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第7話 【アンナの秘密兵器】

 I・H編、第7話です。

越花にクロスカウンターを炸裂させ、旧友をKOしてみせた心。次は、いよいよアンナとの闘いが繰り広げられる……









 光陵高校の女子ボクシング部室……そのリングの上で、今1つの闘いに終止符が打たれた。上下体操着姿で立ち尽くす知念 心と、公式戦の試合着を纏い完全に失神し仰向けでキャンバスに倒れ伏している葉月 越花の、2人の勝負。
それは、第2R0:53、ライトクロスカウンターによる心のKO勝利という形で幕を閉じた。

「葉月さん、しっかりして!」

そのリング上では、白目を剥き弱々しく身体を上下させている越花に対し、マネージャー兼トレーナーの大内山 由起が呼び掛けを行っている。
ピシャッ、ピシャッ、と頬を軽く叩かれていたが一向に目覚める気配が感じられない。


あれだけキレイにクロスカウンターが入ったもんね、しょうがないか……


と、女子ボクシング部主将、下司 ナミは思う。

由起の呼び掛けから約1分程の後、「う、ぅ~ん……」という小さな呻き声と共に越花が意識を取り戻した。まだ覚醒から間もない為か、表情は戻っておらず目もとろんとしている。
だが、見た目に反して意識はしっかりしているようで、

「先輩……?」

近くにいる由起の存在を理解出来ていた。

「お疲れ様。立てる?」

とにかくも大事に至らなかった事に胸を撫で下ろし、由起は越花へと優しく話しかける。はい、と答え越花はゆっくりと上体を持ち上げていく。
クロスカウンターでキレイに意識を刈り取られてから、神経がまだちゃんと繋がっていないのだろう。途中で脚に力が入らず、ガクガクと膝を震わせる場面が見られた。
それでもロープにしがみつく体勢で立ち上がると、心の方を一瞥してからヨロヨロとおぼつかない足取りでリングを降りていく。リングを降りた後、部員たちに肩を借りながら越花は申し訳なさそうに1人の少女をその瞳に映し込んだ。

金髪碧眼のイタリアンハーフ、城之内 アンナである。

本来なら彼女こそが心と正式に勝負をする予定となっていたのに、越花は自分の我儘で無理やり割り込んだ為、待たせる結果となってしまった。

「ごめん……アンナちゃん」

目を伏せ、申し訳なさそうにアンナへ謝る越花。本当に申し訳ない、という気持ちがひしひしと伝わってくる……そんな一言だった。そんな越花に対し、

「ううん、気にしないで」

アンナは短く返し、優しく微笑んでみせる。その微笑みに幾分か気分が楽になった越花は、新入部員の杉山 都亀と中森 陽子の両名に付き添われ、植木の指示により保健室へと向かう事となった。
今は大丈夫に見えても、倒れ方が倒れ方なだけに万一を考えての、元プロボクサーとしての指示であった。
つい今し方自分のパンチで倒した少女が部室を出て行くのを見送ると、リング上の心は視線をアンナの方へと切り替える。

(さあ、次はアンタだ。早く上がりな)

そう目が訴えているように、見上げるアンナには思えた。予め戦闘準備を終えていたアンナは、すぐさまリングロープを潜り抜けていく。
越花に引き続き、赤コーナーのセコンドを務める由起からグローブとヘッドギアを着けて貰い、軽く身体を動かしてみた。

気負いはない。自分でも信じられないぐらい身体がスムーズに動く。対角に控える心は、その動きを見て元々鋭い目を更に細めていった。
頃合いを見て、植木は2人を中央へと呼び形式上の注意をしていく。手短に済ませ、両者は充分に気合いの入った顔のまま各コーナーへと戻り試合開始を待った。



「それじゃ、時間合わせるわよ」

 越花を保健室へと送る為に席を外している陽子の代役として、桜 順子が自動ブザーを操作する。アンナと心、お互いがそれぞれマウスピースを銜え……



ビーーーーーーッ!



試合開始のブザーが響き渡った。

両者体操着姿で、アンナは赤、心は青と、それぞれコーナーに合わせたカラーリングのグローブとヘッドギアを装着した2人は、リング中央でチョンと左拳を軽く打ち鳴らす。
両者とも右構えのオーソドックススタイルで、それぞれフットワークを使い相手への距離を縮めていく。
一見して、身長差は殆ど互角。恐らくリーチもそう違いはないと見ていいだろう。

つまり、『長さ』というアドバンテージは、この勝負には存在しない。一方が殴れる距離は、相手から殴られる距離となる。先手を打った方が有利と考えた両者は、ほぼ同時のタイミングで初手を仕掛けた。



バァンッ!



2人はほぼ同時に左ジャブを放ち、ほぼ同時にお互いの頬を抉る。

「ぶッ」
「あぐッ」

そして、またもほぼ同時によろめいていた。その姿は、まるで合わせ鏡でも見ているかのよう。

「くッ」

そんな流れを崩すように、先に動いたのはアンナ。彼女の方が、受けたダメージは軽微だったようだ。

「シュッ」

小さな掛け声と共にアンナは左ジャブを3発、続いて右ストレートを立て続けに心へと打ち込んでいった。

「ッ!?」

このアンナのパンチの速さに驚いたのか、心はすかさずバックステップで射程圏外へと退避。
越花の時もそうだったが、この部の連中は成長スピードが早い。心は、その事を今のアンナのパンチから痛感した。


……否、させられた。


前に練習試合で見た時と比べ、明らかにパンチのスピードとプレッシャーが上がっているのだ。ふと、一週間前に練習試合の頃のままならアタシには勝てない……と言い捨てた時の事を思い出す。

(あの頃の相手だと思って油断してたら、アタシの方があっさりやられる……)

内心で冷や汗をかく思いの心は、アンナへの対応を変えなければならない必要に迫られたと同時に、ある種の期待感が急速に膨らんでいくのを自覚していた。
越花にしろアンナにしろ、ほんの一ヶ月足らずで見違える程の進歩を遂げている。よほど優秀な指導者が就いているのか、それとも効率の良い練習内容の賜物なのか。
今の心には知るべくもないが、確実に分かった事が1つだけある。


この女子ボクシング部員は、物凄い速度で成長している


という事。

グッとグローブに覆われた拳を握り締めると、心は沸き上がってくる歓喜を抑えながらアンナへとワン・ツーを放つ。



パンッ、バシィンッ!



心の放ったパンチのスピードに反応出来なかったのか、アンナは2発共まともに貰ってしまった。

「ぶッ、かふぅッ」

心のパンチが効いた様子のアンナは、口から飛沫を上げ顔を仰け反らせる。続いて、心は左拳をガラ空きの脇腹へと思い切り叩き込んだ。



ズムッ!



「ぐぼぅッ」

グローブ越しに伝わる心の拳を受け、アンナの口から更なる唾液が零れマウスピースが露わになった。痛みと衝撃で両目を開き、口から僅かに覗く白いマウスピース。あたかも産卵の様子を見ているかのようであった。

脇腹に走る痛みを我慢する余り、ガードの疎かになったアンナの顔面を心は左右のパンチで横薙ぎに殴打していく。



バンッ、バンッ! グシャッ!!



最初のやり取りから一転、心のパンチが面白い程アンナに決まっていく。心のパンチスピードに対応出来ず、一方的に殴られながらも懸命にパンチを打ち返すアンナ。
だが、心は冷静に軌道を見切ってかわし、又は正確にブロッキングしダメージを最小限に抑えていた。

「くぅッ」

このまま一方的に打たれ続けてはマズいと思ったアンナは、一旦バックステップで距離を取り着地と同時に右ストレートを心へと打ち込んだ。

「ダメッ! 城之内さん!!」

赤コーナーから、由起の悲鳴にも似た金切り声が上がる。待ってましたとばかり、心はアンナよりも速く右腕を振り抜くモーションへと入った。
越花を仕留めた時と同様、アンナの大振り気味のパンチが来る瞬間を狙っていたのである。

しまった! と悔やんだ時には既に手遅れ。スピードに乗ったパンチを止める事など出来ず、



グッシャアァァッ!



アンナの右ストレートは何もない空間を打ち抜き、逆に心の右ストレートは思い切りアンナの左頬にめり込み不細工なまでに変形させていた。

「ぶ……ぶぇ…ぇ………」

外からの後押しで産卵を終えたかのように、アンナの口から唾液に濡れたマウスピースが盛り上がり、そして零れ落ちていく。



ビタンッ!



マウスピースがキャンバスへと墜落し、1度大きく跳ねる。その後、頬を打ち抜かれたアンナはグラッと膝が折れ身体を自由落下させ始めた。
顔は上を向いており、その瞳には何物をも捉えてはいない。表情も完全に消し飛び、意識がないのは明白だった。
意識の無くなったその『物体』は、重力に従って地面へと吸い込まれていく。そして、その身体がキャンバスへと衝突する、まさにその寸前……



ビーーーーーーッ!



第1Rの終了を告げるブザーが鳴り響いた。その一瞬後に、アンナはその身体をキャンバスへと打ちつけられてしまう。

「痛ぃったあッ!」

背中をしたたかに打ちつけた衝撃で、アンナは飛んでいた意識を取り戻し軽く咳き込む姿を見せていた。

「………」

その一部始終を見下ろし、心は無言で青コーナーへと踵を返していく。その姿には、寸前の所でダウンが無効になってしまった事などまるで歯牙にもかけない風格……余裕が垣間見える。


這いつくばるのが先延ばしになっただけ


そう、語っているようにも見えた。



 一方、終了のブザーに救われた形となったアンナは、まだ痛む背中を擦りながら赤コーナーへと戻る。スツールに座り、ウォーターボトルで口の中に水を含むと、モゴモゴとうがいを始めた。

「城之内さん」

アンナと向かい合う位置で屈んだ姿勢を取った由起が、タオルで顔を拭きつつ呼びかける。

「落ち着いて。練習通りやりなさい」

タオルで顔を拭き終えた由起は、アンナの左拳に手を添え指示を与えていく。

対角の青コーナーでは、ナミが心の口からマウスピースを抜き取り新人戦の時に培った手つきでテキパキと要領良く作業をこなしていた。

「へえ」

その動きを間近で見ながら、心は感嘆の息を漏らす。

「?」

ナミ本人にしてみれば当たり前の事をしているだけなので、心の様子には小首を傾げるばかり。そんな事よりも、とナミは心の上腕をマッサージしながらアンナに対する評価を訊いてみた。

「……悪くないんじゃない? それなりに。ま、ディフェンスはからっきしみたいだけど」

特に答える義理もなかったのだが、なんとなくナミの耳には入れてもいいか、という気まぐれにも似た感情が沸き、心は思った通りの感想を口にした。
自分から訊いておきながら「ふーん、そっか」とだけ返し、今度はふくらはぎのマッサージに取り掛かるナミ。
表向きはさも感心が無さそうに繕っていたナミだったが、実は内心で感心していた。端的にではあったが、正鵠を射ていたからだ。

確かに、アンナは急速な成長を遂げている。ナミを除けば、高頭 柊と2人、他の部員たちと比べ頭ひとつ分抜けているとは思う。
が、それはあくまで部員間での評価であり、まだまだ県内レベルから見ればひよっこの部類である。
まして中学時代数々の大会を闘ってきた心クラスのボクサーから見れば、『悪くない』だけで、言い換えれば『良くもない』という事なのだ。

どうにも打ち合いを好む性格なのか、アンナはインファイトを仕掛ける事が多い。今までは運良く相手も打ち合いに付き合ってくれて、運良く打ち勝てる相手が多かった為に勝てていただけ。
インファイトを仕掛けるにしろ、ディフェンスが下手くそな選手はいつか壁にぶつかる。そういう意味では、この心との勝負は彼女にとっての試金石となるのかも知れない。

「まぁ、知念さんから見れば今のアンナはあんまり脅威じゃないかも知れないけど……」

マウスピースを用意しながら、ナミは心の眼を見つめる。覗き込んでくるナミの眼に真剣味を感じた心は、不思議と視線を外す事が出来ない。
そんなナミが新たに口を開いた瞬間、



ビーーーーーーッ!



セコンドアウトを告げるブザーが重なった。



 結局ナミが何を言おうとしていたのか正確には分からないまま、心はマウスピースを受け取りリング中央へと歩み寄る事となった。一方、対角のアンナもマウスピースを銜えスツールから立ち上がる。

「城之内さん。とにかく“左”を使って、練習の成果を見せて!」

ロープを潜り外へと出ていく由起から、抽象的な指示が飛ぶ。だが、アンナはそれだけで由起の言葉の意味を理解したようで、コクッと小さく頷いてみせた。

程なく第2Rが開始され、両者は対峙する。インターバルを挟んで落ち着いたのか、アンナに焦りは見られない。積極的な動きで瞬時に射程圏内へと踏み込んできたアンナから、1Rの時より鋭さの増した左ジャブが放たれた。



ビュンッ、ビシュッ!



「くッ」

先程のダウンによる動揺など微塵にも感じられない、アンナの鋭いジャブを心は辛うじてかわす。その後も間髪入れず繰り出されるアンナの左ジャブに、心からはカウンターを狙う素振りが見られない。
テンポアップしたアンナのスピードに、心はついていくのがやっと……一見すれば、そのようにも見える試合展開が繰り広げられていった。
アンナが有利に試合を進めていく展開を見て、部員たちから俄かに期待感が高まっていく。そんな中、柊はただ1人違う解釈でリング上を見守っていた。

(知念のヤツ……タイミングを計ってやがんのか?)

漠然とではあるが、何故か柊には心がわざとアンナに打たせているように思えて仕方がなかった。

そして、その疑念はすぐに確信へと変わる。

左で動きを釘付けにしたアンナは、ここでこのR初めての右を引き絞っていく。心は、アンナが右腕を引いたのを見た瞬間、学習能力のない奴とほくそ笑みつつ自身も右腕を振りかぶった。
柊の予想通り、心はアンナが右を放つ瞬間を待っていたのだ。第1R終盤でアンナの意識を飛ばした時と同じ展開が、今また繰り返されようとしている。

(もらった!)

タイミングは完璧、後はこの右拳を思い切り振り抜けば、今度こそアンナは立ち上がれない。数秒後にはアンナが無様に横たわる、そのイメージを描きながら心は右ストレートを放つ。
だが、次の瞬間自分の横をすり抜けていく筈の、アンナの右拳が飛んでくる事はなかった。

「ッ!?」



ブンッ!



心の右ストレートが、空しく虚空を穿つ。アンナの右はフェイントだったのだ。振り抜いたまま体勢の崩れた心の顔面目掛け、アンナは左拳を激しくめり込ませた。



グワシャアッ!



「ぶぼぉッ」

アンナの秘密兵器……『左ストレート』が心の顔面をしたたかに打ちつけ、無様な呻き声と共にその身体ごと後ろへと吹き飛ばされていくのだった。




to be continued……
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Author:チャパロット
基本的に携帯サイトで書かせて頂いているもののリメイク(?)ですが、ちょくちょく文を変更してたりします(あと拙いですが自作絵なども)。
何かある方は、ckcwb305あっとまーくsutv.zaq.ne.jpにご連絡下さい。

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