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第6話 【越花の意地】

 I・H編、第6話です。

ある『決意』を秘め、越花は心に挑戦状を叩きつける。旧友のこの意外な行動に、心の出した答えは……









 6月も終わりに差し掛かったある日。知念 心と城之内 アンナとの勝負当日。2人が女子ボクシング部室に集まり、これから準備といったまさにその時……

「アンナちゃんの前に私と勝負して!」


女子ボクシング部員で心と因縁のある少女、葉月 越花が挑戦状を叩きつけるという、およそ予想の範疇を超えた展開に全ての人間がその耳を疑った。
少なくとも内向的で大人しい、という越花の性格を知る部員たちには、到底信じられない行動である。また、挑戦状を突きつけられた当の心に至っては、もはや驚愕の域であった。

越花と同じ中学出身でかつて親交のあった心は、この場にいる誰よりも彼女の人為を知っている、と自負していたものだが……その心をして驚愕させるに足る行動と言わざるを得なかった。

(越花………)

目の前に立つ優しい少女の突きつけた言葉の真意が読めず、心はただ口を閉ざす。


「どうなの……心ちゃん。受けてくれるの? くれないの?」


普段の温和さは一切見られず、どこか思い詰めたような雰囲気の越花は心を問い詰める。

「ちょ、ちょっと落ち着きなさいよ越花ッ」

一触即発の空気が流れる2人の間に、女子ボクシング部主将、下司 ナミが割って入った。



 心と越花、2人の間にある確執を知らないナミには、何故越花がこのように心に対して敵愾心を燃やしているのか理解出来なかった。出来なかったが、生憎と今日はあくまでアンナと心との勝負が先約であり、優先すべきとナミは考える。
従って、主将としては越花の割り込みを認める訳にはいかなかった。

ナミに割って入られ、越花は思わず躊躇してしまう。が、今回ばかりは簡単に引き下がるつもりはなかった。胸の内に秘めた『もう1つの決意』を叶える為に……

「ごめんナミちゃん。でも、これだけは譲れないの」

普段からは想像もつかない、鋭い眼光を心へと向ける越花。ただ周囲からは、どう見ても越花が因縁をつけているようにしか見えない。が、心には何か違う意図があるような気がしていた。

心は少し考えた後、「分かった。受けてやるよ、その勝負」と越花の突然の挑戦を受諾するのだった。





 こうして、現在リング上には上下体操着姿の心と、新人戦の時に着用していたランニングシャツにスポーツブラ、下はトランクス姿の越花の2人が向かい合って中央に位置している。
その中間には、レフェリーを務める女子ボクシング部顧問の植木 四五郎が立ち、これから今回の試合に於ける注意事項を説明する所であった。

「心ちゃん」

そんな矢先、心の方を真剣な眼差しで見つめ越花が口を開く。

「なに?」

「この勝負、もし私が勝ったら……なんでも1つだけ言う事を聞いて」


突然といえばあまりにも突然な、越花のこの一言。これには、心や植木も含めこの場にいた全員が言葉を失ってしまった。



今日の越花はどこか変だ……



これが、葉月 越花という少女を知る全員の共通見解であったと言っても決して過言ではなかっただろう。
内向的で大人しく、少々天然で誠実な人柄。これが、皆の越花に対する見解である。
事実、今までそのように振る舞っていたし決して間違った認識でもない筈なのだが……それが、今日に限ってはアンナと心との勝負に無理やり割り込んできたばかりか、今またこうしていきなり条件付きの約束を突きつけている。

もはや変だと思わない方がおかしかった。

心にしてみれば、こんな話を飲む必要など全くといっていい程ない。ない筈なのだが、

「分かった。もしアンタがアタシに勝ったら、なんでも聞いてやるよ」

まるで菩薩でも降りたかのような寛容さで、心は勝負の割り込みに引き続きこの条件をも飲んでみせた。巷で不良との呼び声高い心とは思えない寛容さに、一部の部員たちからはざわめきが立ち始めていく。
そんなざわめきには目もくれず、越花の提示してきたこの条件に対し、すぐさまある“考え”が心の脳裏をよぎる。

(もしかしたら、これはチャンスかも知れない)

そう考えた心は、あたかも菩薩が降りたかのような……その実、打算を踏まえた寛容さで一旦条件を受けておいて、

「その代わり、アタシからも全く同じ条件をアンタに出すけど……問題ないね?」

越花にも同じ条件を突きつけた。

「……!?」

まさかそう返されるとは露にも思っていなかったのか、越花は一瞬声を失ってしまう。先に条件付きの約束を提示したのは、他ならぬ越花本人である……受けざるを得なかった。

「わ、分かった」

若干上擦った声で、越花も心の条件を飲む。かくして、お互い提示された条件を受け後は試合開始を待つだけとなった。途中でまたもやひと波乱あったものの、以降はスムーズに進行し越花は赤コーナー、心は対角の青コーナーへ、それぞれ戻っていく。
赤コーナーには女子ボクシング部マネージャー兼トレーナーの大内山 由起が、対する青コーナーにはナミがセコンドとして就く。
越花としては、心の隣にナミがいる事に少なからずショックを感じたようだったが、他にセコンドの役割をこなせる人間がいない以上仕方のない事である。

ナミは、今回の為に本人が持参してきていたマウスピースを手に持ち、「はい、口開けて」と心に銜えさせていく。心はそれを無言で銜え込み、バンッ! と両手に嵌めたグローブを1回、胸の前で打ちつけ感触を確かめた。
対角では、臨戦態勢を整えた越花が由起に戦法を指示されているのが見えた。

まさか越花とグローブを交える日が来るなどとは、今日まで夢にも思っていなかった。心としては、ボクサーとして殴り合うより観客席で懸命に応援している姿の方が、まだ“らしい”と思う。
しかし、これはこれで越花自身が選んだ道なのだ。なら、本気で相手をしてやらなければまた彼女を傷つける事になる。


(越花……悪いけど、本気で倒しにいくから!)


心は決心を固めると、一瞬だけチラッとベンチに座り出番を待つアンナの方を見る。アンナも心の方を見ていた。お互いの視線が交差する。
もし視認出来るのなら、2人の間に蒼白い光がぶつかり合っているのが見えたかも知れない。

「よし、そろそろ始めるぞ」

植木の大きな声が部室内を駆け巡る。その声の後、マネージャーの中森 陽子が備え付けの自動タイマー付きブザーを操作、時間をセットしていく。
30秒後に開始します! と合図を送り、きっかり30秒の後……



ビーーーーーーッ!



ブザーがけたたましく響き、越花と心の勝負が開始された。両者はチョンと軽くグローブタッチを交わし、距離を取る。



 お互い右構えのオーソドックススタイル。円を描くように周囲を旋回する越花に対し、その場からほとんど動く事なく向き合う形となる心は、まるで相手が先に仕掛けてくるのを待っているように見える。



ジリ……ジリ……



そんな待ちの姿勢の心に慌てる様子もなく、ゆったりとした足取りで距離を詰めていく越花。ガッチリとガードを固め、旋回は続けながらも時折ピクッと肩を震わせフェイントを仕掛ける。恐らくは由起の指示によるものだろう。


「………」


仕掛けない。

マットを蹴るリングシューズの音と、微かに聞こえてくる衣擦れの音だけが皆の鼓膜を刺激する。

仕掛けない。

1R開始から30秒は経過しただろうか。まだお互い1発のパンチも出してはいなかった。

「ボックス!」

このにらめっこの展開は良くないと判断した植木は、2人に打ち合うよう指示する。だが、それでも心はおろか越花すらも手を出さなかった。

1分が過ぎた。本来なら両者アグレッシブ(積極性)に欠けるとして減点する所だが、生憎今回の試合はポイントに意味はない。それが分かっているだけに、植木は打ち合うよう指示する以外に今出来る事はなかった。

1Rも残す所、僅か30秒。このまま、1Rは両者1発のパンチも出さないまま終わるかと思った矢先、

「GOッ!」

青コーナーから短い、だが力強い一言が飛ぶ。

由起である。由起が越花に向け攻撃の合図を出したのだ。その声に反応するように、今まで旋回しフェイントを仕掛けるのみだった越花が心目掛けてダッシュする。

「ッ!?」

散々焦らしてきた越花がいきなり突っ込んできた事に不意を突かれた心は、咄嗟に反応が遅れてしまう。その、ほんの一瞬の遅れが、越花を懐に招き入れる事を許してしまった。
一方、心の懐へ一気に潜り込んだ越花は左ジャブを2発、心の顔へと放っていく。



ビュッ、シュッ!



以前、都和泉(みやこいずみ)高校との練習試合で見せたものとは比べ物にならないスピードの左ジャブが、心に襲い掛かる。不意を突かれた形の心は、ブロッキングするのが精一杯で得意のカウンターなど狙う余裕など皆無の状態。

(速いッ)

正直、驚いた。練習試合の時からまだそれ程の時は経っていない筈なのに、まるで別人のように動きが機敏になっている。信じられない成長ぶりであった。
ダッシュしてきた時の突進力、打ってきた左ジャブのスピード、ブロッキングした時の衝撃……そのどれもが、心の知る越花を上回っていた。

超越していた、といってもいい。

いくら不意を突かれたからといえど、心とて中学時代幾多の大会を勝ち抜いてきた確かな実力者。現に以前、空手部主将・兼女子ボクシング部員である東 久野と勝負した時、結果的に負けたとはいえ翻弄していたのはまだ皆の記憶に新しい。
その心をしてカウンターチャンスを与えなかった……これは、確実に越花が成長している証拠であろう。

最初のジャブがブロッキングされた後も、越花は残りの30秒をひたすら攻め切り、



ビーーーーーーッ!



第1R終了のブザーが鳴り響いた。


 1発のクリーンヒットも許さなかったものの、完全に目算を狂わされた心は無言のまま青コーナーに戻り、ナミの用意したスツールに腰を下ろす。

「結構やるじゃない、あの娘」

マウスピースを抜き取り、水で洗いながらナミは越花の成長ぶりに感心しきりの様子。心も口にこそ出さなかったが、同じ感想を持っていた。

「やっぱり前野くんとの個人レッスン、効果が出てきてるみたいね」

心の身体をタオルで拭きつつ、独り言にしては少々大きい声で呟く。その、ナミの言葉の内容が気になった心は思わず詳細を訊ねていた。
ナミ曰く、越花は部の練習が終わった後や休日などに、女子部創設の際に行った男女戦で知り合った男子ボクシング部員、前野 裕也から個人的なレッスンを受けているのだという。

なるほど……と、心は頷く。越花の成長ぶりにも合点がいった。全国クラスの強豪校と名高い光陵男子ボクシング部の部員である。まだ一年生とはいえ、並の高校の上級生と比べても勝っていても劣る事はないだろう。

(すっかりボクシング漬けの生活をしてたんだな、越花……)

心は、今の自分とは真逆の生活になっていた越花の事をある意味で本当に認めた。そして、まだどこかで躊躇っていた『潰してしまうかも知れない』という、いわゆる加減の感情をこの時点で一切捨て去った。



ビーーーーーーッ!



第2R開始のブザーが鳴る。ダッ! と1Rの時とは全く違った迫力を伴い、心は自分から越花へと距離を詰めていく。そのスピードに、今度は越花の方が不意を突かれる事となった。
自分のパンチが届く距離まで詰めると、心は先程のお返しとばかりに左ジャブを2発放つ。越花はすぐさまガードを固めようとするが、



パンッ! パァンッ!!



心のジャブの方が速く、2発ともまともに貰ってしまう。

「あぶぅッ」

顔を揺らされ、その衝撃で後ろへとよろめく越花。続いて襲い掛かる右ストレート。



バシィンッ!



「ぷあッ」

これも直撃し、越花は口から飛沫を飛ばしながら更に後退を余儀なくされてしまった。その後も、心のスピードのあるパンチに全く反応出来ない越花はその悉くを貰い、その度に顔を揺らされ唾液を噴き出してしまう。

そして、噴き出す唾液に赤い物が混じってきた頃、



ドンッ!



背中にストッパーを掛けられたような感触……赤コーナーを背負う事となってしまった。2R開始から、まだ1分も経過していないこの状況下にあって、越花は早くも窮地に陥ってしまう。


元々実力が違うと分かってはいたが、まさかこれ程とは!


獲物を追い込んだ事で余裕が出てきたのか、それとも更なる圧力を与える為か……心はそのフットワークを動から静に切り替えていく。



ジリ……ジリ……



少しずつ少しずつ、退路の絶たれた越花へとその距離を詰める心。もうこうなっては、越花に残された道は目の前の強敵に打ち勝ち、死中に活を見出す以外なかった。

「くッ」

越花は覚悟を決めマウスピースを噛むと、ガードを固め左ジャブを数発放つ。が、先程と違い今度は簡単にかわされてしまう。

心やナミが感心したのは、あくまで『素人・葉月 越花』から見ての左ジャブなのであって、『ボクサー』として見た場合、それは到底心に抗する程のものではあり得なかったのだ。
あっさりとかわされてしまい少なからずショックを受ける越花ではあったが、それでも立ち止まっていては相手の思う壺というものだ。

自らを奮い立たせ、越花は手を出し続ける。が、内心で生まれた焦りは如実にパンチの振りに現れコンパクトさに欠けていた。そして、その振りの大きくなったパンチをこそ、まさに心は狙っていたのである。

焦りと疲労の中放った、越花のワン・ツー・スリーの最後……左フックに対し、心は遂にその牙を剥く。



グジュウッ!



心は打ち込まれてきた左フックより速く、ショートストロークの右ストレートを越花へと打ち込んだ。
越花の左頬に、深々とめり込む心の右拳。外からの圧迫に耐え切れず、その口から勢い良くマウスピースが解き放たれ、リング外へと飛翔していく。
次の瞬間には、左フックの回転が乗ったまま越花の身体は半回転し、



ダァンッ!



脱力した肢体は受身も取れないまま、頭を心の方へ向け仰向けに崩れ落ちてしまった。



見事なまでの、ライトクロスカウンター



「ダウン!」


 心の放った、寒気のするような鮮やかなカウンターに皆が戦慄を覚える中、植木だけは冷静に職務をこなしていく。心を退かせダウンカウントを取ろうとしたが、すぐにそれを止め試合の終了を告げてしまう。

キャンバスに倒れ伏す越花は、完全に白目を剥き失神してしまっていた。





to be continued……
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Author:チャパロット
基本的に携帯サイトで書かせて頂いているもののリメイク(?)ですが、ちょくちょく文を変更してたりします(あと拙いですが自作絵なども)。
何かある方は、ckcwb305あっとまーくsutv.zaq.ne.jpにご連絡下さい。

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