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第20話

 第20話です。

部活の練習後、帰り道で中学時代の先輩である中村 香澄と出会ったナミ。そこで、香澄の在校している都和泉高校との練習試合、という流れに話は発展していく……




「練習試合?」

 練習生がいなくなり静寂の支配する山之井(やまのい)ボクシングジム内に、植木の声が響き渡る。

PM11:40。既にジムワークを終えていたナミは、例の如くストレス解消に現れた植木に部活が終わった後の事を話し始めた。
学校からの帰り道で中学時代の先輩であった中村 香澄(なかむら かすみ)と偶然出会い、光陵高校にて女子ボクシング部を設立した事を話すと、

「だったらウチと練習試合しない?」

という流れになってしまったのだという。

「ちなみに、その中村先輩ってのが通ってるのは?」

植木が相手側の学校名を訊ねてみると、

「都和泉(みやこいずみ)高校って所」

ナミは即座に答えた。


 あまり聞き覚えのない名前だな……と植木は思う。名門校と名高い男子ボクシング部の顧問を務めていた植木である。
神奈川で有名なボクシング部のある学校はある程度把握しているのだが、彼の脳内検索に該当する名前ではなかった。
少なくとも有名どころではないようである。

(まぁ、新人戦への肩慣らしにはいいかもな……)

植木は練習試合の件を承諾し、日程と段取りをナミに一任するのだった。










「……という訳で、今度の5/16(日)に都和泉高校との練習試合の予定だから、みんな頑張ろう!」

 数日後、香澄と日程を決めたナミが他の部員たちに練習試合が決まった旨を伝えた。

「随分と早ぇな……2週間切ってんじゃねーか」

柊が難しい顔をする。難しい顔をしてはいるが、不安な様子ではない。



別にいつでもいいぜ……



そう言っているようにも見えた。

「まさかこんなに早く試合の機会が来るなんて思ってなかったよ」

越花が間延び口調でやる気を見せる。最近、少しずつ頼もしくなってきている気がする。
聞く所によると、男子ボクシング部の前野 裕也(まえの ゆうや)と2人で個人的な自主トレーニングを行っているらしい。

その一方、久美子と順子はどうにも浮かない顔をしていた。久美子はどこか上の空といった感じの表情をしており、順子はそんな久美子を見て落ち込んでいる……そんな雰囲気だった。

「どうかしました? 畑山先輩」

浮かない顔に気付いたのか、アンナが心配そうに久美子へと話しかける。

「え? ううん、別に……」

久美子はふるふると首を振り、心配させまいと作り笑顔を覗かせる。由起は無言で久美子の方を辛そうな目で見た。が、すぐに振り返り練習の準備に取り掛かっていった。


 練習が開始されると、久美子はちゃんと気持ちを入れ替えて集中しているのがせめてもの救いであったろうか。それとも、何かを吹っ切ろうとしているのか……

その日の練習中、陽子が案の定最初のロードワークの時点でヘトヘト、途中の基礎トレーニングで嘔吐してしまい脱落した以外は特に問題なく終了した。

久美子は家の用事があるからと足早に帰ってしまい、終始浮かぬ顔をしていた順子もそれに続く。都亀(とき)は陽子の介抱を行った後、陽子と共に越花の家の車で送ってもらう事になった。
柊とアンナ、由起は普通に帰宅し、ナミも最後まで残った後、家へと帰っていった。





 途中で柊や由起と別れ、アンナは暗くなってきた道を1人帰っていた。家に到着するまで半分に差し掛かった頃、ふと何やら言い合っている複数の男たちと1人の女の子の姿が視界に入ってきた。
チャラチャラした軽い雰囲気の男が3人、女の子を囲むように立っている。

(あれって……)

そんな中、囲まれている髪の長い女の子の姿にアンナは見覚えがあった。

知念 心(ちねん こころ)。アンナや柊、ナミのクラスメイトである。が、あまり学校へ出て来ていないのか目撃する事が少なく、出て来たとしても人とは極端に交わろうとしない、いわゆる一匹狼的な少女……
実際にアンナも彼女と会話を交わした事はない。だが、一目見た時から何か感じるものはあった。

そんな折、心は男たちに連れられるように路地裏へと姿を消していく。肩を乱暴に押され、心の腰まであろう長い髪が揺れる。

(あ……!)

まさか彼女の身に危険が? アンナは心の事が心配になり、お節介と知りつつ後を追った。嫌な予感がする。
あまり知らない間柄ではあるが、それでもクラスメイトがあんな事やこんな……こんな事に!?

アンナは1人で勝手に妄想し、1人で顔を赤くしつつも急いで路地裏へ通じる道へと辿り着いた、その時……



グシャアッ!



肉を殴打する音が耳に届き、次いで男たちの内の1人が吹き飛ばされてきた。鼻から血を噴き出し、完全にノびている。
何かあった! と路地裏へと走り寄ると……心が袋小路へと追い詰められ壁を背に、2人の男たちを迎え撃つ形となっていた。
右拳にハンカチを巻いて、ボクシングのファイティングポーズを取っている。アンナが動くより早く、1人の男に動きが見えた。

「オラァッ!」

声を荒げながら、男は心目掛けて走り寄り大振りの拳を振り下ろす。



スッ……



心は冷静に男のパンチを首を振るだけでかわし、流れるような一連の動作から繰り出された右拳を、



グシャアッ!



勢い余った男の顔面へと無慈悲に叩きつけた。

(あれは!)

心の動きに、アンナは何か引っ掛かるものを感じる。少し考え、

(鉄平ちゃんと同じ動きだ!)

心のその動きが、こないだの試合でアンナをKOした我聞 鉄平(がもん てっぺい)と同じ……即ちカウンターブローである事に気付いた。


 瞬く間に2人の仲間を倒され、萎縮していく残りの1人。が、逃げる様子は見られない。男は心が動き出すのを待とうと、自分から攻めず様子を窺う。
相手に動く気配が見られない事、また複数で後ろを取られる心配が無くなった事で、心は壁から離れボクシング独特のフットワークで相手へと間合いを詰めていく。
髪をなびかせながら流麗なフットワークで間合いを詰めていくその様を、

(キ、キレイ……)

アンナは思わず見とれてしまっていた。見事なフットワークであっという間に男を射程圏内に捉えた心は、左ジャブを2発、男の顔へ正確に打ちつける。



バンッ、パシッ!



頬を叩く軽やかな音が鳴る。男は心のパンチに全く反応出来ず、さながら木偶人形のよう。
心は左ジャブで相手との間合いを調整すると、続いて右拳を思い切り後ろへと引き絞る。
打たれた衝撃で目を逸らしていた男は、この時心の動作に注目しておらず、

「野郎ッ!」

下品極まりない悪態を吐くばかりだった。


 心は、そんな男の悪態など歯牙にもかけない冷めた表情で男目掛けて引き絞った右拳を、今度は思い切り振り抜いてやった。



メキィッ!



鈍い打撃音が路地裏に響き渡り、男は口から血と唾液と数本の歯を撒き散らせながら大きく吹き飛んでいく。
相手が沈黙したのを確認すると、心は右拳に巻いていたハンカチをシュル、と外す。
そして、その下に嵌めていた鉄製のサックも外しハンカチと一緒に、スカートのポケットの中へ無造作にしまい込んだ。

アンナはこの惨状に口を閉ざしたまま何も言えなかった。いや、“言わなかった”。彼女の舞うようなフットワークを、闘いを邪魔したくない……などと思ってしまっていたのだ。そして同時に、

(この娘、欲しい……)

とも思っていた。


 勿論、ボクシング部に……である。彼女が加わってくれればきっと即戦力だろうし、自分と体格が近い為練習相手にもなってくれそうだ。それよりも何よりも、

(グローブを交えてみたい)

というのが、恐らくは1番の本音であろう。強そうな相手とは真っ正面から勝負してみたい……そう思ってしまうのが、アンナの悪い癖であった。

勝ち負けは二の次、とにかく全力でぶつかりたくなるのである。
そんな事を頬を軽く蒸気させながら考えていると、路地裏の奥から心がこちらへ歩いてきた。
制服の所々に返り血を浴び、無表情で悠々と向かってくる様は、さながら悪鬼の如く……一般人ならばその場で凍りつく事間違いなしであろう。

その悪鬼が、アンナの存在にようやく気付く。切れ長の鋭い目つきが更に細められ、眉間に皺を寄せる。ほくろの浮かんだ、整った口元を歪めると、

「チッ……」

眼前に佇むアンナへ向け、隠そうともせず舌打ちをした。嫌な場面を見られた、と態度が心の心情を物語っていた。

「あ、あの……」

全身で拒絶の態度を取る心に対し、アンナは恐る恐る声を掛けてみる。

「あんた……確か同じクラスの城之内って外人……」

意外だった。教室で会う事も少なく、極端に他人と交わろうとしないこの少女がアンナの事を知っていたのだ。

「私の事知ってるんだ? 知念さん」

アンナは心が自分の事を知っていたのが嬉しくなり、表情が緩む。

「こないだの男子ボクシング部との試合、偶然だけど観てたからね」

心はそこで一旦言葉を切り、

「いい負けっぷりだったじゃない。完全にノされててさ」

クックッ、と愉快そうに含み笑いを浮かべた。


 鉄平に完全敗北した時の事を思い出し、アンナはテヘヘと恥ずかしそうに白い指で頬を掻く。皮肉が通じていないようだった。
心はふと真面目な表情に戻り、

「さっき見た事は誰にも言わない方がいいよ……一応だけど、同級生は潰したくないから」

それだけを伝えると、足早にその場から去っていった。

去っていこうとする心にアンナは声を掛けようとしたが……やっぱりやめた。きっと彼女とはもっと深く関わる時が来る……この時アンナは、漠然とそのような予感を感じ取っていた。





 翌日、アンナは部活の練習に入る前に、『有望株を見つけた、交渉してなんとか入部させてみる』と部員たちに告げた。
詳細を求められたが、のらりくらりと言いくるめ心の存在を知られる……という事態だけは免れる事が出来た。
又、練習試合が近い事もあり悠長に聞いている時間も惜しい為か、誰も深く詮索しなかった。

そんな中、相変わらず久美子は浮かぬ顔のまま。

(本当にどうしたんだろう? 畑山先輩……)

ナミは久美子の様子がどうにも気になり、事情を知っているであろう順子に話を聞いてみる事にした。

練習終了後、ナミは順子を連れ出し事情を聞く。順子は少し動揺したが、やがて覚悟を決めたように

「久美子さんの両親が離婚する、って話になってるの……」

大好きな姉のような存在である久美子の、その家の事情を語り始めた。



曰く、両親が離婚した後どちらに付いていくのかを娘自身に決めて欲しい……との事らしい。



どうやらナミの予想以上に久美子は苦しい状況にあるようだった。心中を察したナミは、順子に他言しない事を誓うとこの件には口出ししないようにした。

数日後、都和泉高校との練習試合まで残り3日となった日、アンナは登校していた心を呼び出した。

「なんの用?」

呼び出された心は無表情でアンナを見つめる。

「あのね知念さん。3日後に都和泉高校って所とボクシングの練習試合があるんだけど……」

アンナは心に対しどう接していいのかまだ分からず、微妙に歯切れの悪い口調になってしまう。

「それで?」

心は鉄面皮のまま、両手をポケットに入れアンナを見据えた。アンナは決意し心を見学に誘おうと話を進めていくが……

「それでね、良ければ知念さんにも観に……」
「行かない」

即行で断られてしまった。

「え? なんで」

「興味ない」

話はもう終わったと、その場を去ろうとする心。

「3日後の午後1時、向こうの学校だから! 待ってるからッ!!」

アンナは大声で再び催促するものの、心が振り返る事はなかった。





 3日後。都和泉高校との練習試合の日がやってきた。光陵女子ボクシング部にとって初めての、他校との試合である。

「さぁ、みんな張り切っていくわよ!」

ナミが号令を掛け、一同は相手高校へ向け出発を開始した。

「こんなに早い時期にまた顔を殴れ………もといボクシングの試合が出来るとは思わなかったわ」

とは、空手部主将・東 久野(あずま ひさの)の言。練習試合の話をどこからか聞いた途端、参加を申し出てきたのだ。
男子部との助っをして貰い、いわゆる“借り”のある身としては無下に断る訳にもいかず、由起に無理を言って対戦スケジュールを合わせて貰ったのであった。

(物騒な事言ってるなぁ、この人)

などとナミは思いながら、電車に揺られ目的地へと進んでいく。

数10分後、ナミたちは今日の戦場となる都和泉高校へと到着。その高校前で、

「待ってたわ。下司さん」

都和泉女子ボクシング部主将・中村 香澄と、もう1人の女子高生が一同を歓迎してくれた。
香澄の隣にいる少女は頭髪の右側を団子にリボンで纏め、左側をテールにしている。
顔立ちが日本人とは、少し異なっていた。その少女は一同の前に一歩踏み出し、

「中国人留学生の、曹 麗美(ツァオ リーメイ)と言います。今日はよろしくお願いします」

流暢な日本語で礼儀正しくお辞儀をしてきた。



 香澄の案内で部室に向かう中、

「麗美(リーメイ)っていうのが呼びにくいようでしたら、“れいみ”って呼んでください。日本の名前みたいで気に入ってるんですよ」

などと麗美は気さくに話してきた。

「さぁどうぞ」

一同は部室内へと促される。植木が聞いた事がない高校だ……と言っていただけあって、確かに設備はお世辞にも整っているとは言い難かった。

光陵女子ボクシング部を代表しナミが挨拶を済ますと、ロッカールームへと案内されそれぞれ支度を始めた。試合準備を済ませ、

「初めての練習試合……絶対勝つわよ!」

ナミは皆に気合を入れるとロッカールームを出ていくのだった。





to be continued……
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チャパロット

Author:チャパロット
基本的に携帯サイトで書かせて頂いているもののリメイク(?)ですが、ちょくちょく文を変更してたりします(あと拙いですが自作絵なども)。
何かある方は、ckcwb305あっとまーくsutv.zaq.ne.jpにご連絡下さい。

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