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第37話

 第37話です。

順子の決勝戦も、残すは第3Rのみ。顔が腫れる程に打たれていく中で順子は鼻から多量の出血をしてしまい、レフェリーからストップの宣告が……




 新人戦、ピン級の決勝戦に臨んだ光陵高校女子ボクシング部・桜 順子。試合は最終第3Rまで突入し、対戦相手……愛蘭(あいらん)女学院・山崎 淳子(やまざき じゅんこ)とほぼ互角と見られる好勝負を繰り広げていたのだが……



ブシュッ!



第3R開始57秒、淳子の右ストレートが順子の顔を抉り、かなりの量の鼻血が噴き出してしまった。

「ストップ!」

この出血と、膝が折れかけていた順子の状態を見てレフェリーが素早く両者に割って入る。試合が一旦中断され、順子はリングドクターの診察を受ける事になった。
レフェリーに促されロープ際まで移動する際、順子はニュートラルコーナーで経過を待つ相手を横目で見てみる。そこには、眉をしかめ肩で大きく息を吐く淳子の姿。



お願い、このまま終わって……



そう、表情が訴えているようにも見える。

(ああ……ツラいんだな、あいつも………)

診察を受けながら、順子はどこか達観したような感想を抱くのだった。


 ドクターの診察が終わる。処置のおかげで今は出血も止まってはいた。が、また出血があればすぐにでも試合を止める、と警告を受け試合が再開されていく。
再開と同時にパンチを打ち合う『じゅんこ』たち。だが、つい今し方ストップされるまでの動きのキレが、淳子には見られない。
どうやら、試合が再開された事に落胆し集中力が切れているように、対峙する順子には見えた。その証拠に、目の前の淳子は辛そうな表情を隠す事さえ出来ずにいる。

(こいつ、気持ちが鈍ってる!? ならッ)

順子は、この接戦を闘い抜ける程には淳子の心は強くないと判断し、最後の力を振り絞って突進を開始した。



根性じゃ負けないわよッ!!



まるで、そう自分に言い聞かせ奮い立たせるかのように……先程の順子の鼻血を見て闘う意思の鈍ってきていた淳子は、どうやらダイレクトに判断力にも影響を及ぼしたらしい。
レフェリーに止められる前と比べ、いとも容易く懐への侵入を許してしまっていた。



ドスゥッ!



身を屈めて懐に潜り込んだ順子の、コンパクトな左フックが淳子の脇腹へと叩き込まれる。続いて右ボディーフックを放とうとした矢先、



バシィッ!



淳子の打ち下ろし気味の右ストレートが順子の頬を抉っていく。淳子は脇腹への、順子は頬への衝撃でよろめき、両者の動きが止まる。
そして、まるで呼吸を合わせたような動きで2人は左のストレートをお互いの頬へとめり込ませた。

「ぶはッ」
「ぐぅッ」

汗と唾液の飛沫を飛ばし、マウスピースが口からその姿を覗かせる。痛みと衝撃に耐えながら、順子と淳子はお互いの顔や腹へとパンチを見舞っていく中、



グシャアッ!



順子の左フックが的確にアゴを捉えた。衝撃に耐え切れず、淳子は膝が折れ脱力した身体を後ろへと傾け始めていく。



グラ……



その、力の抜けた淳子の姿を視認した順子は右拳を振りかぶると、思い切り淳子の顔を打ち抜く。だが、この時顔にパンチがめり込んだのは、淳子だけではなかった。

順子の右ストレートと、淳子の左ストレート。2人の腕が交差し、お互いの顔面にグローブが突き刺さったままぷるぷると全身を小刻みに震わせている。
その姿勢のまま、幾秒経っただろうか。やがて、青の弾丸をその身に受けた淳子が静かに身体をキャンバスへと落下させていく。



ドスンッ!



淳子は虚ろな表情で両膝を着き、次いで両腕をキャンバスにべったりと着け四つん這いの体勢となっていた。

「ダウン!」



レフェリーの宣告が高らかに響いていく。この宣告は、ただのダウン宣告ではない。恐らくは勝敗を決する宣告に等しかっただろう。この試合を観戦していた、全ての観客がそう思ったに違いない。
そう思わせる程に、2人のスタミナは枯渇し疲弊していたのだ。誰の目にも順子のKO勝ちは明らか……の筈だった。



ダァンッ!



レフェリーがニュートラルコーナーへ退がるよう指示しようとした矢先、今度は突然順子の身体が揺れ仰向けに倒れ伏した。
それは、あまりにも予想外の出来事であった。


 ダブルノックダウン……アマチュアの、しかも女子の試合をレフェリングしてきたこのレフェリーも、これにはさすがに驚きの表情を隠せずしばし呆然としていた。
が、数秒の空白の後ようやく我に返ったのか、両者に対し改めてダウンの宣告をするのだった。リングのほぼ中央、2人の『じゅんこ』はダウンカウントを読み上げられていく。

一方は、ぐったりした表情で両肘・両膝を着けて四つん這い。
一方は、苦しそうに息を吐き仰向けに倒れたまま大の字。

2人ともまだ意識はあるらしく、すぐさま起き上がろうともがき始めた。

「立てーー! 桜あぁーー!!」
「頑張れぇ、山崎ッ!」

両陣営から激が飛び交う。第3Rも最終局面、先に立ち上がってきたのは順子。だが……



ブッ、ツツー……



先程の淳子による左ストレートを貰った際に、1度は止まった鼻血がまた噴き出してきていた。鼻孔から流れていく出血は、口元を伝いアゴの先から粒となってシャツを、トランクスを、キャンバスを彩っていく。

かなりの量であった。

それを見たレフェリーは、未だ中腰で脚を震わせている淳子へのダウンカウントを7で止め再びリングドクターを要請する。
光陵にとっては、最悪の展開だった。1回目の出血の際、次に同じような出血があった場合は試合をストップする、と事前に警告を受けている。
恐らく、この時点で試合はドクターストップ……終了となるだろう。青コーナー下の植木は、肩に掛けたタオルを握り締め微かに首を振った。
程なく、植木の読み通りドクターはレフェリーに大きく首を振り、それを承認したレフェリーは両手を頭上で交差した。



カンカンカンカンカンカーーン!



けたたましく乱打される鐘の音は、あたかもレクイエムの最後を締め括るかのように、立ち尽くす順子へ浴びせられていく。その鐘の音を、呆然とした順子は受け入れた。

鼻の出血も、リングドクターと由起の処置により程なく止まり、順子は無言のままリング中央へと歩き出す。言葉こそ発さなかったが、順子の態度は毅然としたものだった。
精一杯闘い抜いた……そういった、ある種の達成感に包まれ成し遂げた顔をしていた。





「ただ今の試合、3R1分48秒、RSCにより赤コーナー……山崎選手の勝利です!」

 ウグイス嬢のアナウンスがスピーカー越しに会場へと流れる。その後、淳子は右腕をレフェリーに高々と掲げられると一気に歓声と拍手の嵐が沸き起こった。

「………」

順子は勝者となった淳子の眼前に立ち、無言で右手を差し出していく。淳子の目をしっかりと見つめ、口をギュッと閉じながら。
だがそこに妬みや恨みはなく、

(優勝、おめでとう)

と、表情が物語っているようであった。

淳子は、そんな順子の清々しいまでの態度に感極まったのか、目に大粒の涙を溜めながら右手を握り返す。

「ありがとう……ございました………」

ポロポロと涙を拭う事もせず、淳子は嗚咽混じりに感謝の言葉を順子に送る。それを受けた順子は、またいつか試合しよう……と一言だけ残し、青コーナーへと引き揚げていった。

対して順子との握手を終えた淳子は、赤コーナーでセコンドの女の子と抱き合い改めて優勝を噛み締めあっていく、その姿がナミには少し羨ましく思えた。





「お疲れさん」

 戻ってきた順子に植木は優しく微笑みかけ、そっと肩に手を置く。大きく暖かい、頼もしい手の平の温もり。この温もりを肌越しに感じた瞬間、今まで我慢していた物が込み上げられ、一気に湧き出てきた。

「う……ぐす…ぅっく………ぅ~」

植木は、初めての大舞台で一生懸命に頑張り、残念ながら一歩及ばなかったが精一杯全力で闘った少女に、尊敬の念を込め

「お疲れさん……」

と、もう1度同じ言葉を送ると頭にタオルを被せてやるのだった。

ひとしきり泣き、落ち着きを取り戻した順子はセコンド陣に促されリングを後にする。大健闘の見返りとして観客席から大きな、本当に大きな声援と拍手をその背に受けながら……



 控え室に戻ってきた順子の、その涙の残る顔を見た部員たちは敗退したのだと誰もが直感した。

「とりあえず椅子に座って。治療するから」

由起に促され椅子へと座る順子に、誰も声を掛けられない。どんな言葉を掛ければいいのか、思いつかなかったからである。そんな中、

「惜しかったわね」

湿布とハサミを手にした由起が、いつもの平静な声で順子に呟いた。

「はい。もうちょっとだったんですけど……」

所々腫れの目立つ顔で苦笑しながら、小さく舌を出す順子。声色こそ低いものの、落ち込んでいる様子も見られず部員たちは内心で胸を撫で下ろす。
頬に湿布を貼って貰いながら、順子は次に試合を控える柊へと視線を送ると、それに気付いたのか柊も見返してきた。

「あたしは見ての通りだけど、あんたは勝ちなさいよ、柊」

眉を吊り上げ、いつもの強気な口調で順子は柊を激励していく。



あたしに続いたら承知しないんだから!



とでも言いたげな顔であった。

「ンだよ、プレッシャーかけて来んじゃねーよ」

柊は心底迷惑そうに憮然とした表情を浮かべて吐き捨てると、ナミに試合の準備を依頼する。

(ったく、しょうがねーな。オレもやれるだけやってみっかな……負けるのヤだし)

本人にも自覚があるのか分からない所で、闘争心に火が点いたらしい。柊は最初から全開で試合に臨む覚悟を決めた。


「光陵、高頭選手! 出番です」


ヘッドギアとグローブを装着し終え、軽くアップしていた所へ係員からの呼び出しがかかる。

「柊ちゃん、頑張ってね」

越花からの激励に軽く左手を振ると、柊はナミと由起に先導される形で控え室を出ていった。外へ出ると、腕を組み壁に凭れ掛かっていた植木の姿を認め、

「お待たせ、センセー」

普段と変わらない声色で柊は挨拶をした。

「おう」

そんな柊の落ち着きように頼もしさを感じつつも、決意に満ちた“眼”を見やると思わず不敵な笑みを覗かせてしまう植木であった。

(コイツ……)

その教え子の“眼”を見た時、正直ゾクリと肌が粟立った……気がする。若干15の小娘の目とは思えない、刺すような冷ややかさと燃え上がるような熱さを同居させたような、何とも形容し難い眼光。
言うなれば、『プロの目』とでも言うべきか。徹底的にクレバーに、相手に勝つ事だけを追求する者の目。植木とて仮にもプロのボクサーだった男である。
過酷なプロの世界で生き残ろうと必死になる男たちの、ごく一部は決まってこういう目をしていた。そして、そういった目をした奴らが少なからず大成していったのを、その目で見てきている。

植木は、柊にそういった『プロの目』を見たのである。高揚もしようというものだ。

「よし、行くか!」

植木の号令一下、柊たちは決勝戦への花道を歩き始めた。



ワァァァァーーーッ!



 会場は、先程まで行われていたピン級の激戦の余波がまだ残っているらしく、耳障りなまでの声援が飛び交っている。そんなリングの上に、柊はまるで無人の野に降り立つが如く平静であった。
少しして、赤備えの対戦相手……三笠(みかさ)女子高校の獅堂(しどう)きららが、花道を堂々とした足取りで闊歩してくるのが見て取れた。
スラッとした体格に、15歳女子の平均よりも長く思える両腕。きららはゆっくりとリングインし、マットの感触を確かめながら青コーナー側に鋭い視線を送ってくる。

青コーナーに佇む1人の少女……柊にではなく、下司 ナミを。

やがて、柊ときららの両者がリング中央へ呼ばれレフェリーの注意を受けていく。いざ対峙してみると、柊よりも頭1つ分ぐらいきららの方が大きい。
元々あまり身長の高くない柊ではあるが、アウトレンジからジワジワと攻められたら相当に厄介な展開になるだろう事は、誰の目にも明らかだった。

「……では、挨拶をして」

レフェリーに促され、グローブを付け挨拶を交わす両者。そして各コーナーへと戻り、試合開始を待つ。程なくして……



カァァァァンッ!



決戦の火蓋は、今切って落とされた。



キュッ、キキュッ!



 シューズの、マットを蹴る音が響く。サウスポースタイルの柊に対して、きららは左腕を鉤型に曲げた状態で下げ軽く左右に振っている。

ヒットマンスタイルである。

お互い円を描くようにサークリングしながら、攻撃のタイミングを見計らっていく。



スゥ……



柊がきららを射程距離に捉える、あと1歩まで足を踏み入れたその時……



ヒュンッ、ビシュッ!



突如、きららの左が彼女を襲った。速く、鋭く、それはまるで獲物を見定めたた凶暴な毒蛇のように。

「くッ」

柊は咄嗟にガードを固め、グローブ越しに2発の鈍い衝撃。両のグローブに伝わってくる衝撃の余韻を感じる暇もなく、又もきららの左が容赦なく襲いかかってきた。
柊は小さく舌打ちをすると、ガードを固めながら上体を振り的を絞らせないよう努めていく。だがきららの左ジャブは予想外に鋭く、数発ガードの上を叩いてきた。

柊のスピードを以てしても完全に避け切る事の難しい、きららの左ジャブ……フリッカージャブは、以前中学時代にナミが対戦した時よりも更に磨きがかかっているようである。

「速い……」

思わず、偽らざる感想が口からついて出た程であった。


 初めて闘うスタイルに柊が攻めあぐねている間、きららはフリッカージャブを主体とした攻めでどんどんプレッシャーを与える。
それに対し上体を振って何とか避け、或いはガードを固めて被弾を許さない事だけで精一杯のように、セコンド陣には見えた。

そんな中、ナミはある事に気付く。

柊が、あまりフットワークを使っていないのだ。かわす時は、専ら上体を振ってのスウェーである。

(まさか、アイツ……)

ナミは、急速に嫌な予感を感じていく。



先の2回戦で負傷した右足に痛みが残っているのでは?



それしか、ナミに思い当たる節はない。試合前に仮定として立てていた不安材料が的中したのかも知れないと、そんな疑念を抱かざるを得なかった。
今は持ち前の防御勘の良さで凌いではいるが、掴まるのは時間の問題であるようにも思えた。そんな中、



パァンッ!



柊の左ジャブが、きららの鼻先に打ち付けられていた。

「ッ!?」

きららはいつの間に柊の射程内に入ったのか分からず、目を白黒させていた。が、さすがに決勝戦まで勝ちあがってきた実力者である。すぐに間合いを外すと、またフリッカージャブで弾幕を張り柊を近付けさせないようにしていった。

柊は、きららが打ち疲れて腕の振りの鈍ったほんの隙をついたのだ。恐ろしいまでの集中力と、動態視力の賜物といえた。

(くっそォ、読み辛ぇパンチだな、コイツは……1発しか差し込めなかったじゃねーか)

きららのフリッカージャブの雨を掻い潜りながら、柊は心の中で悪態を吐いていた。近付かない事には攻撃も何もない。が、容易には近付かせてはくれないだろう。
避けながらも思案を巡らせる中、



カァァァァンッ!



第1R終了のゴングが鳴るのだった。





to be continued……
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チャパロット

Author:チャパロット
基本的に携帯サイトで書かせて頂いているもののリメイク(?)ですが、ちょくちょく文を変更してたりします(あと拙いですが自作絵なども)。
何かある方は、ckcwb305あっとまーくsutv.zaq.ne.jpにご連絡下さい。

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