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第24話

 第24話です。

初の練習試合もクライマックス。ここまで大健闘の光陵女子ボクシング部は、大いに盛り上がっていく。後に、悲しい1つの出来事が待っている事を知らず……





「勝者……青コーナー、城之内ッ!」

 レフェリーは勝者の名前を宣言すると、アンナの左手を高々と掲げた。それを受け、アンナ及び光陵女子ボクシング部員は歓喜の声を上げる。

一方の安田 素子と都和泉女子ボクシング部員たちはガックリとうな垂れ、いかにも対照な光景が印象的な構図となっていた。

「あ、あの……ありがとうございました」

勝者となったアンナが、ふと先程まで殴り合っていた安田 素子に向かい右手を差し出す。

「ふぅ……負けたわ。まだ一年生なのに大したものね」

うな垂れていた素子だったが、アンナに差し出された右手を見つめ素直にアンナの健闘を称えるべく右手を握り返した。そして、その手を引き寄せるとアンナを抱きしめた。

「ぅ、え……?」

まさかいきなり抱きしめられるとは思っても見なかったらしく、アンナは目を白黒させて驚く。素子はそんなアンナの背中をポンポン、と優しく叩くと身体を離し、リングを降りていった。


 2人の、お互い健闘を称え合う姿に部室の内外から惜しみない拍手が注がれていく。そんなギャラリーの人混みに紛れ込み、こっそりと観戦していた知念 心は微妙に眉をしかめていた。
今終わったアンナの試合で何か妙に引っ掛かるものがあったからである。
「アイツ……」

試合運び、パンチの打ち方、そして……彼女なりに気付いた事を整理し、あれこれと思考を巡らせていく。が、それも途中で止めた。

(なんでアタシがあんな奴の試合分析をしなきゃいけないの)

下らない事をしたとばかりに溜息を吐くと、心はこの練習試合に興味を興味を失ったらしくその場を去ろうと踵を翻す。が、帰り際にもう1度だけアンナの顔を見返してみた。

白い肌の所々が浅黒く腫れ、痛々しく見える。が、本人は別段気にした様子もなく普段の人懐っこい笑顔を覗かせていた。

(ま、今回はおめでとう……と言っておくよ。次の試合までにせいぜい“弱点”を克服しておくんだね)

心は今度こそ振り返り、その場を去っていくのだった。








ドォンッ!



「ダウン!」

 最終戦となった空手部主将・東 久野の試合は、まさに瞬殺劇であった。試合開始から30秒を過ぎた頃、すっかりボクシングの動きを取り入れた久野の左フックが対戦相手に炸裂。
あっという間にコーナーへ追い詰めると、久野は足の幅を広げ強固な拳をガード越しに打ち込んでいく。ものの数発で相手のガードを弾き飛ばすと、素早く空手の構えへと移行。
腹へと中段正拳突きを見舞った。強烈な突きが腹を穿ち、動きの止まった所へ左のショートフックから右ショートアッパーへと連続で叩き込んでいく。

アッパーで思い切りアゴを打ち上げられた対戦相手は、膝を屈しコーナーへ身体を預けるようにズルズルと崩れ落ちていった。


 余裕の足取りでニュートラルコーナーへ戻り、久野はトップロープに両腕を預ける。その様が、また実に良く似合う。

(なんと言うか、女王様タイプよね。東先輩って……)

悠然とニュートラルコーナーに佇む久野を見て、ナミはそういった感想を抱いた。


カウントが数えられていく中、対戦相手の娘がロープを手繰り寄せながら必死に立ち上がろうとしていく。表情を見るに、相当ダメージがあるであろう事は容易に想像出来る。
それでもカクカクと脚を震わせ懸命に立ち上がろうとする姿は、どこか生まれたての小鹿を連想させた。
カウント8で何とか立ち上がるも、表情が冴えない。上体もフラフラと揺れ、今にも倒れそうな雰囲気だ。



フラ……


ファイティングポーズを構えた相手だったが、急に全身から力が抜けたかのように体勢を崩してしまう。それをいち早く察したレフェリーが少女の身体を腕で支えながら、

「試合終了~~!」

と戦闘続行が不可能であると判断、ゴングを要請した。



カンカンカンカンカンカ-ン!



要請に応じ、試合終了のゴングが打ち鳴らされる。レフェリーは力の抜けた少女の身体を相手側のセコンドに明け渡すと、ニュートラルコーナーに待機していた久野の腕を掴み、

「勝者、青コーナー東 久野!」

上へ向け突き上げた。勝ち名乗りを受けながら、だがどこか不満そうに久野は憮然とした表情を浮かべている。


まだ殴り足りない……


そう、物語っているようであった。





 全試合が終了し、都和泉高校の部員たちと改めて挨拶やお互いの健闘を称え合う。そんな中、

「ねぇ、久美子」

由起が久美子へと話しかけてくる。

「なに?」

タオルで顔を拭っていた久美子が、そのタオルを覆ったまま由起に返答する。涙の跡を見られたくないのだろう。或いは人前で、しかも試合中に泣いてしまった事への恥ずかしさを隠す為だったのかも知れない。

「試合が終わった時にさ。関本さんからなにか言われてたでしょ? なにを言われたのかな、って」

「ああ、あれ? 『今度はI・H(インターハイ)予選で会いましょう』って言われたの」

そう言うと、久美子は顔を覆っていたタオルをようやく取り、寂しそうに苦笑すると部室を出ていく。

「く、久美子さん……」

上級生たちのやり取りを傍から見ていた順子は、姉のように慕う久美子が寂しそうな顔で1人部室を出ていくのを見て、だが追い掛ける事はせずただ見送るのみだった。
姉妹のような付き合いをしてきた間柄の順子だけは、久美子の見せた顔……その本当の意味を分かっていたから。

(久美子さん。やっぱり………)

恐らく久美子はもう決意したのだろう。



どちらの親についていくのかを。

そして、それが私たちとの別れになる、という事を。



 ナミは全員が着替え終わり、整列したのを確認すると

「今日はありがとうございました!」

先頭を切って感謝の意を述べ、一礼する。続いて他の部員たちもナミに倣って一礼していく。それを受け、

「こっちこそ勉強になったわ」

都和泉高校を代表し、主将である中村 香澄が礼を返した。

「高頭さん、今度は6月の新人戦ですね。それまでにもっと実力を付けておきます」

そう口火を切って柊に握手を求めてきたのは、中国人留学生であり柊の対戦相手でもあった曹 麗美(ツァオ リーメイ)。湿布を貼った顔に晴れ晴れとした表情を乗せている。

「次も負けねーよ、オレ」

目を輝かせる麗美の握手に対し、柊は適当に応じていた。

「下司さん」

ふと名前を呼ばれ、ナミは声のする方へ顔を向ける。

「中村先輩……」

声の主が中学時代の先輩であり、今日対戦した中村 香澄だと分かると、ナミはそちらの方へと歩み寄った。

「やっぱり強いわね。次に会うのはI・Hの予選会場かしら……その時こそ、今日も含めた借りを一気に返すから覚悟しなさい」

香澄はナミに厳しい視線を向けながら早くもリベンジ宣言すると、右手を差し述べてきた。

「はい。でも、わたしも負けませんから!」

一方のナミも、強気の表情で返すと差し延べられた右手を握り返す。そんな2人の口元には、微かに笑みが浮かんでいた。


結局の所、似た者同士なのである。





「さあ、みんな帰るわよ」

 それぞれ再戦や別れを終えた部員たちに対し、由起が率先して帰り支度を整えるよう指示する。仕事で同行出来なかった、顧問の植木 四五郎に責任の一切を任されていた彼女は最後まで積極的に任務を全うするのだった。

母校である光陵高校へと到着し、後日反省会を行う旨を由起から伝えられると一同は解散を言い渡された。

「ふぅ、疲れたぁ」

んー、と伸びをしながらナミは今日の試合の事を思い出してみる。



香澄との試合、下手をすると最初のダウンの時点で終わっていたかも知れない。由起の声が耳に飛び込んで来なかったら、意識が飛んだままキャンバスに寝ていたままだったと思う。
そしてあの第2Rでの待ち……ナミは香澄が焦れてくれるのを待った。本来なら、待つべきは香澄の方であり攻めるべきはナミであった筈の、あの局面。
だが、あの試合に限っては香澄にKO勝利の欲が沸いていた。いや、意地でもKOで倒してかつての自分と同じ屈辱を与えてやる腹積もりだったのだろう。

そこに付け込めた。香澄の倒し気を、逆に利用したのである。結果、不必要なプレッシャーを自ら背負うハメになった香澄は、ナミの待ちの姿勢に耐え切れず先に打って出てしまった。
が、それ以前に予想以上に香澄は疲労していた訳だが……

色々と考えてみた結果、

(まだまだ試合の組み立てが甘いわね、わたしも)

反省会の前から反省する事しきりなので、これ以上思い返すのはやめにした。





 練習試合から2日後の放課後、男子ボクシング部室にて反省会が行われた。部室内にパイプ椅子を並べ、部員たちは思い思いに座る。顧問の植木とマネージャー由起が皆と向かい合う形でホワイトボードを準備する。

「はい、どうぞ」

新入部員でマネージャー見習いの中森 陽子が、皆に数枚綴りのレポート用紙を配っていく。

「みんな、用紙は行き渡った? それじゃ早速反省会を始めるわね」

部員全員に用紙が渡った事を確認すると、由起は司会役として反省会を始めた。由起が作成したというレポート用紙に目を落とすと、練習試合からたったの2日で作ったとは思えない事細かな試合内容と動き、そして何故か可愛らしいデフォルメ調のイラストが描かれてあった。

選手たちを可愛らしく二頭身にしたイラスト。

「………」

これを見た途端、唖然とした表情を見せる部員たち。とりわけ柊は、あからさまに怪訝そうな表情を隠そうともせず由起の方を見つめた。

「これって……先輩が?」

柊の怪訝そうな視線を受け、

「違うわよ」

由起は顔色ひとつ変えずにサラリと受け流す。

「あ、それ私が描いたんです」

横合いから陽子が割って入った。どうやら陽子は絵心があるらしく、由起が挿絵代わりに描かせてみたのだという。

(反省会の用紙に挿絵って)

さすがのナミもこれには苦笑いしか出来ず、

(大内山先輩って、真面目なんだか不真面目なんだか……)

由起の考える事が分からなくなるのだった。


 気を取り直し、由起が1人ずつ今後の対策を詳細に伝えていく。ちなみにナミは、

・もっと試合運びを意識する事
・ディフェンス、及び装甲となる首の筋肉や腹筋等の強化
・中距離での刺し合い(特にジャブ)の錬度を上げる事

主にこの3点を挙げられた。





「俺からも少しいいか?」

 反省会が始まってから今まで黙っていた植木が、皆の対策が終えた頃を見計らって発言する。

「今月の21日に、畑山が広島の方へ転校する事になった」

今まで黙っていた植木から衝撃の発表を聞かされ、ざわついてしまう部員たち。唯一、順子だけは下を俯いているのみだ。

「これからって時にホントごめんね、みんな」

パイプ椅子から立ち上がり、久美子は皆に事情を説明していく。

「実は私の両親が離婚する事になって……それで私は母と一緒に広島に行く事になったの」

久美子が説明している間、皆は黙って聞いていた。

「私は広島に行ってしまうけど、向こうでもボクシングは続けるつもり。運が良ければI・Hの全国大会で……グス、会う事もあるかも知れ……ないし………」

そこまで言うと、じわりと涙が滲み久美子は椅子に座り込んでしまった。

「そういう訳だから、寂しくなるが畑山の新しい門出を祝ってやれ」

植木はそう締めると、次の連絡事項を伝えていく。

「あともう一点。今度の6/6(日)に一年生限定の新人戦が開催される。下司、桜、高頭、葉月、城之内、お前たち5人に出場してもらう。杉山は悪いが今回は見送る。、まだ基礎練習の段階だからな」

こちらもまた重大な連絡だった。つい2日前に練習試合が終わった所に、今度は新人戦だと言う。皆がまた徐々に闘志を燃やし始めるのを、この場にいる全員が感じていた。





 それから日が過ぎ、5月21日がやってきた。久美子が広島へ転校する日である。この日は平日であった為、全員で見送り……という訳にはいかず、女子ボクシング部代表としてナミ、由起、順子の3人が来ていた。

「わざわざ見送りに来てもらって、ありがとうね」

大きな鞄を肩に担ぎながら、久美子が3人に礼を伝える。

「確か、久美子の転校先って……鯉名(こいな)高校よね?」

由起は挨拶代わりに久美子の転校先を確認する。親友の問いに対し久美子は少し笑みを見せながらコクン、と無言で頷いてみせた。


広島県・鯉名高校


I・Hの全国大会でもよく名を見掛ける、ボクシングの強豪校である。聞く所によると、植木が久美子の転校に際して事前に調べてくれていたのだという。

どうやら、結構前から相談を受け準備していたようであった。

「久美子さん……」

順子が今にも泣き出しそうな表情で、でもそれを必死に我慢して久美子に別れの挨拶を交わす。

「ごめんね順子。私はいなくなるけど、下司さんも、由起も、女子ボクシング部のみんながいるわ。それに、これが今生の別れ……って訳でもないんだから」

妹のように可愛がってきた、1つ年下の女の子。不器用で、人見知りで、アガリ症で、でもとても大切な順子。この娘の側からいなくなる事に何故か罪悪感を感じながらも、久美子は毅然とした態度で順子を抱き寄せその頭を優しく撫でてやる。
ふと目頭が熱くなったが、涙を見せるような真似はしなかった。


 幾許かの時を経て順子の身体を引き離すと、ナミにその身を預ける。

「下司さん。順子の事お願いね。あと、次はI・H全国大会の会場で会いましょうね!」

ナミに順子を託し、その上で再会を伝えると久美子は身を翻して下りのエレベーターを……新たなる生活に続く一歩へ向かい進んでいく。それを見送りながら、

「畑山先輩……ありがとうございましたぁッ!」

ナミは頭を下げ、大声で謝辞を述べるのであった。早くも進む道は別れる事になったが、いずれ再び必ず交わる。


ボクシングを続けていく限り……


ナミはそう信じて疑わなかった。


 久美子が光陵高校を去ってから数日後。新人戦へ向け練習に身が入る女子ボクシング部に関わる、ひとつの些細な事件が発生した。
それは……空手部主将の東 久野が、憤怒の形相で一年生の知念 心を空手部室へと呼び出す、というものであった。





to be continued……
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チャパロット

Author:チャパロット
基本的に携帯サイトで書かせて頂いているもののリメイク(?)ですが、ちょくちょく文を変更してたりします(あと拙いですが自作絵なども)。
何かある方は、ckcwb305あっとまーくsutv.zaq.ne.jpにご連絡下さい。

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