へと飛びついてきた。



スッ……



柊は、さも鬱陶しそうに身体を半身にしてその奇襲をかわす。



ズシャアッ!



哀れ、少女の身体は見事なまでに地面へとダイブする結果となった。

「なにやってんの? 加藤さん」

叔父との抱擁を済ませたナミが地面に突っ伏した少女……加藤 夕貴に話しかけ、右手を差し出した。勿論、助け起こす為である。

「あ、どうも……」

ややバツの悪そうな表情で、ナミの手を取る夕貴。そのまま助け起こして貰うと柊に対して「なにも避けなくてもいいじゃない……」等とブツブツ呟き始めるが、当の柊本人は「知るか」と一蹴していた。


気を取り直して、夕貴は自分の所属している建陽高校ボクシング部のメンバーを紹介していく。その数、僅か6名。当然夕貴も加わっての人数である。
しかも、前述の通り女子は夕貴1人だけ。それだけならまだ少数精鋭だのとカッコいい事も言えたのだろうが、困った事に男子部員たちは光陵の女子部員たちを見てあからさまに鼻の下を伸ばしていた。

この、男子勢のあからさまな態度に後退りする女子部員が数名。心などに至っては、「チッ」と思い切り睨みつけながら舌打ちをする有様であった。そんな建陽ボクシング部員の中から、

「なあ。そろそろ練習始めようぜ」

という場の空気を変える一言が飛び出す。その声を辿るように皆が一斉に視線を泳がせていくと、そこには長身痩躯の1人の男子が立っていた。
綺麗に整えた髪に射抜くような鋭い目つき、痩せ型だがよく見れば程よく付いている筋肉。

「あーごめん、達也クンの紹介がまだだったね」

拝み手で謝罪する夕貴を制し、達也と呼ばれた少年は自己紹介を始めた。

「建陽高校一年、高野 達也(こうの たつや)。一応今の所はライト級って事になってる。よろしくな」

淡々と自己紹介をする達也。その目はあくまで射抜くような鋭さを維持し、他の男子部員と違って浮わついた雰囲気は一切感じられない。ナミとしては、まず好感の持てる少年といえた。



 達也の一言により、光陵・建陽両ボクシング部は湘南スポーツセンターへと入る。それぞれ準備を終えて外へ出ると、そこには2人の男性が待ち構えていた。

かたや口をへの字でキュッと締めた、無骨な表情。
かたや糸目で柔和な印象を感じさせる表情。

そんな、対照的な2人の男性……無骨な表情の吉川 宗観(よしかわ そうかん)と、柔和な表情の片山 那智(かたやま なち)両名である。
宗観は植木が来られない間の代理として。那智は体調を崩して来れなくなった建陽ボクシング部顧問の代理として。

突然のサプライズに驚く面々をよそに、プロのトレーナー2名による指導という、高校アマチュアボクサーには過ぎたる練習が開始された。
まずは、海岸沿いの砂浜を5kmのロードワーク。中学の頃から毎年のようにこの場所を利用し、土地勘のあるナミを先頭に立て男女入り乱れて走る。
その際、宗観と那智は由起の作成した特別メニューに目を通し、より細かなプランを幾通りかの段階に分けて改良していった。

「ハァ、ハァ、ハァ……」

プランを立て終えた頃、ちょうどナミたちがロードワークから戻る。

まだまだ余裕そうなグループ……ナミ、アンナ、夕貴、達也。
若干辛そうな感じのグループ……由起、柊、都亀、越花、順子。

中森 陽子や心、達也以外の男子部員はこの時点で既に息が上がってしまっていた。元々マネージャーの陽子やブランクのある心はともかく、男子部員たちは情けない限りと言わざるを得ない。
その様子を見た宗観と那智は、体力別に3つのグループへ分け、先程立てたプランに当てはめてそれぞれ練習メニューの消化に当たる事にした。

一番元気なグループは、基礎体力十分と見なし技術面を中心とした練習を那智が指導。
やや辛そうなグループは、基礎トレーニングと技術的な練習を半々に宗観が担当。
干上がってしまっているグループは、更なる基礎体力作りを中心として由起が担当する事となった。



 技術面の指導に当たる那智は、早速2人1組でマスボクシングを指示。マスボクシングとは、お互いパンチを当てないように行うスパーリングの事である。
ナミと夕貴、アンナと達也で対となってのマスボクシングが開始された。例え当てない事を前提としているといえど、気を抜いていては練習にならない。
打たれる側は、それらを全力でブロッキングし、或いはかわしていく。


「夕貴ちゃん、今の致命打だよ。もっとしっかり相手の動きを見て!」
「ナミちゃん、ガードを下げない! また夕貴ちゃんに失神させられたい?」
「達也くん、寸止めだからって手を抜かない! もっと本気で打って」
「アンナちゃん、本気で当てない! あくまで寸止めだから」


那智の、的確な指示が飛び交う。ナミとしては、“失神”という単語を出されて内心平静ではいられなかったが面には出さず、マスボクシングに集中していった。



ビーーーーーーッ!



部室から持ち込んできた自動タイマーの音が響き渡り、一同は練習をストップする。ナミのグループは、以後も

・マスボクシング×3R
・ミット打ち×3R
・パンチングボ-ル×4R

等の練習を消化していった。



「よし、本日の練習はこれまで!」

 宗観の号令一下、初日の練習が終わった。時刻はPM5:00。朝早くから始める分、切り上げるのも早めの時間に設定しているのだという。
その後は各自、自由時間として割り当てられていた。皆一様にくたくたになっている中、

「ようやく自由時間が来たわね。さーて、泳ぐわよ!」

いち早く更衣室へ向かっていたナミが、持参していた水着に着替え元気よく湘南の海へと繰り出していった。

「水着持参って聞いてたから一応持ってきたけど……もうヘトヘトで泳ぐ気にもならないわよ」

疲れて地面に座り込んでいた順子が、呆れた表情で悪態を吐く。他の部員たちも概ね似たような心境であるらしく、頷く事しきりであった。


夕食後、かなり遠泳をしてきたらしいナミは、さすがにくたびれた様子で皆を銭湯へと案内する。入浴中、ナミや順子、アンナ等は夕貴や越花のその同い年とは思えない身体の発育具合に興味を示したりしていた。
風呂から上がると、一気に疲れがピークに達したのか皆瞬時に深い眠りへと落ちていくのであった。



 翌朝AM5:30。目覚まし用に仕掛けたベルの音で目覚めを余儀なくされた部員一同は、眠い目を擦りながらストレッチで身体をほぐし早朝ローードワークを開始した。
誰もいない砂浜を、トレーニングウェア姿の一団が黙々と走り抜けていく。ザクザクと地面を踏み締める音が、押し寄せる小波と重なって不協和音を奏でる。
路面のロードワークと違い、砂浜での走り込みはしっかりと踏み込めず足腰に負担を強いる。その分、下半身の強化にはもってこいといえた。

早朝ロードワークを終え、朝食を済ませると午前中は筋力トレーニングを中心とした練習メニューに取り組む。


・砂浜での100mダッシュ×10本
・腕立て伏せ30×3セット
・腹筋30×5セット
・スクワット×3セット
・バービー10×10セット


等々。他にも、トレーニング機材なども使用する。
午後からは、技術面や実戦トレーニングを中心としたメニューを消化していく。


・ロープスキッピング3分×3R
・パンチングボール(シングル、ダブル)3分×2Rずつ
・ミット打ち3分×2R
・サンドバッグ打ち3分×2R
・マスボクシング3分×3R


等々。
後、パンチの打ち方の矯正やコンビネーションブロー、ディフェンステクニック等、プロのトレーナーによる指導がほぼ休みなく続けられていった。

「ッハァ! ッハァ! ハァッ……!」

普段とは質も量も全く違う濃密な練習内容に、ほぼ全ての部員たちが苦しげに大きく肩を上下させ、胃の中の者を吐き出す者が続出。仕舞いには、口に含んだスポーツドリンクを飲み込むのも辛そうな者まで現れていた。

2日目の練習メニューも全て消化し、この日が最終日となる宗観に礼を述べる一同。

「みんな、よく頑張った。まだ合宿は続くが、挫けずにどうかやり遂げて欲しい」

簡潔な激励を残し、宗観はこの日スポーツセンターを後にした。



 3日目。当初の予定通り、宗観と入れ替わりで植木が到着する。

「俺は宗観や片山さんのようなプロのトレーナーじゃないが、俺なりにビシビシいくからな! 覚悟しとけよ」

部員たちにとってあまり嬉しくない挨拶の後、練習が開始された。2日目のハードトレーニングで、部員たちの疲労感は否応にも表面化し隠せないでいる。
だが、3日目にもなれば少しずつでも慣れが生じてきたのだろう。各々動きに機敏さが見られるようになってきていた。

続く4日目、5日目も同様に、苦しい練習ながらも終了後立ち上がれなくなるような部員は1人、また1人とその数を減らしていく。あまつさえ、練習終了後にナミと海辺で遊ぶ者も現れるぐらいであった。
もっとも、その大半はせっかく持ってきた水着を1度も使わずに帰るのが癪だから、といって理由やその女子たちの瑞々しい肢体を目に焼き付けておこうという、若い欲求によるものであったが。

そして、6日目がやってくる。最終7日目は、午前中に軽い運動とミーティングを行うのみで午後には引き揚げる準備に入る為、実質上の最終日ともいえた。
この日は、午後から出場選手全員に試合形式の実戦スパーリングを予定。もし対戦希望があるなら、出来る限りそれに沿う……といった内容を、予め伝えられていた。

それを聞いた光陵部員一同は、恐らく……いや間違いなくナミが夕貴に対戦を申し込むであろうと半ば確信を抱いていた。ところが、

「杉山さん、わたしとスパーリングしよ」

ナミが声を掛けたのは、意外にも杉山 都亀。これは、夕貴と手合わせしたいという個人的な欲求よりも、実戦経験の乏しい都亀に少しでも実戦慣れして貰いたいという、主将としての責務を優先した結果である。
ナミが都亀を指名した事に多少の驚きはあったが、それは寧ろ彼女への評価を上げる要因へと繋がった。となると、残った夕貴がどう行動するのかが自然と気になってくる。

「柊ちゃん、あたしとやろ?」

夕貴が指名した相手……それは、同階級の高頭 柊であった。

「………は?」

幼馴染みの申し出に、思い切り怪訝な顔をする柊。

「こう見えてもあたし、いちおう全国大会とか出た事あるし、少しでも柊ちゃんの力になれるんじゃないかと思うの」

どうやら、善意からくる申し出であったらしい。だが、そんなものは柊にとってお節介以外の何者でもなかった。

「ヤだよ」

夕貴の申し出を一蹴する柊。ぶっきらぼうな口調と態度ではあったが、柊としては幼馴染みと殴り合うなど冗談ではない、という気持ちも少なからずある。
それに、小さい頃からボクシングに染まっていたような奴と、始めてからたかだか1年にも満たない自分では相手になどなる筈もない。
以上の理由から1度は断った柊だったが、

「全国レベルの実力を肌で感じておくのも悪くないわよ。それとも怖い?」

と煽るようなナミの横槍が入ると、カチンときたのか2つ返事で申し出を受けてしまうのだった。





to be continued……
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Author:チャパロット
基本的に携帯サイトで書かせて頂いているもののリメイク(?)ですが、ちょくちょく文を変更してたりします(あと拙いですが自作絵なども)。
何かある方は、ckcwb305あっとまーくsutv.zaq.ne.jpにご連絡下さい。

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