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第25話

 第25話です。

ナミたち一年生5名が新人戦を控えたある日、空手部主将・東 久野が知念 心を空手部室に呼び出す、という事件が起きる。これを聞いたアンナは……




 空手部主将・東 久野が憤怒の形相で一年生の知念 心を空手部室へと呼び出した……という情報は、瞬く間にナミたち女子ボクシング部員にももたらされる事となった。

「知念さんが!?」

これに1番反応を示したのは、クラスメイトであり密かに彼女を入部させようと画策していた城之内 アンナである。久野の異名である『鬼東(おにあずま)』の名は、ここ光陵高校で知らない者はないとまで言われる畏怖の対象であった。
普段は面倒見の良い優良学生なのだが、1度怒りのスイッチが入ると手がつけられなくなる。何せ、学生空手の全国大会常連という肩書きを持ち、男子ボクシング部主将・桃生 誠(ものう まこと)と並んで『光陵の双璧』と目されているのだ。
その強さたるや、まさしく鬼の如しであった。そんな彼女が憤怒の形相で心を呼び出したのだ。何も起こらない筈がなかった。

皆が騒然とする中、ただ1人沈黙している者がいた。葉月 越花である。彼女、実は心と同じ中学の出身なのだが、今まで不自然な迄に彼女と接触しようとはしなかった。
元々心自体が学校にあまり姿を見せず、一部からは既に曰く付きの不良……とのレッテルを貼られている。それ以前に、そもそも越花と心が同じ中学出身という事実も殆ど知られていないのだから、誰も越花が沈黙を守っている理由を聞こうなどとは思わなかった。

(心ちゃん……)

越花は心の事を思い、下を俯く。その表情からは、普段の大人しい彼女からは想像のつかない、陰惨な雰囲気を醸し出していた。


「知念さんッ!」

 一方で、血相を変えアンナは一目散に空手部室へと走り出した。あまり深い面識があるとはいえないものの、アンナとて久野という人物を少しは理解しているつもりである。

(東先輩が知念さんに怒ってる……ただで済むとはとても思えないよ)

何に対して怒っているのかは理解出来なかったが、得も知れぬ不安ばかりが募っていった。





バンッ!



「知念さんッ!」

 放課後に入ってから何度目かの台詞を吐き捨て、アンナは空手部室のドアを乱暴に開け放つ。アンナの視線の先には、空手着姿の久野と制服姿で左手にギプスを着け、三角巾で患部を吊るしている1人の女子高生。
そして2人と向かい合う形で対峙している心がいた。他には人影ひとつない。

「城之内さん!?」

突然の呼ばれぬ来訪者に、久野は軽く驚きの声を上げる。それに釣られ、ギプス姿の女子と心もアンナの方を見つめた。

「なんなの! あんた」
「城之内!?」

2人はほぼ同時に声を出す。一見した所、心に外傷は見当たらない。どうやらまだ手が出る段階迄には至っていないようだ。
ホッ、とアンナは安堵の溜息を吐く。が、既に久野が手を出すものと思い込んでいる辺り、どこかでそういう期待でもしていたのだろうか……とにかくも、今は心を助けるのが優先である。少なくともアンナにはそう思えた。


例え、どんな事情があって呼ばれたのだとしても……

「やめて下さい東先輩ッ」

暴力沙汰だけは阻止すべし、とアンナは久野たちと心の間へと割って入る。が、

「どいて。アンタには関係ない」

心に肩を掴まれ、グイッと横へ押しやられてしまった。

「知念さん……」

身体を押しやられたアンナは、そんな程度で退く訳にはいかないとばかり、再び割って入ろうと試みる。

「城之内さん、少し下がっていなさい。私は彼女と話があるの」

再び割って入ろうとしたアンナを、今度は久野が制した。静かだが、どこか重い空気を漂わせる久野の声。

「………」

この重圧感に気圧されたのか、アンナはとりあえずこの場から退かざるを得なかった。


「さて。知念さん、私が貴女を呼んだのはひとつ確認したい事があるからよ」

 途中で思わぬ邪魔が入ったが、やっと本題に入れると、久野は機を逃さず心へと話しかける。

「なんですか? 先輩」

口調は丁寧に、だが反比例して態度は鬱陶しそうにしながら、心は久野に対応していく。この空気にも呑まれてはいないようだ。物怖じしない心の態度に正直感心しながら、それを悟らせないように一層険しい表情を作り久野は話を続けていく。

「今日この娘から相談を受けてね。この娘、ウチの部の後輩なんだけれど……」

そう言うと一旦話を切り、後輩のギプスに覆われた左手を見る。

「昨日の晩、『部活の帰り際に貴女にやられた』……そう言ってるんだけど。間違いないかしら?」

どうやら久野が怒っている理由は、後輩の娘が心に襲われ外傷を負わされた……という事のようだった。

(東先輩って、厳しいけど後輩に優しい所があるみたい)

傍から口上を聞いていたアンナは、久野に対してそう思った。

一方の心はクックッ、と含み笑いを浮かべる。それは、人の神経を逆撫でするには充分な効果を持っていたように思われる。

「な、なにがおかしいのよ!」

と、被害者である女子は心の含み笑いを見て顔を紅くし激昂する。

「いや、すみませんね西郷(さいごう)先輩。まさかこんな情けない形で報復に来るとは思わなかったんで」

心の言葉に、西郷と呼ばれた少女は更に顔を紅くする。

「なんですってぇ!?」

西郷は我慢出来ずにズイッと身を乗り出そうとする。が、久野は片手で遮ってみせ後輩を制した。

「待ちなさい。今は私が彼女と話しているのよ」

久野の静かな一言に、西郷はスゴスゴと身を退く。

「で、知念さん。私の質問に答えて頂戴」

鋭い視線を叩きつけるように、久野は心の事を見つめ事の真偽を確かめるべく返答を待った。

「アタシが西郷先輩に怪我を負わせた、という事でしたら……本当ですよ」

その視線を涼やかに受け止めながら、心は冷静に自分の行為を肯定してみせた。これには、西郷も含めこの場にいた全ての人が驚愕する。まさかこの場で自分の首を絞めかねない発言を平然とするとは、思ってもいなかったのである。
皆が驚愕した次の瞬間、空気が一気に凍りつく。そう、久野から表情が消え、心へと一歩踏み出したからだ。今にも手を出しそうな雰囲気を全身に纏わせながら……
アンナはそれを止めるべく、今度こそ強引にでも割って入ろうとする。

 イタリアンハーフの少女が今まさに身を挺して割って入ろうとしたその時、
「ただ、“先に”ちょっかいを掛けてきたのはそっちですけど」

心は目線を西郷に向けアゴでクイッと指した。その言葉で、アンナの動きが止まる。

(良かった。知念さんが一方的に悪いわけじゃないんだ……)

心の証言にどこかホッと安堵の溜息を吐き、久野の方を見るアンナ。

「嘘ですよ主将! あんな不良の言う事、信じないで下さいッ」

横合いから西郷が必死な表情で抗議の声を上げる。

「知念さん、貴女の身の潔白を証明するものはあるの?」

西郷の声を無視し、久野は尚も心へと一歩近付きながら問いかける。

「証明……? はンッ、ないですね。そんなものは」

近付いてくる久野と真っ向から対峙し、凍てつく空気にも気後れする事なく心はハッキリと言い放つ。


「昨日いきなり西郷先輩が闇討ちしてきたから応戦した。その際、左拳を思い切り壁に殴りつけて勝手に骨を折った……こっちは自分の身を守るのに必死だったのに、証明なんてどうやって立てろと?」

 一理あった。もし心の証言が事実であると仮定するならば、いきなり襲われたのだから身の潔白などと言っている場合ではない。彼女にしてみれば正当防衛のつもりなのだろう。
本来ならば何とかして逃げる算段を立てるべきではあっただろうが……

「まぁ、大方中学の時の事をまだ根に持ってるんだろうけどね。情けない奴」

心は西郷の方を軽蔑の眼差しで見やり、ふんっと鼻で笑ってみせた。どうやら、今の言から察するに心と西郷との間には単純ならざる因縁があるようだ。

「どういう事かしら。貴方たち、知り合いなの?」

アンナも気になっていた事を代弁するかのように、久野が今日だけで何度目かの問いかけをする。

「はい。アタシと西郷先輩は同じ中学の出身で、同じ女子ボクシング部の先輩・後輩の間柄でした」

もう問い掛けはうんざりと言わんばかりの顔つきで、でも先輩に対する最低限の言葉遣いは忘れずに答える。同じ中学出身の辺りで、久野は困惑の様子を見せ始めていた。どうやら初耳であったようだ。

「で、ちょっとしたイザコザがあって、そこの先輩と試合する事になったんですよ」

西郷との因縁の一端を語り始める心だったが、よほど嫌な因縁であったのか平静な表情が段々と険しいものへと変わっていく。

「結果はアタシの圧勝。そこの人は部員たちの前で無様に失神……ああ、そういえばあの時みっともなくションベン漏らしてましたっけ?」

クックッ、と嫌な笑みを西郷へ向けると、激昂し紅くしていた顔を今度は羞恥心で紅くする。その目にはうっすらと悔し涙さえ浮かんでいた。それを見た久野は、

「もういいわ……」

心のその言葉を遮った。

「とりあえず貴女たちの間で私怨があるのは理解したわ。本来なら当人同士でもう1度納得いくまで闘ってもらった方が色々後腐れがないとは思うのだけれど」

西郷のギプスを一瞥し、久野は溜息を吐く。

「彼女は見ての通りあの状態だし。そういう訳で、代理として私と勝負なさい!」

「……はぁ?」

良く分からない理屈で挑戦状を叩きつけられた心であった。


「なんでアタシが東先輩と闘わないといけなくなるんです? 訳が分かりませんよ」

 この展開は、正直予想だにしていなかったのだろう。心は今までに見せた事もない唖然とした顔で異議を申し立てた。何となく、空手部に呼ばれた時点で暴力沙汰は覚悟の上だった。
その時は大人しく殴られて穏便に済ませようと考えていた。心本人としても、大きな騒ぎにはしたくなかったからだ。だが、そこへ西郷の代理と称して『鬼東』から挑戦状を突きつけられる事になろうとは……

「仕方ないでしょ、今回の事件、責任の片割れである西郷さんはあの通りなのだし。それに……」

「それに?」

「この娘を倒したという、貴女の実力に興味が沸いたわ」

この一言を聞いた3人は、

(ああ、それが本音か………)

全く同じ感想を抱いたのであった。そう思わせるに足る程、久野の目は爛々と輝いていたのだから。

「はぁ、どうせ断ったらもっと面倒な事になるんだろうし……分かりました。受けますよ」

観念した表情で、心は久野からの挑戦状を受諾した。



勝負方法はアマチュアボクシングルール
場所は男子ボクシング部室



との事で決まった。


 翌日の放課後にその段取りで久野と心が闘い、勝敗に関わらず今回の事は水に流すよう西郷に承諾させると、アンナと心は空手部室から無事生還の徒についた。
とりあえず最悪の暴力沙汰にならずに済んだ……アンナは大きく息を吐き出しながら、とりあえずの無事を信じてもいない神へと感謝したい心境であった。

「城之内」

ふと声を掛けられ、神への感謝を僅か2秒程で終了し声のした方を振り向く。

「うん、どうしたの? 知念さん」

呼びかけた主の方を見つめ、いつもの人懐っこい笑顔で返答するアンナ。

「余計なお節介はやめて。正直迷惑だから」

何とも冷たい一言がアンナの笑顔を打ち砕いた。

「うん。ゴメン……」

一瞬で笑顔から落ち込んだ表情へと変化し、心に謝る。そんなアンナを尻目に、心はすれ違うように歩き出す。

「あ……」

去ろうとする心に、アンナは何かを言おうとして、やめた。何を言っても、きっと拒絶しか帰ってこない。そう思うアンナの耳に、

「ありがと……」

すれ違い様、心の長い髪から流れてくる良い匂いが鼻腔をくすぐる。そして続く小さな一言が微かに、だが確かに響くのを感じたのであった。





to be continued……
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Author:チャパロット
基本的に携帯サイトで書かせて頂いているもののリメイク(?)ですが、ちょくちょく文を変更してたりします(あと拙いですが自作絵なども)。
何かある方は、ckcwb305あっとまーくsutv.zaq.ne.jpにご連絡下さい。

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