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第8話 【アンナvs心、決着】

 I・H編、第8話です。

第1R終了間際、辛うじてKOを免れたアンナと心の試合は2R目に突入。ここで、アンナは秘密兵器『左ストレート』を炸裂させた。









グワシャアッ!



 強烈な打撃音と共に、ヘッドギアの隙間から流れ出ている黒い髪をフワリと靡かせ1人の少女が大きく身体を仰け反らせていく。光陵高校の女子ボクシング部室では、城之内 アンナと知念 心との勝負が第2Rに突入していた。
第1Rで優勢に試合を運んでいたのは心。終了間際では狙い済ましたカウンターでアンナをダウンさせる程の攻勢を見せていた(正確には、このダウンは寸前で1R終了した為無効)。
そして、第2Rでも攻勢を維持していたのだが……アンナのフェイントに引っ掛かってしまい、カウンターブローを叩き込む筈が逆に貰ってしまうという展開になっていた。

そして今、つい数秒前まで勝利を確信していたであろう心は、自分の意思とは無関係に吹き飛ばされてしまっていたのである。いや、この時の心の表情を見れば意思どころか意識すら保っているのか、甚だ疑問と言わざるを得なかっただろう。


アンナは、いわゆる『ソリッドパンチャー』と呼ばれる特殊な拳質の持ち主である。特徴として、“相手の意識を刈り取りやすい”というものがある。
『ソリッドパンチ』は、切れ味の良い刃物や鋭くしなる鞭と比喩される事が多い。
スナップなパンチは肉体にダメージを残しにくい反面、神経や意識を線と仮定した場合それらを切断し易くなる。
意識を断線された人間は、勿論立ってなどいられないだろう。典型的なKOパンチャーの資質を秘めている……といえるかも知れない。

一方で、『ハードパンチャー』と呼ばれる拳質のボクサーもいる。パンチの質が重く、身体の芯まで与えるダメージが大きいもので、こちらはハンマーや大砲など見た目通りの派手な武器に喩えられる事が多い。

光陵女子ボクシング部主将、下司 ナミが唯一敗北した相手……東京・建陽(けんよう)高校の加藤 夕貴がこれに該当する。


何にせよ、アンナの『切れる』パンチを顔面に、しかもカウンターでジャストミートしてしまったのだから、心の意識が飛んでしまったとしても何ら不思議ではない。ないのだが……



キュキュッ!



なんと、両脚に力を込めダウンする事なく踏み止まったではないか! ダウン必至の当たりだっただけに、部室内からは驚きの声が上がる。しかも、



バシィンッ!



あろう事か、仰け反った分の間合いをダッシュで一気に詰めた心は、振りの小さい右ストレートをアンナの顔面へと返してきた。

「あぶぅッ」

左ストレートがカウンターで決まり、後ろへと吹き飛んだ心を見て油断していたらしいアンナは、この右ストレートを真正面から貰う形となってしまった。
顔にめり込んだグローブと反発するように頭が後ろへと弾け飛び、鼻に走る痛みと衝撃の余り涙目になる。だが、そんな中でもアンナは歓喜の表情を見せていた。


彼女の中に眠る本能……“バトルジャンキー”の本領発揮といった所であろうか。


 歓喜の表情を浮かべ、アンナはグローブに覆われた拳をグッと固く握り締めると眼前の相手目掛けて打ち振るう。強い相手と、勝ち負け関係なしで思う存分殴り合いたい。今、アンナの中ではその一念だけがよぎっていた。

或いは、その狂気じみた思いこそがアンナの強みであるのかも知れない。

右を打ち込まれた事など意にも介さず、ギラギラと輝く眼で心を見据える。そして、左ジャブを主軸にアンナは時折フェイントを織り交ぜながら徐々にその間合いを詰めていった。



シュッ、ビシュッ、ブンッ!



対する心も、アンナの手数に負けてたまるかと集中力を最大限に高め、迫るパンチをかわし、或いはブロッキングし、隙を見つけてはカウンターを返して応戦する。



バクンッ!



振りの大きくなった左フックをダッキングで避け、体勢を立て直しざま心は下から右のアッパーカットをアンナのアゴへと叩きつけた。

「ぶぁあッ」

下からの衝撃で、アンナの脳が縦に揺れる。口からは唾液が霧状の飛沫となって散り、重力に逆行するようにマウスピースが勢いよく外へと飛び出していく。
見事なカウンターアッパーであった。

(決まったッ!)

心は、その右拳に会心の手応えを残したままアンナの方を見る。そこには、赤と白のコントラストが見事に交じり合った物体がすぐ目の前まで向かってきていた。



グワシャアッ!



心の顔に、その物体……アンナの打ち下ろしの右拳が落下、着弾する。それはあたかも、触れるを幸い何物をも粉砕せしめる鉄の槌の如く無慈悲な、そして確実な一撃であった。
カウンターで右アッパーを決めた筈の心が、今度はアンナに打ち下ろしの右ストレートを見舞われたのである。

「ぶ、ッふぁあッ!」

強烈なインパクトによって上の歯に嵌まっていたマウスピースが外れ、それだけでは飽き足らず今度は心の口からもアンナと同様に吹き飛び、勢いをつけてキャンバスに叩きつけられていった。



ガクンッ!



殴られた衝撃に抗し切れず、心は膝を折り……



ドスンッ!



キャンバスに尻もちをついてしまった。



「ダウン!」

 その様子を見たレフェリー、植木からダウンが宣告され続いて膝を折りつつも何とか踏ん張っていたアンナに向け、ニュートラルコーナーへ下がるよう指示を出す。

「ワン…ツー…」

ダウンカウントが始まる。頭を軽く振りダメージの確認をすると、心は腕に力を入れ立ち上がる体勢に入っていく。その間にもカウントは問答無用で数えられ、ファイブまで進んでいたが心にはまだ余裕があった。

(焦らなくても大丈夫。まだカウントは残ってる)

両脚に力を込め、その場から立ち上がろうとした時、

(ッ!?)

ふと違和感を感じた。

(え……? 脚、が………)

脚に力が入らない。よく見れば、ぷるぷると軽く震えているのが見て取れる。知らず知らずの内に疲労とダメージが溜まっていたのか、心の両脚は痙攣を起こしていたのだ。
心は、その顔から一気に血の気が引いていくのを感じた。このままではテンカウントを数えられてしまう。先程までの余裕など一瞬の内に消し飛び、心は震える両脚に喝を入れる。
そして、ゆっくりとではあるが何とか立ち上がっていく。ファイティングポーズを構えた時には、カウントは実にナインを数え上げられた所であった。

「まだ“やる”か?」

植木は心の痙攣の治まらない脚を確認、ダメージがあるのを承知しながら敢えてそう訊いた。本来であれば「まだ“やれる”か?」と訊くのが普通の応対だろう。
が、これは心が満足するか否かの勝負と聞いていた植木は、「まだ不十分か?」と問いかけたのである。

心は、その植木の言葉の意味を理解し、その上で

「お願い……します。もう、少しだけ」

と続行の意思を示してみせた。その意思を汲んだ植木はコクッと軽く頷き、

「ボックス!」

試合を再開させた。



 植木の指示を聞いて、ニュートラルコーナーからアンナが勢い良く飛び出す。少し冷静になったのだろうか。そこに歓喜の表情はなく、普段通りの試合に集中した顔へと戻っていた。
脚が震えて動きの悪くなった心の代わりに、アンナの方から接近してくる。そしてお互いパンチの届く距離まで間合いを詰めると、



ビュッ!



アンナは左ジャブを丁寧に打ち込んできた。心は上体だけを後ろへ反らす事で、この左ジャブを鼻先ギリギリでかわす。
続く2発目。これも同様にかわそうとしたものの……



パシィンッ!



かわし切れず、鼻先に鈍い衝撃が走った。左ジャブの連打と見せかけた、アンナのフェイント。左足を半歩踏み出し、距離を稼いでの秘密兵器、『左ストレート』である。

「あぐぅッ」

フェイントに引っ掛かってしまい、しまった! と悔いても後の祭りというもの。頭が大きく仰け反り、鼻から鮮血が噴き出してしまった。後ろへとたどたどしい足取りでふらつく心へ、アンナは猛追を始める。


左脇腹へボディーフック、右頬へショートフック、顔面にワン・ツー、最後に鳩尾へボディーアッパー。


脚の痙攣、またここに来てトレーニングを怠っていた分、更には先の葉月 越花との試合を経た事によるスタミナ切れが現れてしまい、心はアンナの繰り出すパンチの悉くを貰ってしまった。
パンチが当たる度、心は身体が折れ頭が弾き飛ばされ、とめどなく血の混じった唾液と汗を飛散させていく。溜めた力を放出するように、伸び上がりながらアンナは右のアッパーカットを心のアゴ目掛けて打ち上げた。
先程のラッシュで半分意識が朦朧としている心に、このアッパーを逃れる術はない。だが……



ブゥンッ!



アンナはこの大事な局面で、あろう事かアッパーを空振りしてしまうという大失態を犯してしまった。倒してやろうと力んでいた為か、それともまだアッパーの熟練度が未熟だった為か。
詳細は定かではないが、とにかくも心は九死に一生を得たと言えるだろう。



ビーーーーーーッ!



更に、ここで第2R終了のブザーが鳴り響いた。

様々な運に助けられた形で、心は重い脚を引き摺るように青コーナーへと戻る。ナミの用意したスツールに思い切り腰を落とし、気だるそうに息を吐き出すと、

「ハァ、ハァ……アイツ………強いじゃ…ないの」

苦しそうな表情のまま呟いた。心としては、アンナを侮っていたつもりは決してなかった。ただ、自分の実力なら勝てる相手だと思っていたに過ぎない。だが……

「ブランク……ってやつか………」

疲労とスタミナ切れでとめどなく流れてくる汗を、タオルで拭いて貰いながら心はどことなく納得がいったように微笑む。苦しげな息遣いは相変わらずだが、その表情が若干和らいだものへと変わっているように、向かい合うナミには思えた。

「この辺が潮時、か……ねえ下司」

スツールに腰掛けたままの心は、和らいだ表情に決意を込め正面に向かい合うナミに声を掛けた。



棄権するよ、と。



見るからにプライドが高そうな雰囲気の心から棄権の申し出が出た事に、ナミは一瞬目を丸くする。だが、眼前の少女が見せる表情を見て、その認識は間違いであったとナミは苦笑すると

「分かった。植木先生に伝えてくる」

心の棄権を伝えるべく植木の元へと向かっていった。



 ナミは植木に棄権の旨を伝え、植木もそれに同意したらしくコクンと頷く。植木としても、本人たちの意思を尊重してやりたいのは山々だが、さすがにこれ以上続けても恐らくはアンナのワンサイドゲームになると考えていた。

顔の所々が腫れてはいるものの、まだスタミナには余裕がありそうなアンナ。
力なく肩を上下させ、俯く心。

両者の状態を見れば、その程度の予測は容易にたつ。丁度良い頃合と、植木は心の引き際の良さに感心する思いであった。

レフェリーとして、植木は試合の終了を告げる。そして、形式上勝者であるアンナの左手を取り、それを高々と掲げた。その間、当のアンナはイマイチ事態が飲み込めていない様子で半ば呆然としていた。

「なんて顔してんの。アンタの勝ちなんだよ」

呆然としていたアンナに、右手を差し出した心が歩み寄る。

「知念さん」

「負けた。ブランクがあったとか、越花とやった後だからとか、そんなのは言い訳にしかならないからね。だから、今回は素直に負けを認めるよ」

そう言う心の顔に今までの刺々しい雰囲気は一切なく……寧ろ、憑き物でも落ちたかのような清々しさを纏っていた。

「う、ううん! そんな事ないよ。知念さん強かったし、私勝てるなんて思ってもなかったし」

心の清々しい雰囲気に、何故か顔を赤くしたアンナは必死に取り繕う。激しく首を振り、手をパタパタさせながら……
その様があまりにも滑稽で、心は思わず吹き出してしまった。

「ぷ……アッハハハハ! やっぱりアンタ面白いよ」

眼に涙を溜め、思うさま笑い声を上げる心。こんなに笑ったのはいつ以来だろうか。不良のレッテルを貼られ、周りから遠ざかり、いつもそばにいるのは母だけだった。
いつしか、自分は心の底から笑う事を忘れてしまっていたように思う。ひとしきり笑った後、

「さて、約束の件だけど……これからお世話になるよ。改めてよろしく」

再び心はアンナへ右手を差し延べるのだった。



 お世話になる……つまり入部してくれる、と理解したアンナは、腫れの目立つ顔に満面の笑みを浮かべ、

「うんッ! こっちこそよろしくね!!」

差し出された右手を取り、固く握手を交わした。



とにかくも、長かった知念 心との入部問題にひとまずの終止符を打った光陵高校女子ボクシング部。試合を終えたアンナと心の2人は、簡単な応急処置の後、植木の指示により保健室へと向かっていた。
会話を交わしながら保健室へと向かう2人。だが、心にはまだもうひとつ、片付けなければならない問題が残されていた。

「城之内。悪いけど、処置が終わったら越花と2人にしてくれない?」

そう、越花との問題である。この先一緒に練習していく上で、越花との関係がギスギスしたままでは本人たちのみならず周りにも悪影響を与え兼ねない。
そういった考慮も勿論あるが、何より心としては越花にちゃんとした形で謝罪し、その上で仲直りがしたいのである。

本来なら、アンナとの試合の後実行するつもりでいた。が、その前に勢いとはいえ越花と闘う羽目になり、しかも失神させてしまったのである。
それ自体には後悔はない。あくまで試合の結果なのだから。


だが、越花はどうなのだろう……?


ふと、心は部室を出ていく前にこちらを見た時の越花の眼を思い出す。納得したような、でもどこか悔しそうな眼をしていたように思う。真実は分からない。
分からないが為に、急に不安が心を支配していく。そんな心の肩に、ポンッと優しい衝撃が伝わった。いつも見せる笑顔で、アンナが心の肩を叩いたのだ。



大丈夫、越花ちゃんはきっと許してくれるよ



そう口にした訳ではなかったが、そう言われた気がした。

(アタシは、もしかしたらこの娘らとなら上手くやっていけるかも知れない……このクラブなら、アタシを受け入れてくれるかも知れない)

何も根拠などなかったが、不思議とそう思う。本当の親友とは、あるべき居場所というのは、きっとそういうものなのだろう……そう思いながら、アンナと心は保健室のドアを開け放つのだった。





to be continued……
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Author:チャパロット
基本的に携帯サイトで書かせて頂いているもののリメイク(?)ですが、ちょくちょく文を変更してたりします(あと拙いですが自作絵なども)。
何かある方は、ckcwb305あっとまーくsutv.zaq.ne.jpにご連絡下さい。

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