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第34話

 この更新まで随分とかかってしまいました。楽しみに待っていらっしゃった方々(いらっしゃれば、の話ですが……)、ご迷惑をお掛けしました。


 第34話です。

越花を除く全員が2回戦に進出、という結果になった新人戦・第1回戦。2回戦へ入るまでの間に、柊はナミから曹 麗美がまさかの敗退の報がもたらされた。それに対し柊は……?




 新人戦の会場となっている総合体育館は観客たちと選手たち、大会関係者たちの熱気が混ざり合って異様とも言える盛り上がりを見せていた。

今年は例年以上に白熱した好勝負が繰り広げられていた。特に新生の光陵高校女子ボクシング部が凄かった……とは、後に観戦に行った人々の口から出た言葉である。
そんな新人戦も2回戦。実質上の準決勝戦が始まり、光陵高校のトップバッターを務めるピン級の桜 順子が相手の怪我による棄権の為不戦勝。
つまり、決勝戦への進出を早々と決めていた。

順子本人は試合に勝利しての決勝戦進出ではない事に対し不満そうにしていたが、それでも勝ちは勝ちである。ラッキーと思って素直に喜んどけ、とメインセコンドでもある顧問の植木に言われては、順子とて不満ばかりを漏らす訳にはいかなかった。

植木に丸め込まれた形の順子が渋々と受け入れていく中、ライト・フライ級の柊は試合準備を始めていた。ナミに手伝って貰いながら、ヘッドギアとグローブを装着していく。
その間、ナミはどこか上の空といった表情でもうすぐ試合をする、まだ見ぬ対戦相手の事に思考を巡らせていた。


郡司(ぐんじ)高校、時任(ときとう)みゆき。


2回戦に移行する前、事前に由起の作成した資料に目を通し特にこれといった特長を持たない選手である……という説明文があった。
麗美が負けたのも、恐らくは不運な事故みたいなものだったのだろう。


 この世界……特にアマチュアではポイントが大きな比重を占める。ナミが見た曹 麗美という選手、ディフェンスとスピードに関しては同世代の中でも郡を抜いているように感じた。
一方でオフェンス、特にアグレッシブ(積極的姿勢)とスタミナに難がありそうな感じを受ける。それでも、麗美がそう簡単に掴まるとは思えなかった。
だが……とナミは思う。もし麗美のスピードを『封じ込める』手立てがあるとしたら?


1.ロープ又はコーナー際へ追い詰めて一気に仕掛ける
2.徹底したボディー打ちでフットワークが鈍るのを待つ
3.不測の事態が起きるのを期待する


色々考えてみるものの、どれもしっくり来なかった。

(わたしなら1.と2.を組み合わせて強引に押し切る戦法を取るだろうけど……)

いつもの癖で、自分ならどう闘うか? と脳内でシミュレーションしてしまう。






「光陵高校、高頭選手! 出番です」

 あれこれと考えている間に、係員に呼ばれてしまい纏まらない思考のままナミは控え室を出て行かなければならなくなった。
氷嚢やワセリン、ウォーターボトルを入れたバケツを手に最後尾を歩くナミは、この期に及んで麗美の敗因にあれやこれやと思考を巡らせていた。
どうにもしっくり来ない。不運といえばそれまでなのかも知れないが、何故かそれで納得は出来なかった。そんな事を考え続けている間に、

「おい、下司。早くマウスピースよこせよ」

柊にマウスピースを催促されてしまった。

「へ?」

ついすっ頓狂な声で返事をしてしまった。

「へ? じゃねーよ。マウスピースだよマ・ウ・ス・ピース! オレを失格にしてーのか?」

え……あ、ゴメンと謝りながら、ナミは柊の口にマウスピースを含ませる。柊は右のグローブで位置を調節しながら、

(しっかりしてくれよ、主将)

といった表情を見せていた。



カァァァァンッ!



第1R開始のゴングが鳴り青コーナーから柊が、赤コーナーから郡司高校・時任 みゆきが、共にリング中央へと歩み寄りお互い左グローブを合わせる。
サウスポースタイルの柊に対し、みゆきは右のオーソドックススタイル。柊は様子見がてら、みゆきを中心として左回りにサークリングしていく。みゆきは、そんな柊に躊躇なく左ジャブを放ってきた。



バッ、バッ!



柊は、自身に迫るジャブを難なく避け距離を取っていく。1回戦の弥栄(やさか)に比べると鋭いジャブだが、決して手に負えない程速い訳ではない。
少なくとも、柊はおろか彼女に匹敵しているスピードの持ち主であった麗美を押さえるには力不足と言わざるを得なかった。
続いて、みゆきは左ジャブを数発ばら撒いていく。そのいずれも柊へ被弾する事はなく、逆に柊の素早いハンドスピードから放たれる右ジャブをまともに貰ってしまっていた。


 この新人戦に於ける柊のコンディションは、どうやらかなり良さそうである。1回戦での弥栄との試合でも、ついぞ1発のクリーンヒットも許してはいなかった。
そもそも、柊のスピードはU-15全国大会準優勝のナミをして見惚れさせる程なのだ。生半可な経験者ではついて来られない領域の速度。

天性の素質という他は無いだろう。



シュババッ!



柊の放つ右ジャブが、みゆきの頬を悉く抉り歪ませる。一方で中間距離はマズいと思ったのか、みゆきが柊へと接近を試みる機会が徐々に増えてきていた。



カァァァァンッ!



 特に大きな動きのないまま、第1R終了のゴングが響く。柊はコーナーへ戻ると用意されたスツールに腰掛け、マウスピースを引き抜いて貰う。

「いい感じじゃない! 柊」

マウスピースを洗い流しながら、ナミが柊に声を掛ける。一方で由起は無言のまま、タオルで流れる汗を拭き取っていく。そんな中、

「高頭」

正面に向かい合う植木が口を開いた。

「なに? センセー」

ウォーターボトルでうがいをしながら、柊は植木の次の言葉を待つ。

「この試合、相手を懐に入れさせるな。絶対に一定の距離を保つんだ」

これは意外だった。その証拠に、柊を含む全員が一斉に顧問へと視線を投げ掛けていく。
とりわけこの指示に驚いたのは由起である。表情にこそ出さなかったが、先程の1Rを見て由起はある確信を抱くに至っていた。



高頭さんの方が実力は上だ



と……

両者の動きを観察した結果、由起はみゆきを“平凡なボクサー”と位置付けしたのだ。警戒すべき何物もなかった筈である。そこへ、植木の一言である。

「先生、彼女の何を警戒するんです? あの程度のスピード、高頭さんには……」

「通じない、か? だが、奴さんはあの中国人の娘に勝ってるんだぞ?」

植木の一言に、由起は言い返せず閉口してしまう。確かに、1Rを見る限りではみゆきに怖さや脅威を感じる要素は無かった。が、様子を見ている可能性も充分に有り得る話である。

「とにかく、だ。なにか嫌な感じがする……あの相手は近付かせない方がいい。いいな? 高頭」

念を押すように、植木はアウトボクシングを指示していく。それに対し、柊はと言うと……

「ヤだね!」

即答で否定していた。

「なッ!?」

「逃げてたらパンチ当てにくいじゃんか。真っ正面から殴り倒す!」

対角の相手を鋭い視線で見据え、柊はバンッ! と両のグローブを胸の前で打ち鳴らしてみせ気合いを込める。

「お、お前なぁ」
「セコンドアウト!」

柊の指示拒否に対し植木が言い返そうとするより先に、ウグイス嬢からセコンドアウトのアナウンスが流れてしまった為、植木としては渋々ながらリングを降りるしかなかった。

「分かった。好きにしてみろ。お前に任せる」

ロープを潜る際、植木は柊に戦術を一任しナミからマウスピースをひったくると、

「ほらッ、行ってこい!」

柊の口の中に突っ込む。そして、



パァンッ!



まるで馬でも追い立てるかのように、柊の程よく締まったお尻の納まったトランクスを平手で思い切り叩いた。

(痛ってぇ! セクハラだぞ、くっそぉ)

植木に叩かれた尻がヒリヒリと痛む中、柊は第2Rへと挑んでいく。


 外見に似合わず、強気な性格の柊である。遠距離を保ってチマチマと軽いパンチを当てるより、正面から打ち勝つ方を選んだのだ。
第2Rに入っても、みゆきは積極的に間合いを詰める戦法に終始していた。そして身体を密着させるか否かというぐらい近距離まで来ると、今度はボディーブローを主体とした攻撃に切り替え実行していく。

「シュッ」

みゆきのくぐもった声と共に、左のボディーフックが柊へと襲い掛かる。



バシッ!



柊は素早い反応で腰を捻ると、みゆきの左を左手の平で受け止める。ストッピングである。そしてみゆきのパンチを止めざま、



パァンッ!



右のショートフックを打ちつけた。

「ぐッ」

口から少量の唾液を散らせ、みゆきは痛みで顔を歪める。それでもみゆきはしつこく間合いを詰め、左右のフックやアッパーも絡めながら果敢に柊へ手を出し続けていく。
元より、相手から間合いを詰めてくれる分には柊としても大歓迎である。何せ、植木の指示を蹴ってまでインファイトを仕掛けるつもりでいたのだから。

柊は巧みなディフェンステクニックを見せ、フックをダッキング……上体を屈めてかわし、アッパーをスウェーバック……上体反らしで避け、ボディーストレートに対してはエルボーブロックを主体として捌く。
その、華麗ともいえる体捌きとディフェンステクニックに、会場から歓声が上がっていく。そして、とても1年生の動きではない……と方々から聞こえ始めていた。
それは、実際に教え間近で見てきた植木にとっても同様であった。

(あいつ……やっぱり“視え”てやがるのか? 相手のパンチを全部。それにあの動き……)

植木の中で、ある疑念が急速に芽生えてくる。



高頭はボクシングをしていた経験があるのではないか?



と……


 植木がふと隣を見ると、ナミがいつも以上に真剣な眼差しでリング上を見つめ、「あ……まさか………」と呟いた。

「どうした? ナミ坊」

ナミの呟きに何か思う所があったのか、植木は小声で問い掛ける。

「この試合に入る前から、ずっと麗美の敗因を考えてたんだけど……」

「お前、今更……」

「いいから聞いて。正直、今の時任の動きを見る限り麗美のスピードを捕らえられると思う?」

「いや、無理だろうな」

「ならどうやって動きを捕らえられない麗美からポイント勝ちしたのか?」

そこで一旦言葉を切り、そして深呼吸すると、

「リズムを狂わせたのよ。“ある方法”で」

その言葉とほぼ同時に、レフェリーのストップ! という声がリング上より聞こえてきた。


 レフェリーの声に驚き、急ぎ視線をリング上に戻す2人。そこには右足の甲を押さえている柊と、レフェリ-に何事かを注意されているみゆき……そんな光景が広がっていた。
それを見て、植木はある結論へと達するに到った。

「あいつまさか……!」

「やっぱり……間違いないわ。時任の奴、足を踏んだのよ」

ボクサーというものは、案外リズムを崩されると脆い所がある。アウトボクサーの場合は、特に顕著に出やすい。自己の築いた、独特のリズムでボクサーたちは闘うのだ。
質の高いボクサーが、よく『精密機械』と比喩される所以である。
そういった意味では、麗美はまさに『精密機械』の如しといえよう。だが、精密であるが故に1度歯車を狂わされるような事態が起きれば、それを立て直すのは困難といえた。


自分の慣れ親しんだステップを刻めなかったら? 


四肢がバラバラに動き、連動の合わないものとなる。当然、実力など発揮出来る筈もない。みゆきは、そこにつけ込んだのだろう。



カァァァァンッ!



第2Rが終了し、柊はコーナーへと戻りスツールに腰を下ろす。

「高頭、足は大丈夫か?」

植木はすぐさま柊の右足の状態を確認する。

「別に。なんともないよ、センセー」

マウスピースを外し、柊は対角のみゆきを睨みつけながら無事を伝える。それは鬼気迫る、鋭い視線であった。

(あのヤロー……)

言葉の上では平静を装ってはいるものの、内心では怒りが渦巻いていた。
植木から何やら指示があったが、今の煮えくり返っている柊には全くと言っていい程入ってはいなかった。



「セコンドアウト!」

 アナウンスの指示により植木がリングを降りると、



カァァァァンッ!



最終第3Rのゴングが鳴り響いた。レフェリーの声で、両者リング中央でグローブタッチを交わす。チョン、と付けるや否や、



バシィッ!



いきなり柊の左ストレートがみゆきの顔面を殴りつけた。不意を突かれた形で仰け反るみゆきに、柊が猛然と襲い掛かっていく。
距離を詰め、右ジャブから左ストレートのワン・ツーを放つ。



ガツッ! バシィッ!!



右ジャブはブロッキングしたみゆきだったが、続く2発目の右ジャブを途中で止めるというフェイントを織り交ぜられ見事に引っ掛かってしまう。
バランスを崩した所へ柊の左ストレートが炸裂し、

「ぶふぅッ」

飛沫を撒き散らせながら、みゆきはマウスピースを半ばはみ出させて1歩後ろへと下がっていく。
ダメージがあるのを視認した柊は、再び距離を詰めて左のボディーストレートを見舞った。



ズンッ!



「うぶぇ……」

ゴボッと胃から何かが込み上げる感覚を我慢しつつ、みゆきは柊へクリンチを敢行し、そのまま……



ドサァッ!



勢いが余ったのか、2人とももつれ合ってキャンバスへとダイブしてしまった。

「スリップ!」

レフェリーが試合を一時中断し両者に起き上がるよう指示する。それに従い起き上がろうとする柊。片膝をついて立ち上がろうとした際、



ズキッ!



(痛ッ!)

右足に鈍痛が走った。悟られないよう表情には出さず平静を装う柊だが、疼きは確かに痛覚として現存していた。



「ボックス!」

 レフェリーに促され試合が再開される。起き上がる際に電光掲示板を確認した所、試合時間は残す所あと1分弱。
意を決した柊は、足の痛みを消し去るかのようにダンッ! と思い切りキャンバスを踏みつけると一足に距離を詰め、右ジャブを3発放った。



パンッ、パシッ、ビシィッ!



柊のハンドスピードに反応出来ないのか、はたまたスタミナの問題で動きが鈍くなったのか……どちらにせよ、みゆきは柊の放ったジャブを3発ともまともに貰ってしまう。
ヨロ……とよろけ、若干ガードが下がった状態でアゴを曝け出す。チャンスと見た柊は更に接近し腰を捻ると、



グシャアッ!



遠心力のついた左フックをみゆきへと叩きつけた。

「ぶぅッ」

グローブ越しの拳をしたたかに打ち付けられた衝撃で、みゆきの口からはみ出ていたマウスピースが弾き飛ばされる。そして自身も後を追うかのように倒れ、近くのロープへとふらつく足で走り寄り凭れかかるのが精一杯であった。
ダメージを受けたみゆきの状態に、レフェリーは素早く両者の間へと割って入る。

「ダウン!」

そしてすかさずスタンディングダウンを宣告、柊をニュートラルコーナーへと下がらせた。


 カウントが進む中、柊は次第に顕著化していく右足の痛みで顔を歪めていた。このまま終わってくれる事を、無駄と知りつつ心のどこかで願ってしまう。
が、そんな儚い期待はレフェリーのカウントが8で止まった事で消失した。

「ボックス!」

無情にも試合再開の指示が飛ぶ。先程のみゆきのダウンにより集中力が切れたのか、柊は右足の痛みで普段のフットワークが取れず歩みは遅い。
一方のみゆきも、左フックのダメージをまだ引き摺っているらしくロープ際から中々出てこない。
ようやく両者がパンチの届く間合いまで迫ると、みゆきが左ジャブを数発放ってきた。足の痛みが気になり、踏ん張りに不安を感じた柊は迫るジャブをかわさずブロッキングで弾き、自身も右ジャブを打ち返していく。
みゆきもガードを固めて防ぎ切った時……



カンカンカンカンカンカーーン!



試合終了を告げるゴングが高らかに響き渡った。両者は形式通りの挨拶を交わすと、勝負は判定へと委ねられるのだった。





to be continued……
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チャパロット

Author:チャパロット
基本的に携帯サイトで書かせて頂いているもののリメイク(?)ですが、ちょくちょく文を変更してたりします(あと拙いですが自作絵なども)。
何かある方は、ckcwb305あっとまーくsutv.zaq.ne.jpにご連絡下さい。

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