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第11話 【悪夢のような夏合宿(前編)】

 I・H編、11話です。いよいよ夏のI・Hが目前に迫ってきた中、前・中・後編と夏合宿のお話へと入ります。

期末テストもいつの間にか終了し、一学期も残りわずか。そこで、ナミは皆にひとつの決定案を叩きつけてくるのであった。









 夏が来た。容赦のない太陽の光が燦々と照りつける青空の中、下司 ナミは満面の笑みを浮かべて歩いていた。
夏……一言呟くと、もうそれだけで気分が高揚してくるのが分かる。

「うひひ……今年の夏は面白い事になりそうね」

独り言を囁きながら、ナミは一学期最後の登校日を爽快な気分で歩いていった。





無事に終業式も終わり、HRも滞りなく進み、

「それじゃあ二学期まで元気でな。青春しまくれよお前らッ!」

担任である植木 四五郎の無駄にアツい挨拶と共に、一学期は幕を閉じた。ここから先は、学生たちの天国(パラダイス)……夏休みである。
というのはあくまで一般生徒たちの見解であり、光陵高校女子ボクシング部にはあまり縁のない話である事を、この時点で部員たちの大多数は知らない。
一学期の最終日、約1名を除き追試という名の毒牙に掛かる事のなかった女子ボクシング部員たちを前に、ナミはミーティングの場で高らかに宣言した。


「夏合宿をするわよ!」


ホワイトボードにペンを走らせ、ナミは夏合宿なるものの詳細を記載していく。



日時:7/25(日)~7/31(土)

場所:湘南スポーツセンター

費用:5000円

備考:加藤さんトコと合同


等々……



「おいちょっと待て!」

この記載にいち早く反応したのは、『目つきの悪い日本人形』こと高頭 柊。

「なに? 質問ならちゃんと手を上げて……」
「ンな事はどうでもいーんだよ。なんで加藤のトコと合同、なんて事になってんだよ」

柊と加藤……東京・建陽(けんよう)高校の加藤 夕貴とは幼馴染みの関係なのだが、実を言うと柊は彼女を苦手としていた。
飼い慣らされた犬のようにベタベタと不必要に引っ付いてくるのが、主な理由である。

決して嫌い、という訳ではないのだが……

そもそも、何故ここで夕貴の名が上がってくるのか? 普段の様子から、2人が個人的にコンタクトを取っているとは考え難い。つまり、接点が見えないのだ。
柊の、その疑問から来る問いに対するナミの答えは非常に簡潔なものであった。

「末期試験前にウチのジムで加藤さんと会って、そういう流れになったから」

当然でしょ? とでも言いたげなナミの表情に、ほんの一瞬だけ殺意を覚える柊。

「というより……他校と一緒に合宿なんて、お互いデメリットの方が大きいんじゃないのかな?」


律儀に挙手しながら、今度は杉山 都亀がハスキーボイスを展開していく。もしかしたら試合で当たるかも知れない相手に、不用意に情報を与えてしまうのではないか?


暗にそう言っているのである。そんな都亀の意図を察した様子のナミは、

「それなら大丈夫。建陽のボクシング部って、加藤さんしか女子選手いないらしいから」

爽やかな笑みを見せ都亀の危惧を解消してみせた。

「アタシからもいい? 今日はまだ来てないみたいだけど、東先輩も行くの?」

新参の知念 心が、これまた律儀に挙手してから問う。心は、東先輩……つまり『鬼東』こと東 久野の参加の有無を確認しているようであった。
空手部と掛け持ちしているとはいえ、一応は大事な女子ボクシング部員なのだ。となれば、勿論参加するか否かの確認をするのは当然といえよう。

「あー……多分、東先輩の参加は絶望………ケフンケフン! む、無理だと思うわよ」

心の質問に対し答えたのは、意外な事にマネージャー兼トレーナーの大内山 由起。が、妙に言葉を濁している辺り何か怪しさを覚えた心は、久野が不参加の理由を更に問い詰めていく。すると、

「東先輩、実は追試の常習犯なのよ」

由起の口から、思いがけない言葉が紡がれた。これ以上は言わなくても分かるでしょ? といった表情の由起。別に自身が悪い訳でもなかったのだが、心はさも申し訳なさそうに「スミマセンでした」と由起に頭を下げた。
何となく、謝罪しておかなければならない気がしたのだ。



 結局、他には大した意見もなくナミの提案通りに夏合宿が決行される事となった。そして、夏合宿前日の晩。



カタカタカタカタ……



自室のデスクトップ型パソコンに向かい、由起は合宿用の特別メニューを作成しつつ別のモニターで知人に譲って貰いそのまま未消化で放置していた、先の新人戦のDVDを観ていた。
特に光陵高校の参加選手の試合だけを編集して貰い、個別メニューの参考にするつもりでいたのだが……

「え………? なに、コレ。冗談でしょ!?」

そう呟く由起の目に映っているのは、ライト・フライ級・決勝戦の様子。高頭 柊と、三笠(みかさ)女子高の獅堂(しどう)きららとの試合である。
あの試合で、柊が観る者全ての度肝を抜くような天才ぶりを披露し、結果優勝を果たした事はまだ記憶に新しい。
常々、その非凡な才能に由起を始め顧問である植木や主将のナミからも一目置かれていた彼女であった。そんな彼女の全試合を改めて通し観た事で、由起は柊のしでかした『あるとんでもない事実』に気付いた。

否、気付いてしまった。

つい口の端に銜えていたポッキーを落としてしまった事にも気が回らない程に、『それ』はとんでもない事であった。



果たして、あの日会場に来ていた幾許の人がこの偉業に気付いていた事だろうか?



そう思い、ふと身震いしている自分を知る。

「これは……植木先生に観てもらわないと。あと下司さんにも」

合宿用のメニュー作成などしている場合ではない。今は、一刻も早くこの事実を知らせないと! 何故か由起の中でその一念ばかりが巡り続け、由起はDVDを編集し始めるのであった。





 一方、葉月邸では越花と男子ボクシング部員である前野 裕也が、個人レッスンを終えた所であった。

「ハァ、ハァ、ハァ……」

大きく肩で息を吐き、崩れ落ちそうな身体を何とか踏ん張る越花を前に、裕也はうんうんと頷いてみせる。

「随分と違和感がなくなってきたね、葉月さん」

「ハァ、ハァ………えへへ、そうかな」

裕也に褒められ、肩を上下させながら照れ臭そうに喜ぶ越花。

「最初、君の“アレ”を知った時は驚いたけど……でも、これが違和感なく出来るようになったら、それは君の、君だけの“武器”になる」

裕也は、拳を握り締め越花に断言する。

女子部創設の際に行った男女戦で、初めて越花と試合した日からかれこれ約2ヶ月。暇を見つけては個人レッスンをつけてきた身として、越花の成長していく姿に何とも言い難い満足感を覚える。
最初こそ、不本意な試合で失神KOさせてしまった償いにと引き受けたコーチ役ではあったが、今ではこの時間がとてもありがたい時間だと、裕

也はそう思うようになってきていた。

(俺、多分この娘の事が……好きだ)

そう自覚するまでに至っている。だが、ここで告白するのはフェアじゃない。今は、まだ対等の立場ではないのだから。

(案外ヘタレだな、俺)

そう思いながらも、裕也は越花に指導するこの時間が少しでも長く続けばいいな……そう思うのであった。



コンコン……ガチャ!



 入るよ、という声と共にコンビニ袋を携えたボーイッシュショートの女の子が、ドアを開け玄関を潜っていく。

「都亀? いらっしゃい。ごめんね、今ちょっと散らかってて」

都亀の来訪を歓迎する、声の主たる中森 陽子は机に向かったまま答える。机の周りには、都亀にはあまり馴染みのない形をしたペンや定規、紙が散乱し部屋のあちこちを我が物顔で占領していた。
その様は軽く混沌の様相を呈している。陽子が言うような「ちょっと」の散らかりようではないだろう、と都亀は思ったが口にはしなかった。
やれやれ、と肩を竦めながら

「順調かい? 漫画の方は」

都亀は親友が個人的に手掛けている作業の進行具合を確認していた。机に向かい合う陽子は、紙へと巧みにペンを走らせながらも苦々しい表情を浮かべ無言。どうやら、首尾はあまりよろしくないらしい。
陽子は、趣味で個人サークルを作り同人誌を描いている、いわゆる同人作家としての側面を持つ。女子ボクシング部に入部した事をきっかけに、ボクシング漫画に着手し始めたのだが……どうにも上手くいっていないようだ。

ちなみに、陽子のこの側面を知っているのは親友である都亀ただ1人。本人も「恥ずかしいから内緒にしてて」と言っている為、誰にも話した事はない。

「ほどほどにしときなよ。明日から合宿なんだから」

「うん。このページが片付いたら終わるよ」

都亀の言葉に、相変わらず机の上の紙へとペンを走らせたまま陽子は適当に相槌を打つ。

(やれやれ、これはまたいつも以上に長引きそうだ……)

長年の付き合いから陽子の性格を知る都亀は、ため息を吐くとベッドに腰掛け長期戦を覚悟するのだった。



「97…98…99……100っと!」

 家の中で、日課となった両手に3kgの鉄アレイを1つずつ持っての腹筋100回をこなした順子は、ふと時計を見る。

「もう10時か。お風呂に入って今日はもう寝ようかな。明日から合宿だし」

本当ならもっとトレーニングをしたい所ではあるが、それで合宿に差し支えるようでは元の木阿弥というものだ。

(合宿はちょうど良い機会なんだもの。あいつらに少しでも近づいてやる!)

心の中に深く沈め、だが常に抱き続けていた感情……ナミや柊に対する劣等感(コンプレックス)が、順子を必要以上に焦らせる。同じ一年生でありながら、早くも卓越した才能を発揮している彼女達と比べた時、どうにも自分はパッとしない。
順子とて、人並み以上に向上心もあれば野心もある。同い年の娘らには負けたくない! というプライドも持ち合わせていた。



絶対追い抜いてやるんだから!



そう自分に誓った時、ふと携帯が着信音を鳴らし始める。

「誰よ、全く。人が気分良く誓いを新たにしてたってのに……」

誰もいない虚空を睨み付け自分勝手な理由で怒りながら、順子はさも鬱陶しそうに携帯のディスプレイを覗き込む。そこには、【久美子さん】という登録名が映し出されていた。
途端、今し方まで見せていた仏頂面は瞬時に消え失せ、まるで意中の人から連絡が来た時の、恋する少女のような笑みへと変化していく。

「あ! もしもし?」

「もしもし、順子? 久しぶり……元気にしてた?」

慌てて通話ボタンを押し、電話に出る順子。その耳に響いてくる声は、確かに久美子のものだ。聞き間違える訳がない。


畑山 久美子(はたけやま くみこ)。順子にとって、かけがえのない姉のような存在である彼女は、今は遠く広島の地で息災にしているようだ。


「うん、元気。久美子さんは?」

「まあぼちぼち、かしら」

2人が離ればなれになってまだ半年も経っていない筈なのに、何故か懐かしさが順子の全身を支配していく。その後2人はお互いの近況を伝え合い、しきりに笑い、怒り、時には慰めたりといった会話を電話越しでやり取りした。
そして約1時間も過ぎた頃、

「私ね。こっちの高校でライト級の選手に選ばれたの」

久美子の口から唐突に重大発表がなされた。はっきりと言葉にしてはいないが、I・Hの出場選手として、という意味なのは一目瞭然である。
広島・鯉名(こいな)高校といえば、高校女子の強豪校の一角だと以前由起が話していたのを思い出す。そこの出場選手に選ばれたのだ。

「おめでとう! 久美子さん」

自分の敬愛する姉代わりの少女の、まさに大抜擢に対し順子は心からの祝辞を述べる。

「ありがとう。……あ、そういえばそっちの出場選手は誰か決まった?」

「ううん、まだだと思う……多分。少なくともあたしは聞いてないわ」

久美子の問い掛けに対する返答をして、そこで順子は初めて出場選手の話をまだ聞かされていない事に気付いた。

(もしかして、まだ選手登録とかしてないんじゃ……?)

順子は急に胸騒ぎがしてきたが、久美子とのやり取りにそれを表面化させる事だけは辛うじて防ぎ、

「それじゃ、そろそろ切るわね。お互い、全国大会に出られるよう頑張りましょ!」

という久美子の激励で会話は終了した。ちなみに、胸騒ぎがし始めた辺りからまるで血の気の失せたような表情になっていた事に、久美子はおろか本人すら知る由はなかった。
だが血の気が引いてばかりもいられない。順子は手にしたままの携帯を操り、主将の所へと事の詳細を確認するべく電波を飛ばした。





「下司さん、さっきからずっと携帯鳴ってるみたいなんだけど……」

 山之井ボクシングジムの女子更衣室から、一足先にトレーニングを終え着替えていた馬剃 佐羽(ばそり さわ)の声がナミの鼓膜に響く。
クールダウンの為のストレッチをしていたナミは、途中で一旦切り上げ佐羽に礼を言うと携帯を広げ通話ボタンを押した。

「もしもし……ああ順子? どうしたの、わたし今ジムワーク中なんだけど」

「そ、それは悪かったわね……ってそうじゃなくて! ねえ、ウチの部のI・H出場選手って、もう決まってるの?」

どこか怒気の伝わる順子の口調。普段から怒りっぽい所があるだけに、それに関してはどうという事もないのだが……

「あれ? 言ってなかったっけ。アンタはちゃんとピン級で登録してあるわよ」

他にも、主だった部員はもう既に適正階級で登録済みである事を、ナミは順子へと伝えていく。そもそも、みんな上手い具合に階級がバラけてるから部内選考をする必要もなかったしね、とカラカラ笑いながら語るナミにすっかり脱力してしまった順子は、その後適当に話を合わせ「また明日」と電話を切ってしまった。

順子の不可思議な電話に小首を傾げながらも、ナミは携帯をロッカーに放り込みシャワー室へと向かうのであった。



いよいよ、明日から海水浴……もとい夏合宿が始まる。

ちなみに…………



「えーっと、1週間分のアニメの録画していかないと……あ、痛ッ! ちょっとポチ、そんなに強く噛んじゃダメぇ!!」

城之内家の自室で、アンナは騒がしい夜を過ごし……



「柊ちゃん、明日から一緒に頑張ろうね。今から楽しみだなぁ」

眠たい目を擦りながら、柊は急に電話を掛けてきた夕貴を相手に半ばウンザリした表情を隠そうともせず、適当過ぎる対応で話を合わせていたのだった。




to be continued……
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Author:チャパロット
基本的に携帯サイトで書かせて頂いているもののリメイク(?)ですが、ちょくちょく文を変更してたりします(あと拙いですが自作絵なども)。
何かある方は、ckcwb305あっとまーくsutv.zaq.ne.jpにご連絡下さい。

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