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第27話

 第27話です。

心と久野の勝負、その最終第3R中盤。一瞬の逡巡を突かれ、久野のアッパーで完璧にアゴを打ち抜かれてしまった心。衝撃で血塗れのマウスピースを吐き出してしまい……




 蛍光灯の光が瞼越しに網膜を刺激した為か、知念 心はゆっくりと目を開けた。まだ少しぼやける視界に映ったのは光に反射して輝く金色の髪。そして、憂いの色を宿しながら見つめてくる碧い瞳。

「あ、知念さん気がついた?」

心が目を開けた事に気付いた金髪碧眼の少女……イタリアンハーフの城之内 アンナが、先生ーッ! と大きな声で誰かを呼びつける。アンナが呼びつけている間、当の心はというと自分の今の状況を確認・整理していた。


 とりあえず、つい今までリング上で寝かされていたようだ。今しがたまで空手部主将・東 久野とボクシングの勝負をしていた筈……なのだが、自分が寝かされていたという状況から察するに、既に試合は終わっているらしい。
気付けばヘッドギアとグローブも外されているようで、ご丁寧にシューズまで脱がされていた。

少しして、無精髭を生やした精悍な顔つきの男が心の側まで歩み寄り、片膝をつく。間近で見ると、服の上からでも鍛えられた筋肉が見て取れた。

女子ボクシング部顧問・植木 四五郎であった。

「大丈夫か? 知念」

植木は寝かされたままの心に、優しく声を掛けてくる。

「……はい。特には」

実際顔や腹、腕などに痛みはあるのだが、これは殴られれば嫌でも出現するものだ。中学の頃、ボクシングで試合した日にはほぼ確実に出ていた症状なだけあって、この程度は別にどうという事もなかった。
決して強がりで言った言葉ではない。恐らく植木が訊いているのも、そんな話ではないだろう。要は、

骨に異常はないか?
頭がクラクラして吐き気が襲ってきてはいないか?

そういった事を訊いているのである。

「そうか。とりあえずはもう少しこのまま安静にしてろ。城之内を側に付けとくから、なにかあったらコイツに言えよ」

大事がない事にひとまず安堵しつつ、そう言うと植木はアンナに後を任せ部室を出ていってしまった。



「………」
「………」

 リング上に2人きり、特に何かを話すでもなく部室に静寂が広がっていく。ちなみにアンナ以外の部員たちは、全てロードワークに出ていったらしく留守にしていた。
そんな中、静寂に耐え切れなくなったのか先に口を開いたのはアンナの方であった。

「ち、知念さん、強いんだね……ボクシング」

アンナの言葉に対し、心は虚空を見つめたまま答えない。

そして再び静寂。

(うー、やっぱり拒否されてる……)

アンナはどうにもこの少女が何を考えているのか分からなくなり、本当は言うつもりのなかった言葉を思い切ってぶつけてみる事にした。

「ねえ、知念さん。知念さんは、私の事キライ?」

「え?」

いきなり重い質問をぶつけられ、そこで心は視線を初めてアンナの方へと向ける。そこには、怯えたような表情を隠せずにいるアンナ。



もし『キライ』と言われたらどうしよう
『話しかけてくるな』と突き放されたらどうしよう



と、実に分かりやすく顔に書いてあった。それが何故かおかしく思えて、

「ぷっ…くふふ……ふふふふふ」

心は笑いを堪えるのに精一杯、といった表情を見せていた。

「あっはは……はぁ、別にキライじゃないよ」

どうにか笑いを堪える事に成功した心は、怯えたような表情のままのアンナに先程の答えを返す。それを聞き、瞬時にパァッと明るい表情へと変化を遂げた。

「……好きでもないけどね」

だが、この一言で今度はジェットコースターの下りに差し掛かった如く下降していく。傍から見れば出来の悪い百面相を見ているようであった。その移り変わりの様を横目で見ながら、

(面白い奴)

ふと心は思う。これが、彼女が本当の意味でアンナに対して抱いた、初めての印象であった。



「城之内。ひとつ聞きたい事があるんだけど」

 アンナの百面相が落ち着いた頃を見計らって、心は上体を起こすと真剣な眼差しを向ける。ゆっくりと休んだからか、上体を起こす程度にはダメージも抜けていた。

「え……なに? 知念さん」

真剣な眼差しで見つめられ、少しだけ驚いた風の表情を見せながらアンナは心に答える。

「さっきの試合、アタシはどんな感じで負けたの?」

「ッ!? え、えっ、とぉ……」

やっと心が自分から関わろうとしてくれたのだ。答えられる事なら何でも答えてやろうと思った……のだが、よりによって聞いてきた内容が“自分がどうやって負けたか?”であった。なんと伝えにくい質問であろうか。

「KOされたのは分かってる。別にショックも受けてない。ただ、途中から記憶がなくてね……どういう負け方をしたのかが知りたいだけ」

蛍光灯に照らし出される自分の姿を見ながら、心は純粋にどのような決着だったのか……それだけを知りたいようであった。その意思を汲んだのか、アンナは1度深呼吸すると心がどのようにして久野にKOされたのかを語り始めた。


最終第3Rの中盤、久野の放った右アッパーカットで背中から大の字でダウンした事。
その後、カウント9で辛うじて立ち上がり再び久野へと向かっていった事。
心はもうフラフラの状態で、久野のパンチでめった打ちに合った事。
レフェリーの植木が制止しようとするのを払いのけ、前進を止めなかった事。
そして、とどめを刺しにきた久野の右ストレートで腕が交差するような形でカウンターブローを決めた事。

最後に、力尽きて前のめりに倒れ伏し試合が終了した事を、包み隠さずありのままに伝えた。


アンナが時折辛そうに試合経過を語っていく中、心は終始無言で耳を傾ける。そして全てを聞き終えた後、少しして「そっか……」と、それだけをボソッと呟いていた。
その顔は、所々腫れているもののどこか爽やかさで溢れ、鬱憤の晴れた……それは、およそアンナが今まで見た事もない、心の本当の素顔なのではないか? と、何故かアンナにはそう思えてしまう程のものだった。





 その後普通に動けるまで休んだ心は、いつまでもいると他の連中の邪魔になるから、との事で服を着替え退散の準備に移っていく。その間際、

「そういえば東先輩は?」

部室に1人残るアンナに訊ねてみた。

「もう空手部に戻ったよ。『楽しかったわ』だって」

それを聞き満足そうな表情を浮かべると、着替え終えた心は部室を後にした。

「待って!」

後にした男子ボクシング部のドアが乱暴とも思える程大きな音を立て、呼び止めるアンナの声が心の鼓膜に響く。その声に歩みを止めクルッと腰までありそうな艶やかな髪をなびかせながら、心は呼び止めた金髪の少女の方へと振り返る。

「なに?」

いつもの表情の心。ついさっきまで話していた時の、気を許してくれそうな雰囲気の彼女は綺麗さっぱり消えてなくなっていた。

「知念さん。私と一緒にボクシング、しよう?」

アンナは、心と初めて出会った時からずっと抱いていたその胸の内を吐露した。せずにはいられなかった。


“貴女と一緒にボクシングがしたい”


と。

本当はもっと親しくなってから話を持ちかけるつもりでいた。が、偶然の成り行きとはいえ今日彼女の闘う姿を見る事となり、アンナは完全に彼女に魅入られてしまっていた。
惚れた、といっても過言ではなかろう。体格の近いアンナと心である。もし心が入部したとして、これから先彼女と大会の出場権を賭けて闘わなければならない場面も数多く出てくる事になるかも知れない……
もしかしたらアンナは心のせいで大会への道を閉ざされ続ける事になるかも知れない……
だが、それでもアンナは心と一緒にボクシングがしたかった。



もう、惚れ込んでしまったのだから……



心は無言でアンナの方を見つめてみた。どこか思い詰めた感じの表情……どうやら真剣に入部の勧誘が目的であるらしい。が、

「アタシはもうボクシングは辞めたんだ。今日リングに上がったのも仕方なく、だよ。もう上がるつもりもない。悪いけど他を当たって」

ほんの刹那の瞬間だけ寂寥感を覚えたものの、心は敢えてアンナを突き放すように一息に捲し立てクルリと身体を反転させながら、左手を軽く振り校門へと歩いていった。
後ろから尚も呼び止めるアンナの声を無視しながら。

(城之内の気持ちは嬉しいけど……あそこにアタシの居場所なんてないんだよ)

心の中でアンナに謝罪しながら、少女は振り返る事もせず校門を潜り、夕日に照らされる校舎を後にした。





 ロードワークを終え、男子ボクシング部室へと戻ってきたナミたち女子ボクシング部員たちは部室内にアンナしかいない事に気付くと、

「あれ? 知念さん帰ったの?」

一同を代表してナミが軽く息を弾ませつつ心の行方を訊ねてみた。

「うん。もう充分休んだから、って」

部室内の備品を1人整理していたアンナは、少し寂しそうな表情で答える。

「そう。それじゃ仕方ないわね。なら室内トレーニング、始めるわよ!」

アンナの垣間見せた表情に気付いたナミは、だがそこには敢えて触れず練習に加わるよう促した。心とアンナとの間に何かしらの事情やら確執やらがあったにせよ、今の自分に何か出来るとは思えない。
それに、今は新人戦を控えた大事な時期でもある。正直、時間は1分1秒でも惜しかったしやるべき事も山積みであった。主将となった今、自分の事だけをしている訳にも行かないのだ。

(主将なんだもの。わたしがみんなの手本となってしっかりと引っ張っていかなきゃ!)

ナミは心中で主将としての責務を果たそうと、一層頑張る決意をしていた。この過剰なまでの決意が、この後ナミにとって些細な不幸を呼ぶ事になろうとは、この時点で気付く者など皆無であった。




to be continued……
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チャパロット

Author:チャパロット
基本的に携帯サイトで書かせて頂いているもののリメイク(?)ですが、ちょくちょく文を変更してたりします(あと拙いですが自作絵なども)。
何かある方は、ckcwb305あっとまーくsutv.zaq.ne.jpにご連絡下さい。

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