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第4話 【アンナ矯正計画】

 I・H編、第4話です。

アンナの“弱点”を克服するべく、由起は特別メニューを組む事に。そして、アンナはリング上で久野と対峙するのであった。









 6月も終わりに差し掛かろうとしていたある日。クラスメイトの知念 心を入部させる為、試合をする事になった光陵女子ボクシング部員、城之内 アンナ。
期日は1週間後。その間、その心から告げられた“弱点”を克服するべくアンナはトレーナー兼マネージャーの大内山 由起の作成した特別メニューを実践する事となった。

そして……今、アンナはボクシング部のリングの上に立ち、スパーリングの準備を終えた空手部主将兼女子ボクシング部員の、『鬼東』こと東 久野と対峙していた。

「あのー、大内山先輩?」

「なに? 城之内さん」

妙に挙動の怪しいアンナと、そんな事は意にも介さずにっこりと微笑む由起。

「ひとつ質問していいですか?」

「ええ、私で答えられる範囲でなら」

「じゃ。じゃあお言葉に甘えて……東先輩とスパーするのはいいとして、なんで男子ボクシング部なんですか?」

そう、アンナと久野が対峙しているのは、男子ボクシング部室のリングなのである。周りでは、同級・上級生の男子部員たちが何事かとリング上に視線を集める者が大多数。
勿論その中には、密かにアンナに想いを寄せる男……我聞 鉄平の姿もあった。

「仕方ないでしょ? 女子ボクシング部室のリングを占領する訳にもいかないし。幸い、東先輩の口添えで男子部のリングを貸してもらえる事になったんだから、今回は諦めなさい」

それとも、“弱点”の矯正もままならない状態で知念さんにコテンパンにされたい? と、意地悪そうな笑みを浮かべアンナを詰問する由起。

「…………」

由起の言葉に観念したのか、もはや言い返す気力も失くしたアンナは久野と正面から向かい合う。

「よろしくお願いします、東先輩」

ペコリと礼儀正しく頭を下げるアンナに対し、「思い切り来ていいわよ」と何故か嬉しそうな表情で久野は答えていた。
因みに、このスパーリングではアンナには由起が、久野には男子ボクシング部主将、桃生 誠がそれぞれセコンドとして付く。青コーナーで佇むアンナに対し、

「とりあえず今の状態でどれだけの動きが出来るのか見たいから、城之内さんの好きに闘ってみて。勿論本気でね」

およそアドバイスらしくないアドバイスを伝え、由起はアンナが異論を挟むより先にマウスピースを口に突っ込んでしまった。

「むぐぅッ!?」

いきなりマウスピースを突っ込まれ、アンナは一瞬呼吸が詰まり軽く咳き込む。



ビーーーーーーッ!



そんな慌しい青コーナー側を尻目に、試合開始のブザーが鳴り響いた。





 ロクな指示も貰えず、無理やりにマウスピースを押し込まれ散々な目に合いながらも、アンナは久野とグローブタッチを交わしファイティングポーズを構える。
お互い、右構えのオーソドックススタイルで対峙する2人。 

(とりあえず好きに動けって事だし……動かないと始まらないよね)

キュッ、キュッ、とキャンバスを蹴るシューズの音と自分の息遣いが支配するリング上で、先に動いたのはアンナ。ガードを固め、久野目掛けて猪突していく。
そして、密着間合いまで詰めると右腕を引き、久野のボディーへアッパーを打ち込んでいく。

無論、こんな分かりやすいパンチをむざむざ貰ってやる程、久野は可愛げのある先輩ではない。アンナのボディーアッパーが飛んできた所を左手でパーリング……というよりは空手でいう払い受けの要領で軌道を反らしつつ、



バクンッ!



右のショートフックをカウンターでアンナに当てていた。

「ぐうッ」

久野としては挨拶代わりの軽いフックではあったが、カウンターでヒットした為それなりにダメージを負わせていたらしい。アンナは軽くよろけながら、しかし踏み止まると今度は右ストレートを久野の顔目掛けて放っていく。
久野は迫り来るアンナの拳を見据え、



スッ!



上体を左手側へと傾けてかわす。そして、腕の伸び切った……つまりガラ空きとなった右の脇腹目掛けて、



ドスゥッ!



左のボディーフックを思い切り打ちつけた。

「うぼぉッ」

腕が伸び切り、腹筋の締められない所へカウンターのボディーフック。これにはアンナも堪らず、脇腹を抱えて悶絶してしまった。
腹を抱えてうずくまるアンナを見て、レフェリーを務めている男子ボクシング部副主将、浜崎は両者の間へ割って入る。その上でアンナにダウンを宣告し、まだ続ける意思があるかを訊ねた。

数秒に渡り軽い呼吸苦を味わったアンナだが、再びファイティングポーズを構え続行の意思表示を見せる。さすがに、こんな程度で終わってしまっては自分の為に時間を割いてくれている人たちに申し訳が立たないし、何より心を満足させる事など夢のまた夢である。
こんな体たらくでは、“弱点”の克服など一生かかっても不可能だとアンナは自分を奮い立たせた。



自分のなにがいけないのか? どこをどうすればパンチが当たるようになるのか?



そんな事を頭で思い描きながら、それでもアンナは突進してパンチを放っては久野にいなされ、カウンターを貰い続け、しまいには……



ズバァンッ!



唯一の突進さえ久野に先制され、顔面に右拳をめり込まされていた。

「ぶばぁッ」

頬肉を潰され、みっともない声が漏れたと同時に口から唾液に塗れたマウスピースが放出される。アンナの身体が弛緩し、キャンバスへ落ちる音とマウスピースが地面に叩きつけられる音、それと1R終了のブザーの鳴る音が、ほぼ同時に重なり合い男子部室に響いた。



 久野は、散々殴りつけた挙句、今だらしなく横たわっている金髪の少女を一瞥すると無言で桃生の方を振り向く。それを見た桃生はコクンと頷いたかと思うと、

「バケツに水を入れて持って来い!」

部員の1人にそう命じた。



バシャアッ!



勢い良くバケツの中の水を顔にかけられたアンナは、半失神の状態から無理やりに覚醒させられ気管に水が入ったせいで思い切りむせ込んでしまう。

「けほッ、けほッ、ごほッ!」

横たわった身体を震わせ、アンナはひとしきりむせると、ムクッと身体を起こしていく。眼前には、全く無傷の久野の姿。何故か、アンナにはその久野の姿が心と重なって見えたような気がした。



“弱点”を克服出来なければ、貴女は本番でもこうなるのよ



一言も話さない久野の表情が不思議とそう語っているようにアンナには思え、1発も当てられなかった事以上に惨めさを実感させられてしまった。



ファサ……



ふと頭からタオルを掛けられ、アンナは暗闇に支配される。そして、その暗闇の中で誰かに抱き締められる感触を肌で感じ取った。次いで、

「大丈夫。貴女の“弱点”、必ず私たちが矯正してあげるから」

抱き締められる腕の中で、由起の声が少女の鼓膜を刺激するのだった。



 スパーリングでまさかの1RKOを喫してしまったアンナ。とりあえず久野の申し出により、今日の続きは明日に回す事となった。恐らく、今日このまま続けても何も成果は得られないだろう、と言うのである。
由起としても、また桃生や浜崎ら男子部の面々から見ても、皆共通の意見であった。

元々実力が違う、というのも勿論の事、それ以上に根本的な所でアンナにはある“基本”が出来ていなかった。それを、由起を始めとした第三者の目にはハッキリと見えたのである。
由起はアンナをリングから下ろし、ベンチに座らせて深呼吸を促す。そして、ある程度落ち着いてから今日の反省会を簡単に始めた。

「さて、早速“弱点”の解明及び矯正を始めましょうか」

由起はそう前振りをしておいて、ガッ! と突如アンナの左手を掴んでみせた。

「!?」

いきなりの事で驚いたのもあるが、アンナには由起の起こした行動にイマイチ理解が及ばず怪訝そうな表情を隠そうともしない。

「分からない?」

由起は、アンナの表情を愉快そうに見やると、さもありなんと左手を掴んだ理由を語り出した。

「右13、左2……計15」

「あの……?」

由起の口から紡がれていく意味不明の言葉に、アンナは何が言いたいんですか? と眉がハの字に変化していく。

「貴女がさっきのスパーリングで打ったパンチの数よ。これがどういう事を意味しているか……分かる?」

“弱点”の解明と矯正をすると言っておきながら、由起の発する言葉は分からない事と質問のみ。さすがに普段は温厚なアンナも、自分が些か出来の悪い生徒であるような感覚を覚え、嫌な気分になってきた。

「だからなんなんですか!? ハッキリ言って下さい!!」

出てくる言葉にも、どことなくトゲのようなものが混じってくる。そんな中、

「………分からんか? 城之内」

由起とやり取りしている隣から、いつの間にか桃生が寄ってきており口を挟んできた。そんな桃生からは、心なしか普段の威圧感は感じられない。寧ろ、聞き分けのない妹を諭す兄のような包容力をすら、今の桃生は湛えていた。
アンナは尖り始めていた気分が一瞬の内に静まり、

「はい……正直、全全然分かりません」

まだ若干濡れそぼる金髪を揺らし、肩を小さくしながら素直に認めた。

「ふぅ、なら教えてやろう。いいか、お前が久野さんにカウンターをされたのは、全て右……つまり利き腕のパンチだ。利き腕のパンチというのは、威力が乗る分どうしても振りが大きくなってしまう」

それをいかにシャープに、且つ体重を乗せて打てるようになるかを我々ボクサーは練習していく訳だが、と桃生は続ける。桃生の講釈を聞く間、アンナは無言でしきりに首を上下に動かしていた。

「つまり、お前は利き腕のパンチに頼り過ぎているんだ。少々専門的に言うと、リードブローが活かせていない状態だな」

そう言い、桃生は未だ由起に掴まれたままの左手に視線を向ける。桃生に視線を注がれ、由起に掴まれている左手をアンナはジッと見つめてみた。

「リードブロー……」

自分の左手を見つめ、アンナは1人小声で呟いてみる。

「安直に言えば、左ジャブの事よ」

もっと厳密に言うと、最初に与える有効打の事ね……と由起、桃生に引き続き今度は久野がアンナに近寄り、リードブローの説明をする。

「東先輩」

「知念さんはカウンターが上手かったわ。貴女も見てたでしょ?」

今日は彼女を真似てみたのよ、と面倒見の良い姉のような表情で軽くウィンクをしてみせる久野。

「手合わせした視点から言わせてもらうと、貴女のパンチは一定のリズムで右が飛んでくるの。私はあまり突き返し……カウンターには精通してないのだけれど、それでもほぼ全てのパンチに合わせる事が出来たわ」

しかもほとんど利き腕でしかパンチが飛んで来ないんですもの。カウンターパンチャーにとって、これ以上美味しいパンチはないわ……と久野は締め括った。



 自分のパンチはカウンターパンチャーにとって絶好のカモ……アンナは、圧し掛かる現実に耐えられないかのように沈み、うな垂れていく。そのさまは、既にKO負けで試合を終えた選手のようであった。
落ち込む様子のアンナに対し、由起は柔らかく微笑みながらその白く細い肩をポン、と軽く叩くと

「そんな、一見完璧に見えるカウンターパンチャーにも、ちゃんと欠点があるのよ」

一筋の光明を思わせる一言を、目の前の迷える少女に送るのであった。

「え?」

その由起の言った言葉に、アンナは思わず顔を上げ声の主の方を見上げる。アンナとしては、藁をも掴む心境であったに違いない。
由起はアンナの碧い瞳を見つめつつ、

「我聞くん、ちょっと来てくれる?」

どういう意図か、姿見を前にシャドーボクシングの最中であった我聞 鉄平を呼びつけた。やや時を置いて、鉄平が召喚される。息を弾ませタオルで流れる汗を拭きながら、鉄平は尊敬の念を抱く先輩の前に直立する。

「我聞くん、いくつか質問があるんだけど……いいかしら?」

由起の呼び出しに僅かに首を傾げつつも、「いいッスよ」と簡潔に答えた。

「じゃあ早速。カウンターパンチャーにとって大事なものってなに?」

「相手の癖を読む洞察力だと思います」

「他には?」

「リズムとタイミング……ッスか」

及第点ね、と鉄平の答えに満足そうな表情を見せる由起。

「鉄平ちゃん」

そんな2人のやり取りに横槍を入れるように、アンナが鉄平に声を掛ける。

「ん?」

「私のパンチがカウンターを取られないようにするには……どうすればいい?」

随分とストレートな質問だな、と半ば感心、半ば呆れながら、でもそれだけ追い詰められているのか……と感じた鉄平は、惚れた女の為に一肌脱いでやろうと自分の体験を元に、カウンターパンチャー対策をアンナに伝授してやるのであった。

「さっき、カウンターパンチャーにとってリズムとタイミングが大事だってのは言ったな?」

鉄平の言うおさらいに、大人しく首を縦に振るアンナ。

「知念って奴がどれほどの使い手なのかは知らないが……まあ俺と同程度だと想定しよう。俺がやられて嫌な事は、まずリズムを狂わされる事……それから、タイミングを外される事だ」

この2つに関しては、

・動きに緩急をつけられる事
・大きな1発を狙わず、シャープなパンチしか飛んでこない事
・フェイントを多く織り交ぜられる事

等を例として挙げていく。

「後は……そうだな、カウンターが失敗したら1発で終わるってぐらい、狙う側にリスクを感じさせるパンチの持ち主が相手の場合か」

要するに、心を折るような強打者が相手の場合の話だ、と鉄平は言う。カウンターは、相手の前に出る力も利用する為非常に強い威力を誇る。反面、失敗した時のリスクは凄まじい。何せ、自分がカウンターを貰うも同然なのだから。

強打者が相手の場合、決まれば相手をKO出来る確立は極めて高いだろう。しかし、失敗すればキャンバスに沈むのは自分自身なのだ。



カウンターってのは、言わば諸刃の剣なんだよ……



鉄平は、アンナに必要以上にカウンターを恐れないよう助言し、「頑張れよ」と赤面しながら練習へと戻っていく。アンナは鉄平の教えに対し、

「ありがとう、鉄平ちゃん!」

立ち上がってペコリと頭を下げ、素直に感謝の気持ちを述べた。



 “弱点”克服の特別メニュー1日目のスパーリングは、1RKOの為途中で打ち切られてしまったアンナであったが、多くの人たちのアドバイスを貰い、得るものは少なからずあった。
明日からも教える事は多いんだから覚悟してね、とにっこり微笑む由起に寒気を覚えながらも、アンナは少しずつ前進していこう……そう新たに誓うのであった。





to be continued……
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Author:チャパロット
基本的に携帯サイトで書かせて頂いているもののリメイク(?)ですが、ちょくちょく文を変更してたりします(あと拙いですが自作絵なども)。
何かある方は、ckcwb305あっとまーくsutv.zaq.ne.jpにご連絡下さい。

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