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第19話

 第19話です。

いよいよ正式なクラブとして練習を開始する女子ボクシング部。ロードワークに出発しようとした時、ナミたちの前に2人の女子生徒が現れるのだった。




 アンナと越花が無事登校して来てから5日が過ぎ、いよいよ待望の練習再開の日を迎える事となった。今日からが女子ボクシング部の本当の始まりなんだ! とナミは部員たちに気合いを入れていく。
柊1人だけが妙に気だるそうに返事をしてからロードワークに出発しようとした時、

「下司さん、ちょっといいかな?」

2人連れの女子生徒がナミに話しかけてきた。その内の1人、順子とはまた一味違ったボーイッシュショートの背が高い方には見覚えがある。

杉山 都亀(すぎやま とき)という名前で、ナミのクラスメイトである。もう一方の、都亀の後ろの隠れるように立っている肩口で綺麗に揃えている栗色の髪の少女には見覚えがなかった。

「どうしたの? 杉山さん」

出来れば一刻も早く練習を始めたかったのだが、クラスメイトに呼び止められては邪険に扱う訳にもいかず、ナミは皆を一旦待機させると都亀に応答した。


「うん。実は……ボクらもボクシング部に入部したくて」

 『ボク』という一人称を耳にした瞬間、久美子と順子が固まったのをナミは見逃さなかった。都亀は端整な顔つきで、どちらかというと『男装の麗人』といった風体の少女である。
初日の自己紹介の際にも固まっていた人間が数人いたのだ。


……ナミ自身も含め……


その後、女子からもうっとりとした視線を送られている場面を何度か目撃した事もある。ナミとしては、タレ目気味で相手に威圧を与えられない……悪く言えば舐められやすい顔の自分に比べれば全然羨ましくすらあったのだが……

「入部希望なの? 杉山さん。あと……えっと」

ナミは都亀の後ろに隠れている少女の方に視線を移し、名前を確認しようとする。

「な、中森です。中森 陽子(なかもり ようこ)、です」

栗色の髪の少女はオドオドした様子でナミに自己紹介をした。

「中森さんね。貴女も女子ボクシング部に入りたいの?」

「うん。ボクたち、こないだの男子ボクシング部との試合を観て感動したんだ」

都亀が、後ろに隠れている陽子を前に差し出し入部希望の理由を語り始めていく。

「女の子なのに、あんな男子と互角以上に闘って……殴られて痛いハズなのに、それでもひたむきに向かっていくあの姿に、惚れたんだ!」

間近で熱演され、思わずドキッとしてしまうナミ。いくら女子と分かっていても、端整な顔で「惚れた」などと真剣に言われてしまっては動揺しない方がどうかしている。

「う、うん分かった。み、認めるよ。入部」

顔を赤くしながら、勢いに押されたナミはつい入部を許可してしまった。

「本当かい? 下司さん!」

パァッと顔が明るくなった都亀が陽子の方を向き喜びの声を掛ける。そんな中、

「ちょっといいかしら?」

マネージャー兼トレーナーの由起が割って入ってきた。

「杉山さんと中森さん、だったわね? 2人に確認したい事があるんだけど……」

由起は冷めた目を2人に向けている。その冷たい視線を受け、中森は怯え都亀は思わず喉を鳴らしてしまっていた。

「貴女たち、ボクシングがどれだけ危険なスポーツかは知ってる?」

由起が2人を見据え、言葉を紡ぐ。

(あ………)

その冒頭の言葉を聞いた瞬間、ナミと越花はお互いの顔を見合わせた。それは偶然にも、ナミが部に入りたいと言ってきた越花に対して訊ねた事だったからだ。

「はい、分かってます……分かってる、つもりです」

都亀が2人を代表して由起の質問に答える。

「だったら話は早いわ。それでも入部したい?」

由起の視線に鋭さが増す。今にも飛び掛っていきそうな、そんな危うさを孕んでいた。それに気付いたのか、ナミは2人を庇える位置まで少しずつ移動する。そんな一触即発の空気の中、

「はい。ボクは……ボクたちは自分を変えたいんです!」

覚悟したかのような決意の表情で、都亀は大声を発した。由起はそんな都亀の動機を耳にし、次いで2人の目を見つめるや、不意に笑顔を向けた。

「ようこそ、女子ボクシング部へ。歓迎するわ……杉山さん、中森さん」

2人の目に迷いがないと判断したのだろう、由起は実に満面の笑みで2人の入部を祝した。


「な、なんなのよ、もう……」

 最悪の事態に備え身を構えていたナミは、思い切り肩透かしを食らった形となり気が抜けていく。他の部員も概ね似たような状況の中、ただ1人久美子だけはクックッ、と笑っていた。





 練習前にいきなりの入部者が2人も入った事で、開始時間を繰り越しての自己紹介が始まる。

「それじゃわたしから。名前は下司(しもつかさ) ナミ、一年。一応この女子ボクシング部の発足者よ」

トップバッターとして、ナミが颯爽と名乗りを上げた。続いて

「一年の葉月 越花(はづき えつか)です。えっと、部員第1号です」

越花がペコリと頭を下げる。

「一年の城之内(じょうのうち) アンナです。よろしくね」

金髪碧眼の少女が、人懐っこい笑顔で2人を迎える。

「私は二年の畑山 久美子(はたけやま くみこ)。こっちは……」

久美子は手短に挨拶すると視線を順子へと向け……

「桜 順子(さくら じゅんこ)、一年よ」

ツンとした態度で答えた。

「私は二年の大内山 由起(おおうちやま ゆき)。マネージャー兼トレーナーよ」

由起は当たり障りのない自己紹介をする。

「あー、オレ高頭 柊(たかとう しゅう)。一年。ちなみに仮入部な」

最後に柊が挨拶する。が、中森は声を失ってしまっていた。どうやら彼女も柊の外見と中身とのギャップにショックを受けた1人のようだ。それにしても……

(コイツ、まだ仮入部とか言ってるの?)

ナミは未だに柊が正式な部員ではない、と言い張っている事に呆れる思いだった。


 全員が簡単ながら自己紹介を済ませ、いよいよ練習開始となる。入ったばかりの都亀と陽子は、トレーニングウェアを持ってきていないだろう事を考慮して見学してもらう事にした。

まずは慣らしとしていつも通り5kmのロードワークを行う。ナミを先頭に、久美子と由起が後ろを固める形で走る。
始めた頃と比べて、順子や越花もしっかりと付いて来れるようになってきており、確実に進歩している事が窺えた。

ロードワークが終わり、次は基礎トレーニングへと移行する。

「それじゃ腕立て伏せ20回3セット、始め!」

ナミの号令と共に、皆が一斉に腕立て伏せを始めていく。部活が休みの間も、それぞれ自主練習はしていたのだろう。この程度は楽にこなしてみせる。

「次は拳立て伏せ、同じく20回3セット、いくわよ!」

先程は手の平を付いての普通の腕立て伏せだったが、次は拳を地面に付けて行っていく。

「ぅ痛ッ……」

さすがにまだまだ拳が柔らかい越花などは、軽く悲鳴を上げる。拳立て伏せも無事終了し、

「指立て伏せ20回3セット、始め!」

間髪入れずナミは次なる練習を指示した。今度は指だけで身体を支える。

「ハァ、ハァ……」

さすがにほとんど休みなしで120回、しかもその内60回は慣れない姿勢での腕立て伏せである。部員のほぼ全てが苦しそうな吐息を漏らし顔を歪ませていた。

「はい、1分間休憩!」

何とか指立て伏せもクリアし、ナミは部員たちに休憩を取らせる。皆が息を切らせて地面にへたり込む中、

「結構キツいでしょ? でも、毎日やってたら慣れてくるから」

ナミは1人元気に声を掛けて回っていた。


 時計のタイマーが鳴り、1分間の休憩時間が終えた事を伝えると

「休憩終わり。ほら、みんな立って」

部員たちはそれぞれナミに促されるように立ち、次のトレーニングへと気持ちを切り替えるのだった。

「それじゃ次は腹筋。2人一組になって片方は足を押さえてあげて」

ナミの指示により2人一組になった部員たちは、早速腹筋を開始する。

柊と順子、アンナと越花、久美子と由起、比較的体格の近いこの組み合わせで腹筋運動を行っていく。
一方のナミは、1人でしようとしていた所を「手伝うよ」と都亀が名乗り出てその足を持ってくれた。ナミは都亀に礼を述べると、

「腹筋30回10セット、1セットずつ交替で……はい、始め!」

自身も含め腹筋を開始させた。1セットが終わるとお互い交替して続けていく。が、ナミだけは交替分全てを自分1人でこなしていった。

「腹筋を使ってるのを意識して、反動で身体を持ち上げないでね」

自らも腹筋運動を行いつつ、ナミは部員たちに注意を喚起していく。ナミは、今の自分が1番鍛えないといけない所は腹筋であると考えていた。
以前、夕貴とのスパーリングに於いてたった1発のボディーブローで吐かされてしまった事を、ナミは忘れてはいなかったのだ。



本来のファイトスタイルをせず逃げ腰の闘い方をしても、全国の強豪からは勝ち上がれないよ……



ナミの脳裏に、かつて片山 那智(かたやま なち)に指摘された言葉が反芻されていく。中間~近距離で、その圧倒的な手数で以て相手を封殺する。
それがナミの……植木 四五郎(うえき しごろう)の影響で身に付けたファイトスタイルであった。
その過程には、当然相手と打ち合う場面に直面しなければならない。打ち勝つ為には……少なくともあの加藤 夕貴(かとう ゆうき)に打ち勝つ為には、もっともっと腹筋を鍛えなくてはならない。

そういう強迫観念にも似た感情がナミを包み、ただひたすらに腹筋を続けた。


 その後も脚力や背筋力といった基本的な部分を鍛える基礎トレーニングに終始し、学校へ戻る為ロードワークを敢行する。
学校に戻ってきた辺りで、男子ボクシング部の面々とすれ違った。向こうはこれからロードワークに出発するようであった。その途中、

「部室の鍵は植木先生に渡してある。今日は女子部に明け渡してやるから好きに使え」

先頭を走る男子ボクシング部主将・桃生 誠(ものう まこと)にすれ違いざまに伝えられた。


 部員たちが男子ボクシング部室に到着すると、そこには顧問の植木が待っており皆を迎えてくれた。

「よし、戻ってきたな。早く入れ」

植木に促され、つい10日程前に試合したばかりの男子部室へと足を踏み入れていくナミたち。やはり運動部筆頭の予算は伊達ではなく、いちクラブとは思えない豪華な設備が整えてあった。

ナミは天井から吊るされているサンドバッグに軽くポンッ、と拳を打ち付けてみる。手首に伝わる感触を受け、ナミは次第に気分が高揚してくるのを感じていた。

植木に、新たに2名の新入部員が入った事を伝えると、早速部室での練習を開始していった。基本姿勢は皆しっかりと身に付いてきていたので、次のステップへと進む。

植木と由起、2人の指導の下2つのグループに分けそれぞれ異なる練習内容を提示する。植木は柊、アンナ、久美子などにジャブ、ストレートに続く次のパンチ『フック』の打ち方を教え、由起は越花、順子に更なる基礎トレーニングを課していった。


 ナミはというと、新たに入った都亀と陽子にボクシングに於ける基本的な知識・常識などの説明や、明日から練習に参加して貰う旨を伝えていた。
そして、念の為に何か今までに運動経験があるのか? その有無を確認する。

陽子は体育での授業程度の運動しか経験はないらしい。一方の都亀は、小学校~中学一年の二学期途中まで陸上部に在籍。
中距離走の選手を務めていた事、ある日の練習中に足の腱を痛めそのまま退部。が、今はもうすっかり治っている事などを教えてくれた。

2人の大体の状態を確認すると、引き続き今日は見学するよう伝え自身は植木に指示されたトレーニングメニューをこなしていく。
練習用のパンチンググローブを着け、サンドバッグの前に立つ。自動設定されたタイマーが鳴ると同時に……



バンッ、バスンッ!



上体を振りながら、ナミはサンドバッグを叩き始めた。



バンッ、バンッ、パァンッ! ジャラ……



拳を打ち付ける度、サンドバッグからは皮との摩擦音と吊るしている鎖の鳴る音が小気味良く響いていく。そして、それはタイマーが鳴るまで……実に3分間、絶えず止む事はなかった。
それを5R続けると、次は縄跳びを手に取りロープスキッピングに取り掛かった。



ヒュンヒュン……



縄跳びが空を切る音を耳にしながら、ナミは無言で跳ぶ。タン、タン、と軽快に床を蹴り、頬やアゴを伝う汗など気にも留めなかった。



ヒュヒュンヒュヒュン……



途中から二重跳びへと移行し、また通常の跳び方へと交差しながらナミは跳び続けた。



ビーーーーッ!



 タイマーが部室内に響き渡る。そして、

「よし、今日の練習はこれまで!」

植木の掛け声と共に今日の練習が終わった。が、トレーニングメニューを全て終えたからといって、それですぐ終わる訳ではない。ナミは全員を集めると、

「ロードワーク3km、軽く流すわよ」

またも走り出していった。

「え……終わったんじゃないんですか?」

陽子が不思議に思い、植木に訊ねる。

「ああ、あれはクールダウンっていってな。身体の熱を徐々に下げていく為にやるもんなんだ。練習が終わったからといってそのままにしてたんじゃ、筋肉が急激に冷えて次の日にゃほぼ確実に筋肉痛を起こす」

そう言うと植木は2人にモップを渡し部室内の掃除を指示する。自身は器材の片付けをしながら、

「あと練習時ってのは案外気が昂ぶってるもんでな。それも一緒に鎮める意味もあるんだよ」

クールダウンの説明をしてくれた。そして大方の掃除が終わった頃、ナミたちが戻ってきた。





「ありがとうございました!」

 仕上げのストレッチを終えると、ナミを先頭に一同が植木に頭を下げ挨拶をする。それに対し「おう」とだけ答えると、植木は由起に後を任せ部室を出ていった。

皆一様に疲れた表情を見せていたものの、どこか成し遂げたような充足した顔を覗かせていた。男子部との試合を経て、ある者は勝ちたいという強い思いを抱き、またある者は再びボクシングが出来る喜びを感じ……
皆そういった感情をそれぞれが持って練習に打ち込んだのだ。むしろ心地良い疲労感というべきだった。


 一休みを終えると、シャワー室で汗を流し、着替えを済ませ帰宅の準備を始めた。そして皆が帰ったのを確認すると、ナミも由起から預かった部室の鍵を植木に返し家へと向かう。その帰宅途中、

「下司ー!」

呼び止める声があった。ナミはその声に呼び止めた者の方へと振り向く。

「あ………」

その姿を視界に捉えた瞬間、ナミは思わず息を呑む。その姿に見覚えがあったからだ。

「中村……先輩………?」

意外に過ぎる人物の突然の出現に、ナミは驚きを隠せないでいた。





to be continued……
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Author:チャパロット
基本的に携帯サイトで書かせて頂いているもののリメイク(?)ですが、ちょくちょく文を変更してたりします(あと拙いですが自作絵なども)。
何かある方は、ckcwb305あっとまーくsutv.zaq.ne.jpにご連絡下さい。

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