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第30話

 第30話です。いつも読んで下さっている方々、並びにコメントを下さっている方々に、この場を借りてお礼申し上げます。

ナミを欠いた状態で、光陵高校女子ボクシング部の新人戦が始まる。それぞれの階級に出場する部員たちを待ち受ける、強豪選手の数々。セコンドという立場から、ナミは何を感じ取るのか……?





 神奈川県・高等学校ボクシング新人戦。神奈川県で独自に行われる、新一年生のみを対象とした大会である。通常、競技出場を目的としてボクシングを始めた者は、夏の高校総体……いわゆるI・H(インターハイ)に焦点を合わせた練習を積む為、この大会に出る者は数少ない。
というより、どこの学校もまだ入部したてで身体的にも技術的にも未熟な新入部員を出すような事は普通しない。

そういった事情もあり、この大会には高校以前から実績を残している経験者や、よほどの腕自慢ばかりがこぞって出場してくる。つまり、選りすぐりの強者が出場してくる、新人とは名ばかりのレベルの高い大会となるのだ。

出場者の大半が、自然と来たるべき夏のI・Hの為に実戦を肌で感じておこうという者たちで溢れる事となる。そんな大会に出場するべく、光陵高校女子ボクシング部は開催地である総合体育館へと出陣していた。


 今回、光陵高校から出場する選手は、

・桜 順子(ピン級)
・高頭 柊(ライト・フライ級)
・葉月 越花(フェザー級)
・城之内 アンナ(ライト級)

の4名である。

主将である下司 ナミは、本来ならフライ級での出場を予定していたものの直前に風邪を引いてしまい、挙句減量にも失敗。今回はセコンドの大内山 由起をサポートする運びとなっていた。
ちなみに、新人戦への出場に際して柊は最後まで渋っていたものの、植木の説得によりやむなく出場させられるよう上手く誘導されていた。



本人は至って不満そうではあったが……



 体育館に到着するまでの間、のどかに揺れる電車内でナミはそれぞれの部員たちにナミと由起で集めたデータを基に挙げられた、各階級の要注意選手の名前を伝えていた。

「いい? とりあえず順子のピン級にはこれといった選手はいないけど、アンタも似たようなものなんだから絶対に気は抜かないで」

傍から聞いていると、まるで注意を喚起しているのか、それともけなしているのか分からない指示である。

「分かってるわよ。練習通りにやればいいんでしょ?」

指示を受けていた順子は少しムスッとした表情を見せながら答える。どうやらけなされていると捉えたようだ。そして、

「次に久美子さんに会うまでに、あたしももっともっと強くならないといけないからね……」

闘志の宿った瞳を流れる景色へと向け、独り言のように呟いた。その様子を見たナミは、

(いい感じで気合い入ってるじゃない)

微かに微笑みながら、順子の肩を軽く叩いてやる。

「次にフェザー級だけど、ヤバいのは天命館(てんみょうかん)高校の三井 夏希(みつい なつき)ぐらいよ。ただ、アンタも順子と同様に最後まで気を抜かない事」

そう指示しているものの、座席に座った越花からは首を軽く前後に揺らすばかりで全く返事が返ってこない。肩甲骨ぐらいまで伸びた、しっとりとした黒い髪が陽の光を受けて一層煌いて見える。

「………」

越花の雰囲気に嫌な予感がしたナミは、恐る恐る越花の顔を覗き見た。

「zzz」

(やっぱり……)

心地の良い陽光に照らされ、越花は居眠りをしていたのである。


 正直、ナミは呆れよりも感心の方が先に立ってしまった。これからそれなりに大きな会場で、しかも初めての公式戦に挑もうという人間が、よりによって居眠りしているのだ。

(この娘……神経が図太いんだか、ただ分かってないだけなんだか……)

本来なら大した度胸と褒めてやりたい所だが、せっかくの指示を台無しにされたのには腹が立つ。ナミは右手にハァーーッと息を吹きかけ、そのままスッと上へと引き上げると、



スパァァンッ!



打ち下ろすように、越花の頭を思い切りはたいてやった。

「ッ……………!?」

その衝撃で越花は一気に覚醒し、それに伴い頭部から伝わってくる痛みを両手で抑えながら周りをキョロキョロと見回す。何が起こったのか、全く分かっていない様子であった。その様子を見ていた他の部員たちから、くすくすと苦笑が漏れる。

「え……え?」

やはり1人だけ分からない風の表情を見せる越花。

「おはよう、越花。どんな夢を見てたのかな?」

ナミは努めて笑顔で越花に訊ねてみる。もし妙な事を言ったら、即“2発目”を見舞うつもりであった。

「え、えっとぉ。新人戦で優勝したら、前野くんがキスしてくれる、って……」



スパァァンッ!



早くも2度目のツッコミが天然娘の頭に炸裂する。実に良い音が、車内に響き渡っていた。

「ア、アンタねぇ………」

こんな盛大な寝ぼけ台詞を、ナミはこの15年間耳にした事がない。今度は呆れや感心を光の速さで通り越して、今や怒りの領域へと到達していた。その証拠に、こめかみ辺りの筋肉がヒクヒクとしきりに動いているのが見て取れた。

「い、痛い。冗談なのにぃ」

2撃目をキレイに貰った越花は、ヒリヒリとした痛みで涙目になりながら頭を擦る。

「ふふ、結構余裕あるんだね。葉月さん」

そんな光景を目の当たりにし、杉山 都亀は“美少年”のような笑顔を見せていた。面長の顔に、くっきりと筋の通った鼻。綺麗に切り揃えられたボーイッシュショートの髪が、都亀の容姿をより中性的に加味しているようである。

「都亀、笑っちゃダメよ」

笑顔を見せる都亀の横、今日の試合で使用する道具の入ったバッグを抱えているマネージャーの中森 陽子が親友を諫めた。肩ぐらいまで伸びた栗色の髪を微かに揺らし、細い眉をしかめている。色白の肌が、どこか儚げな少女を連想させた。
美貌、という点では柊には及ばないものの、見た目通りの柔らかい物腰はやはり万人受けするものだろう。

「下司さんも、その辺にしてあげたら?」

座席に座り独自で作成した資料に目を通しながら、今日のセコンドを努める由起が越花に助け舟を出してやった。外出時にはいつも着けているという、布製のヘアバンドをクイッと前髪を押さえるように下げ資料に注視していた目線を越花の方へと向ける。

「下手にアガッてしまってるより、よっぽど頼もしいとは思わない?」

ニヤリといやらしさを含んだ笑みを浮かべ、由起はナミの方を見やった。そんな腹に一物を持った人を地でいくような笑みを見せられると、

「ま、まぁそうですけど……」

としか返答のしようがない。どうにも反論する気にはなれなかった。



 気を取り直し、ナミは続けて柊のライト・フライ級へと話を移していく。

「さて、話を戻すわよ。柊の出るライト・フライ級だけど」

ここで、今まで以上に厳しい顔を見せるナミ。やはり、元々は自分が出場するつもりでいた階級であった為か自然と表情に出てしまうのも、仕方のない事と言えた。

「わたしが見た中での要注意人物は……都和泉高校の曹 麗美(ツァオ リーメイ)と三笠(みかさ)女子高校の獅堂(しどう)きららの2人ね」

「きらら? 随分変わった名前だよな」

右手で電車の吊り革を握っている柊が、たった一言だけの感想を漏らす。

「名前に関しては、正直親の感性を疑うけど……でも、実力は筋金入りよ」

名前で判断しては駄目……と釘を刺し、由起は手元に持っていた資料を柊に渡す。仕方なく渡された資料に目を通すと、そこには文字やグラフ、その他諸々、獅堂 きららに関する詳細がぎっしりと記載されていた。

(うわッ、なんだこれ?)

そのあまりの情報量に、げんなりとした表情を隠そうともせず由起へと返答する。

「先輩。これ……全部目を通さないと、ダメ?」

きららに関する資料を渡し手持ち無沙汰になった由起は、また別の資料をバッグから取り出しつつ

「ん? ファイトスタイルと戦法のページくらいだけでいいわよ。スリーサイズや趣味なんか見ても、別に楽しくもなんともないでしょ?」

柊の方には目もくれず、実にあっけらかんと必要なページだけを読んでおくよう伝えた。ホッと胸を撫で下ろし、柊は由起の指示に従い必要そうなページだけに目を通し始めていく。

そんな中、聞き覚えのない単語が幾つか記載されている事に気付き、柊は植木に声を掛ける事にした。


「なぁ先生。“ヒットマン・スタイル”ってなに?」

 両腕を組み、座席で電車の揺れを密かに楽しんでいた植木は、可愛い教え子の疑問を解消してやるべく意識を柊の方へと移す。

「ああ、“ヒットマン・スタイル”ってのはな。右利きの場合は左腕を腰ぐらいまで下げて、振り子のように左右に揺らしながら構える独特のスタイルなんだよ」

植木が、ヒットマン・スタイルについて動作を交えつつ説明していると隣からナミが横槍を入れてきた。

「獅堂さんの1番厄介な所は、“フリッカージャブ”の使い手って事ね。アレには本ッ当に手を焼かされたわ」

「ふりっかーじゃぶ? つーかお前、コイツと闘(や)った事あんのかよ!?」

柊は、そういう事は先に言え! と言わんばかりにナミへと食いつく。その表情は、「こんなの読まされた時間を返せ!」とでも言っているようであった。

だが、当のナミはそんな柊の心情などお構いなしに、

「U-15の神奈川県予選、決勝でね。いやぁ強かったわよ、彼女」

などとのたまいながら社内窓の外へ遠い目を向けていた。

「で……その“フリッカージャブ”ってどんなの?」

隣で遠い日の住人と化したナミを放っておく決意を固め、柊は植木へ次なる質問をする。

「下げた腕を振り子のように振るのは言ったな? その状態から繰り出すジャブの事だ。通常、ジャブは腕を折り畳んで拳を顔の前で構えた状態から打つ。つまり“直線”の動きなんだが……」

ここで一旦話を切り、資料に目を通すよう促す。言われたまま資料に目を向けた柊は“フリッカージャブ”についての詳細を見つけた。

「……なるほど。コイツは振り子の動きでフェイント効果を狙いつつ下から飛んでくるジャブって事か」

理論的に理解した柊は、

(確かに鬱陶しいパンチだよな)

手を焼かされたというナミの意見に同意するのだった。


 柊が鬱陶しいパンチと称したフリッカージャブ。これは、『軌道が読みにくい』パンチである事を指していた。植木の言う通り、通常のジャブは“直線”の動きなのに対し、フリッカージャブは“下から変化する”パンチなのだ。
しかも、鞭のように腕をしならせて打つパンチ故に威力も普通のジャブにひけを取らない。最も厄介なのは、獅堂 きららがそのパンチを完全にモノにしている……という事実であろう。

植木曰く

「そいつの親父さんの獅堂 孝次郎(こうじろう)氏が、かつてそのスタイルで世界を獲った」

との事。実の父親に仕込まれた、世界を獲ったフリッカージャブ……鬱陶しくない訳がない。

(ま、オレがそこまで残ってるとも限らねーし。もし当たったら、その時はその時だ)

いつまでも考えていても仕方がない、とばかりに柊は資料から目を離した。



「さて、最後にアンナのライト級なんだけど」

 いつの間にか現実世界へ戻ってきていたナミが、アンナに話を振る。

「ここは2人いるわよ。洛西(らくせい)高校の武田 頼子(たけだ よりこ)と、湘南大附属高校の馬剃 佐羽(ばそり さわ)。ちなみに、馬剃さんはわたしのジムメイトね」

ナミは要注意選手の名前を挙げ、資料をアンナへと手渡す。

「まず、洛西の武田さんはわたしによく似たラッシュタイプのボクサーよ。攻めてる時は凄く厄介だけど、守りに入ったらてんでボロボロ。ま、そこがわたしとの最大の違いね」

えへん、とナミはまだ発達途上の胸を反らす。

(………)

そのナミの胸をまじまじと見ながら、アンナは次いで発育の宜しくない自分の胸を触ってみる。まだ許容範囲内と取ったのだろう、どこか安堵した表情を見せていた。

「次に湘南大附属の馬剃さんだけど……」

佐羽の名前を出した辺りで、ナミは顔を強張らせる。それは、残酷な事実を突きつけなければならない……そういった、緊張した面持ちであった。

「今の私じゃ勝てない……?」

その表情を見て、アンナはナミの言わんとしている事を何となしに察した。

「アンナ……」

今まさに伝えるべきか躊躇していた事を先に言われてしまい、ナミは返答に詰まらせ苦し紛れに「ふぅ」と軽く溜息を吐く。

「正直言って、“今の”アンタじゃラッキーパンチでも当たらない限り、勝ち目はないわ」

数秒の沈黙の後、観念したようにナミは強張った表情を崩さないままありのままを伝える事にした。伝えようが伝えまいが、勝ち上がっていけばいずれはぶつかる相手なのだ。
現段階に於いて、アンナが佐羽に勝っている部分は……全くといっていい程ない。が、それを少しでも埋められるようサポートに徹しよう。そう、ナミは心の中で誓うのだった。

「そっか。ラッキーパンチが当たれば私にも勝てる可能性はあるんだね?」

そんな誓いをよそに、アンナは碧い瞳をギラギラに輝かせ嬉しそうにナミの方を見つめていた。



闘ってみたいな



とでも言いたげな顔である。

「アンナ……そうね、当ててやろうじゃない。ラッキーパンチ、ってヤツを!」





 そうこうしている内に、部員たちを乗せた電車が目的地へと到着した。ここから数分歩いた所に、今日の戦場となる総合体育館は存在する。皆が歩いている街中の掲示板などには、今日の新人戦を告知するポスターが貼られていた。

体育館に近付くにつれ、少しずつ会話がなくなっていく。やはり、初めての公式戦をするのだ。緊張するなという方が無理というものだろう。そして、減っていく口数と反比例するように周囲は少しずつ喧騒に包まれていく。

周りには、チラホラと同じ目的で集まるライバル校の一団が同じ場所へ向かって歩いているのが見て取れた。
そんなライバル校たちの中に、ナミは見知った制服を着た一団を発見し眉を潜める。洛西高校の一団であった。どうやら先方も光陵高校に気付いたらしく、それぞれが警戒や観察の視線を向けてきた。

「下司ッ!」

そんな一団の中から、ナミに向かって歩いてくる者が1人。


樋口 静留(ひぐち しずる)であった……





to be continued……
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Author:チャパロット
基本的に携帯サイトで書かせて頂いているもののリメイク(?)ですが、ちょくちょく文を変更してたりします(あと拙いですが自作絵なども)。
何かある方は、ckcwb305あっとまーくsutv.zaq.ne.jpにご連絡下さい。

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