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第39話

 第39話です。

きららの激しい攻めを受け、柊の中で何かが覚醒していく。それは、本人にもまだ自覚の無い、天性の資質であった。




 第3Rも1分を過ぎ、高頭 柊と獅堂 きららの決勝戦も、最大の山場とも言うべき局面に来ていた。コーナーを背負う形となったきららと、追い詰める形となった柊。

「行けぇーー!」

青コーナーサイドから、光陵高校女子ボクシング部主将・下司 ナミのGOサインが飛ぶ。同じタイミングを見計らっていたのか、ナミの声とほぼ同時に柊もガードを固めきららへとショートパンチを繰り出していく。



ガツッ、バンッ、ズシィッ、ドスゥッ!



コーナー際での攻防が再び始まった。柊の手数と、それを放つハンドスピードの速さに、最初は打ち合いに挑むきららも次第に劣勢に陥ってしまう。
元々、戦闘スタイルの特性上きららは接近戦を得手としない。加えて、身体を密着させる程の近距離では自慢のリーチが活かせず……それどころか欠点にすら早代わりしてしまうのである。
何とか手を出しはするものの、どうしても有効打に繋がらない。

「くッ」

懐に潜られてのショートパンチの連打。自分のパンチは上手く機能せず、有効打にならない。このままでは、ワンサイドゲームとしてレフェリーに試合を止められかねない……
そう考えたきららは、ここでひとつの決断を下した。ガードを固め、柊の猛攻を凌ぎながらきららは振りの大きい1発を待つ。

そんな中、柊が放った右フックをまともに貰ってしまい、きららは腰が落ちガードも中途半端な位置へと下がってしまった。これは決まったか!? と観客や青コーナー陣営がKOへの期待を胸に躍らせていく。

が……

(コイツ……今『わざと』ガードを下げやがった!?)

右フックのインパクトの寸前、きららがふとガードを下げたような錯覚とそれに続く疑惑が柊の脳裏によぎる。しかも、見た目のダメージに反比例して拳には殴打の感触があまり感じられなかった。
恐らく、柊の抱いた疑惑……それに費やした思考時間はほんの刹那の瞬間だったのだろう。だが、今のきららにはそれで充分だった。
きららはコーナーマットに背をつけ、腰を落とした体勢から右拳を引き一瞬の溜めの後、下半身のバネを使って一気に伸び上がる。


伸び上がる反動を右拳に込め、柊目掛けてのアッパーカット!


リーチの長さがネックとなっていたこの状態で、きららの下したひとつの決断……それは、わざと1発殴られて見せ派手に体勢を崩す。そして、とどめを刺すべく大きな1発が来た所へカウンターのアッパーカットを叩き込む、というものであった。

思惑とは少し違い柊は手を出してこなかったが、それでも何事か逡巡し動きを止めてくれている。

(もらったッ!)

この起死回生の右アッパーで柊をダウンさせる。それが叶わずとも、最悪後退させる腹積もりであった。そして、その作戦はほぼ確実に成功していたといって良いだろう。


ここで、きららにほんの少しの誤算さえなければ……


 反応の遅れた柊は、直撃を少しでも避ける為本能的にバックステップしようと試みる。が、きららのアッパーはもうすぐそこまで迫ってきていた。

(くそ、間に合わねぇ!)

柊が半ば被弾の覚悟を決めた、その瞬間……



カクンッ!



突如きららの膝が折れ、アッパーのスピードが弱まった。わざと貰ってみせた柊の右フック、それが自分の予想を上回るダメージとなって身体に残っていたのだ。
基本的に相手を寄せ付けず、一方的に完封するスタイルで今まで勝ち上がってきた為か、きららは打たれる事に慣れてはいない。
インパクトの瞬間に首を捩じってヒットポイントをずらしたつもりではいたが、上手く行かなかったらしい。


柊にとっては、まさに九死に一生を得たといった所か。


きららのアッパーは、ほんの一瞬の差で柊を捕らえる事が叶わず、虚しく空を切るのみだった。そして、柊はバックステップから着地した次の瞬間きららへとダッシュしていく。
膝折れの体勢を直そうとした時には、既に左を振りかぶっている柊の姿。右拳はアッパーのモーションから戻り切れておらず、左でブロッキングしようにも柊のパンチの方が早く目標を射抜く事だろう。
加えて、コーナーを背負い退路もない四面楚歌。

(痛そうだなぁ、コレ……)

どこか他人事のように感じながら、きららは諦めたように柊のパンチを受け入れた。



グシャアッ!



打ち下ろし気味の左ストレートがカウンターとなって、きららの顔面に炸裂する。

「ぶはぁッ」

強烈に頬を抉られ、纏わりついた汗が飛沫となって飛び散る。と同時に、



ドンッ!



コーナーマットに凭れる形で、ズルズルとキャンバスにお尻をつけてしまった。



「ダウン!」

 レフェリーが、高らかにダウンの宣告をする。その声に呼応するかのように、一気に湧き上がる声援を浴びながら柊はニュートラルコーナーへと下がっていった。幾重にも重なった幸運に、内心で感謝しながら。

ダウンカウントが数えられていく中、柊は電光掲示板に出ているデジタル時計に視線を泳がせてみた。そこに映し出されていた数字は0:11。残り11秒という事を意味していた。
或いは、この時点で柊の勝ちは確定したといっても過言ではないだろう。10カウント以内に立てなければ勿論KOなのだが、仮に立ってきたとしても絶対に8カウントは数えられてしまう。

残り5秒に満たない僅かな時間で、柊を捉えて倒す事などどう考えても不可能である。

だが、きららは立ち上がってきた。どちらにせよ負けは決まったも同然だったが、それでも立った。それは、最後のプライドだったのかも知れない。

カウント8でファイティングポーズを取り、試合再開を促されるときららは足に力を込めて柊へとダッシュ。対する柊も、それに応えるべくきららへと迫る。
お互い腕を振りかぶった瞬間……



カンカンカンカンカンカーーンッ!



試合終了のゴングが鳴り響いた。










「ただ今の試合、30対28のポイントにより……青コーナー、高頭選手の勝利となりました!」

 試合終了後、柊ときららはお互いの健闘を称えるように抱擁し合い、勝負は判定へと委ねられた。パンチヒットの数に於いて柊に有利がついた為、結果として見事なポイント勝ち。
が、内容に関しては紙一重の部分が多く、最終的に柊の方へ勝利の女神が微笑んだだけのギリギリの勝利といえた。

「あの……」

レフェリーに腕を上げられ、大歓声を浴びていた柊の前にきららが右手を差し出した体勢で立っていた。どこか、申し訳なさそうな表情を湛えて。

「あ、ああ……」

柊はきららと正面から向き合い、照れ臭そうな仕草で右手を取る。

「ボク……キミに謝らないといけない事があるの」

「ん? なんだよ」

「ボクは、キミの事を正直、対戦相手としてちゃんと見てなかった。せいぜい下司さんの代理……穴埋め程度の選手なんだろうって」

ゴメン! と頭を下げるきららを見て、何故か柊は可笑しい気分になった。普通なら、見下されてた事に腹を立てるべき話なのだが……柊にしてみれば、自分は格下の選手である事は揺るぎようのない事実である訳だし、その油断で勝てた所もある、とも思っている。

それよりも、元・世界チャンピオンの娘というからには、どれだけお高くとまったいけ好かない奴なのかと思っていたら、自分の悪かった所を謝罪し頭まで下げる。
実に良い感じの性格をしていて、不思議と嫌な感じはしなかった。

「別に謝る事じゃねーだろ? ま、こっちも色々勉強になったしさ」

気にすんなよ、ときららの肩を軽く叩き、「また会おうぜ」と伝え柊は青コーナーへと戻っていった。





「おう、お疲れさん」

 コーナーへ戻るや開口一番、植木のいつもの労いの言葉が飛んでくる。どの選手のどの試合でも同じ事言ってるんじゃ? と大内山 由起などは思ったのだが、敢えて触れるのは止めておいた。

「センセー、そればっかだな」

もう少し気の利いた言葉はないのかよ? とでも言いたげな表情を、わざとらしくしてみせる柊。どうやら由起と同じ意見を持っていたようだ。

「いいんだよ! おべんちゃらを使うってのは俺の性分じゃねえんだ。こんなもんで充分だろ」

そんな事より早く引き揚げるぞ、と告げると植木は柊たちを控え室へと送っていった。顧問として柊の優勝は実に喜ばしい事なのだが、残念ながらまだ気を抜く訳にはいかない。

まだ、もう1人試合を控えている教え子がいる以上は……





「戻ったぞー」

 控え室へ入り、光陵の部員たちがいる一角へ凱旋するなり柊はぶっきらぼうな口調で挨拶する。

「お帰り、高頭」

待機組を代表して、一足先に準優勝を決めた桜 順子が柊たちに声を掛けた。1回戦で惜しくも敗退してしまった葉月 越花共々、既に制服へと着替えており残る最後の出場者……城之内 アンナは、試合着のまま長椅子に横になっていた。

その額に、濡れたタオルを乗せたまま。

状況を見るに、先の1、2回戦で既に体力を使い果たしまだ回復には至っていないようだ。そんな折、柊の声を聞いたのかアンナがムクッと上体を起こしてきた。

「あ、お帰り柊ちゃん」

普段通りの人懐っこい笑顔。だが、そこには所々に残る腫れと隠しようのない疲労感がありありと浮かんで見える。

「お前、大丈夫なのかよ?」

その表情を見て、柊はつい心配になって質問してしまう。この時の柊の質問は、

「そんな状態で試合なんか出来んのかよ!?」

という意味である。それを読み取ったのか、アンナは急に表情を引き締め「闘るよ、決勝戦……」と、静かに、決意に満ちた声で答えた。
その、柊とアンナのやり取りを見ていたナミと由起が、ほぼ同時に溜息を吐く。

「正直、そんな状態で佐羽(さわ)さんと闘うのは自殺行為みたいなものなんだけど」

「仕方がないわね。彼女、這ってでもリングに向かいそうな雰囲気なんだもの」

溜息を吐いた後、顔を見合わせて苦笑しながらナミと由起は、アンナの覚悟を通させてやろうと思うのだった。骨は拾ってやるから思う存分闘って来い……と。


 アンナの覚悟を植木に伝えると、ナミはアンナに時間いっぱいまで休むよう指示する。言われた通り暫く横になっていると、係員がアンナの出番を伝えてきた。
柊の決勝戦から数10分かの時間はあったものの、大した回復も望めないままアンナは決勝戦のリングへと向かう。

控え室を出る間際、

「あ、柊ちゃん。そういえば試合は勝った?」

アンナが柊に試合の結果を訊ねる。

「勝ったよ。だからお前も勝ってこい」

柊の言葉に、口元を微かに吊り上げ「行ってくる!」と気合いの籠もった返事を返すと、そのまま控え室から出ていった。


 アンナが控え室を出ていって暫くの間、部員たちは誰もが押し黙ったまま口を開こうとしない。柊も、順子も、越花も、まだ入部して間もない杉山 都亀(とき)や中森 陽子ですら、今のアンナではまともな試合になりはしないだろう、と思っている。
今は、ただイタリアンハーフの仲間が無事に戻ってくる事を心から祈るのみであった。



グシャアッ!



アンナと、湘南大附属高校・馬剃(ばそり)佐羽の、ライト級決勝戦は、大方の予想通り一方的な試合展開の様相を呈していた。
試合早々、いきなり懐に潜り込まれたアンナは左右のボディーフックを数発食らってしまう。元々、佐羽はナミと同じ山之井(やまのい)ボクシングジムの所属で、現状ほぼ全ての面に於いてアンナより上の実力を持っている。
特に、パンチ力には定評があった。更に、アンナはスタミナもろくに回復し切れていない状態なのだ。


勝負になど、なる筈もなかった。


そして今、ボディー打ちで前屈みになった所へ、佐羽の右アッパーがアンナの形の整ったアゴをしたたかにしゃくり上げ……



ダァンッ!



背中から思い切りキャンバスへと倒されてしまった。

「ダウン!」

レフェリーの宣告に、会場内が沸き上がる。何とかカウント8で立ち上がるも、たった数発のパンチでアンナは既にグロッギー状態となってしまっていた。
それでも、アンナは逡巡や停滞とは無縁とばかりに佐羽だけを視界に入れ突進を繰り返していく。そのアグレッシブさには、対戦相手である佐羽も含めアンナに視線を送る全ての者が敬意を表するものであった。

だが、今回は明らかに分が悪過ぎた。



バンッ、バシィッ!



 突進してきた所へ、出会い頭の左ジャブが2発、アンナの鼻先に打ちつけられる。それだけで動きが鈍り、進む速度も瞬間で鈍くなってしまう。
気力だけで無理やり動く者には、蓄積されているダメージ・疲労を思い出させてやればいい。そう言わんばかりの、佐羽の冷静な左ジャブであった。
事実、それだけで肉体は疲労感を思い出し、主の命令に逆らうようにその動きが止まってしまった。動けなくなった……つまりはただの的に成り下がったアンナへ、佐羽は無慈悲にも右拳を振りかぶり、



バッシィィンッ!



非情なる右ストレートを叩き込んだ。

「ぶはッ……ぁ…」

痛烈な一撃だった。マウスピースが物凄い勢いで口から飛び出し、唾液と血を纏いながらトップロープに直撃する。それでも勢い余って、大きくバウンドしながらリングの外へと弾け飛んでいった。
一方その主人はというと、首を右側へ捩じらせ身体もそれに従うように半回転させる。そして、力が抜けだらんと垂れ下がるだけとなった両腕を伴いながら、うつ伏せの状態でキャンバスに叩きつけられてしまった。



ダタァンッ!



まるでキャンバスへダイブでもしたかのような、強烈に過ぎるノックダウン。倒れた勢いで両足が跳ね上がり、次の瞬間には力なく転がっていく。

「ダ、ダウンッ!」

レフェリーは、その役割上ダウンの宣告をし、佐羽をニュートラルコーナーへと下がらせる。が、もうカウントなど必要ないであろう事はすぐに察知できた。
倒れ伏した金髪の少女の、碧い眼が上瞼へと半ば以上隠れてしまっていたからだ。

アンナは、白目を剥き失神していた。

完全に伸び、脱力してしまっている少女を前にレフェリーは静かに両腕を頭上で交差、試合終了を促す。



カンカンカンカンカンカーーンッ!



ゴングがけたたましいまでに乱打される。1R1:04、まさに瞬殺KOであった。


 レフェリーはすぐさまリングドクターを呼び、処置に当たらせる。アンナを完全に粉砕した当の佐羽は、腕を上げられ勝ち名乗りを受ける間も、心配そうにアンナを見つめていた。
疲労とダメージから来る痙攣も始まっていた為、アンナは担架で運ばれる事となり医務室へは植木が付き添っていく。

ナミとしては、やり切れない思いであった。まるで、U-15決勝戦での自分を見ているように思えたからである。


対戦相手と健闘を称え合えない、あの虚しさ。


とりあえず顔馴染みという事で、この場にいないアンナの代わりにナミが佐羽の健闘を祝しその場を後にした。

その後程なくして、アンナが目を覚ましたと植木から連絡が入り、部員一同はその胸を撫で下ろすのだった。



to be continued……
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Author:チャパロット
基本的に携帯サイトで書かせて頂いているもののリメイク(?)ですが、ちょくちょく文を変更してたりします(あと拙いですが自作絵なども)。
何かある方は、ckcwb305あっとまーくsutv.zaq.ne.jpにご連絡下さい。

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