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第21話

 第21話です。

光陵高校女子ボクシング部、初の練習試合に挑む。対戦校は都和泉高校。果たして、ナミたちはどれだけ闘えるのであろうか?




「それでは、これより光陵高校女子ボクシング部と都和泉(みやこいずみ)高校女子ボクシング部との練習試合を行います!」

 都和泉の放送部の部員であろうか、机の上に置かれたマイクを使い1人の男子生徒が声高に宣言していく。女子ボクシング部室の周りには、以前の男子ボクシング部との試合と同様にギャラリーが出来上がっていた。



「では早速第1試合、夏木 綾(なつき あや) 対 桜 順子、ピン級2分3Rを始めます!」

 実況に促され、2人の少女がリングへと足を踏み入れていく。順子は緊張した、しかし気合の入った表情でセコンド・由起の指示を聞いている。どうやら試合に集中出来ているようだ。
久美子の事があってもしや……とも思っていたのだが、取り越し苦労で良かった、とナミは胸を撫で下ろす。


そんな中、試合開始のゴングが鳴った。


 お互いジャブを打ち合い、自分の間合いを確保していく。最初にパンチをヒットさせたのは、対戦相手の夏木の方だった。その後数発続けて打たれ、周りから歓声が上がる。

夏木は思った以上に上手い選手で、丁寧に間合いを計った上でジャブを当てていた。やはりというか、さすがに技術面に於いては素人同然の順子に勝ち目はなさそうだ。
結局第1Rは夏木のジャブにあしらわれ、順子は良い所が無いまま青コーナーに戻る羽目になるのだった。


 続く第2R、順子は強行策に出る。ガードを固め、夏木と密着する戦法に出たのだ。恐らくは由起の指示なのだろう。そしてそれは見事に的中し、夏木のパンチを受けながらも懐まで潜り込んだ順子は、腹へと思い切り右ストレートを叩き込んでいく。
夏木はインファイトを嫌がり、何とか離れようとするものの順子も執拗なまでに追いかける。

夏木が退き順子が追う……そんな攻防が第2Rを過ぎ、最終第3R終盤まで見られた。ここで、執拗な追撃戦を仕掛け続けた順子にようやく好機が訪れる。


曰く、夏木をコーナーに追い詰める事に成功したのである。


両部員たちの声援が飛ぶ中、順子は逃がすまいとがむしゃらにパンチを放っていく。夏木は逃げ場を失い、棒立ちとなって順子のパンチの雨に晒される事となった。
順子は息を荒くし、だがその手を休める事は無かった。次第に1発、2発、3発……とクリーンヒットが入り始め、6発目のパンチが頬を抉った時、夏木の身体がグラついたかと思うと、



ドスンッ!



その場で崩れ落ちていた。

確かな手応えを感じたのか、順子は小さくガッツポーズを取りながらニュートラルコーナーへ退いていく。

カウントが進む中、4の辺りでようやく身体を起こし始める夏木。カウント8で立ち上がり試合は続行されたが、追撃したい順子は先程のラッシュで既にスタミナを切らしてしまいヨロヨロと動くのがやっとの状態だった。



カンカンカンカンカンカーン!



 無念にも試合終了のゴングが鳴り、両者引き分けという結果に終わる。初勝利まであと一歩まで迫りながらも逃してしまった順子は、悔しそうな顔をしたものの成長の感触を確かに感じたようであった。





 続いて柊の試合。相手は校門前で出迎えてくれた中国人留学生、曹 麗美(ツァオ リーメイ)である。お互いリングに上がり、セコンドの指示を受けていく。

「では第2試合、曹 麗美 対 高頭 柊、ライト・フライ級2分3Rを始めます!」

実況後少ししてからゴングが鳴り、第2試合が始まった。麗美は右のオーソドックス、柊はサウスポーにそれぞれ構え、お互いジャブで牽制し合う。
ジャブが交差するリング上、次第に皆の視線は釘付けになっていく。


速かった。


柊も、そして麗美も、並のスピードを軽く超えており、しっかりと見なければ追い付かないのだから釘付けになるのも当然といえた。柊のスピードも相当のものだったが、それに拮抗してくる麗美も大したものといえよう。

1R目は、麗美が数発ジャブを貰う形で終了する。続く第2R、麗美はフットワークに重点を置いたヒット・アンド・アウェイ戦法を展開していった。どうやらこれが、曹 麗美というボクサーの本気のスタイルらしい。
一方の柊はというと、その場からあまり動かず麗美の向かう先に身体を向けていくだけで精一杯のように見えた。


 素早い横の動きからジャブを放っていく麗美。対して柊はブロッキングし被弾こそしないものの、それだけだ。ギャラリーの目には柊が麗美の動きについて来れないもの、と映ったのか麗美に対する声援が多く飛び交う。
アウェイでの試合によく見られる光景だった。



(厄介ね……)

 ナミは眉を潜めながら思った。何が厄介なのか? 周りの声援が……ではない。麗美のスピードが……である。ナミの知る限り、同年代の女子で柊程スピードに特化した選手は、全国レベルでもそう記憶にない。
ましてや、自分が対戦してきた中には1人もいなかった。その柊を翻弄するスピードの選手が、まさかこのような所にいるなどとは思わなかった。だからこそ厄介だと思ったのである。

麗美は更にギアを上げ、ジャブで柊を刻んでいく。柊はひらすらガードを固めるのみだ。



カァァァァン!



そんな状況の中、第2R終了のゴングが鳴る。柊はゴングに救われた……誰もがそう思った事だろう。



ただ1人、柊本人を除いては……



スツールに座り、由起から何かしらの指示を受ける柊。ただその視線は、麗美の顔から離れる事はなかった。



カァァァァン!



 最終第3Rのゴングが鳴った。麗美は相変わらずのヒット・アンド・アウェイ戦法。打っては退き、また間合いを詰める。それの繰り返しである。卑怯と思われるかも知れないが、これも立派なボクシングの戦法なのだ。
特にアマチュアボクシングでは、判定の際1発のポイント差が顕著に関わってくる。1回のノックダウンより1発のクリーンヒットの方が遥かに貴重なのだ。
麗美は、そうした“ポイント重視のボクシング”を徹底しているのだった。

一方、柊も相変わらずその場からあまり動かず麗美に追従する風な行動に終始していた。ポイントでは、麗美に分があるだろう。本来ならもっと積極的に攻めて、ポイントを稼ぎに行かなければならない場面なのだが……

なのだが……



バシィィンッ!



突如大きな打撃音が響き、たった今まで優勢に攻めていた筈の麗美が身を翻してうつ伏せに倒れ込んだ。何が起こったのか、その場にいた殆どが分からない中、

「ダ、ダウーン!」

レフェリーの声だけが状況を正確に伝えるのだった。

柊は左拳を何度か握ると、静かにニュートラルコーナーへと歩いていく。


「あれは……」

 皆が放心したように黙ってしまう中、柊のした事に気付いたのは果たして何人いただろうか?

(カウンター……それもかなり高難度の………)

そんな柊の行動に気付いた者の内の1人に、知念 心(ちねん こころ)がいた。行かない、と口では言ったものの、気になって足を運んでいたのだ。
勿論、断った手前アンナに見つからないよう人影に隠れている。

「スリー…フォー…」

レフェリーのカウントが聞こえてくる度、麗美の意識はより鮮明さを増してくる。が、それによりある絶望感を徐々に受け入れざるを得なくなっていく。

(か、身体が……身体が動かない………)

予想の外からの攻撃というのは、実は相当に効く。通常、予測出来る攻撃に対してはある程度の防御手段を取る事も可能である。が、予測の外……つまり無防備、或いは死角からの攻撃には対処のしようがないのだ。
第2Rから自分のスピードに対応出来ていないとタカを括り、ずっと攻め続けていた麗美に、柊のカウンターはまさに予想の外だったと言えよう。加えて今までトップギアで動き続けてきたツケが、この1発を貰ってしまった事でリバウンドで圧し掛かってきたのだ。

一度筋肉疲労を認識させられると、途端に身体は言う事を効かなくなる。後は精神力で如何に“騙す”か、という次元の話となるのだが……
麗美は精神力で疲労を無理やりねじ伏せ、カウント8で構える事に成功した。


 試合が再開され、両者ともリング中央へと歩を進める。が、もはやガス欠の身体を精神力のみで動かしているだけの麗美に、先程までの華麗なるヒット・アンド・アウェイ戦法を求めるのはいささか酷と言うべきであったろう。

柊のパンチが嘘のように、面白い程ヒットする。打たれる度にフラつき、後退し、あっと言う間にロープへ追い詰められ……そして柊の左ストレートが麗美の頬に突き刺さると、力なく膝を折りその場でダウンするのだった。

「ダウン!」

麗美、このR2度目のダウン。1度目のものとは異なり、今回はより深刻な様子だった。脚を折り畳み、まるで土下座のような姿勢のまま身体を上下させるばかりで、ダウンカウントが始まっても立ち上がる気配は見られない。

完全なスタミナ切れであった。元々スタミナのあった方でも、打たれ強い方でもなかったのだろう。だからこそ徹底したヒット・アンド・アウェイという戦法を選んだのかも知れない。
事実、第2、3Rの途中までは圧倒的に試合を支配していたのだ。が、その代償は余りにも大きかった。


 カウントが進むも、麗美に変化は見られない。土下座のような姿のまま。そして遂に……

「ナイン…テン!」



カンカンカンカンカンカーン!



結局、麗美はテンカウントを数え上げられてしまい、柊の逆転KO勝利という結果で試合は終わりを告げる。ゴングが高々と乱打される中、麗美は部員たちに助け起こされようやくその場を後にしていくのだった。





 由起にヘッドギアを外して貰いながらも、柊は微妙に納得のいかない顔をしていた。

「初KO勝利、の割にはあんまり嬉しくなさそうね。アンタ」

次の試合に出場するナミが、リングシューズの紐を結び直しながら柊の浮かない顔を見てそう呟いてくる。

「いや……別に嬉しくねえ訳じゃねーよ。ただ、上手くタイミングが合わねーな、って……」

柊はやはり左拳を何度か握り込みつつ、軽く首を傾げてみせた。

「タイミング?」

「ああ。カウンターってヤツのタイミング」

そう言うと柊はある一点に視線を注ぐ。ナミも釣られて視線の先を辿ると、そこには部員たちに介抱されベンチで横にされている麗美の姿。

「アイツ速ぇんだよな。上手くタイミングが合わねーのなんのって……」

「…………」

ナミは答えなかった。答えられなかった。戦慄を覚えた、と言ってもいいだろう。まだボクシングを始めて数ヶ月もない柊が、あろう事かカウンターを狙っていた、というのである。
しかも、ナミをして厄介だと思わしめた、あの麗美のスピードに……
この時、ナミは以前柊に抱いた感想に確信を抱くに至った。

(やっぱりコイツは天才だ)

と……





「下司さん、そろそろ出番よ」

 由起に促されたナミは、柊の事を一旦頭から切り離し試合に集中するべく両のグローブを思い切り打ち鳴らす。皮の乾いた音が響くと、ナミは表情を引き締めリングインしていった。

レフェリーがナミと中村 香澄、2人を中央へ寄せ試合上の注意を伝える。つつがなくそれも終わり、グローブタッチの後両者コーナーへと引き返す、その時

「中学の時の借りは返すわよ……下司さん!」

ナミにしか聞こえない程度の音量で、対戦相手である香澄は敵意を剥き出しにしていた。お互いコーナーへと戻り、後は開始のゴングを待つばかりとなる。
が、この時点でナミは少しばかり気後れしていた。



中学の時の借りは返すわよ



頭の中で香澄の言葉が反芻される。

(先輩、まだ“あの時”の事を………)

ナミは、中学の時のある出来事を思い出していた。それはナミが中学二年の頃まで遡る。当時中学のある大会への参加を賭け、同部所属で同階級だったナミと香澄は試合をする事になった。
試合は終始ナミのペースで進み、第2R開始直後……ナミの右アッパーが香澄のアゴを打ち抜き、香澄は部員たちが見守る中リング上で完全に白目を剥いてKO負けしたのである。

大会でナミは見事優勝、新たなる名声を手に入れる事となった。対する香澄は、後輩に失神KO負けを喫したとして、一部の心無い者たちから侮蔑を受ける事になる。
ただ、ナミがその事実を知ったのは香澄が卒業してからで、それが心の中に“しこり”となって残ってはいたのだ。再会した時はそのような素振りを一切見せなかったので、てっきり香澄本人も払拭したものと思っていたのだが……

(でも、正々堂々と試合した結果だったんだから。悪いけど、わたしもこんな所で同情してられないのよ)

ナミは一度大きく頭を振ると、気後れしていた自分を吹き飛ばす。次の瞬間、その顔は完全に『ボクサー』のものとなっていた。



「では、中村 香澄 対 下司 ナミ、フライ級2分3Rを始めます!」

宣言の後、



カァァァァン!



2人の試合が開始された。


 お互い左のグローブを合わせ距離を取る。どちらも右のオーソドックススタイルで、間合いを計りつつ左ジャブを繰り出していく。



バンッ!



最初にパンチを貰ったのは、意外にもナミの方だった。香澄の左ジャブを避けたつもりが、目測を誤ったのか貰ってしまったのである。

(くッ……先輩、速くなってる!)

香澄はファーストヒットにも顔色ひとつ変えず、続けざまにジャブを連打。ナミはこれに上体を振る事で対応、ガードを固めて追撃のヒットを許さない。
が、執拗に迫り来るジャブを嫌がったのか一度大きく後退し間合いを離した。

(ふう……あのジャブは厄介ね。中距離での刺し合いはちょっと分が悪いかも……なら潜り込んでインファイトに持っていくか!)

次なる作戦を瞬時に立てると、ナミはガードを固めて香澄との距離を詰めていった。



シュッ、ビュンッ!



香澄はナミが間合いに入るなり、左ジャブで迎え撃つ。それを足を使って的を絞らせないよう動き回りながら、ナミは徐々に香澄へと接近していった。
そして、香澄の右側に回り込むや、



パァンッ!



ナミは反応の遅れた香澄に軽く左ジャブを打ち付ける。続いて左フックを腹へ、更に左フックを顔面へと立て続けに叩き込んでいく。見事な左の3連打だった。

「くぅッ」

速い左を3発立て続けに受けた香澄は、呻き声を上げナミの方へと振り向く。香澄が怯んだ隙を突いて、ナミは身を屈め一気に近接距離へとダッシュ。
グイッ、と左肩を香澄に預けるように密接すると、



ズンッ!



右のボディーアッパーを香澄の腹に思い切り叩きつけた。

「かはぁッ」

腹に伝わる痛みと衝撃で、思わず顔をしかめる香澄。が、彼女も伊達に都和泉高校の主将を務めている訳ではない。歯を食いしばると、間髪入れずナミのアゴへ右のショートアッパーを打ち付ける。



ガツッ!



「あぐぅッ」

 予想外の反撃を受け、ナミのアゴが跳ね上がる。更に頬に左フックを連続で貰ってしまい、ナミはその場でたたらを踏んでしまう。ナミが体勢を立て直すより早く、香澄は間合いを離しざま右腕を引き絞り……



バッシィンッ!


右ストレートを思い切り叩き込んだ。

「ぶはぁッ!」

ジャストミートされた右ストレートの威力に、ナミの口からマウスピースが弾け飛び身体を大きくグラつかせる。膝がガクンッ! と折れキャンバスへと真っ逆さまに沈み込もうとするその瞬間、



グシャアッ!



追撃に来た香澄の打ち下ろし気味の右ストレートが、再びナミの顔面をしたたかに殴りつけていた。

「ぶぁ……」

その打ち下ろしの弾丸が決定打となり、ナミは堪らずキャンバスへと強引に押し付けられるが如くうつ伏せにダウンさせられてしまった。


「ダウン!」

 レフェリーがダウンを宣言し、興奮し倒れているナミに尚も拳を振り下ろそうと向かう香澄を身体で食い止めると、ニュートラルコーナーへと退がるよう指示する。
強烈なノックダウンに周りからの歓声が上がる中、ナミは両腕を投げ出し完全に沈黙してしまっていた。

「ワン…ツー…」

ダウンカウントが読み上げられていく。が、ナミは倒れたまま動く気配を見せない。ナミのまさかのダウンに、光陵の部員たちは皆、言葉を失ってしまっていた。




to be continued……
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チャパロット

Author:チャパロット
基本的に携帯サイトで書かせて頂いているもののリメイク(?)ですが、ちょくちょく文を変更してたりします(あと拙いですが自作絵なども)。
何かある方は、ckcwb305あっとまーくsutv.zaq.ne.jpにご連絡下さい。

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