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第2話 【女子ボクシング部室、完成】

 I・H編、第2話です。これからまた長くなりますが、よろしくお付き合い下さい。

来たるべきI・H予選へ向け、今日も厳しい練習を課していく光陵女子ボクシング部。そんなある日の朝練後、一同は放課後の練習の途中で男子ボクシング部室の隣へ来るよう伝達され……









 6月下旬。季節は春から夏へと移動を始め、太陽が容赦なく地上を照りつける。そうした梅雨時期特有の蒸し暑さを含んだ気温の中、光陵高校女子ボクシング部の面々は旧校舎付近の小さなグラウンドで、放課後の練習を行っていた
「ハイ、次ッ!」

大きな声が旧校舎の壁で反射し、それとほぼ同時に3人一組でスタートラインに並んでいた部員たちは、一斉に全力ダッシュを敢行する。
女子ボクシング部主将、下司 ナミは、とにかくも部員たちを走らせた。練習内容に関しては、基本的に顧問の植木 四五郎とマネージャー兼トレーナーの大内山 由起に一任している。
ただ、アマチュアボクシングの試合に於いて1番重要視されるのは、何よりも手数。2分3R、正味6分間しかない試合時間を、いかに相手より多くのパンチを当て、ポイントにしていくか? それが問われるのだ。
KO(ノックアウト)出来ればそれに越した事はないのだろうが、そう上手くは行かないのが現実である。となれば、やはり手数で押すのが勝利への近道となる。
しっかりと構え、動き、パンチを繰り出し続けるには、スタミナをつけて余る事など決してない。

ナミは、今までボクシングをしてきて先輩や顧問にそう教わってきたし、彼女自身もそうして勝ってきた。それは紛れもない事実だし、間違ってもいないと思っている。
だからこそ、ナミはとにかく“走る”事を必要以上に提唱し、練習内容にも盛り込んで貰っているのだ。

桜 順子(さくら じゅんこ)、

高頭 柊(たかとう しゅう)、

そしてナミの3人が、目印として引いたラインを全速力で駆け抜ける。そして既にスタートラインで待機していた、

杉山 都亀(すぎやま とき)、

葉月 越花(はづき えつか)、

城之内(じょうのうち)アンナへ手持ちのタイマーを片手に構えた由起が号令を発し、3人は全速力でダッシュを始めた。





「ハァ、ハァ、ハァ……」

 練習も前半戦が終了し、部員たちからは苦しい息遣いが漏れ聞こえてくる。1日の授業が終わり、放課後に集合して練習を開始してから、

・ロードワーク5km
・腕立て伏せ20×3セット
・指立て伏せ20×3セット
・拳立て伏せ20×3セット
・腹筋30×3セット
・背筋30×3セット
・バービー20×3セット
・踵の上げ下げ3分間×5セット

などをこなし、今ちょうど100mダッシュを10本終えた所である。勿論、各練習の合間に適度な休憩を入れてはいたものの、それでも女子高校生にはかなりハードな練習内容といえるだろう。
そして、休憩が終われば再びロードワーク5kmを行う。

以前ならこの時点で耐え切れずに胃の中の物を嘔吐していた順子や越花も、新人戦を経た今ではそのような事も何とかなくなってきている。この成長は、ナミにとって実に喜ばしい事であった。
彼女らがしっかりと今の練習について来られるようになったら、もうひとつ上のステップへと練習内容を上げる事も叶うのだから……

一方、入部当初の順子や越花に比べ、都亀は苦しそうな表情が見え隠れしながらも今の練習についてきていた。やはり、小学~中学の途中まで陸上部のホープと期待されていただけはあり、基礎体力の時点で2人とは違っていた。
元々運動神経も良いのかも知れない。

前半最後のロードワークにも都亀は辛うじて脱落する事なく、全員が無事に完走する事が出来た(因みにマネージャーの中森 陽子(なかもり ようこ)は、予め自転車の使用を許可されていた)。



 ロードワークを終え、ナミたちは朝練の終わりに植木から言われた通り、男子ボクシング部室の隣を目指して歩いていく。その途中、

「下司」

前方から上下緋色のジャージに身を包んだ一団が現れ、その最前列にいる男子生徒に声を掛けられた。

男子ボクシング部主将、桃生 誠(ものう まこと)である。

成績優秀、運動神経抜群、容姿も美形と言っていいだろう。しかも現・生徒会長であり二年生にして強豪校の誉れ高き光陵高校ボクシング部を意のままに操る、まさに光陵高校に於けるカリスマ的存在。

「あ、はい。なんでしょう? 桃生先輩」

通常、そんな完璧を内包した男子に呼び止められたら女子として嬉しくない訳がない。ない筈なのだが、この時ナミは……いや、女子ボクシング部員の過半数が嫌そうな顔をしていた。
そう、この外見の中に潜む桃生の本性を知っている彼女たちとしては……

「先日の新人戦、ご苦労だった。出来たての部にしては上出来だと一応褒めておこう。が、肝心要の貴様が減量失敗で棄権しました、ではな……」

これである。桃生は、女子がボクシングをする事を実の所あまり快く思っておらず、顔を合わせれば何かと辛辣な言葉が飛んでくるのだ。
実力の程を認めてくれているだけ、まだ救いはあるのだろうが。すいません、と形式上頭だけは下げておいて、心の中であっかんべーと舌を出すナミ。

「謝っている暇があったら練習しろ。I・H、期待させてもらうぞ」

頭を下げたままのナミを尻目に、桃生は待機させていた男子部員を先行させ自身も最後尾に続く。そして、すれ違いざまに激励とも取れる一言を残し、桃生と男子ボクシング部員はロードワークへと出ていってしまった。
頭を上げ、ナミは桃生の方を振り返るも既に男子部員たちの姿は豆つぶ程の大きさぐらいにしか視認出来ない。



期待させてもらうぞ



桃生が自分に期待してくれているのか、それともこれ以上恥をかかされたくない故の言葉なのかは、正直な所五分五分だろう……とナミは思う。
だが、不思議とやる気が沸いてくるのを感じ取るのだった。

桃生たちと別れ、女子ボクシング部員たちは植木に指示された通り男子ボクシング部室の隣へと到着する。そこは……

「うわぁ……」

越花の声が、思わず上擦る。越花だけではない、他の部員たちも皆それぞれ驚きの表情を見せ眼前の物に見入ってしまっていた。
一同の前にそびえ立つは、一戸の新しい建物。面積にして、隣の男子ボクシング部室とほぼ同程度。建物の内外を隔てるドアの左側には、


『女子ボクシング部室』


と書かれた木製の表札が掛かってあった。これには、ナミもしばしの間呆然としてしまい言葉が出ない。
以前女子ボクシング部設立を賭け、今し方すれ違った男子ボクシング部と試合を行い、その後女子部の設立を認めた桃生の権限により部室が新たに造られる、と聞いてはいた。
が、まさか男子部の隣に建てられていた物がそのまま女子ボクシング部室になるとは、夢にも思っていなかったのである。

皆が見せる思い思いの反応を堪能し満足したのか、1人慣れ親しんだ手つきで由起は完成して間もない女子ボクシング部室のドアを開け、

「さあ、中に入って」

と部員たちを内部へ招き入れた。



 由起に促されるままに部室の中に足を踏み入れた部員たちは、外観を見た時以上の驚愕を受ける事となった。まず、室内中央には真新しい4本のロープに囲まれたリング。
向かって左側には、天井からサンドバッグが2つ吊り下げられ、パンチングボールも同じく2つ。ご丁寧に、シングル(天井に下げているタイプ)とダブル(天井と床にロープで固定されているタイプ)が1つずつ設置されている。
リングより右側にはシャドーボクシング用の大きな姿見があり、その奥には『更衣室』とプレートの掛けられたドアがあった。
サンドバッグの近くにある棚にも、なわとびやパンチングミット、練習用グローブやヘッドギアなど、色とりどりのボクシング用品がズラリと並べられ、ちょっとした展示会のような壮観さである。
鉄アレイやハンドグリップなどの器材も充実し、文句のつけようもない。そして、皆が1番インパクトを受けたのは入口右に掛けられた掛札であっただろう。
部員一人ひとりの名前が刻まれており、感動もひとしおという所だった。

4月に女子ボクシング部を設立しようと活動し始めて以来、今まで部室といえばキックボクシング部や男子ボクシング部のハシゴ状態。どうにも肩身の狭い思いをせざるを得なかった。
だが、遂に念願の1つであった自分たちだけの部室が持てた事によって、部員たちはようやく女子ボクシング部がちゃんと形になったと周りにも誇れる気がするのであった。

余談ではあるが、柊の掛札がしっかり『仮部員』の所に掛かってあった事に、当人は「いい仕事してるぜ」といたく満足げであったとか……


 部員たちが前半戦の疲れも忘れて器材やサンドバッグなどを触っていると、「おお、来てたか。遅れてすまん」とドアを開け、謝罪の言葉と共に植木が入ってきた。
そして、その後ろには1人の女子生徒の姿。

「へえ、男子部の設備と比べても遜色ないわね。大したものだわ」

部室内を物色するかのように、長い艶やかな髪を手でかき上げながら女子生徒は堂々とした足取りで部室内へと踏み込んでいく。

「あ、お疲れ様です。東先輩」

女子生徒の姿を視界に捉えると、ナミは姿勢を正してその女子生徒……

東 久野(あずま ひさの)

へ軽く会釈をした。それを見た他の部員たちも、ナミに倣って会釈をしていく。

東 久野。光陵高校空手部・現主将であり、ボクシング部の桃生と実力を二分するという猛者である。分野こそ違うものの、桃生同様に全国大会常連の実績を持っており、光陵の『鬼東(おにあずま)』との異名を持つ女丈夫。
女子部設立の際に行われた、男子部との対抗戦に於いて助っ人として参加、桃生相手に引き分けて以降女子ボクシング部にも身を置く運びとなった。
由起が唯一の二年生ならば、久野は唯一の三年生……という事になる。元々が空手部所属の為前半はそちらの指導に当たり、部室の練習となる後半戦からボクシング部の練習に参加するのである。

ただ桃生と引き分けた実力は確かで、既に基礎体力もしっかり付いている分練習もナミと同等に近いものを自身に課す。
そんな合間でも、他の部員たちの面倒を見てやる場面がチラホラと垣間見え、ナミは密かに同じ主将としての手本としていた。


「さあ、この部室での初めてのトレーニングだ。気を抜かずにしっかりやれよ!」

 植木の号令一下、部員たちはハイッ! と大声で答え3つの組に分かれて練習を開始した。まずは、引き続き基礎体力を養う越花、都亀などの初級組。
次に、基本的なパンチや動きなどテクニック部分の練習を行う順子、柊、アンナなどの中級組。
最後に、テクニック部分に加えミット打ちやコンビネーションなど、より高度な練習を中心に行うナミ、久野などの上級組。
初・中級組には由起が指導し、陽子がサポート。上級組には植木が指導に当たっていく。

ナミと久野は練習用のパンチンググローブを着け、1つのサンドバッグを挟む形で位置取る。

「サンドバッグ打ち、始め!」

2人が構えたのを確認した上で、植木が指示を出したと同時に



バンバンバンバンバンバンバンバンバンッ!



一斉に息を止め、サンドバッグをひたすらに殴り始めた。4つの拳が縦横無尽にサンドバッグを殴打し、その度に軽く揺れ形を変化させていく。
初めは中央から位置を変えなかったサンドバッグが、次第に微かではあるがナミの方へと迫ってきた。体格差がある以上パンチの重さが違うのは当然で、ナミの方へサンドバッグが迫ってくるのも必然といえよう。
しかも、サンドバッグ越しに久野の鍛えられた硬い拳の感触が伝わってくる。それ程の拳圧なのだ。『鬼東』と呼ばれる所以であった。

(くっそー、負けてたまるかぁッ)

徐々に押し込まれていく事に悔しさを感じたナミは、負けじとパンチの回転を上げていく。質で勝てないなら量で勝負、という訳である。

(アンタにはもう負けないんだから!)

迫るサンドバッグ、そしてその奥から感じる拳圧に、ナミは心の中で叫びながらラッシュを仕掛けていく。この時、ナミの眼前に映っていたものはもはやサンドバッグなどではなく、1人の女子ボクサーの姿であった。
ポニーテールの髪をなびかせ、ケタ外れの強打を浴びせてくるあの相手……東京・建陽(けんよう)高校の加藤 夕貴(かとう ゆうき)。
ナミは今までのボクシング人生に於いてたった1人、自分を打ち負かした相手の事を思い描きながらパンチを繰り出していく。



ドドドドドドドドッ!



ナミのラッシュは次第にスピードを上げ、今度はサンドバッグを久野の方へと押し込み始めた。これに驚いたのは、対岸の久野である。

(この私が押されてる!? ……やるじゃない、下司さん)

ナミが押し返してきた事に驚き、感心し、闘志に火の点いた久野は、こちらも負けじとパンチの回転を上げていった。



ビーーーーーーッ!



備え付けの自動タイマーが鳴り、植木は練習終了の合図を部室内に響かせていく。「ありがとうございました!」と部員たちは植木に対し礼を述べると、各自ストレッチでクールダウンに移行していく。
新しい部室での練習に気合いの入っていた部員たちに対し、いつも以上に入念に身体をほぐしておくよう伝える由起。陽子と手分けしてスポーツタオルを渡し、同時にスポーツドリンクも配っていく。
そして部室内の清掃後、新しいシャワールームで汗を流した部員たちはそれぞれ別れの挨拶を交わし、学校を後にした。





「ふうー、疲れたぁ」

 暗がりの歩行路を街頭に照らされながら、アンナは我が家へ向けトボトボと1人歩いていた。そんな折、前方の細い脇道から1人の女性がスッ、と抜け出てくるのを視界に捉える。
光陵の制服に身を包んだ、長い髪をしなやかになびかせるその姿形に、アンナは見覚えがあった。クラスメイトである

知念 心(ちねん こころ)

であった。



to be continued……
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Author:チャパロット
基本的に携帯サイトで書かせて頂いているもののリメイク(?)ですが、ちょくちょく文を変更してたりします(あと拙いですが自作絵なども)。
何かある方は、ckcwb305あっとまーくsutv.zaq.ne.jpにご連絡下さい。

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