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第3話 【アンナ、約束とスパーリング】

 I・H編、第3話です。

放課後の練習を終え、帰り道の途中で知念 心と出会ったアンナ。その、心の突然の出現にアンナは戸惑いを隠し切れず……









 新しく完成したばかりの女子ボクシング部室で練習を終え、帰宅途中の城之内 アンナの前に偶然クラスメイトである知念 心が現れ、アンナは練習の疲れも吹き飛ぶ思いであった。

「ち、知念さん……?」

アンナは、驚きながらも目の前の少女へ声を掛けてみる。心は、いわゆる『不良』に分類される生徒で、確かにあまり学校に姿を現さない。また、たまに姿を見せたかと思えば誰も寄せ付けないオーラを、隠す事もなく放ち続けるような女生徒なのだ。
アンナはふとしたきっかけで彼女と知り合い、紆余曲折を経てボクシングの実力を知る事となり、以来クラブへ誘い続けているのだが、未だ快諾は得られないでいた。

「城之内……」

声の主がアンナと分かるや心は警戒心を幾分か和らげ、「部活の帰り?」と意外にも先に切り出してきた。アンナは内心で驚きつつも、「うん」とだけ答え、笑顔を見せる。

そっか……と、少し俯き加減の心。暗がりの中、表情も警戒心と同様幾分か和らいでいるようにも見える。この素振りにも、若干なりと親交のあるアンナには意外な事であった。
少なくとも普段の彼女であれば、「毎日ホントよくやるよ」と突き放すような感じの言葉が返ってくる筈なのだ。その、普段と様子の違う心の態度が心配になってきたアンナは、思い切って訊ねてみる事にした。

「あの、知念さん。なにかあった?」

「……なにかって?」

「えっと、嫌な事でもあった……とか?」

『嫌な事』と聞いて、だが心はやはり少し和らいだ表情のまま軽く首を左右に振り否定する。

しばしの沈黙。その後、

「母さんが」

心の口から絞り出すように小さな声が零れ始めた。

「母さんが……母が今日、退院したの」

その口から紡がれていく言葉はまるで独白のようであり、邪魔をしてはいけないような気がしたアンナは、ただ無言で頷いてみせる。

「母は元々身体が強い方じゃなくてね。それでも女手ひとつでアタシを育ててくれたんだよ。アタシがボクシングに興味を抱いた時も、なにも言わずにやらせてくれて……」

心の独白は続く。


中学に上がった頃にはボクシングが日常化した生活を送り、素養があったのかメキメキと実力を伸ばしていった事。
昔から目付きが悪かった事と、離縁した父がヤクザ者であった事から『不良』のレッテルを貼られ、噂が広まって恐れられていた事。
周りの視線にウンザリし、次第に自分で望んで壁を作るようになっていった事。
そんな中、同じ中学出身で現在は女子ボクシング部第1号となった葉月 越花と当時親交があった事。
その越花も、自分の事を快く思わない者たちのせいで危険な目に合わされた事。
そして、これ以上越花に危険を及ぼさない為、一方的に絶交を告げ関わりを避けた事……


などを、心は眼前の金髪碧眼の少女に思うさま吐いた。まるで、今までの事を懺悔するかのように。



 ひと通り話し終え、心は両目を閉じ大きく深呼吸をする。その様子を見ながら、今まで黙って話を聞いていたアンナは、

「ね、ねぇ。なんで私に何もかも話してくれたの?」

心に対し質問していた。



今日の彼女はどこかが違う……



アンナは、上手く言えないものの本能的に今見せているこの態度こそが、本当の知念 心という少女なのではないか? と思った。或いは、親しげに話してくれる今の姿が本来の彼女であって欲しい……そう思うあまりの錯覚なのかも知れない。

アンナの質問に、心は少しばかりの沈黙の後

「昨日、退院する為に荷物の整理をしてる時……母に怒られたの」

どうにも要領の得ない返答を返してきた。

「え?」

どういう意味なのかよく分からない答えに、小首を傾げながら聞き返すアンナ。その、どことなく小動物を彷彿とさせるアンナの仕草にクスッ、と微笑を浮かべながら、心は更に言葉を繋げていく。

「なんで今はボクシングをしていないのか? って。好きな事もしないでフラフラしてるのは良くない。打ち込める事、打ち込みたいと思える事があるんだったら、やらなきゃ駄目だ! ってね」

あんな母は初めてだったよ、と付け加え心はアンナの質問に答えた。それを聞き、アンナはしばし考え込む。要するに、心はボクシングが嫌いになってしまった……という訳ではないらしい。

(今なら、クラブの誘いに乗ってくれるかも)

そう考えたアンナは、意を決して何度目かの勧誘を敢行した。

「ち、知念さん! 今まで散々蹴られてきたけど、やっぱり私は貴女の事が諦められない。だからもう1度言うね……一緒にボクシング、しよ?」

白い頬を紅潮させ、アンナは心に勧誘の言葉を告げる。幾度となく言い続けてきた事なのだが、やはり何度言っても慣れない。何だか意中の人に告白してるみたい……と、アンナはまるで少女漫画のキャラクターにでもなってかのような気さえしていた。



「………」

 この局面で、懲りもせずクラブへの勧誘。だが、心は何となく目の前のイタリアンハーフはそう言うのではないか? と直感していた。
少なくても想定の範囲内であった為か、驚きはない。母にも窘(たしな)められた手前、この申し出自体は今の心にとって非常に魅力的なものへと変化しているのは、変えようのない事実である。

だが……

「あんたもかなりしつこいね、城之内。まぁ、そういう粘り強い所はキライじゃないけど……ただ、出来たばっかりで、しかも仲良しごっこのクラブなら、悪いけどお呼びじゃない」

心は、敢えて挑発するような口調でクラブの勧誘を蹴ってみせた。多少の本音も混じっていたが、もしこの程度で大人しく引き下がるようであれば、どの道入部するには値しない。そう心は思う。
再びボクシングをするからには、誰よりも強くなりたい。そして、もしカムバックするならば、心には1つやらなければならないと思う事があった。


ボクシングを辞めた本当の理由……中学の頃、U-15の全国大会で心は完膚なきまでに打ちのめされ、器の違いというものを思い知らされた1人の選手がいる。
その、あまりの絶望感からもう身を引こうと決意させられたあの相手と再び闘い、リベンジする為にもレベルの低い部ではお話にならない。

ことボクシングという括りだけなら、恐らくは以前成り行きでグローブを交えた、あの『鬼東』こと東 久野より実力は上だろう。そんな相手と闘うには、眼前のアンナにも強くなって貰わなくては困る。
1年先を見越して練習に励んでも、二年生の時点で久野は卒業してしまう。なら、心の階級に最も近いのはアンナとなる。スパーリングパートナーになって貰うにもしても、彼女が弱いのでは意味もないし張り合いもない。

だから、心はボクシングを始めて2ヶ月かそこらのアンナが、現段階でどれだけの実力を持っているのかを知りたかった。

「……分かった」

顔を下に向けた状態で、アンナは呟く。前髪が垂れ下がっているせいで表情は詳しく読み取れないものの、肩を小刻みに震わせている所を見ると、『仲良しごっこ』と言われて少しは腹を立てているように見えた。

(もうひと押しかな)

心は、アンナへの挑発が功を奏すまでもうひと押しと踏んで、

「別にクラブだけがボクシング出来る場所でもない訳だし……そもそもアタシを満足させられる自信、ある? 城之内」

更なる挑発行為に及んだ。少し良心がズキッと痛む感覚を覚えたが、それでも止める訳にはいかない。

「どういう、意味?」

「つまり、アタシと闘って、アタシを満足させられるのか? って意味」

普段周囲に見せている態度で、長い髪を掻き揚げてみせつつ目いっぱいの挑発を突きつける。



バッ!



すると、今まで下を向き続けていたアンナは突如顔を上げ高揚感を湛えた双眸で心を見据えた。



「分かった! いいよ、やろ!? 勝負しよ、知念さん!!」

 アンナの見せた表情に、一瞬背筋が凍りつくような錯覚を覚える心。それは、まさしく以前に都和泉(みやこいずみ)高校との練習試合で見せたあの表情……獲物を見定めた時の、しなやかで獰猛な肉食獣を連想させるに足る、あの表情であった。
普段の人懐っこい雰囲気のアンナからは想像もつかない、この好戦的な表情にさしもの心もたじろぐが、それも一瞬だけの事。
修羅場なら、心とて幾度も潜ってきているのだ。

(かかったッ!)

内心ほくそ笑みながら、心はアンナに対峙する。

「へぇ、自信あるんだね? 分かった、勝負してやるよ。期日は1週間後、場所はそっちに任せる。もしアンタがアタシを満足させられるようなら、

望み通り入部でもなんでもしてあげる。でも、もしそうじゃなかったら……この話はナシって事で」

せいぜい楽しみにしてるよ、と吐き捨てるように残しながら心はもう話は終わったとばかりに踵を返す。

「絶対満足させてあげるからッ!」

そんな心の背中に、アンナの声が突き刺さるように響いた。その声を耳にし、心は思う所あって再びアンナの方へと振り返る。

「ああ、そうだ。ひとつ言い忘れてた。城之内……アンタ、以前の練習試合の時と変わってないようだったら、ハッキリ言ってアタシの敵じゃないよ。少なくとも“弱点”を克服してない限りはね」

今のは忠告とハンデだよ、と締めると、心は今度こそ身を翻してアンナの前から去っていった。



 心が去り、思いがけず試合の流れになってしまったアンナ。だが、それ自体には恐怖よりも高揚感の方が勝る。ただ、去り際に残していった心の一言が、アンナの脳裏にこびりついて離れようとしなかった。



少なくとも“弱点”を克服しない限りはね



もう1度、アンナは心の言葉を反芻する。“弱点”ってなんだろう? まだボクシングを始めて2ヶ月かそこらの自分は、確かに心から見れば欠点だらけのボクサーだろう。
が、彼女の言う“弱点”とはそういうレベルの問題でもない気がする。

「私の“弱点”……」

家路に着くまでの間、あれこれと考えてみたものの、途中で練習疲れも出現し頭が痛くなってきた為に結局解決には至らず、明日大人しく由起にでも聞いてみよう……とひとまずの結論に達するのだった。


翌日、アンナは皆の前で昨日心とやり取りした一部始終を打ち明け、協力を申し出た。これに対し、協力的な態度を示したのは、

下司 ナミ
桜 順子
杉山 都亀
中森 陽子

そして東 久野の5名。逆に非協力的な態度を示したのは、

葉月 越花
大内山 由起

の2名だった。因みに、高頭 柊はどっちでもいいよ、とあまり興味がない様子で中立的な立場を取っている。
アンナとしては、心との確執を知る越花の態度は理解出来るにしても、由起が非協力的なのには驚きを禁じえなかった。が、今にして思えば以前久野との試合の際、心のセコンドを引き受けた由起は、殆ど心と会話をしていなかったように思う。

とりあえず、アンナは心に言われた自分の“弱点”に関して由起に訊ねてみる事にした。
すると、唯一の二年生はにっこりと笑いながら、

「ああ……攻撃のリズムが単調過ぎる事を言ってるのよ、きっと」

いともあっさりと答えてみせた。しかも、「後、パンチの強弱がないのもかな」と付け加えて。

アンナとしては、自分の“弱点”をちゃんと見つけてくれていた由起に感謝しながらも、一方で情けない思いを味わってしまう羽目となった。

聞いた所、その“弱点”に関してはナミも気付いていたらしい。

「わたしの真似をしてコンビネーションラッシュをするのはいいとしても、アンタのはただ打ちまくってるだけ。相手だって必死にガードしてくるんだから、闇雲に打ちつけたって効果は薄いわよ」

と、ボクシングの先達からありがたいアドバイスを頂き、アンナはしゅんと落ち込んでしまう。


「アンナちゃん……」


その様子を脇で見ていた越花は、だが声を掛ける事はしなかった。いや、実際には自分でもこの話を聞いて今の自分と心との関係についてどう思っているのか、どういう形での結末が望ましいと思っているのか、考えが纏まっていないといった方が正しいだろうか。

越花としては、心の考えがどうにも理解出来ない。中学の頃、彼女とはそれなりに上手く付き合えていたと思っている。それが、犬の散歩中に突然知らない男たちに絡まれ、以降いきなり絶交を言い渡されてからというものの一切関わってこようとしなくなった。



あの男たちをけしかけてきたのは、実は心なのでは……?



いけない考えと分かってはいても、どうしても邪推してしまう。それは、心のどこかで彼女を信用し切れていない越花の弱さであったろうか。
本心では、心と絶交する前の仲へ戻りたいと思っている。だが、もしまた拒否されたりしたら……それ以前に、もしかしたら相手にさえして貰えないかも知れない。

ただ、今のままの関係が続くのは越花としては本意ではない。

(こうなったら……)

密かにある決意を固めた越花は、1人厳しい表情でストレッチを始めるのだった。



 一方、心との試合までの1週間で自分の“弱点”を克服出来るか不安なアンナは、とりあえずストレッチを始めるもののどこか気が入っていない様子。
その様子を傍から見ていた由起は、大きく溜息をひとつ吐き、

「もう……しょうがないわね。どのみちやらなきゃいけない事でもあった訳だし、この際徹底的に貴女を矯正してあげる」

迷えるアンナに助け舟を出してやった。明日には特別メニューを組んでおくわ、と一言付け足し由起は皆に練習開始を告げる。
そんな中、珍しく早くから女子ボクシング部に顔を出していた『鬼東』は、

「ねえ、大内山さん。その特別メニュー、私とのスパーリングを加えてもらえないかしら?」

まるで絶妙ないたずらを思いついた悪童の如く、無邪気且つ無慈悲な笑みを浮かべて提案するのであった。




to be continued……
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チャパロット

Author:チャパロット
基本的に携帯サイトで書かせて頂いているもののリメイク(?)ですが、ちょくちょく文を変更してたりします(あと拙いですが自作絵なども)。
何かある方は、ckcwb305あっとまーくsutv.zaq.ne.jpにご連絡下さい。

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