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ヨシコ様からの頂き物SS

 『ボクと気まぐれ』の管理人、ヨシコ様からありがたいSSを頂きました。ほんのりあったかいSSです。ヨシコ様、本当にありがとうございました。




   優しい契約

「結構遠いんだな・・・」

 電車に揺られている前野は、気が急いて仕方がなかった。
失神までさせてしまった越花への心配、女性を殴ってしまった事への自責の念。そういったものに突き動かされ、彼は今葉月邸へと向かっていた。

 どう謝ったものかシミュレートしてはみたものの、何しろ前野にとってこんな事は初めての経験で、口に出すべき言葉は一向に纏まらなかった。


 殴ってしまってごめんなさい?


(いや、それはボクサーに対して失礼だろう)


 やりたくなかったけど、仕方がなかったんだ?


(謝罪しに行くのに言い訳してどうする)

 電車を乗り換え道を歩き、道中散々に考え抜いたが結論は出ず、前野はついに門の前に立った。

「・・・すごいな」

 歩いている時は気付かなかったが、自分が沿って歩いていた長い壁はこの豪邸のものだったのだ。
 前野はゴクリと喉を鳴らすと、意を決してインターフォンのボタンを押した。

「はーい。どちら様ですか?」

 間延びした声がスピーカーから聞こえてきた。越花と似た声ではあるが、もう少し年上の女性であるように前野には感じられた。

「あの、光陵高校男子ボクシング部員の前野裕也といいます。越花さんにお話がありまして・・・」

「あらあら、少々お待ちくださいね」

 妙に弾んだ声を残し音声は途切れた。いよいよだと、前野は身を硬くした。 やがて目前の門が開き、

「こんにちは前野君」

 朗らかな笑顔で越花が現れた。その時前野は、弾かれたように頭を下げた。越花の目尻に小さなアザを見つけてしまったからだ。

「葉月さんごめんっ」

「えっ?」
 
突然の事に動きの固まる越花の後ろから、複数の大きな影が前野に向かって駆け抜けて行った。そして、



ベロベロベロベロッ



「うわあっ!?」

 下げた顔を舐め回され、前野は思わず飛び退った。それは三匹の大型犬ゴールデンレトリーバーで、楽しげに尻尾を振りながら前野を包囲していた。

「プッ・・・」

 越花は笑いを堪えかねて吹き出すと、困惑する前野を救う為に三匹の愛犬をなだめにかかったのだった。

「やっぱり試合の事だったのね。気にしなくてもいいのに」

 私だって覚悟があったんだからと、越花は笑った。

「うん、分かってる。それでもごめん」

 尚も謝る前野に、越花はにこやかに微笑んだ。

「どうしても気になるんだったら・・・一つお願いがあるので、聞いてはもらえませんか?」

 その問いに、前野は神妙に頷いた。

「空いた時間でいいの、私の練習に付き合って下さい」

「それは・・・個人での練習ということ?」

「うん。このままだと私、皆のお荷物になっちゃいそうだから」

 普通なら、初心者がそれほど気負うものではないだろうと前野は思う。しかしこの焦りを表面化させた原因は、自分との試合なのかもしれない。そう考えると、前野にはこの申し出を断ることはできなかった。

「俺でよければ、是非手伝わせて欲しい」

 力強く言い切る彼の前に、越花の右手が差し出された。

「ありがとう前野君。契約成立だね」

 前野が手を握り返すと、越花は嬉しそうに握った手をブンブンと振った。彼女が契約という言葉を使ったのは、前野に負い目を作らない為の配慮であったが、前野にはそれがありがたく思えた。そして男として、これからの日々に遣り甲斐をも感じるのだった。
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チャパロット

Author:チャパロット
基本的に携帯サイトで書かせて頂いているもののリメイク(?)ですが、ちょくちょく文を変更してたりします(あと拙いですが自作絵なども)。
何かある方は、ckcwb305あっとまーくsutv.zaq.ne.jpにご連絡下さい。

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