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第23話

 第23話です。

3勝1分と大健闘の光陵女子ボクシング部。都和泉高校との練習試合も、後半戦へと移行していく……




 都和泉高校との練習試合も4試合まで終了し、これまでの戦績は3勝1分。初めての他校戦にしては予想以上の大健闘といえよう。

「越花って……あんな動きが出来る娘だったの………?」

ギャラリーに紛れた知念 心は、越花の試合を観て中学時代とは全く異なる彼女の姿に驚きを隠す事が出来ずにいた。それと同時に、越花の成長した姿を見て、少し嬉しそうに微笑むのだった。


 次なる対戦者は畑山 久美子。両親の離婚問題という、家庭の事情を抱えた久美子は覇気のない表情でウォーミングアップをしていた。
因みに今回は、都和泉高校とのスケジュールの関係で本来の階級であるライト級より1階級下、フェザー級での試合となっている。
同じライト級である、

城之内 アンナ
東 久野

の両名に比べ体格の小さい久美子が、今回は相手に合わせる形となったのであった。

「久美子さん……」

そんな久美子を、姉のように慕う桜 順子が心配そうに見つめながら声を掛ける。

「ん……大丈夫。心配しないで、順子」

妹代わりの順子に心配をかけまいと努めて微笑んでみせ、久美子はロープを潜りリングインしていった。



「あの対戦相手……強敵よ。関本 加代(せきもと かよ)。去年のI・H(インターハイ)神奈川県予選大会、ベスト4の実力者」

 自コーナーでヘッドギアを止めるアゴのベルトを締めながら、セコンドの由起が相手の簡単なデータを伝えていく。相手が悪い……とでも言いたげな由起の表情。

「まぁ、あんまり肩肘張っても動きが硬くなるばっかりだし。いつも通りにいくわ」

心配そうな由起の顔を軽くグローブで小突き、久美子は軽くウィンクをしてみせた。

(なんだか今日はヤケにみんなを心配させてるわね、私……)

思い返せば、皆が心配顔で自分に気を遣ってくれている。そう思うと、己の至らなさについ苦笑を禁じえない久美子であった。


「それでは第5試合。関本 加代 対 畑山 久美子、フェザー級2分3Rを始めます!」

放送部のアナウンスを耳にし、ロープを潜りリングの外へ出た由起は久美子の口の中にマウスピースを入れ、

「初回は久美子の好きに動いてみて。ただし、関本さんの右ストレートには注意。勝ち試合の殆どをそれで占めてるから」

ゴングが鳴る寸前まで相手のデータを復唱していった。例え練習試合とはいえ、対戦相手のデータを分析せずに挑むような愚は決して犯さない。
勿論、由起の調べ上げた限りのデータ分析・及び対策は事前のミーティングで繰り返し行っている。が、それでも由起はくどいぐらいに久美子へと分析結果を伝えずにはいられなかった。



カァァァァン!



 試合開始のゴングが鳴り、両者はリング中央でグローブタッチを交わす。先程の佐藤 晴美とは打って変わって、スポーツマンシップに則(のっと)った立ち上がり。
バッ! と両者は一旦離れ、相手の出方に探りを入れていく。久美子が左ジャブで牽制し、加代がブロッキングで防ぐ。反対に加代の左ジャブを久美子はウィービングでかわす。

見事という他ない両者の攻防に、周囲のボルテージが上がっていくのが分かる。そんな熱気に満ちた視線の注がれるリング上……



バンッ!



オープニングヒットを飾ったのは久美子であった。加代はブロッキングし損なって左ジャブをまともに食らったのだ。ここで自分の方へ流れを持っていきたい久美子は、すかさずジャブを重ねていく。
が、そこは流石に県大会ベスト4である。巧みに足を使い久美子の追撃を許さない。それどころか、



パァンッ!



ガードの隙を突いてジャブを打ち返していく。久美子が頬に受けたパンチの衝撃で硬直した、その一瞬の間に間合いを離し試合を仕切り直していた。

(くッ、巧い!)

久美子は加代のいなし方の巧さに心の中で素直に感心すると、積極的に間合いを詰めジャブを放っていく。一方の加代も負けじとジャブで応戦、再び中間距離での刺し合いが始まった。



バシィッ!



お互いの左ジャブがお互いの顔に突き刺さる。その場で若干の硬直、そしていち早く体勢を立て直した久美子が、



バクンッ!



右のショートフックを叩きつけた。頬を抉られた衝撃で顔を歪め、加代は一歩後ろへと後退していく。尚も久美子のチャンス到来。ここで逃がすまいと、久美子は距離は開け右を振りかぶる。そして……



グシャアッ!



次の瞬間、久美子の左頬肉に加代のグローブがめり込まされていた。対する久美子の放った右ストレートは、加代の顔の真横……そこにある虚空を打ち抜いているのみ。

右のカウンターであった。


「ぅ……ぁ………ぁ」

 無様な声を弱々しく漏らし、上体をグラつかせながら久美子は2歩後退する。天井を見上げるその表情は、何が起こったのか分からない……そういった類のものであった。



カァァァァン!



ここで、第1R終了のゴングが鳴る。フラついたままの足取りで、久美子は青コーナーへと戻っていく。用意されたスツールにお尻を乗せると、

「ぷはぁ」

マウスピースを引き抜いて貰い、大きく息を吐き出す。真正面の由起がケアをしながら、

「どう? 県大会ベスト4は」

簡潔に感想を求めてくる。

「強いし巧いわ」

久美子の方も極めて簡潔に、だがよく分かる答えを返した。そこには、試合前の浮かぬ顔ではなく強い相手と試合出来る、という喜びに満ちたボクサーとしての顔があった。



『セコンドアウト!』



アナウンスが聞こえ、由起はマウスピースを銜えさせるとロープを潜り外に出ていく。

「とにかく、くれぐれも彼女の右ストレートには注意。あと、しっかりと足を使って掻き回して」

由起の指示にコクンと頷くと、



カァァァァン!



第2Rが開始された。指示通り足を使って的を絞らせないよう努めながら、左ジャブを散らしていく。対する加代も同じような動きを見せ、1Rと似た展開へ進んでいく。

が、1Rとは異なる部分があった。



パンッ、パパァンッ!



 加代のジャブが鋭さを増したのか、久美子を一方的に打ち始めたのだ。対する久美子も負けじと応戦するものの、技術に差があるのかまともにヒットしない。

中距離は、完全に加代の支配する空間となっていた。

「くッ」

このRに入ってから数発目かのジャブを打ち込まれ、久美子は自身の不利を認めざるを得なかった。中距離戦で勝てなければ、接近戦に勝機を見出す以外に術はない。
だが、自分にはナミのようなラッシュ力もパンチ力もない……

本来、久美子も中距離に於いてこそ最も力を発揮出来る選手であり、近距離での打ち合いを得手としている訳ではない。だが、その中距離での打ち合いも加代に分がある以上、近付くしか手はなかった。

久美子は不安を無理やり押さえ込むと、ナミの姿を頭の中で思い浮かべながら加代へと突進していく。だが久美子のその行動は読まれていたらしく、加代は距離を離しつつジャブをばら撒いていく。



ガスッ、バンッ!



ガードの上から伝わる衝撃に耐え、ひたすらに突進を続ける久美子。が、その距離の差は一向に縮まらない。その間、ただただ加代のジャブをガードするだけの久美子の中で、段々と焦りの色が見え始めてきていた。


接近もさせて貰えないのか、と……


 中距離での打ち合いは加代に敵わず、また接近戦を挑もうにも近寄る事すら許されない。

(駄目だ……勝てない。今の私じゃ………)

加代のジャブに晒されていく中、少しずつ久美子の心が弱い方向へと傾き始めていく。そしてそれは、自身の行動にも顕著に現れた。
即ち、久美子の突進が急に緩くなったのである。

「久美子!?」

エプロンコーナーの由起がクラスメイトの異変に気付き、大声を上げる。その瞬間、



パンッ、バシィンッ!



足を止めた久美子目掛けて、加代のワン・ツーが鮮やかな音を立てて打ち込まれた。パンチの威力で頭を揺らされ、久美子はその場でたたらを踏む。



バクンッ!



追撃の左フックをまともに食らうと、久美子の身体は大きく左へと流れていった。

「ストップ!」

それを見たレフェリーは久美子のダメージが大であると判断し、試合を一旦中断する。久美子は流された身体を近くにあったロープに預ける事で、何とかキャンバスに沈むのだけは免れた。が……

「ダウン!」

スタンディングダウンの宣告を受けてしまう。





これがとどめであった……





荒く息を吐く久美子の瞳から、突如涙が零れ落ちていく。そしてロープに身体を預けたまま、両のグローブで顔を覆い被せてしまう。。


どうやっても勝てない……そういう絶望感を前に、久美子の心は遂に折れてしまったのであった。


それを見たレフェリーはこれ以上の試合続行を無理だと判断、即座に両腕を頭上で何度も交差させていった。



カンカンカンカンカンカーン!



 無情にも試合終了のゴングが打ち鳴らされていく。そんな中、ロープに凭れたままの久美子の下へ、勝者となった加代が近寄っていく。泣きじゃくっている久美子に軽く抱擁すると、ぼそぼそと何事かを告げ赤コーナーへと去っていった。

加代が去った後、由起は「お疲れ様……」と一言だけ伝え、久美子の頭を覆うようにタオルを掛けてやる。久美子はタオルに覆われたまま由起に連れられる形で、敗戦のリングを降りていく。

だが、惨めさにむせぶ敗者の心情とは裏腹に、周りからは県大会ベスト4を相手によく善戦した……と拍手喝采が送られてくるのだった。





 久美子の処置を終え、残す所はあと2試合。

「準備はいい? 城之内さん」

由起は気を取り直して、部室の隅でシャドーボクシングをしているアンナに確認を取る。

「ハイッ!」

パッ! と金髪に絡む汗を飛ばし、アンナは威勢良く返事を返した。ポニーテールを解き、ヘッドギアを着けて貰う。その白い頬を紅潮させているのは先程まで動いていた為か、はたまた試合が出来るという喜びの為か……



「それでは第6試合、安田 素子(やすだ もとこ) 対 城之内 アンナ、ライト級2分3Rを始めます!」

 放送部のアナウンスの後、アンナは試合が始まるまで落ち着かない様子でグローブをポンポンと軽く鳴らしてみたり、その場でフットワークを取ってみたりしていた。



カァァァァン!



アンナにとって待ち焦がれていた、試合開始のゴングが今打ち鳴らされた。グローブタッチを終えるや否や、いきなり右ストレートを放つ。
通常、練習を積んだボクサー相手にいきなり大砲をぶっ放しても、まず当たらない。
素子もその例に漏れず、難無く左へとかわす。かわしざま、



バンッ!



がら空きとなった脇腹へと左のボディーフックを打ちつけ、また間合いを離す。見事なヒット・アンド・アウェイ……だが、



ダッ!



アンナは脇腹を打たれた事など意にも介さず素子目掛けてダッシュし、間合いを詰めにかかった。素子の中で、一瞬恐怖に似た感情が生まれる。

ボディー打ちで怯まなかった事に……ではない。
向かってくるアンナの表情を見て……である。

眉を吊り上げ、碧い目をギラつかせ、だが口元には軽く笑みを浮かべている。まるで獲物を見つけた獰猛な獣の如き殺気……対峙している者にしか分からない、ピンと張り詰めた重い空気。
普段の人懐っこい雰囲気のアンナからは想像もつかない姿だった。

我聞 鉄平との対戦では、初めての試合である事や鉄平の放つ重圧感に逆に呑まれてしまった為に、見せる事のなかったアンナのもう1つの顔。



闘う事が好きで好きで仕方がない、いわゆる“バトルジャンキー”。



間合いを詰めると、アンナは素子の顔を見つめ左拳を振りかぶる。それを見た素子は顔への攻撃が来ると予測し、ガードを固める。そこへ、



ズドォッ!



アンナは先程打たれた箇所、素子の右脇腹へボディーフックを思い切り叩きつけていった。目を使って顔を打つと見せかけての、下への攻撃。アンナはフェイントを仕掛けたのである。

素子はまたも間合いを離そうと、後ろへと後退する。戦術的な見解で見れば、この選択も間違ってはいないのだろう。ただ、実際の所素子はアンナの放つ重圧感・殺気に当てられ、距離を取りたかったに過ぎなかったのだ。

だが、狭いリング上で逃げ続けるには、今の素子の技量では不可能に等しかった。或いは、アンナの追跡が予想を超えていたのかも知れない。



ダッ!



 離れる素子へ、執拗に食いつくアンナ。身を低く屈め、打ち込まれてくるパンチをものともせずただ一直線に獲物へと追い縋る。その様は、まさに獰猛な肉食獣と形容するに相応しいものであった。



パァンッ!



1Rの終盤、ようやくアンナは素子を捕捉し左ジャブを見舞う。スパァンッ! と軽快な打撃音が鳴り、素子の頬を抉る。一瞬動きの止まった素子へ、続いてもう1発ジャブを放つ。



パァンッ!



これもヒットし、素子の頭が仰け反った。その様子を見つつ、アンナはすかさず右腕を引き絞っていく。衝撃に顔を歪ませながらも、素子はアンナが自分に今度こそ大砲を見舞うべく右を引くのを見逃さなかった。

(距離を測られた……ストレートが来るッ)

そう確信した彼女は、次に来るであろう右ストレートに耐えるべくガッチリとガードを固める。そして襲い掛かるアンナのストレート。空を裂く音が耳に届き、次の瞬間……



ドボォッ!



素子の“腹”に、アンナの右拳が抉り込まれていた。

顔を打つと見せかけた、またもアンナのフェイント。これにはさすがに耐え切れず、口から少量の唾液とマウスピースが零れ落ちた。
コン……とそれはキャンバスを跳ね、次いで主もそれに倣い膝を屈していく。



カァァァァン!



膝がキャンバスに着くその寸前、第1R終了のゴングが鳴った。四つん這いの恰好で、素子は間一髪ゴングに救われたのであった。


「ぷはッ」

 マウスピースを外され、アンナは1度大きく息を吐き出す。

「……とりあえず小言は言わないでおくわ」

1Rは優勢と言っても良い立ち回りをしたアンナだったが、何故か向かい合う由起は少し不機嫌そうな表情でそれだけ言うと、淡々と作業に取り掛かっていった。


『セコンドアウト!』


アナウンスに従い、リング外へと出てマウスピースを銜えさせる。その間際、

「相手はボディー打ちを嫌がってるみたい。徹底的に掻き回してやりなさい!」

由起はアンナに戦術的指示を与えた。



カァァァァン!



 第2Rが開始される。アンナは由起の指示に従い、隙を見ては素子の腹へパンチを集めていく。それに対し、素子もジャブを主体に反撃に打って出ようと試みる。

そんな攻防が1分程続いた頃、不意に



バッシィンッ!



アンナが右のボディーブローのモーションに入った所に、素子の右フックがカウンター気味に炸裂した。

「ぶぇッ」

アンナの口から唾液の飛沫が舞い、白のマウスピースがはみ出てしまう。立て続けに左フックを打ち込まれ、汗や唾液と共にマウスピースがリングの外へ大きく弾き飛ばされてしまった。

「ストップ!」

それを見たレフェリーは一旦試合を止め、アンナにスタンディングダウンの宣告をした。アンナは効いてない、といったジェスチャーをするがカウントは刻々と進んでいく。
カウント8でファイティングポーズを取ると、マウスピースを銜えさせられ試合が続行される。その後はリズムを崩されたアンナに良い所が見られないまま第2Rは終了。

最終第3Rに入ると、お互い疲れがピークに達したのか足を止めて打ち合う場面が多く見られるようになっていく。
アンナも素子を圧倒した最初の威勢が、今や影を潜め手打ち気味のパンチを打つのが精々といった有様となっていた。



カンカンカンカンカンカーン!



 試合終了のゴングと共に、泥試合の様相を呈していた両者を分けるレフェリー。それぞれセコンドに抱きかかえられ、勝敗は判定に委ねる事となった。
コーナーで由起によってヘッドギアを外して貰ったアンナは、大粒の汗を浮かべ大きく肩で息をしていた。採点が済み、リング中央に並ぶ両者。



「勝者……」





to be continued……
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チャパロット

Author:チャパロット
基本的に携帯サイトで書かせて頂いているもののリメイク(?)ですが、ちょくちょく文を変更してたりします(あと拙いですが自作絵なども)。
何かある方は、ckcwb305あっとまーくsutv.zaq.ne.jpにご連絡下さい。

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