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第33話

 第33話です。

新人戦、1回戦。順子が無事に初戦を突破し、柊もほぼ常時優勢に試合を運んでいく。そして第3R開始、赤コーナー側から棄権の意思が伝えられ……




「ただいまの試合……2R2分、棄権によるRSC(レフェリーストップコンテスト)により、青コーナー高頭選手の勝利です」

 リング中央でレフェリーを挟んで、高頭 柊と弥栄(やさか)千恵子が立っている。そしてウグイス嬢による試合結果を告げられた瞬間……



バッ!



柊の右手が、レフェリーによって高々と掲げられていく。それを祝福するように、観客席からは大きな歓声と拍手が舞い上がっていった。

「高頭、さん」

右手を上げられ妙にむず痒い気分になっていた柊に、横から千恵子が声を掛けてきた。

「あ、ああ」

「今日は、その……ありがとうございました」

健闘を称える一言を述べると、



ガシッ!



柊に抱きつき、背中をポンポンと優しくあやすように叩いていく。

「お疲れさん……」

柊もまた、試合後の挨拶として千恵子の背を軽く叩いて健闘を称えた。


 お互い抱擁が終わり、柊が青コーナーに帰還すると、「お疲れ」とメインセコンドの植木 四五郎が労いの声を掛けてくれた。後ろに控える、大内山 由起と下司 ナミも、笑顔で柊を迎える。

「とりあえず……なんとかなっちまったな」

植木にタオルを手渡して貰い、汗を拭きながらいつものぶっきらぼうな口調で柊はつぶやく。

「とにかくリングを降りましょうか」

由起に促され、光陵の4人はリングを降り、戦勝報告をするべく部員たちの待つ控え室へ歩き出した。





「あ! お帰り、柊ちゃん」

 控え室へ戻るなり、大きな声で出迎えてくる葉月 越花。

「……………」

その、あまりにも大きな声は周囲の静かな反感を買ってしまったようで、眉をしかめる他の選手たちが一斉に視線を注いでくる。それを察した越花は「ごめんなさい」と小さくなってしまった。

「バカな事してないで、次はアンタの番なんだから早くこっちに来なさい!」

ヘッドギアとグローブを手に、ナミが越花を呼びつける。

「あ、うん」

もう私の番か……と呟き、越花はナミの所へと向かい自身の試合準備を始めた。



 越花の試合準備と柊のケアを終えて少しすると、

「光陵、葉月選手! 出番です」

係員の呼び出しがかかる。

「よ~し、私も順子ちゃんや柊ちゃんに続かないとね」

いつもの間延び口調ながらも、本人なりに気合いを入れた越花はナミと由起に促され控え室を出ていく。

「越花ちゃん、大丈夫かなぁ……」

控え室を出ていった後、まだ試合待ちの城之内 アンナがボソッと呟いたのを、その場にいる部員たちは聞き逃さなかった。確かに、最近は入部当初に比べてボロボロにはならなくなってきてはいる。
が、それはあくまで“今の”練習には付いてこられるようになっただけなのだ。むしろ公式戦に出場するのはまだまだ時期尚早なのは間違いない。

「ま、オレもなんとかなったんだ。案外大丈夫なんじゃねーの?」

一抹の不安を心のどこかで感じつつ、それを払拭するかのような柊の一言。他の部員たちも、越花の勝利を各々ただ祈るのみであった。





数分後。その越花はと言うと……



ダァンッ!



「ダウン!」

レフェリーの声が響き渡る。ハァハァと息を切らせながらニュートラルコーナーへと向かう途中、グローブに覆われた右手をグッと握り締めてみた。
その手には、まだ相手の顔を鈍く打ちぬいた感触が鮮明に残っているのが分かる。そして、ひとつの確信を得るのだった。


『勝った!』と……


「ワン…ツー…スリー…」

レフェリーがダウンカウントを数える間も、青コーナー側のロープ際でレフェリーに背を向ける形で倒れている選手……越花は反応を示さなかった。

「立てーー! 葉月ーーーッ!!」

すぐ近くから、植木の怒号が飛ぶ。1R開始から1分42秒、越花の放った右ストレートと相手選手の放った右ストレートが同時にヒット。
越花だけが身体を半回転させてキャンバスに叩きつけられる結果となった。お互いカウンターヒットしていたものの、パンチの当たり方の差が完全に出てしまったのだ。
リーチの差もあったかも知れない。

「フォー…」

そんな中、カウントは刻々と数え上げられていく。その時、



ピクッ!



越花の肩が震え、次いで右手がロープを引っ掴むのが見えた。

「よーし! いいぞ……そのまま立つんだ」

植木は必死に声を掛け、越花に立ち上がるよう誘導を続けていく。が、カウンターのダメージは深刻のようで、起き上がろうとする意思をあざ笑うかのように一向に動く気配を見せない。

「ファイブ…シックス…セブン…」

無情に進むカウントの声。それはまるで、生き残る為に吊り下ろされた糸を、1本1本と断ち切っていく死神の鎌のような残酷さを孕んでいるように、ナミには思えた。



ググッ!



それでも越花は右腕に力を込め、ロープだけを頼りに立ち上がる努力を続けていく。

「エイト…」

右腕で下から2番目のロープを掴んだ体勢のまま、越花はその身体を起こそうともがく。

が、それが限界だった。

「ナイン…」



ダァンッ!



カウントが残り1つとなった時、遂に越花の全身から力が抜けた。ロープを掴んでいたその手が外れ、キャンバスに落ち軽くバウンドしていく。

「テン!」



カンカンカンカンカンカーンッ!



 レフェリーによる最後のカウントが読み上げられ、その後試合終了のゴングがけたたましく鳴り響く。虚ろな表情でそれを聞いた越花は、自分の負けを悟ったのか、ゆっくりと目を閉じていった。


「……いッ、…月……」


(誰かが私を呼んでる……もしかして、前野くんかな………)

靄(もや)の掛かったような曖昧な意識を、越花は薄く目を開ける事で鮮明にしていく。
より鮮明さを取り戻した中で、見えたものは無精髭を生やした精悍な顔つきの男性と、前髪を押さえるようにヘアバンドを着けているショートボブの少女。
それに、茶色がかったセミロングのタレ目がちな女の子の姿であった。

「先…生……?」

越花は覆い被さるように見下ろしてくる男性の名を呼び、身体を起こそうともがき始める。

「いいから、今は休んでろ」

越花が無理に身体を起こそうとする所へ、怒っているようにも諭しているようにも聞こえる声で男性……植木は制した。

「葉月選手、大丈夫ですか?」

先程の試合を担当していたレフェリーが、心配そうな表情で植木に訊ねてくる。必要なら担架を呼びますけど……という申し出に、「いえ、大丈夫です」と植木は辞退した。
目を覚まして優に2分弱の時間を費やし、ようやく越花は身体を起こしていく。
その間、彼女をKOたらしめた相手選手はというと、中々起き上がって来ない越花をオロオロした様子で覗いたりしていたのだが、ようやく起きてきたのを確認すると安堵の表情を浮かべ「大丈夫?」と声を掛けてきた。

「うん、大丈夫」と何とか答え、両者はレフェリーによる試合結果を告げられた後お互いの健闘を称えるように抱き合う。そんな越花の目から一筋の涙が流れていたのが、ナミには強く印象に残った。





「ただいま~……」

 肩にタオルを掛けられた越花が、幾分か消沈した声色で控え室へと戻ってきたのを部員たちは優しく迎えてくれた。

「えへへ。負けちゃった」

部員たちに心配をかけないよう努めて笑顔を見せると、由起に促されて長椅子に寝そべり目元をタオルで隠して貰う越花。今はそっとしておきましょう、とナミが気を遣い皆を移動させていく。

「とりあえず、越花の事は杉山さんと中森さんに看ていてもらうとして……」
ナミは、KOされた越花のケアを杉山 都亀と中森 陽子に任せ、自身は次に試合を控えるアンナの準備に取り掛かっていく事にした。

「アンナ、くれぐれも気を抜いちゃダメよ!」

「うん、分かった。越花ちゃんの分まで頑張らないとね」

ナミの指示に、素直にコクコクと頷くアンナ。どうやら越花の仇討ち、といった心境のようであった。

「光陵、城之内選手! 出番です」

係員の呼び出しにナミ、由起、アンナの3人が気合いを入れ控え室を出ていく。そんな3人の……特に気合いの入った様子のアンナを脇目に見ながら、最軽量の桜 順子は呟いた。

「アイツ、肩に力入り過ぎなきゃいいけど」



 セコンド陣に誘導され足を踏み入れたリング内は、やけに広く感じられる。勿論、急にリングが広くなるなど有り得る訳もなく、あくまでアンナの錯覚に過ぎない。
のだが、理屈ではなく彼女の感性がそう思わせていた。

「ここで闘えるんだ、私………」

光陵勢の中では1番後の出番だったからか、ライトに反射して光る汗の量が若干多いように見える。他の部員たちが試合している間も落ち着かず、控え室で1人アップを続けていたのだろう。
青のヘッドギアに覆われた、白い肌に赤みが差しているのが容易に分かる程にアンナは気分が高揚しているようだ。

「ただいまより、第1リングにてライト級1回戦、第2試合を行います。青コーナー……光陵高校、城之内選手!」

ウグイス嬢のアナウンスにより名前を呼ばれたアンナは、慌てた様子でリングの四方に礼をする。
赤コーナーの選手もコールされ、レフェリーによる注意事項の説明を受けていく。
それも済み、握手を交わすと両者はコーナーへと戻りゴングを待つのみとなった。





 一方その頃、青コーナーの控え室では都亀と陽子に付き添われる形で横になっていた越花が、モゾモゾと上体を起こし始めていた。

「寝てなくていいのかよ?」

それを見て、次の試合までの間をくつろいでいた柊が声を掛ける。

「うん。もう頭のくらくらも治まったから」

越花は笑顔で柊に答え、心配してくれてありがとう、と付け加えた。そっか……と一言だけ呟き、柊は越花の隣へ来ると長椅子にドッカリと腰掛けた。
時に“日本人形”とまで称される程の麗しい外見と、それに反比例した言動・行動のギャップによく周囲へショックを与える彼女だが、今回もそれは健在だった。
よいしょ、と一声、長椅子に胡坐(あぐら)をかき始めたのである。

「た、高頭さん……」

さすがに誰もが認める美少女の胡坐姿を見兼ねたのか、陽子が淡い栗色の髪を指で掻き揚げながら指摘してくる。が、

「いいじゃねーか。気にすんなって」

当人はそんな指摘などどこ吹く風であった。

「そういえば順子ちゃんは?」

1人いる筈の部員が視界に入ってこない事に気付いた越花が、あられもない姿で隣に座る柊に所在の確認をする。

「ああ、そういや見ねーな。どこに行ったんだ? アイツ」

あまり興味無さげに越花に同調し、柊はキョロキョロと周りを見回す。越花の額に乗せていたタオルを片付けていた都亀が、2人の様子に気付くと

「桜さんならおトイレに行ったよ」

唯一所在を知っていたらしく、皆に伝えた。その後ちょっと城之内さんの様子も見に行ってくる、と言っていたと付け加えて。



「そういや……そろそろ試合、終わってもいい頃か?」

 越花が起きてきた事で、そちらに話が逸れてしまった為に時間は見ていなかったが、アンナたちが出ていってから10分は経過しただろうか。
アマチュア女子の試合は基本的に1R2分の3R制で行われる為、1試合に掛かる時間は意外に短い。

「そうだね。もう終わったかなぁ?」

越花たちの憶測とは少し異なり、アンナの試合は未だ2R終盤だった。試合開始後少し経ってから、対戦相手側のグローブを固定するテーピングが外れ巻き直すのに時間が掛かってしまった為、タイムロスをしていたのである。

そして今……



ズドォッ!



右の鼻孔から一筋の紅いラインを引いたアンナの、右のボディーアッパーが対戦相手の腹を深々と抉っていた。

「かはぁッ」

スタミナも減り、息の苦しい時にこの1発。対戦相手は目を大きく見開き、脂汗を浮かべながら肺の中の空気を強制的に吐き出さざるを得なくなり一気に酸素が枯渇する。
ぷるぷると両膝が震え、身体をくの字にしてダウンするのを拒絶するだけで精一杯、といった風体だった。

「ストップ!」

その様子を見たレフェリーは試合を一旦中断し、スタンディングダウンを宣告。アンナをニュートラルコーナーへ退がるよう促した。

「ハァ、ハァ……」

息を切らせながら鼻をグイッとグローブで拭いつつ、アンナはレフェリーの指示通りニュートラルコーナーへと歩いていく。
その後ろで、対戦相手は耐え切れずにダンッ! と四つん這いの格好にダウンしてしまっていた。
ニュートラルコーナーに着いてからもグローブで鼻を拭ってみたものの、またもツツ……と右の鼻孔から血が流れてくる。かなり深く切れているらしい。
何度拭ってみても同じ事の繰り返しになるので、もういいや……と放置しておく事にした。

「フォー…ファイブ…」

カウントが進行していく中、対戦相手は未だ四つん這いの状態から起き上がる事さえ出来ずにいる。

「シックス…セブン…エイト…」

ここでようやく膝を持ち上げ、身体を起こしていく。だが、不幸にも起こしかけていた身体のバランスが崩れ横倒しに倒れてしまった。

「ナイン…テン!」

第2R1分35秒、無情にも最後のカウントが宣告されるのだった。





「勝ったわよ! 城之内」

 控え室へ戻るなり、順子は第一声でアンナの勝利を告げる。

「勝ったんだ! 良かったぁ」

その報を受け、越花は喜びの声を上げる。他の部員たちも、戦勝報告にそれぞれ歓喜の言葉を交し合っていた。少しして、「ただいまー」と控え室に戻ってきたアンナは、疲れたとばかりに近くの長椅子へと座り込んでいく。

白い肌のあちこちが赤くなっており、右目の瞼も少し腫れているように見える。金色の髪には珠の汗が絡まり、濡れそぼっていた。
パッと見ると激しい試合であったように思える外見ではあったが、本人はそんな素振りを見せる事もなく普段の人懐っこい笑顔を覗かせていた。

「さて、城之内さん。手当てしましょうか」

由起が応急処置の準備を終え、アンナを呼びつける。その間、ナミは各階級の試合結果を皆に簡単に説明していく。
そんな中、無視を決め込むにはあまりにも衝撃的な結果が混じっている事に、柊は一瞬我が耳を疑う思いであった。

「麗美が……負けた!?」

ライト・フライ級1回戦、第1試合。都和泉(みやこいずみ)高校の中国人留学生、曹 麗美(ツァオ リーメイ)が、判定負けで姿を消した……というのである。
先の練習試合に於いて、麗美のスピードは非常に厄介だとナミは直感し今回に関しても要注意選手として挙げていたのだが……

「そっか。負けちまったか、アイツ」

闘う可能性のあった柊は、それだけを言うと負けたものは仕方ないといった態度を取りながら長椅子から立ち上がる。そして、控え室の隅で次の試合に向けアップを始めた。

「柊……」

ナミは、自分が警戒心を抱かせる程の麗美に勝った相手の事に関しての資料を、由起に頼んで見せて貰う事にした。
セコンドとして出来る限りのサポートをする……そう誓ったからには、些細な事でも全力でしよう! そう思うのだった。





to be continued……
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チャパロット

Author:チャパロット
基本的に携帯サイトで書かせて頂いているもののリメイク(?)ですが、ちょくちょく文を変更してたりします(あと拙いですが自作絵なども)。
何かある方は、ckcwb305あっとまーくsutv.zaq.ne.jpにご連絡下さい。

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