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第36話

 随分と時間が空いてしまいました。最近は何かと忙しく、更新のペースも遅くなってますがご容赦の程を……


では、第36話です。

ライト級、2回戦。アンナvs頼子の試合は、ポイント度外視の乱打戦へ。第3R、アンナの右ボディーアッパーが頼子の腹へと直撃し……




 照明に照らされたリング上、影を落とす2つの姿があった。這いつくばる者と、見下ろす者。敗者と勝者、という言い方の方がよりしっくり来るかも知れない。
とにかくも、ここでお互いの意地を賭けたひとつの闘いがその幕を下ろそうとしていた。

リング上で這いつくばっている者……洛西(らくせい)高校の武田 頼子は、両手で腹を抱え身をよじらせて痛みと苦しみに耐えている。
そして見下ろす者……光陵高校の城之内 アンナは、肩で大きく息を吐きながら勝利の余韻に浸っていた。頼子の様子を見たレフェリーはアンナにコーナーへ戻るよう指示し、急いでリングドクターの出動を要請していく。

「やったよ、先生!」

腫れた顔に満面の笑みを浮かべ、ロープに身体ごと凭れかかるアンナ。試合が終了し張っていた緊張の糸が解けたのだろう、カクカクと膝が揺れていた。

「ああ、よくやったな。城之内」

セコンドで顧問の植木が勝利を祝福し、アンナをスツールに座るよう促す。アンナがスツールに座る間、リング上では頼子がリングドクターの診察を受けていた。
そして、頼子がその身体を起こしてきたのはボディーアッパーでダウンしてから優に1分も経過した頃であった。

青コーナーで先に控えていたアンナも、立ち上がった頼子の姿を見て安堵の溜息を漏らす。一旦赤コーナーへと戻った頼子は、セコンドと軽く会話を交わすとすぐにリング中央へ歩み寄っていく。


自分が負けた事を高らかに宣言せんが為に。


「ただ今の試合、3R1:07、RSCにより青コーナー……城之内選手の勝利です!」

 アンナはレフェリーによって左手を高々と掲げられ、観客の声援に答えようとして……何をしていいのか分からず、とりあえず空いた右手を小さく振るのみであった。そんな中、

「おい」

つい今しがた、敗北を宣言された頼子がアンナに声を掛けてくる。

「え……っと、武田、さん?」

いきなり呼びかけられ、恐る恐る答えるアンナ。ガラス細工のような碧い瞳に映る頼子の表情は、怒りを連想させるに足るものであった。
口をへの字に結び、眉を吊り上げその目にはうっすらと涙を浮かべている。その表情を見て、もしかして怒られるのではないか? とアンナは内心落ち着かなかったのだが、



スッ……



意外にも、出てきたのは怒声ではなく左手。頼子は、単純に試合後の握手を求めにきただけであったらしい。

「あ、えっと。お疲れさま……」

トランクスで手を擦る仕草の後、アンナは差し出された手をしっかりと握り返していく。

「とりあえず、よ。効いたぜ、最後のボディーブロー」

そう言うと、どこか照れたようjに頬をポリポリと掻く真似をする頼子。

「今回はオレの負けだ。名前、なんてんだ? 外人」

「城之内 アンナ。ちなみに一応日本人だから。半分イタリア人だけど……」

何故かアンナも照れた顔をしながら、自分の名前を頼子に刻ませた。

「城之内、か……覚えておくぜ。決勝戦、オレの分まで頑張れよ!」

肩を叩いてアンナに激励の言葉を残すと、頼子は爽やかな顔に一変しセコンドとリングを降りていくのだった。





「ただいま……」

 控え室に戻ってきたアンナたちが、部員たちに挨拶をする。

「あんた、大丈夫なの!?」

帰ってくるなり順子の口から出た、この第一声。それもその筈、アンナは由起に肩を預けた形で戻ってきたからだ。他の部員たちも、てっきりアンナが敗北したものと思い言葉に詰まってしまう。

「……ちゃんと勝ったからね、アンナ」

その様子を察したのか、ナミが一言だけボソッと伝える。その一言で、胸を撫で下ろしていく部員一同。
すぐさまアンナを長椅子に横たわらせ、由起が試合後の処置を始める。その間、ナミは決勝戦を控える順子の試合準備に取り掛かっていった。
順子を呼びつけ、ヘッドギアとグローブを装着させていく。ナミも順子も、お互い無言であった。


「ねぇ、ナミ」

沈黙に耐え兼ねたのか、先に声を掛けたのは順子。

「ん?」

グローブを締める為のテーピングを巻きながら、ナミは軽く答える。

「……あたし、強くなってると思う?」

しばしの沈黙の後、照れたような表情をした順子の口から紡がれた言葉。



強くなってると思う?



ナミの頭の中で、順子の言葉が反芻されていく。具体的に、いつの彼女と比べて…とか、そういった事で言えば答えは……恐らくナミには出せない。
実際に、ナミから見れば今の順子の実力などまだまだだし、彼女は“これから伸びる原石”のようなものなのだ。
これは順子に限らず、柊や越花、アンナ、今回は試合に出ていない都亀にしても同じである。そして、ナミ自身も……
だが、ナミには順子の言葉の意図が、何となく分かる気がした。



久美子さんは、今のあたしを認めてくれるだろうか……



そう聞きたいのだと、ナミは思う。

「そうね……とりあえず、決勝戦の闘いぶりを見てから答えてあげるわ」

軽く苦笑しながら、ナミはこの場での解答をはぐらかしてみせた。順子は不満そうな表情を見せてはいたが、あくまでポーズであるだけのように思える。
そんな表情の順子を見ていると、余計に微笑ましくなってしまう。普段はどちらかというとツンとした態度の順子が、姉のように慕う……今は遠く広島県へ引っ越していった畑山 久美子の事を話の引き合いに出すと、途端に柔らかい表情を見せるのだ。
その、普段とのギャップが順子の魅力の一部なのだろうとナミは思っていた。



「光陵高校、桜選手! 出番です」

 係員の呼び出しに、順子は両手のグローブを思い切り打ち鳴らす。「行ってくるわよ」と部員たちに一声かけ、順子はナミと由起を従えるような形で控え室から決戦の舞台へと歩き出していく。

いよいよ、新人戦も各階級とも決勝戦を残すのみであった。

赤・青、各コーナーに控える選手たち。

「ただ今より、ピン級決勝戦を行います。青コーナー……光陵高校、桜 順子選手! 赤コーナー……愛蘭(あいらん)女学院、山崎 淳子(やまざき じゅんこ)選手!」

ウグイス嬢のアナウンスに、会場内の歓声が一気に跳ね上がる。果たして、『どちらのじゅんこ』が勝つのか? 観客たちは、偶然の産物でしかない『じゅんこ』対決を、あたかも運命であったかのように盛り上げていく。

「面白いじゃない……この試合、なんとしてでも勝ってアンタが本物の『じゅんこ』である事を証明してやりなさいよ!」

会場の雰囲気に便乗するかのように、ナミが1人ではしゃぐ。

「本物ってどういう意味よ? どっちも本物だっての……」

ナミの煽りに不満そうな顔を見せながら、マウスピースを受け取る順子。



パカンッ!



決勝戦にバカ言ってんじゃねえよ! と植木に頭を叩かれる様子を見て、順子は不意に内心残っていた緊張が少しほぐれたような気がした。


(サンキュー、ナミ)


順子はナミのはしゃぎに心の中で感謝すると……



カァァァァンッ!



試合へと気持ちを切り替え、目の前の相手に集中力を研ぎ澄ませていった。


 リング中央でグローブタッチを交わす両者。右のオーソドックススタイルで構える順子に対し、真正面の淳子は左構え……サウスポースタイルを取っていた。
サウスポーに気後れしたのか、機先を制したのは山崎 淳子の方であった。鋭い右ジャブを3発、順子へ放ってくる。



ガツッ、ガシッ、スッ……



順子はその全てをブロッキングやスウェーを駆使して被弾を避ける。お返しとばかり、今度は順子が左ジャブを3発打ち込む。



ガシッ、ガシッ、バンッ!



1、2発目は右手でストッピングされ、3発目をパーリングで弾かれてしまった。

「くッ」

順子は一旦距離を離し、様子を見る。

(あの右、邪魔ね……)

順子は内心で舌打ちをしていた。左ジャブの軌道上、つまり顔を狙う際にごく自然な形で右手が置かれているのだ。

いざ対峙してみると、サウスポーの何と厄介な事か!

鉄壁の如く構えられた右手に、妙に攻めあぐむ順子はもう1度心の中で舌打ちをすると、身を屈めて懐へ飛び込む戦法を敢行しようと試みた。

(懐に入れば利き腕の左右は関係ないハズ!)

グッと身を屈めガードする腕に力を込めると、加速をつけて淳子へと吶喊する。そこへ、



バチィンッ!



横合いから、左のテンプルに鈍い衝撃が走った。

「かはッ」

予想だにしていなかった頭部への衝撃に、目から火花が飛び散るかのような錯覚に陥る順子。彼女の戦法を察した淳子が、後退しながら右のショートフックを順子のテンプルへと打ちつけたのだ。
出会い頭に右フックをカウンター気味に貰い、順子はその場で足を止めてしまう。それを淳子はチャンスとばかり、一気にラッシュを仕掛けていく。



ボスッ、ドグッ、バシッ! ズンッ!!



淳子のパンチが順子の顔に、腹に、思うさま打ちつけられていく。ガードもままならない順子は1Rから滅多打ちされてしまい、



グシャアッ!



充分に威力の籠もった左ストレートを頬に叩き込まれ、口から唾液混じりのマウスピースが弾き飛ばされてしまった。

「ストップ!」

レフェリーが両者の間に割って入る。その瞬間、



ダンッ!



順子はアゴを上げ、効いた表情を見せたままキャンバスに片膝を着かせてしまった。

「ダウン!」

改めてダウンが宣告され、淳子を下がらせるとカウントを数え始める。早くもノックダウンが見られ、これはKO決着もあるかと観客からは歓声が上がっていく。

「桜ーーッ! カウント8まできっちり休め!!」

青コーナーサイドから、植木の指示が飛ぶ。セコンドの指示に従いカウント8まで休むと、しっかりとした足取りで立ち上がりファイティングポーズを取る順子。
その姿に、ダウンによる焦りは感じられなかった。まだ大丈夫と判断し、レフェリーはボックス! と試合再開を促した。
ダウンを喫したにも関わらず、その後1Rが終了するまでの間を積極的に攻めたのは順子の方であった。常に手を出し続けて、数発のボディーフックを叩きつける程の奮戦を見せたのである。


 1Rが終了し、2人の『じゅんこ』は各コーナーへと引き上げていく。ポイントは、僅かに淳子の方が勝っているだろうか? 序盤滅多打ちを食らった分のパンチヒットが大きいのだろうが、ダウンしてからの積極的な攻めにより少しは取り返している筈だ……

植木は、1Rの戦況をそう捉えていた。接近戦では順子の方に分があると睨んだ植木は、引き続き懐に潜り込んでフックを主体とした細かいパンチを打っていくよう指示を与えた。
順子も同じ事を考えていたらしく、コクンと力強く頷くとナミからマウスピースを受け取り、グローブで位置を調整していく。



カァァァァンッ!



第2Rのゴングが鳴り、順子はいきなり猛然とダッシュし瞬間で危険地帯へと足を踏み入れた。

「ッ!?」

まさかいきなりい突っ込んでくるとは思っていなかったのか、淳子は対処が遅れる。早くもコーナー際での攻防となり、両者とも接近戦の構えを取っていく。
赤コーナー周囲で、赤と青の火線が飛び交う。最初はほぼ互角の打ち合いが展開されていくものの、徐々に順子のパンチが回転を上げ淳子を削り出す場面が目立ち始めた。
植木の見立て通り、接近戦では順子の方に分があるようだ。或いは、最初から接近を挑むつもりでいた順子の覚悟の方が勝った結果なのかも知れない。更には、準決勝を不戦勝で上がった分スタミナが充足されていた背景もあるだろう。

どちらにせよ、順子のパンチが淳子にダメージを与えているのは確かな事実である。


 順子の放つパンチは力強く、空手部主将・鬼東(おにあずま)こと東 久野には及ばないものの、その握力は部員中1、2を争う程であった。
また、ナミのような正確さやアンナのような縦横無尽さはないが、コンパクトなショートフックを主体としたラッシュは植木も認める順子の主武器といえよう。



バシッ、ゴッ!



そんな順子の左右のショートフックが淳子の頬を打ち抜き、飛沫を散らしながら今し方まで休息を取っていた赤コーナーへと身体を沈ませていく。
自分の帰るべき場所である赤コーナーに逃げ場を阻まれるとは、何という皮肉であろうか。

ダメージが蓄積している事を確認すると、順子は右足を半歩程開きスタンスを広げる。右腕を振りかぶり、下半身と腰で『タメ』を作っていく。
そして、右腕を鉤型に固定しながら『タメ』を解放し相手へと打ち込んでいった。



グシャアッ!



順子の渾身の右フックが淳子を完全に捉え、淳子の口からマウスピースが勢い良く飛び出した。白い物体が放物線を描き、リングの外へと身を躍らせると同時に、その主人もコーナーに背中をべっとりと貼り付けながらズルズルと滑り落ちていく。



ドスンッ!



その場で力無く尻もちをつく淳子を庇うかのように、レフェリーは身体を割り込ませダウンを宣告した。


 ニュートラルコーナーで待機する順子は、確かな手応えを感じていた。右拳を何度も握り締め、ロープを手繰り寄せ立ち上がってくる淳子を見据え、順子は一気に勝負を決める決意を固めていく。

「ボックス!」

カウント8の後、試合再開の合図と同時に順子は一直線に淳子へと走り寄る。ここが勝負所と、順子のみならず観客も悟ったのだろう。一気に声援が沸き起こる。
今度は、リング中央で再びパンチの交換が始まった。恐らく中距離……ストレート系を得手としているであろう淳子と、近距離……フック系を武器とする順子。
お互い、ダウンは1回ずつ。一定の距離を保ちジャブ、ストレートを絶え間なく打つ淳子に行く手を阻まれてしまう順子。
元々サウスポーで突進する先々に右手が邪魔をする上、今度は淳子も近付かせまいと必死に突き放してくる。自然、射程外からパンチを貰う展開になり、順子の顔が段々と腫れてくるのが見て取れた。



カァァァァンッ!



結局試合は大した展開には発展せず、勝負は最終第3Rへと流れる事となった。各自インターバルを経て最終Rへと突入。
開始時にお互いグローブを交わし、2人は残っているスタミナを全て搾り出すようにして闘い続ける。接近戦に勝機を見出したい順子は、しかし淳子にいなされどうしても潜り込めずパンチを貰いながら中距離戦を強いられてしまう。



ブシュッ!



淳子の右ストレートが順子の顔に打ちつけられ、鼻からはかなりの量の出血が出た。ポタ…ポタ…とシャツやキャンバスに赤い斑点を彩ると、順子の膝もカクッと折れかかっていく。
予想以上にダメージが蓄積していたらしい。無理に潜り込もうと吶喊を繰り返し、その都度パンチの被弾を余儀なくされた順子。
2R中盤辺りから、今この瞬間まで顔の腫れが目立つ程に打たれ続けたツケ。それがこの右ストレートと、それに伴った出血により回ってきたのだ。
この時点で、

「ストップ!」

レフェリーが両者の間に割って入ってくるのは必然といえた……




to be continued……
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Author:チャパロット
基本的に携帯サイトで書かせて頂いているもののリメイク(?)ですが、ちょくちょく文を変更してたりします(あと拙いですが自作絵なども)。
何かある方は、ckcwb305あっとまーくsutv.zaq.ne.jpにご連絡下さい。

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