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第1部・最終話

 『光陵高校女子ボクシング部』最終話です。読んで下さっている方々、全40話を持ちまして最終話となります。
が、次からは新たに『光陵高校女子ボクシング部 I・H編』となります。またそちらも読んで頂ければ幸いです。

新人戦・ライト級決勝戦。体力が回復し切れていないアンナは、力及ばず失神KO負けを喫してしまう。そして大会の全試合が終了し、会場では優勝者一同の写真撮影が行われようとしていた。




 神奈川県・新人戦の全階級の全試合が終了し、リング中央では各階級に於ける優勝者がそれぞれファイティングポーズを構え、一斉にカメラのフラッシュを浴びていた。
皆、一様に首から黄金色に輝く優勝メダルを下げカメラマンの要望に応えるかの如く笑顔を覗かせている。

ただ1人、ライト・フライ級の優勝者である高頭 柊だけは実に見事な仏頂面をしていたが……

その様子を遠巻きに眺めていた、光陵女子ボクシング部主将・下司 ナミは、そんな柊の顔を見て苦笑を禁じえないと同時に羨ましく思えていた。
本来なら、自分もフライ級の出場者としてあの場所にいたかも知れない……そう思うと、少し悲しくもある。今、その場には洛西(らくせい)高校の樋口 静留(ひぐち しずる)が立ち、満面の笑みを浮かべながら記者の質問に応えていた。

「羨ましいか? ナミ坊」

ふと後ろから声がした為振り返ると、そこには顧問で兄のような存在である植木 四五郎の姿があった。ナミは植木の姿を見ると舌をペロッと出しながら「まぁ、ね」とおどけてみせる。
そんなナミの頭を、植木の大きく暖かな手の平がクシャクシャと撫で回してきた。そのせいで、ボリュームのある頭髪が乱れあちこちに撥ね上がってしまう。

「ちょッ、何するのよ!」

慌てて植木の手から逃れ、手櫛でササッと撥ね毛を直していくナミ。

「羨ましがってる暇なんかねえぞ。この先には夏のI・H(インターハイ)がある。ここなんかよりよっぽど大舞だ。そこで思いっきり大暴れしてみろ」

髪を直すナミの姿を優しい表情で見つめながら、植木は道を示した。


これからI・Hへ向けて、もっと厳しい練習を課していくぞ……覚悟しろよ! 


そう、表情が物語っているようである。

ナミには、この植木の優しい笑顔が意地の悪い悪魔のように思えた。と同時に、これ以上に頼もしい存在はない……とも思えるのだった。

「分かってるわよ。よーし、やってやろうじゃないの!」





 閉会式も滞りなく終え、ここに神奈川県・高等学校ボクシング新人戦は無事に幕を閉じた。最後に観客席から大きな拍手と歓声を浴びながら、選手たちはそれぞれ会場を後にしていく。
光陵高校の面々も、植木に促されて数々の激闘を繰り広げた、このたった1日だけの戦場を後にした。

ボクシングを始めて、まだ2ヶ月あるかないかの部員たちが

優勝者1名
準優勝者2名

という、実に輝かしい結果を残した事に植木は顧問としてただ嬉しい気持ちであった。が、正直ここにナミがいれば……とも思う。
ナミの減量を見兼ねて、顧問権限で辞退させたのは他でもない自分自身なのは重々承知しているし、このような考えを持つのも不謹慎とは分かっている。
が、やはり叶うなら出場させてやりたかった。

選手の状態に予め気を配ってやれなかったのは、明らかに自分の失態と認めない訳にはいかない。なら……植木は決意を込めた眼差しで部員たちを見つめながら口を開いた。

「えー、とりあえず今日はお疲れさん、お前たちの初めての公式試合はこれで終わった訳だが」

駅へと向かう足を止める事なく、部員たちは皆無言で我らが顧問の話を傾聴する。

「あくまで、この新人戦は前座でしかない。本番は夏のI・H神奈川県予選、そして全国大会だ。今回みたいに一年生だけじゃなく、二年や三年も多数参加してくるハイレベルな大会になる。幸い、それまでにはまだ幾らか時間が残ってるから、これまで以上に厳しくしていくぞ! 覚悟しておけよ」


 つい今し方に新人戦が終わったばかりの所へ、早くもI・Hの話である。正直、実感が沸かない部員の方が多い事だろう。特に、越花や順子辺りは全くといっていい程実感が沸いていなかった。
寧ろ、これから更に練習が厳しくなっていく事に身震いすら覚える始末であった。

唯一、優勝した柊は相変わらず無関心な表情で夕焼けを見つめ物思いに耽っている。
アンナは、痛烈なKO負けを喫したばかりとは思えない位に次なる目標へと意気込んでいた。
今大会ではエントリー出来なかった、新入部員の杉山 都亀(すぎやま とき)も、面にこそ出さないものの夏の大会へ向けその士気は高い。
同じく、新入部員でマネージャーの中森 陽子(なかもり ようこ)も、皆の足を引っ張る事のないように全力でサポートするつもりでいた。
女子ボクシング部唯一の二年生である、マネージャー兼トレーナーの由起は基本的に今年が公式大会へ参加する、最後の機会としている。何としてでも、自分の力で実績を残したいと思っていた。

元々、屈指の強豪校である男子ボクシング部のマネージャーから決別して自ら進んで女子ボクシング部に身を投じた彼女である。
今までの人生で培ってきた知識や経験を駆使して男子ボクシング部に、そして同主将・桃生(ものう)誠に、


女でもやれる


と認めさせてこそ、自分が移った意味もある……そう考えていた。

植木の言葉に、皆がそれぞれ心中に抱くものを代表するように

「まずは今日の疲れを取って、そして後日に反省会。それが終わったら、また毎日のトレーニングが待ってるわよ。夏のI・Hまで約2ヶ月、ビシビシいくから覚悟してよね!」

ナミが言葉にして皆に伝えた。

形としては皆に伝えてはいたが、実の所ナミは自分自身に対して宛てて言った言葉なのだろう……植木も含め、その場にいる全員がそう思った。
何もない、いわば0の状態から女子ボクシング部の設立を目指し努力を続けてきた、我らが主将。

植木にとっては妹のような、そして自分や直接の後輩である吉川 宗観(そうかん)の意思を継いでくれる後継者のような存在。
越花や順子、アンナ、都亀や陽子にとっては尊敬・目標・手本となる同い年の先輩。
柊にとっては、普段は暴走しがちでもいざという時には頼もしく思える友人。
由起にとっては、ひたすら興味の尽きない後輩……

捉え方はそれぞれだが、ひとつだけ皆が共通して持つ認識がある。


ナミがいなければ、こうしてこの場にはいなかっただろう


主将として、また1人のボクサーとして、ナミは皆に頼りにされているのだ。そんなナミが、夏のI・Hにはちゃんと出場出来ますように……そう、願わずにはいられなかった。





 皆が帰りの駅へと足を運んでいる最中、前方に同じく新人戦を終え母校へと戻る一団があった。高校女子ボクシングに於いて、全国レベルの強豪校と言われる洛西高校女子ボクシング部の一団である。

「またアイツら? 今日はとことん縁があるみたいね」

朝、ちょうどこの辺りでナミが樋口 静留に絡まれた件を思い出したのか、順子がげんなりとした口調で呟く。決して大きい声で言った訳ではなかったのだが……ふと、洛西部員の内の1人が後ろを振り向くのが見えた。

もしかして聞こえた!? と順子は慌てたものだが、その部員は順子の事など眼中にないらしい。その視線・容貌に、皆は一瞬釘付けになってしまった。

黒い右眼と、碧い左眼。左右で違う目の色彩が、非常に神秘的な雰囲気を醸し出している。

「虹彩異色症ね。オッドアイ……といった方が分かりやすいかしら」

その、少女の神秘的な眼を見て由起が正体を皆に伝える。その際、「とても稀な症状よ」と添えて。

非常に稀な症状である虹彩異色症……オッドアイの少女は、鋭い目付きである一点を射抜くように睨み付けていた。皆が釣られるように視線の先を辿り、やがて1人の人物へと行き着く。
その視線の先には、金髪碧眼のイタリアンハーフである城之内 アンナの姿。

当のアンナはというと、周りをキョロキョロ見回し最後に小首を傾げながら自分を指差している。「なんで私?」といった、困惑の表情を浮かべながら。
そんな、困惑の表情を浮かべるアンナを見て、オッドアイの少女は一団から離れるとズイズイと歩み寄ってきた。

「ねえ。あんた、城之内 アンナでしょ? 今日、頼子(よりこ)さんに勝ったっていう……」

ズカズカとアンナの前へと歩み寄ると、オッドアイの少女はいきなり語気荒めにアンナへ詰問してきた。彼女の言葉を聞く限り、アンナの試合を直接観た訳ではないようだ。
或いは、参加選手として試合の最中だったのかも知れない。

「う、うん。そうだけど……」

少女の勢いに押されたのか、少し下がり気味で問いに肯定するアンナ。相手は自分の事を知っているようだが、アンナには眼前の女の子に全く見覚えがない。
不公平さを感じつつもどう呼んでいいのか分からず、

「えっと……どちら様、だっけ?」

直接本人に聞いてみる事にした。


『聞くは一時の恥』である。


「私? 私は洛西高校一年、女子ボクシング部所属の白鷺 美智子(しらさぎ みちこ)よ。お祖母さまが大層世話になってるわね、城之内 アンナ!!」

背筋を伸ばし、よく通る声で少女……美智子は自己紹介をした。


 白鷺という苗字にお祖母さまという単語を聞いて、アンナにはひとつ思い当たる節があった。アンナが生まれる以前から、城之内の家に使用人として仕える1人の老婆がいるのだが、確か名前が……白鷺 たえ子。

アンナにとっては、第2の母とも祖母の代わりともいうべき、とても大切な人の名前である。

「お祖母さま、って………もしかしてばあやの事?」

「そうよ。白鷺 たえ子は私のお祖母さまよ。そんな事よりあんた、いい加減お祖母さまを解放してくれない? もうお年なのに、いつまでもこき使って!」

キッ! と睨みつけながら、美智子はアンナへ痛烈な非難の言葉を浴びせかけていく。その間アンナはただオロオロしながら、どうしたらいいのか分からないといった表情であった。

「えーっと、白鷺さん、だっけ? ちょっといいかな」

突如始まったこの騒ぎを見兼ねたのか、横合いから越花が美智子とアンナの間へとその身を割り込ませてくる。

「なに? 貴女は」

「光陵高校女子ボクシング部員、第1号の葉月 越花です。とりあえず、一旦押さえてもらえないかな? アンナちゃん困ってるし」

いつも通りの間延び口調で、越花は美智子に非難の言葉を止めるよう諭していく。

「そうだな。白鷺さんとやら、どうやら家庭の事情って奴のようだから俺が口を挟むのも筋が違うんだが、生憎城之内の奴はKO負けしたばっかりでな。今日の所は安静にしないといけないんだよ。その話は後日にしてくれないか?」

植木も便乗して、美智子に一旦退くよう説得を試みた。半分は方便だったが、安静にしなければならないのは事実である。

「…………」

美智子はまだ言い足りないらしく歯痒さを感じたが、確かにKO負けをしたばかりの選手を相手に、これ以上時間を取らせるのも酷との結論に至り、

「分かった。この話はまた今度、あんたの家でお祖母さまを含めてじっくり話し合いましょう」

とりあえずこの場は退く事にした。





 失礼しました、と先程までの剣幕は消えペコリと礼儀正しく他の部員たちへ一礼すると、オッドアイの少女はその場を後にする。

まるで、嵐が去った後のような静けさだけがその場に残った。

「えっと……越花ちゃん、先生。ありがとう」

とりあえずの危機を救ってくれた事に対して、アンナは2人に頭を下げる。気にしないで、と越花は少し照れ臭そうに手をプラプラと、植木は無言でその首を、それぞれ振っていた。
その後はどうにもバツが悪くなったのか、誰もが無言のまま電車に揺られ、そして無言のまま学校へと到着した。

「えー、今日はみんなお疲れ様。もうすっかり遅くなっちゃったけど、気をつけて帰ってね。もし熱とか出るようだったら、明日は無理せず休んでいいから」

練習は2日休んで、次は水曜日に反省会するからと付け加えナミは解散を促した。

皆がそれぞれ帰路についていくのを最後まで確認すると、ナミは今日の新人戦の余韻を払拭するべく、1人山之井ジムへと向かっていった。





 一旦家に戻りシムワークの準備を済ませ、再び足早に家を飛び出す。大きなスポーツバッグを肩から背負い、ナミは走りながらジムへと向かった。

「ちわーっす」

少し息を切らせつつも、よく通る大きな声でジムのドアを開け放っていく。

「おお、ナミ坊か。お前さん、今日は高校の大会じゃあなかったのかい?」

ナミの声に反応して真っ先に答えてきたのは、このジムの会長である山之井 敦史(あつし)である。

「もう終わったわよ会長(おや)っさん。今日は吉川コーチお休み?」

仮にも会長に対しタメ口で話すナミに、だがそんな事は歯牙にかけた様子も見せず、それどころか

「ああ、今日は休みだよ。今から練習やんのかい?」

久しぶりに俺がミット持ってやろうか? とナミのコーチングを引き受ける好人物ぶりを発揮してみせた。



バンッ! バンッ、スッ、バスンッ!!



リング上で、軽快な打撃音が木霊する。

「よぉしッ、ワン・ツー・スリー!」

会長の掛け声と共に配置されるミット。ナミは左ストレートから右ストレートへと左右のストレートを打ち、返す左でショートフックを構えられたミットへと放り込んでいく。



パンッ、バンッ、バシィンッ!



ミットの芯を的確にナミのパンチが打ち抜き、会長の手に軽い痺れが走る。



ビーーーーーーッ!



 3分間が経った事を告げるタイマーの電子音がジム内に響き渡り、ナミはアゴから伝う汗を腕で拭うと、ありがとうございました! と一礼した。
いやいや、と会長は軽く息を切らせながらミットを外すとリングを降りていく。

ナミのコーチングを引き受けてから約1時間半、会長は付きっきりで指導に当たってくれた。もう60も半ばを過ぎようとしている身体でホントよくやるわ……と、ナミは苦笑混じりで改めて会長の怪物ぶりに感謝する思いであった。



「しっかし、新人戦は残念だったなぁナミ坊」

 練習を終え、帰り支度をしようとシャワールームへ向かおうとした際、会長がナミに声を掛けてきた。出てれば優勝は間違いなかったのに、と付け加えて。

「まぁ、減量に失敗しちゃったんだから仕方ないわよ。あと、出てても優勝出来たかどうかは……どうかな?」

小首を傾げ、肩を竦めながらナミは本心を語る。

「ま、過ぎちまったモンはしょうがねえ。夏のI・Hに期待させてもらおうかね」

絶対いいトコまでいけるぜ、と頼もしい言葉を残し、山之井会長はカラカラと快活な笑い声と共に会長室へと消えていった。





 ジムを後にし、帰り道でふとナミは思う。結構色んな人に期待されているんだなぁ、と。期待されている以上は出来る限り応えたい。


最終的にはプロの世界チャンピオンが目標だが、まずはI・Hで日本一を目指してみるか……


まだ見ぬ強敵を思い浮かべ、ナミは虚空へと右ストレートを打ち抜くのであった。





第一部・完


see you next stage……I・H編
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Author:チャパロット
基本的に携帯サイトで書かせて頂いているもののリメイク(?)ですが、ちょくちょく文を変更してたりします(あと拙いですが自作絵なども)。
何かある方は、ckcwb305あっとまーくsutv.zaq.ne.jpにご連絡下さい。

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