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第26話

 第26話です。

空手部員とのトラブルから、試合をする事になった久野と心。この勝負、果たして行方は……?




 空手部主将・『鬼東』こと東 久野から、翌日に男子ボクシング部室を借りて一年の知念 心と試合をする……そう告げられたのは、部の練習メニューが全て終わってからだった。

「なんでそんな事に……」

久野の報告を受け、その突拍子もない話に声も出ないのは、この度正式に女子ボクシング部主将に任命された下司 ナミである。他の部員たちの反応もそれぞれであった。

高頭 柊は無言で我関せず、といった感じでクールダウンの最中。
心の名前が出た途端複雑そうな表情を見せる葉月 越花。
疲労困憊で返答すらままならない桜 順子、杉山 都亀(とき)両名。
練習途中でリタイアしてしまい、そもそも報告を聞いているのかすら定かではない中森 陽子。

そして今回の事情を知る城之内 アンナ

等々……

各々がそれぞれの対応を見せる中、マネージャー兼トレーナーの大内山 由起は来たるべき新人戦の為、情報収集の最中でありこの場には不在であった。

「悪いが明日の練習、リングは基本使えないものと考えておいてくれ」

女子だらけのキックボクシング部室に唯一の男性である、顧問の植木 四五郎は両手を合わせ、拝むようなジェスチャーを見せて今回の試合を部員たちに了承してもらうよう謝罪した。
ちなみに、明日は男子ボクシング部室を使える日である。
植木が言うには、既に男子ボクシング部主将・桃生(ものう) 誠が今回の件に関し権限を行使してきたらしい。生徒会長曰く、

『私闘は認められないが、試合なら許す。存分にやれ』

との事だった。いかにも“あの”桃生らしい口上といえよう。
 
正式な女子ボクシング部室が出来るまで、好意により男子ボクシング部室を借りている身としてはその男子部主将が今回の決闘にこの場所を提供してしまった以上、従う他はなかった。





 翌日。放課後、久野と心は男子ボクシング部室のリング上で対峙していた。久野は以前男子部と試合した時と同様に、上下黒で統一した厚めのスポーツブラにスパッツという出で立ち。
対する心はグレーのTシャツに白のホットパンツ姿。

お互い既にヘッドギアとグローブを着けてコーナーで待機する。久野は赤コーナーに凭れ掛かり、脇に控えていた桃生と何やら話していた。首にタオルを掛けている辺り、久野のセコンドを務めるようだ。

(なんで桃生先輩が東先輩のセコンドに……?)

と、この場にいる大半が疑問に思ったが、敢えて口に出して訊こうとは思わなかった。



“触らぬ神に祟りなし”



である。

向かい側の青コーナーでは心が両腕をトップロープに預けた恰好で、傍らには由起が控えていた。やがてレフェリーを買って出た植木が両者をリング中央へ来るよう促す。
ナミを始めとした女子ボクシング部員たちが見守る中、植木による試合上の注意を受ける2人。注意が終わり、お互いグローブを合わせる。その時、
「西郷さんはお世辞にも素行が良いとは言えないけれど、実力は決して低くないわ。それに圧勝したという貴女の実力、見せてもらうわよ」

久野は高揚感を隠そうともせず、口の端を微かに吊り上げながら心へ話しかけてきた。対する心は無言でグローブを離し、身を翻す。その際、

「ご心配なく。全力で先輩を“潰し”にいきます。でも、リングに上がるのは今回だけです。アタシはもうボクシング、辞めたんで……」

期待に応えるとも、聞きようによっては挑発とも取れる言葉を残してコーナーへと戻っていった。


 コーナーへと戻り、後はゴングを待つだけとなった所で心は1度リング周辺を見回してみる。アンナを含め何人か見知った顔がいる以外には、他に興味を示すようなものは何も無かった。
ただ、越花の姿が見えない事だけが唯一の気がかりであっただろうか……

(やっぱりアタシとは会いたくない、か……)

昔の事を思い出し、一瞬寂しそうな表情を見せる心。中学時代、今と変わらぬ一匹狼を気取っていた心にとって唯一気さくに話しかけてきたのは、同級生であった越花だけであった。
当時女子ボクシング部に在籍してはいたが、顧問や部員たちからも敬遠されがちだった。そんな中でいつも笑顔を向けてくれる越花に、心は次第に気を許すようになっていった。
といってもあくまで内面的にそういう変化が起こっていただけで、接し方は相変わらずの無粋なものであったが……
が、二年生の時2人を引き離す事件が起こる。当時心に恨みを持つ複数の男たちが、あろう事か仲良くしていた越花に危害を加えたのだ。

幸い殆ど怪我もなく軽い打撲程度で済んだものの、これを聞いて心は罪悪感に見舞われる事となった。

(やっぱりアタシは誰にも気を許しちゃいけないんだ)

越花を自分から遠ざける為、心は一方的に絶交を突きつけ、自身からも越花と関わらないよう徹底した。後に男たちを仕向けたのが心を妬ましく思っていた西郷であると分かるや、心は大会出場権を賭けた正式な試合と称して西郷を叩きのめし、僅かな溜飲を下げる事には成功した。

が、越花との間に出来た溝を埋める事は叶わず、お互い絶交状態のまま現在に到っているのだった。

(あの娘がアタシを許してくれなくても構わない。アタシとは関わらない方がいいんだから……)

寂しそうな表情を見せたのもほんの一瞬だけで、次の瞬間には厳しい表情に変え久野を見据えた。

「知念さん、これを」

ロープの外から由起がマウスピースを差し出してくる。その無機質な声に対し、

「どうも」

心は無感情な声で返しつつ簡素に感謝してみせると、差し出されたマウスピースを口に含んだ。



カァァァァン!



 勝負を開始するゴングが打ち鳴らされ、両者はゆっくりとリング中央へと歩み寄ると、ポンッ! とグローブタッチを交わした。両者とも右構え。基本姿勢を取りあまり動かない久野に対し、心は通常よりややガードを下げた感じで軽やかなフットワークを取り始める。
静と動、対照的な2人の立ち上がり。そんな緊迫した空気を切り裂くように、先に動いたのは久野であった。

「シッ」

久野を軸に左回りで旋回する心に対し、久野は左ジャブを放つ。

(速い!)

リングの外から観戦していたナミは、久野のジャブの速さに思わず感心する。男子部との試合の時よりもフォームがスムーズで、しかも数段速くなっていたからだ。
恐らくは、ナミたちの知らない所で相当の練習を積んでいたに違いない。

鋭い久野の左ジャブを、心は更に鋭いウィービングでかわした。そして、また左回りに旋回していく。久野が続けてジャブを連打するが、心は余裕をもってそれらを全てかわす。


「アイツ……“視えて”やがるな」

 ナミの後ろ、長椅子に座った柊がボソッと呟く。久野の放つジャブの鋭さは、実際かなりのものであったろう。が、それを難なく交わしてみせた辺り、心もまた只者でない証拠であった。

(うんうん、やっぱり凄いよ! 知念さん)

心の体捌きを間近で見て、アンナはやはり心を欲しいと興奮した表情で見つめていた。





 1Rも半分を切った頃、今までただの1発もパンチを打たなかった心がここに来てようやく左ジャブを久野へ放つ。



パァンッ!



皮の乾いた音が部室内に響き渡る。久野は辛うじてブロッキングに成功したものの、心の放ったジャブの速さ・威力に内心、舌を巻く思いだった。

心の、その左ジャブのスピードに他の部員たちからも驚嘆の声が上がる。
久野の周囲を回りながら、心は速射砲の如く徹底してジャブを当て続けていく。貰ってもあまりダメージはないが、とにかく数が多い。そして……速い。

小雨のように降り注ぐジャブに、次第に鬱陶しくなってきた久野はガードを固め心目掛けてダッシュを敢行。鬱陶しいジャブを黙らせる為、距離を縮めようとしたのだ。

「ッ!?」

久野の行動と、それに合わせたかのように同じ距離だけバックステップする心の動きを見て、

「駄目だ! 久野さんッ!!」

赤コーナーのエプロンサイドから桃生の怒声が上がる。が……



グシャアッ!



その声が届くかどうかの瞬間に、心の狙い済ました右ストレートが久野の頬を抉っていた。

「ぐふぅッ」

ダッシュを敢行しようとした矢先に、左頬に強烈な衝撃を受けた久野は意思とは無関係に後退を余儀なくされてしまう。出鼻を挫く、強烈に過ぎるカウンターブローであった。
動かなければジャブで狙い撃ち、動こうとすればストレートのカウンターが飛んでくる……並のボクサーなら、これだけでかなりの動きを制限される事になるだろう。
が、久野は並のボクサーではなかったし、そもそも彼女は『空手家』なのだ。この程度のパンチで動きを制限されるような甘さは、彼女には皆無といって良かった。

一時的に後退はしたものの、久野は心を見据え再びガードを固めダッシュする。

(チッ、この猛牛が!)

内心で悪態を吐くと、心は再度右ストレートを打ち込んだ。懲りないこの猛牛を黙らせる為に、だ。



ガツッ!



またも心のグローブが久野の頬にめり込む。めり込ませたまま、



ズンッ!



久野の右ボディーストレートが、心の腹を思い切り抉りこんでいた。来ると分かったパンチなら耐え切れる……そう、口の端を吊り上げた表情が鮮明に物語っていた。

「ぐ、はぁッ」

勢いのついたボディーストレートを打ち込まれ、心は一瞬呼吸が止まる。まさかカウンターを喰らいながら、それを気にもせず殴り返してくるとは思いもしなかったのである。
実は知念 心という少女、カウンターブローにはかなりの自信を持っている。中学時代、対戦相手を葬ってきた実に9割がカウンターという、生粋のカウンターパンチャーなのだ。
かつて西郷を打ち倒した時も、このカウンターによるものであった。



それが、この『鬼東』には通用しない……



焼け付くような痛みを腹に残し、心は1歩だけ後退する。

(クッ、アタシのカウンターが効かない訳が……)

心が後ろへ仰け反ったのを久野が見逃す筈もなく、更なるダッシュを繰り出し追撃にかかる。久野の放つ左のボディーフックを右肘でブロッキングしつつ、

(あるかッ!)



バシィンッ!



心は左フックをカウンター気味にぶつけた。

「はぐぅッ」

またもや襲いかかって来たカウンターに、久野は顔を歪め再び後退する形となる。

(見ろ! やっぱり効くじゃないか)

左フックでグラつく久野を見て、充分にカウンターが有効である事を確信すると今度は心が追撃を掛けようと襲い掛かる。そこへ、



カァァァァン!



第1R終了のゴングが鳴った。


 せっかくの追撃チャンスではあったが、特に惜しい風も見せず無表情で青コーナーへと戻っていく。久野もグローブで口元を拭うと、赤コーナーへと歩を進めた。

「ぷぁッ、どうも」

用意されたスツールに腰を下ろし、マウスピースを引き抜いて貰う。簡潔に礼を述べると、うがい水を口に含んでいく。一応心のセコンドという立場にある由起だったが、自分の仕事に専念するばかりで心に対しアドバイスはおろか一声すら掛けようとはしない。
不良と目される心がリングに上がっている事を、あまり快く思ってはいない様子であった。



ビーーーーッ!



 セコンドアウトを知らせるタイマーが響き、マウスピースを含ませるや由起はさっさとリングから出ていってしまった。そんな由起の態度に腹を立てる事もなく、むしろ当然といった表情を見せると気持ちを切り替え久野の方へ鋭い視線を向け集中していく。



カァァァァン!



第2Rが開始され、久野が追い心が退くという、1R序盤の展開が再現される。心の左ジャブを何発も顔に貰いながら、なお久野は前進を止めようとはしない。
傍から見れば、さながら猪突する猛牛を華麗にいなすマタドールにしか見えない事だろう。
が、実の所焦りを感じていたのは心の方であった。

その主な原因として、


・いくらジャブを浴びせても久野が全く怯まない事
・心はリングを上手く使わなければ一気に捕捉される危険性を孕んでおり、逆に久野は心目掛けて追いかけるだけでいい分スタミナのロスが少なく済む事
・カウンターを警戒してか、無理に大きなパンチを打ってこなくなった事
・そして、久野の放つプレッシャーが尋常ではなかった事


などが挙げられる。

さすが全国クラスの大会を数多く経験している猛者、というべきであろうか。



カァァァァン!



 特に大きな見せ場もなく第2Rが終わり、両者はそれぞれのコーナーに引き揚げていく。

「ハァ、ハァ、ハァ………」

肩で大きく息をする心に対し、久野の方はまだ余力があるように見えた。由起の用意したスツールにドカッとお尻を乗せマウスピースを引き抜いて貰う。
苦しそうに顔を上げ、酸素を求め不規則な呼吸を繰り返す。そんな心に片膝を付いた状態で向かい合う由起が、突如心のふくらはぎを手で揉みしだき始め、

「大きく息を吸って……吐いて」

と心の身体の回復に努め始めた。

「なッ!?」

1R終了後のインターバルでは必要以上に何もしなかった由起がいきなりのマッサージである。驚くな……という方が無理というものであったろう。

「いいから指示に従って」

驚きの表情の心を真摯な眼差しで見つめ、由起は心を諭す。その様は、まさに相方を信頼しているセコンドの姿そのものといえた。
心は由起の指示に従い、深呼吸をして身体の回復に努める事にした。



ビーーーーッ!



 タイマーの音と同時に由起はロープを潜りリングの外へと出る。その数秒後、ゴングの音が鳴り最終第3Rが開始された。第1、第2Rとアウトボクシングに徹してきた心だったが、何とここに来て足を使うのを止めグローブでクイクイッと久野に対し手招き、打ち合いを要求してきた。

(ふふッ、挑発するつもり? いいわね、気に入ったわ知念さん!)

久野は、心の一見無謀にも思えるこの大胆な行動に感心すると、バンッ! と両拳を胸元で思い切り叩きつける。


挑発に乗った、打ち合いに応じてあげる


それは久野の無言の受諾であった。

両者リング中央で足を止め、凄まじいまでの殴り合いを開始し始めた。


 心が左ジャブを打ち、久野がブロッキングする。久野が返しで左フックを放つと、心はそれを屈んでかわす。お互いクリーンヒットを許さないハイレベルな攻防が、今この部室内にいる者たちの前で展開されていた。
その姿に、ナミや植木を含め全ての人が視線を釘付けにさせていく。魅入られてしまっていた。



ガツッ!



お互いの右ストレートがお互いの頬を存分に抉る。それを皮切りに、ハイレベルな攻防から一転しガチャガチャの殴り合いへと移行していった。

繰り広げられていく無謀に過ぎる殴り合いの中、心は確かに微笑んでいた。
由起に足をマッサージして貰っていた時、知念 心という少女の中で何かが弾けたような気がしたのだ。


実はこの試合、勝ち負けなど二の次なのではないか? 正面からぶつかってこそ、意味があるのではないか?


と……



 何故そう思ったのかは分からない。ただ、不思議とそう思えた。そして、気付けば正面から無謀とも思える殴り合いを自ら始めていた。
殴られる度に汗を飛ばし、唾液が飛沫となって散り、口や鼻から血が流れても、痛みで目が滲んでも、例え呼吸が出来ず苦しくなろうとも、心はパンチを繰り出し続けた。

ただ、ひたすらに……

認めて欲しいが為に……


…………………………誰に?


一瞬、そう疑問が頭をよぎる。



グシャアッ!



ちょうどその一瞬の間に、久野の放った右アッパーカットが心のアゴを完璧に捕らえ、打ち上げていた。

「ぶえぇッ!」

血に塗れたマウスピースを弾き飛ばされ、心はそのまま意識を白い靄(もや)の中へと放棄していくのだった。




to be continued……
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Author:チャパロット
基本的に携帯サイトで書かせて頂いているもののリメイク(?)ですが、ちょくちょく文を変更してたりします(あと拙いですが自作絵なども)。
何かある方は、ckcwb305あっとまーくsutv.zaq.ne.jpにご連絡下さい。

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