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第22話

 第22話です。

1勝1分で迎えた第3試合。ナミvs香澄の因縁の対決、第1R終盤に思わぬダウンを喫したナミ。試合の行方はどうなるのであろうか?




 都和泉(みやこいずみ)高校女子ボクシング部主将、中村 香澄(なかむら かすみ)との試合。その第1R半ばで思いがけないダウンを喫したナミ。

「立って! 下司さん」

セコンドである二年の大内山 由起が、動きを見せないナミへ向け大声で叫ぶ。その声に反応したのか、ナミはキャンバスにグローブを押し付け立ち上がってくる。
脚はしっかりとキャンバスを踏み締めているし、目もまだ死んではいない。レフェリーは試合続行可能と判断し、

「ボックス!」

両者に闘うよう促した。それを受け、ニュートラルコーナーに控えていた香澄が手負いのナミに猛然と襲い掛かる。彼女の拳には、かつての後輩を殴りダウンさせた感触がまだ確かに残っていた。
このチャンスを逃してたまるか! と一気に間合いを詰めると、左右のショートフックをナミ目掛けて連打していく。その間、ナミはひたすらにブロックし続けた。



ガスッ、バシッ、バンッ! ドカッ……



香澄の連打に晒され、ガード越しに伝わってくる衝撃に苦痛の表情を浮かべながら、だが決して後ろへは退かない。



カァァァァン!



 第1R終了のゴングが鳴り、香澄は悠然と……対するナミはゴングに救われた、といった印象の中それぞれ自コーナーへと戻っていく。由起の用意したスチールに腰を下ろし、マウスピースを引き抜いて貰う。
大きく深呼吸して息を整えると、口に水を含んでうがいを始めた。由起はそんなナミの姿を見て、ある事に気付く。

(あれだけ連打されて、ダウンまでしたのに……息が切れてない。全然動揺してない)

そう。ナミは先程のRでダウンさせられる程の痛打を浴び、その後も一方的に打たれ続けていたにも関わらず平静そのもの、といった様子で深呼吸やうがいをしていたのだ。

「全く……対した役者ね。下司さんは」

ナミの狙いに大方の察しがついたのか、呆れたように口元の端を吊り上げ苦笑してしまった。

「あの防戦、全部相手のスタミナを削る為の芝居だった。違う?」

「さすが。大体正解です。実はあのダウンの時、ホントはものすごく効いてたんです」

うがい水を吐き出すと、ナミは口元をグローブで拭いつつ由起の答えに若干の修正を加えていく。

「大内山先輩の声が聞こえてなかったら、もしかしたらそのままKOされてたかも知れません。自分がダウンしてるって分かって、ならこのピンチを逆に利用してやろうかな? って……」

あのダウンカウントの最中から立ち上がる迄の、ほんの数秒の間にそのような事を考え実行したのか!? そう思うと、由起はこの下司 ナミというボクサーがとても頼もしく思えるのだった。


 そのナミは対角に座っている香澄を見つめ、ちょうどお互いに視線が絡み合う。香澄は先程の連打がオーバーワークだったのか、かなりのスタミナを消費したらしく肩で息をしているのが見て取れた。
その表情は、仕留めるチャンスをふいにしてしまった自分への不甲斐なさや、自分のペースを守らず不用意に過ぎるラッシュを展開し勝負を焦ってしまった、といった後悔の入り混じったものであった。

「セコンドアウト……」

放送部員のアナウンスに従いロープを潜り抜けていく由起に対し、

「逆転してきます!」

ナミは強気に言い放っていた。



カァァァァン!



 第2R開始のゴングが響く。ナミはゆっくりと香澄へ接近し、その出方を待つ。1Rでのスタミナ消費の影響か、軽く息を切らせている香澄からも仕掛ける様子は見られない。
2人、リングでフットワークを取りながら自然と見合う形となる。

「打ち合えーー!」
「何だってんだよーー!!」

両者とも手を出さない状況に痺れを切らしたのか、ギャラリーから野次の声が上がる。だが、それでもナミは手を出さない。開始前の強気な発言があったにもにも関わらず、だ。
普通ならダウンを奪われ、ポイントでも負けているであろうこの局面、ナミは積極的に打って出るべきである。が、彼女は徹底して手を出さなかった。

このままでは香澄もスタミナを回復させてしまうかも知れないのに……

「ボックス! 打ち合って」

遂にはレフェリーからも打ち合いの催促を出されてしまう。これを聞いて先に動きを見せたのは香澄の方であった。香澄は左ジャブを数発、ナミへと放っていく。
それを軽々とブロッキングで弾き、パンチの威力具合を確かめてみた。第1Rよりスピードが落ちている。また、伝わる衝撃に力強さがなかった。やはり先程の連打のツケが回ってきているようだ。


(行くかッ!)

 ナミは香澄の状態を概ね把握すると、ガードを固め一気に間合いを詰める。1Rで取った戦法と、全く同様であった。先程は不意のショートアッパーで左のトリプル以降のラッシュを止められてしまったが、今回は身体を預ける所までは行かない。
密着に近い間合いで距離を置くと、ナミはスゥーッと息を吸い込んで……



ドドドドドドドッ!!



コンパクトな振りのフックを顔に、腹に、肩に、ガード越しに、およそ香澄に攻撃出来る範囲内全てに叩き込み始めた。


ナミお得意の、コンビネーションラッシュである。


まるで機関銃を左右から打ち続けられるような感覚に、今度は香澄が苦痛の表情に変わっていく。ここまでは攻守が入れ替わっただけの、1R終盤と似た光景だったのだが……



バシィッ!



ナミのショートフックが香澄のガードを抜け、その頬を穿った。それを機に、ナミはギアを上げ更なるラッシュを仕掛けていく。回転の上がったナミのラッシュに、香澄はロープ際まで詰められてしまう。
香澄としては、カウンターを狙おうにもパンチの振りがコンパクト過ぎて狙うのは難しい。足を使って逃げようにもロープに詰まっていて身動きが取れない。


まさに“手も足も出ない”状態といえた。


 このアリ地獄のような状況から脱出するには、もはやナミの打ち疲れを待つ他なかった。だが、ナミのラッシュは緩まない。

「ストップ!」

あまりに一方的な攻防劇に、見兼ねたレフェリーが遂に動く。そこでようやくナミはラッシュを止め、香澄はアリ地獄から解放された。が……

「ダウン!」

その代償として、スタンディングダウンを宣告されてしまうのだった。

ナミは大きく息を吐き香澄を一瞥すると、すぐに身を翻してニュートラルコーナーへと向かっていった。

「ワン…ツー…」

ロープに凭れた状態で、香澄はただ悔しそうに下を向き身体を震わせていた。カウント8で構えた香澄を確認、レフェリーは試合再開を促していく。
このダウンと、それに到るまでのラッシュにより恐らくはポイントもイーブン……いや、もしかしたら上回ったかも知れない……となったナミ。当然ここは強気に攻める場面である。
その定石に従い、ナミは一気に香澄を仕留めにかかった。

ダッシュですぐさま距離を詰め、再びラッシュを開始しようと試みる。ここでまたラッシュに掴まっては堪らない、と香澄は疲労した身体に鞭を打ち、必死に距離を取りつつジャブで牽制した。
退きながら打つジャブなど、腰の入っていない手打ちのパンチでしかない。少なくとも、今の香澄から放たれるジャブはナミを止められるような代物ではなかった。

ガードをガッチリ固め、ナミは迫り来るジャブを物ともせずに弾き飛ばしながら、猛然と獲物目掛けて一直線に突き進む。そして、香澄の懐まで潜り込むや、



ズンッ!



左のボディーフックを香澄の脇腹へと打ちつけた。

「ぐぇッ」

香澄は醜い声を上げ、身体を折り曲げてしまう。続けて右のボディーアッパーを鳩尾へとめり込ませた。

「ごぶッ」

痛みと苦しみで、香澄の口から唾液が垂れ落ちていく。


 ナミは、ここで一気に畳み掛ける事はせず冷静に香澄の様子を窺ってみた。ダメージはあるが、まだガードは下がっていない。ならば! と更に左のボディーアッパーを容赦なく叩きつけた。



グニュウッ!



左拳が香澄の腹に深々と突き刺さり、内臓を押し潰す感触がグローブ越しに伝わってくる。

「ぅ……ぅぶ………」

腹への集中攻撃に耐え切れなくなったのだろう。香澄は遂に顔を上に向け、逆にガードしていた両腕が徐々に下がっていく。

(今だ!)

香澄のアゴが晒されたのを見て取った瞬間、ナミは体勢を低め右腕を引き絞る。



 レフェリーは、この時点でもう勝敗は決したと判断し試合を中断させるべく動きを見せようとしていた。が、その身体が2人に割って入るより早く、



グシャアッ!



ナミの渾身の右アッパーカットが香澄にとどめを刺した。アゴを打ち抜かれ、香澄の踵が浮くとそのまま身体がロープまで吹き飛ばされる。ロープの反動で押し返された拍子に、香澄の口から赤と黄色の迷彩を施されたマウスピースが唾液の糸を引き零れ落ちていく。



コンッ!



マウスピースがキャンバスの上をバウンドし、次いで香澄の身体が深々と沈み込んでいった。





「ダ、ダウーーン!」

 まるで流れるような香澄のダウンシーン、その一部始終を間近で目撃していたレフェリーが、慌ててダウンを宣告する。このR2度目のダウン。手応えを感じたナミは勝利を確信しニュートラルコーナーへ下がろうとした時、香澄の様子を見たレフェリーは即座に試合終了のゴングを要請した。



カンカンカンカンカンカーン!



ゴングが高々と鳴り響いていく。その瞬間、うつ伏せで倒れていた香澄の身体がびくんッ! と波打ったかと思うと、

「ぶ……うぇぇ……ぉえッ」

香澄の口から黄色味がかった、粘ついた胃液が2度キャンバスに吐き出された。

都和泉の部員たちは大慌てで担架を用意し、香澄を乗せるとすぐさま保健室へと担ぎ込んでいくのだった。

「ったく、ちょっとやり過ぎたんじゃねーのか?」

リングの外から柊が声を掛けてくる。

「……かもね」

柊の声掛けに若干憔悴した表情を見せると、ナミはリングを降りていった。



 結果としては、ナミの作戦勝ちである。1R終盤での芝居が功を奏し、ナミは香澄を2度に渡って失神KOで沈める事に成功したのだから……が、喜ぶような心境にはなれそうにない。
ナミとしては、香澄の容態は気掛かりであったが敢えて声を掛けるのは避けた。



勝者が敗者に情けをかけるな!



かつて自分自身が言った言葉を思い出す。対戦相手と健闘を称え合えない幕切れ……という経験をナミは今まで幾度かした事があったが、やはり何度やっても素直に喜べない。
勝った事の嬉しさよりも、やり切れなさの方を強く感じてしまうのである。

だが、勝者はそれを受け容れなければならない。故に勝者は常に孤独と隣り合わせなのだ……とナミは思っていた。










「よーし、頑張っていい試合にするよー」

 ナミが感傷に浸っていた横から、気の抜けたような間延び口調が聞こえてきた。越花である。臨戦態勢の整った越花が、由起に促されリングインしようとしていた所だったのだ。
とても今から殴り合いをするとは思えない、間の抜けた声。その声に何故か少し救われたような気分になったナミは、

「頑張りなさいよ、越花。前野君との特訓の成果……見せてよね」

表情を崩し笑顔を覗かせながら、越花を激励するのだった。





 リング中央でレフェリーから注意を受ける越花を見て……

「あの娘……ボクシング始めてたの!?」

ギャラリーの人混みに紛れている心が、珍しく驚きの声を上げる。今リングに立っている越花とは、実は同じ中学の出身である。中学時代では気を許してもいいと思えた、唯一と言って良い存在であった。
が、ちょっとしたすれ違いで心は越花を傷つける行為に及んでしまい、謝罪する機会を逸したまま現在に至っている。

心の知っている越花は、内向的でとても人前で殴り合いの出来る少女ではない。アンナの誘いで気になって見に来てみたが、まさかこんな場面に出くわすとは……

リング中央で相手と対峙する越花の顔は少し緊張の混じった、しかし確かな決意を持った良い顔であった。

「越花……」

人混みの中、心にはせめて越花の無事と勝利を祈る以外に出来る事はなかった。


 両者を各コーナーに分け、後は試合開始を待つばかりとなる。

「それでは第4試合、佐藤 晴美(さとう はるみ) 対 葉月 越花、フェザー級2分3Rを始めます!」

アナウンスを聞きながら、越花は由起に銜えさせて貰ったマウスピースを慣れない手つきで直していく。ゴムの感触が何とも気持ち悪く、軽く吐き気を催すものの、辛うじて押さえ込んだ。



カァァァァン!



第1R開始のゴングが鳴り、越花は左拳を出しグローブタッチを要求する。しかし……



バシィッ!



晴美はそれを無視し、それどころか問答無用でいきなり右ストレートを叩きつけてきた。

「あぐぅッ」

いきなり強烈な1発を浴び、越花は目から火花が飛び散るような錯覚を覚える。先制攻撃が上手くいき、気の乗った晴美は越花へと一気に近寄ると乱暴にパンチを打ちつけ始めた。

「ぐッ、うぅ……」

越花はこの乱暴な暴風を、必死にガードを固める事で耐えていく。晴美のパンチは、ボクシングというよりは喧嘩のような大振りであった。ガードを固めたまま、越花はグローブの隙間越しに相手を観察していく。
大振りで凄い迫力だが、見た目程に威力はない。

(前野くんのパンチの方が痛いし怖いよ!)

ずっと防御に徹していた越花だったが、意を決すると上体を振り的を絞らせずに基本の動きをしていく。不思議な事に、ただそれだけで晴美のパンチは越花を捕らえられなくなった。
元々、実力的に大したものではないのだろう。加えて喧嘩に近い大振りである。別段、越花が特殊な事をしている訳ではない。前野 裕也に教わった事を、ただバカ正直に実行しているだけの話なのだ。

足を使って1ヵ所に停滞しない。
上体を振って的を絞らせない。
パンチを怖がらない。そして……



パァンッ!



越花の左ジャブが、晴美のパンチの合間を縫ってヒットする。

(試合のペースを変えるには、まずジャブから!)

越花は男子部と試合した時とはまるで別人のような、鋭い左ジャブを徹底して打ち続けた。



パンッ、パシッ、スパンッ!



これがまた小気味良く入る。ジャブを貰う度、晴美の頭は軽く揺れていた。



カァァァァン!



そこで第1R終了のゴングが鳴り、越花は悠々とコーナーへと戻っていくのだった。



 スツールに座り、マウスピースを取って貰うよう促すも、由起が動く様子を見せない。どうしたのか? と様子を見てみると、眼前の由起が呆気に取られた表情を露わにしていた。
由起だけではない。東を除く他の部員たちも、ナミですら越花の見違えるような動きに唖然としていた。とても前に1発でKOされた少女と同一人物とは思えない、『ボクサー』に変貌を遂げていたのだ。

ポンポン、とグローブで軽く肩を叩かれ、由起はようやく我に返り自分の仕事に取り掛かっていく。



カァァァァン!



第2Rのゴングが鳴る。先程の攻守交替で、完全に越花のペースとなったのかジャブが面白いように当たる。途中晴美のパンチを貰う場面も多くあったものの、常に動いてヒットポイントをずらしていた為見た目程にはダメージを受けていなかった。
また、2R終盤には右ストレートで晴美をグラつかせる事に成功し……



カァァァァン!



第2Rも越花だけがポイントを重ねる結果となった。そして最終第3R……相手コーナーから晴美の出てくる気配がない。



カンカンカンカンカンカーン!



「勝者、青コーナー葉月!」

いきなり勝利を宣告され、理解するのに少しばかりの時間を要する越花。現段階でこれ以上越花と打ち合っても結果は同じ、と都和泉陣営は判断し急遽棄権を申し出たのであった。
うなだれる晴美とは対照的に、レフェリーに左手を高々と上げられ感無量となったのだろう。越花はその場でポロポロと涙を溢し、嗚咽を抑えるのに精一杯、という表情を見せる。

まさに、明暗の分かれた瞬間であった。





to be continued……
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Author:チャパロット
基本的に携帯サイトで書かせて頂いているもののリメイク(?)ですが、ちょくちょく文を変更してたりします(あと拙いですが自作絵なども)。
何かある方は、ckcwb305あっとまーくsutv.zaq.ne.jpにご連絡下さい。

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