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第31話

 今更ですが、新年明けましておめでとうございます。拙文及び絵のブログではありますが、これからもよろしくお願いします。

さて、では早速第31話です。

新人戦の当日。総合体育館へと向かう光陵高校女子ボクシング部。そんなナミの前に、洛西高校の樋口 静留が立ちはだかる……




 神奈川県主催、高等学校ボクシング新人戦当日。減量の失敗により大会への出場を棄権しなければならなくなった、光陵高校女子ボクシング部主将・下司 ナミ。
そんなナミの前に、1人の女子高生が道を遮るかのように立ちはだかっていた。


樋口 静留(ひぐち しずる)


洛西(らくせい)高校一年、フライ級の出場者である。

「樋口さん……」

ナミは、そんな立ちはだかる静留の姿に言葉を続ける事が出来なくなっていた。静留は、怒りとも悲しみとも、或いは失望とも取れる複雑な表情を見せていたからだ。

「なんで……」

微かに肩を振るわせつつ、ふと静留が口を開く。

「え?」

よく聞き取れなかった為、思わず聞き返すナミ。

「なんでエントリーしていないの……? 貴女」

下を俯き、肩を震わせたまま静留はナミに問い掛ける。

「そ、それは………」

静留の問いに、ナミは答える事が出来ず押し黙った。減量に失敗してリミットオーバーした……などと説明しても、ただの言い訳にしかならないから。
ナミが何かを言おうとして押し黙ってしまった事は、静留にとって更に神経を逆撫でするだけの効果でしかなかった。



ガッ!



静留は俯いていた顔を上げると、ナミの胸ぐらを左手で乱暴気味に掴む。

「あんた、私との約束はどうなるのよ! あんたとの試合を楽しみにしてた、私のこの気持ちはどうしてくれるのよ!!」

そして、その心中を思うさまナミに叩きつけるかのように吐露し始めた。

「樋口さん……」

今のナミには、そう答えるのがやっとであった。申し訳ない……その思いだけが頭の中を駆け巡る。

「出られない事情でもあった訳? 私と会った1週間の間に」

「ゴメン。試合、楽しみにしてるってわたしから言い出した事なのに」

ここは下手に言い訳せず、ただ謝ろう。ナミはそう考えていた。もし殴りたいなら、殴ってくれても構わない。約束を破ってしまったのは誰でもない、自分自身なのだから……が、静留はどうしても納得がいかない様子でナミを睨みつけるだけであった。


 そんな緊迫した雰囲気が周囲を包む中、

「ねえ、もうやめたらどうなの?」

クラブ仲間の桜 順子が、ナミの胸ぐらを掴んでいる静留の左手を思い切り握り、力任せに引き離した。

「くッ」

握られた左手首に伝わってくる圧力が予想外に強かったのか、思わず顔をしかめてしまった静留は反動を使って順子の手を振りほどく。

「さっきから黙って聞いてたら好き放題言ってさ。ナミだって、好きで出場を辞退した訳じゃないってのよ! 風邪を引いて減量に失敗しただけで、顧問命令で棄権するしかなかったんだから!」

手を振りほどかれた事には露にも動揺せず、順子は静留へと一気に捲し立てる。

「ちょ、順子ッ」



言ってしまった……



言い訳にしかならないから、敢えて言わなかった事を。風邪を引いたせいで減量に失敗して、やむなく棄権した事を。正直、ナミにしてみれば余計なお世話だったのだが口には出さなかった。
順子はナミの為を思って言ってくれた事だと分かっていたから。

「………」

一方、順子に捲し立てられた形の静留はというと、先程の剣幕はどこへやら急に黙り込んでしまっていた。形の良いアゴに指を添えるその姿は、何かを思い出そうとしているようにも見える。

そうして黙る事数秒、

「ああ……そういえば、私との再会の握手をした時、貴女少し顔が赤かったわね?」

思い当たる節があったらしく、そうかそうか……と1人で納得する静留。

「悪かったわね、下司さん。変に取り乱して当り散らすような真似をして……」

今し方までの態度とは打って変わって、静留は身を正すとナミを含めた光陵女子ボクシング部全員に対して頭を下げ謝罪した。騒がせた事への、彼女なりの謝罪なのだろう。そんな静留の姿を見て、

「あ、頭を上げてよ樋口さん」

ナミは慌てて頭を上げるよう促していく。

「今回は縁がなかったけど、夏のI・Hには必ず出場するわ。だから……」

「分かったわ。その時まで、貴女へのリベンジはお預けにしておいてあげる」

今度こそ約束は守りなさいよ、と付け加えナミと静留は約束の握手を交わすのだった。



 静留が洛西の一団の中に紛れていくのを確認すると、ナミたちは再び体育館へと歩き始めていく。

「なぁ下司。なんでアイツに理由を説明しなかったんだよ?」

歩いている最中、ふと後ろを歩いていた柊がナミに問い掛ける。

「多分、あんな状態の樋口さんになにを言っても逆上させるだけのような気がしたのよ。だからなにも言わなかった……それだけよ」

「そっか」

柊は、ナミの物言いに何か引っ掛かるものを感じたが、深く追求するのは止めておく事にした。他の部員たちも皆一様に黙って歩く中、ナミの本心に気付いていたのは先頭を歩く植木だけだったのではないか?

(何を言っても、言い訳にしかならない。プライドに賭けても言い訳なんかしたくない……そんなトコなんだろ?)

その潔さとプライドの高さは、植木にとって好ましいものだったが今回だけは素直に喜べそうにない。そんなナミを棄権させたのは、他ならぬ自分なのだから。


ならば、俺のやるべき事は……夏のI・Hへ向けて万全の状態で臨ませてやる事だ!


そう、植木は密かに誓うのだった。


 思わぬ静留の乱入などで予定より時間を取ったものの、光陵女子ボクシング部は無事に総合体育館へと到着した。

「受付に行ってくるから待ってて」

一同を代表し、由起が受付へと向かう。暫くすると、

「お待たせ。会場に入りましょうかか」

受付を済ませた由起が部員たちに会場入りを促した。会場内に足を踏み入れると、さながら一気に別世界へと迷い込んだような、そんな錯覚を起こしそうになった。

それ程に、外との温度差が激しかったのである。

気温が……という意味では、勿論ない。観客席に集まる人だかりと、その人々から発せられる熱気。既に到着していた他の出場選手たちから迸る、「絶対勝つぞッ」といった気迫。
そういった多種多様なものが入り混じった、一種異様を内包した空間なのだ。外の世界ではまず味わえない感覚であろう。

「私たち、ここで試合するんだね!」

越花が、会場内に設置された四方を4本のロープで囲まれたリングを見ながら、やや興奮気味に話す。

「こんな、人が見てる所で情けない姿だけは晒したくないわね」

越花とは逆に、順子は少し緊張している様子である。それぞれが胸に思いを抱く中、植木は選手用に宛がわれた更衣室へと皆を誘導し、

「俺は外で待ってるから、着替え終わったら出てこいよ」

部員たちを更衣室に放り込んだ。中に入ると各高校の出場選手たちが、ある者は周りの目を気にしながら、またある者は憚(はばか)る事無く堂々と、思い思いに着替えていた。
中には、既に着替え終えてシャドーボクシングをしている者さえいる。

「さぁ、わたしたちも着替えるわよ」

ナミの号令一下、各々持参のスポーツバッグから試合用のコスチュームを取り出し着替え始めた。この大会の為に、学校が急遽拵(こしら)えた物だ。



 全員が着替え終わり、外で待機していた植木と合流すると開会式を行う広場へと向かった。

「……という訳で、皆さんスポーツマンシップに則(のっと)った、素晴らしい試合をして下さい」

新人戦の主催であるアマチュアボクシング委員会の役員からの挨拶も終わり、それぞれ自分たちの持ち場へと散らばっていく。いよいよ、新人戦の火蓋が切って落とされた。

元々、神奈川県内のみの大会の上に参加人数も各階級に最大8人と定められている為、1日の内に全試合を消化する事になる。従って、優勝するには実に3試合をこなす必要があるのだ。

「えーっと……」

ナミは、今日のプログラム表を開き光陵高校の試合を探す。

「あった! 第2リングで今やってる試合の次に順子の出番ね」

各階級ごとに、第1~第4まであるリングを往復する事になる為、どこでどの選手が試合をするのか把握しておく必要がありそうだった。

多数の高校から出場する選手たちが雑多に集められた青コーナー側控え室の中、青いヘッドギアとグローブを装着した順子は、幾分か緊張した面持ちで深呼吸を繰り返していく。
周りには、同じように緊張している者や既に試合を終えて勝利に歓喜している者、また悔し涙を流しながらトレーナーにタオルを掛けて貰っている者など、実に様々な人間模様が広がっていた。

「順子、気を抜かず練習通りにやれば勝てるから。自信を持って!」

長椅子に腰掛けている順子を、ナミは落ち着かせるように声を掛けつつ今までやってきた練習の数々を頭の中で反復させていく。かつて、中学時代にナミが顧問から同じ事を言われ、試合中の奮起材料となった事は忘れていない。
それを、今度は順子に実践しているのである。順子は、ナミに言われるまま繰り返し行ってきた練習の数々を思い返し、その苦しさに思わず眉をすぼめた。

何度挫けそうになった事だろう。
何度胃の中の物を全て吐き出した事だろう。

でも、その度に励ましてくれるナミや先生、仲間たち、そして……今は遠く広島の地にいる久美子への誓いが、今の順子を支えてくれていた。

そこまでしておきながら、軽々しく負けるなど許されない。許される筈がない。



勝つ! 絶対に勝つ!!



そう思わせる何かが、ナミの言葉には含まれているようであった。

「光陵、桜選手! 時間です」

良い感じにボルテージが上がってきた所で、係員からの呼び出しが入る。



バスンッ!



順子は両手を覆っているグローブを思い切り打ち付けると、勢い良く立ち上がり試合会場へと向かっていった。

「下司のヤツ、相手を乗せるの上手いよな」

順子、ナミ、由起がいなくなった控え室で、試合の出番まで待機中の柊が他の部員たちを相手に冗談混じりの話題を振る。それを聞き、アンナや越花からは苦笑する姿が見え多少なりとも緊張がほぐれたようにも見えた。





暫くすると、控え室のドアが開き順子たちが帰還する。少し腫れているものの、その表情は明るい。次にコマを進める事が出来たであろう事は容易に想像がついた。
順子の初勝利と1回戦突破を祝うように、部員たちが順子の周りに集まる。

「やったね! 順子ちゃん」

越花が、我が事のように喜びながら順子に抱きつく。まるでもう優勝でもしたかのようなお祭り騒ぎであったが、

「桜さん、先に手当てをしないと次に響くわよ」

と由起に促され、マネージャーの陽子と共に試合後のケアを受けるべく試合前に座っていた長椅子に腰を下ろしていった。


「さて……柊、そろそろ準備するわよ。こっちに来て」

 順子が治療を受ける間、次に試合を控えた柊にヘッドギアとグローブを着けるべくナミが呼びつける。「ああ」とだけ答え、柊は近くにあったパイプ椅子を適当にセットするとその上に無造作に腰掛けた。
その柊と向かい合う形で片膝を付き、ナミは柊の左手をスッと引き寄せる。傍から見れば、女王の手の甲にくちづけし忠誠を誓う中世の騎士を思わせる構図とも取れそうだ。
が、実際にくちづけをするような事は勿論なく、バンテージで無骨に固められた肌理細やかなその手に不似合いのグローブを嵌める作業を淡々とこなしていく。

「アンタの1回戦の相手だけど……」

そんな作業の中、ナミは初戦の相手に関する詳細を己の記憶している限り伝え始めた。

「品森(しなもり)高校女子ボクシング同好会の、弥栄(やさか)千恵子よ」

柊はグローブを着けて貰っている間、無言でその作業を見つめながらナミの声に耳を傾けていた。が、高校名と対戦相手の名前以外に何も言わなくなった事に対して、

「で? どんな相手なんだよ」

つい訊ねていた。

「さぁ……? それ以外の資料がなかったのよ」

ナミは淡々と答え、黙々とグローブにテーピングを施していく。

「……………」

あまりの杜撰さに、柊は思わず過剰ともいえるぐらい綺麗に整った顔をしかめてナミの方を見た。柊のその顔に気付いたナミは、

「しょうがないでしょ? ホントに他はなにも書いてないんだから!」

ほれ! とテーピング作業を一旦止め弥栄に関する資料をこれでもかと見せ付ける。そこには高校名と選手名、それと本人と思わしきバストアップ写真が添えられているだけであった。

写真に写る少女はシニヨンに纏め上げた髪が映え、もの優しげな表情を浮かべたその顔は均整の取れたパーツで構成されている。実に愛らしくとてもボクシングをするような雰囲気には見えなかった。

「………」
「………」

資料を見る柊と見せるナミ。沈黙する2人。

「何やってるの? 2人して」

お互いの顔を見合わせながら、どこからツッコむべきか分からず沈黙を守っていると資料の作成者が順子の治療を終えてやってきた。

「センパイ、オレの1回戦の相手……弥栄ってヤツのデータがないんだけど?」

別段どうしても欲しい訳ではないが、無ければ無いで逆に気になるというものである。

ああそれ? と由起はナミから資料を受け取る。脇から覗き込んだアンナが「わ、可愛い子」などとのたまっているのを思い切り無視しつつ、

「特に記載するような特徴がなかったから書かなかっただけなんだけど」

しれっとした表情で由起は弥栄の評を下してみせた。

「じゃあ、備考欄に書いてあった“アイドル”ってのはなに?」

「彼女、通ってる学校でアイドルみたいな扱いを受けてるみたいなのよ。本人は至って不満みたいだけど」

由起は陽子からヘッドギアを受け取り、柊の後ろへ回り装着しながら答えていく。

(アイドル、か……)

柊は、この時少しだけまだ見ぬ弥栄という少女に同情する思いであった。写真を見る限り、確かにとびきりの美少女である。自分が言うのも何だが、何故ボクシングをしているのか分からない程に。


望まない特別扱いというものは、詰まる所周りに都合の良い犠牲の羊や人身御供とそう変わらないのではないか?


柊はそう思う。

「光陵、高頭選手! 出番です」

柊が、今から闘う事になる弥栄の境遇に対し思いを馳せている所へ係員から出番を告げられ、

「あ、はい」

と小さく答えていた。いつの間にか、ヘッドギアの装着も済んでいた。紐の隙間などに一切髪を挟んでいなかった事に、こっそり感心してしまう。


「それじゃ行こうか」

 ポンッとナミに肩を叩かれ、柊は「ああ」と短く答えるとパイプ椅子から立ち上がった。

(知りもしないヤツの事をあれこれ考えるなんて、ガラじゃねーよな……)

フフッと軽く苦笑すると、植木と由起に促され試合会場へと歩を進めていく。部員たちの声援を背に受けながら。



ワァァァァーーッ!



通路を通り抜け、眩いばかりに光の差すリングを眼前に視認するや、周囲の観客席から大きな波に全身を打ち付けられるような気がした。

「柊、緊張してない?」

その波を受け、ナミが後ろから肩を掴み気遣うように声を掛ける。

「別に。気にすんなって」

言葉の通り、不思議と落ち着いた気分だった。元々緊張などとはあまり縁の無い人間なのかも知れない。植木が身体を使ってロープを広げ、柊にリングインするよう誘導する。

「さ、やるか」

シューズに充分滑り止めを染み込ませ、柊は無数の光に照らされたリングの上へと踏み出していくのであった。





to be continued……
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チャパロット

Author:チャパロット
基本的に携帯サイトで書かせて頂いているもののリメイク(?)ですが、ちょくちょく文を変更してたりします(あと拙いですが自作絵なども)。
何かある方は、ckcwb305あっとまーくsutv.zaq.ne.jpにご連絡下さい。

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