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第18話

 第18話です。

激戦だった男子ボクシング部との試合も全て終わり、女子ボクシング部員たちは桃生の出した条件での勝利を掴む。
だが、後日学校に於いて3名、姿が見えなかった……




 男子ボクシング部との激闘から2日が過ぎようとしていた。試合の後、ナミは夕貴との別れ際……

「下司さん、今度会うのはI・H(インターハイ)の全国大会になるのかな? それまでお互い頑張りましょうね」

と約束させられてしまい、義兄の那智と共に東京へと戻っていった。助っ人として参戦してくれた東は、

「なかなか面白かったわ。ボクシングも悪くないわね」

とボクシングに対して好印象を抱いた様子だった。彼女に関しては、後程もっと驚く報告を受ける事になるのだがそれはまた別の話である。





 そして3日目となる明日……ナミは放課後に男子ボクシング部室に来るよう、鉄平を通して桃生から伝えられていた。


「はぁ……」

 自宅の部屋で寝転びながら、ナミは溜息を吐く。別に疲れていた訳ではない。試合の日から1週間の間は休養を取るように、との顧問からの命令が出ているので、むしろ身体がなまらないか? と心配な位だった。

恐らく桃生は約束を守り、女子ボクシング部を正式なクラブとして認可してれるだろう。この期に及んでごねるような事はないと思う。ナミの溜息の理由は他にあった。
試合に負けた順子、越花、アンナの3人が、揃って学校を休んだのである。その内の1人、順子に関しては、

「負けて落ち込んでたみたいだけど大丈夫。明日にはちゃんと出てくるわ」

と、付き合いの長い久美子が太鼓判を押してくれていた。

越花に関しては、何でもボクシングをしていた事を父親に内緒にしていたらしく激怒した父親が家から出さなかった……と、植木経由で情報が入っていた。
そちらには明日、ナミが自身で出向き謝罪と説得をするつもりでいる。

最後の1人、アンナに関しては……鉄平との試合で作った痣や腫れが酷くなり、熱を出してしまいやむを得ずの欠席である事を使用人と名乗る老婆から伝えられていた。

問題は越花……その父親の説得である。聞く所によると、越花の父親は世界的に有名な写真家であり画家……つまり、芸術家という人種という事になる。
芸術家や文芸家といった類は己の求める道に厳しく、頑固な者が多いというのが世に出回る噂である。
激怒して学校にも出さない辺り、越花の父親も例に漏れないのだろう。

(そんな人を説き伏せるのは大変なんだろうなぁ)

そう思うと、部の認可で喜んでばかりもいられないナミであった。





 翌日。ナミが教室へ入ると、

「おはよう、下司」

顔に湿布を貼った順子が挨拶してきた。が、微妙にそっぽを向き直視を避けるような表情をしているのが印象に残る。

(怒られる、とか思ってるのかな? こないだの試合の事で)

直視を避けるような順子の表情を見て、ナミはそう感じた。そして、

「くすっ……おはよ、順子」

微笑みながら“順子”と名前で呼んでみせた。

「え? 今、“順子”って……」

まさか名前で呼ばれるとは思っていなかったらしく、順子はナミの方へ顔を向ける。

「いいじゃん。同じ目的の為に闘った者同士なんだしさ」

すっかり凝視してしまっている順子に向け、ナミはそう言いながら軽くウィンクをしてみせた。一度はナミを見据えた順子だったが、急に恥ずかしくなったのだろうか顔を赤くしながら、

「そ、そうね。別に名前で呼ばれるぐらいどうって事ないわ」

またもそっぽを向いてしまう。その順子のせわしない態度が面白かったのか、ナミはまた笑みを浮かべていた。

「な、なによ! なにがおかしいのよ!!」

ナミが笑ったのを見て、更に赤くなる順子。

「別にぃ……」

含み笑いを浮かべナミは順子をからかうと、ふと真面目な表情を見せ

「それだけ元気なら大丈夫みたいね。次は勝てるようにしっかり練習しないと」

順子の肩をポンッと軽く叩いてみせた。

『勝てるように』という言葉を耳にし、また真面目な表情をされた為赤くなっていた順子は平静さを取り戻す。そして、

「そうね……よろしくお願いするわ。えっと………“ナミ”」

順子も赤くなった顔はそのまま、ナミの事を名前で呼び頭を下げるのだった。


程なく柊が登校し、挨拶を済ますと予鈴が鳴った為順子は自分のクラスへと戻っていった。





 この日もアンナと越花は登校して来なかった。越花に関しては案の定というか想定内だったのだが、アンナは未だに熱が治まらないのだろうか? ナミは流石に心配になってきていた。

結局、ナミは柊に放課後アンナのお見舞いをお願いし2つ返事を貰うや、自身は招聘に応じ男子ボクシング部室へと向かう。

「失礼します」

放課後になり、ナミは男子ボクシング部室のドアを開け挨拶する。

「来たか」

部室内には桃生1人だけが、1番奥の椅子に座ってナミを迎えた。ただでさえ破格の面積を誇る男子ボクシング部の部室が、桃生とナミの2人だけしかいないともなると、どうにも薄気味悪い広大な空間へと放り出された感覚を覚えていく。

しかも相手は尊大で嫌な物言いをする、あの桃生なのだ。

(今日ってわたしにとっての厄日に違いないわ……)

この後の事も含め、ナミは星の巡りの悪さを呪わずにはいられなかった。そう思いながら入口で立ち尽くしているナミに、

「何をしている。早く入れ」

桃生は言い放つ。顔中に湿布を貼った桃生は、痛々しさを上回る尊大さでナミの入室を促す。

「あ、すいません」

どこか気後れし立ち往生していたナミはとにかくも謝罪し、吊るされたサンドバッグやパンチングボールの横を通り過ぎ桃生の前へと歩み寄る。

ナミが前まで来るのを待ってから、桃生は椅子から立ち上がり、

「下司。本日より女子ボクシング部を、正式に我が光陵高校のクラブとして認める」

女子ボクシング部の設立を認可する旨を伝えた。

「といっても、当面の間は正式な部室がない状態だ。そこで……」

桃生はそこで一旦話を区切り、机の上に置いてあった一枚の紙を取ると、ナミへと渡す。

「校長直筆の認可状だ。正式な部室が出来るまでの間、1日交替でここを使う事を許可する」

それを聞いたナミは、一瞬我が耳を疑ってしまう。1日交替とはいえ、これだけの設備の整っている場所を使用出来る……それだけで心が躍るというものだ。
ナミはパァッと満面の笑みを見せると、

「ありがとうございます!」

大声で礼を述べ頭を下げた。その他使用上の細かい説明を受け、ナミは男子ボクシング部室を後にした。


 次は越花の家へ向かわねばならない。ナミとしてはこちらの方が気が重かったのだが、大事な部員第1号の為にも行かない訳にはいかなかった。
植木に住所を聞き、足早に向かう。電車に揺られながら、途中乗り換えを2回程する事となる。

(ふぅ……何気に遠いじゃない)

ナミ自身は家から学校までそう遠くない道程の為大して気にしていなかったのだが、朝早くから筋肉痛を耐えて朝練習に出ていたのか……と越花の根性に素直に感心する思いであった。

乗り換えてから数駅を経て電車を降り、ここからは徒歩で向かう。予め用意しておいた地図を片手に、越花の家を目指し、一戸建ての建ち並ぶ道をひたすらに歩く。

この時ナミは、予想していた以上に歩かされるハメになり改めて越花の苦労の一端を思い知る事となった。

「家が遠いから結構大変なんだよ~」

以前、越花はナミに対し間延び口調でそんな事を言っていたのを思い出す。あまりにもいつも通りだったので気にも留めなかったのだが……いざ越花が通っているであろう道程を辿ってみると、これが決して気楽に言える程度の代物でなかった。本当に遠かったのだから。

 
(遠距離通学も大変ね。越花の事、ちょっと誤解してたかも)

 ナミがそんな事を考えながら歩いていると、向かい側から元気な犬の鳴き声が複数聞こえてきた。それが段々と近くなり……

「あれ、ナミちゃん?」

聞き慣れた、妙に間延びした声が聞こえてきた。

越花だった。3匹の大きな犬(ゴールデン・レトリバーという犬種だと後に越花より教えられる)を連れた越花がナミの目の前に現れたのである。

「越花!? アンタなんでここに……」

家に閉じ込められてたんじゃないの? と続けて言おうとしたが、いきなりの再会に上手く喋る事が出来ず声を詰まらせてしまった。

「え? だってこの道、この子たちのお散歩コースだもん」

越花は3本のリードを引きながら、見当外れの答えを返してくる。この辺りのズレは相変わらずだった。

「ナミちゃんこそどうしたの?」

逆に越花に質問され、ナミはここに来た経緯を話した。





「そっか……ゴメンね、心配かけて」

 経緯を聞かされた越花は、脇に犬たちを控えさせ申し訳なさそうに謝罪の言葉を述べる。そして、

「昨日もお父様と話し合ったんだけど。一応ボクシングをしてもいいって許可は下りたの」

とナミが出向くまでもない事を伝えてきた。

「え、許可下りたの?」

まさか自己解決していたとは思っていなかったナミは、おうむ返しに聞いてしまう。

「うん。私、あんなにお父様と言い合ったの……生まれて初めてだった。でも、最後にはちゃんと分かってくれたから」

そう言うと、越花は寂しげな笑みを見せたまま黙ってしまった。その表情に気が付き、ナミは何かあったのか? と問いかけてみる。すると、

「うん……長期連休に一緒に行く予定だった撮影に付き合えなくなっちゃって、それをすごく残念そうにしてたから」

事情をちゃんと説明してくれた。

(ああ、そういえば……)

この時ナミには、ふと思い当たる節があった。

「アンタ、写真撮影が趣味とか言ってたっけね。そういえば」

確か初日の自己紹介の時にそんな事を言っていたな、とナミは思い出したのだ。

「お父様の影響かな? 小さい頃から写真を撮るのが好きで、連休の時にはいつも連れて行ってもらってたの」

越花はナミの言葉にコクン、と頷くと懐かしそうに空を見上げながら語っていく。それを聞いている内に、ふとナミは越花がどんな写真を撮っているのか俄然興味が沸いてくるのを自覚するに到る。
今度見せて欲しい、と伝えると

「なんなら今から家に来る?」

越花に家に招待される事になった。


 犬たちの散歩がてら、ナミと越花は世間話をしながら葉月邸へと向かう。こないだの試合の後、対戦相手だった前野 裕也(まえの ゆうや)が不本意な試合とはいえ女の子を殴ってしまった……と謝ってきた事、またいつでも練習に付き合う約束をしてくれた事など、ナミの知らない事情をつぶさに教えてくれた。

一方のナミも、越花が保健室に運ばれた後の試合の詳細を聞かせていくのだった。


 そんな会話をしていると、周囲と比べて一際大きな屋敷が見えてきた。かなりの敷地内にその建物はそびえ、塀と門に囲まれている。越花はその屋敷の前に立ち、

「着いたよ」

手馴れた手つきで犬たちを御しながら耳を疑う……いや、疑いたくなる一言を吐いた。

「……ここ、なの?」

ナミは正直驚いた。否、呆れ帰ってしまった。妙におっとりしているので、きっとそれなりの家の出なのだろう、と思ってはいたのだが……まさかこれ程の豪邸に住む娘だったとはナミの思考の及ぶ所ではなかったのである。

「うん。さぁどうぞ」

越花は門を潜ると、ナミに続くよう促してくる。犬たちに顔を見られながら、ナミは少し緊張した面持ちで越花の後を歩いた。色とりどりの花が植えられている庭を過ぎ、途中で犬たちを放すと越花は玄関の方へと歩を進めていく。

「ただいまぁ。お友達連れてきたよ~」

間延び口調でナミを招き入れると、母親と思わしき人物が出迎えてくれた。落ち着いた、柔らかい雰囲気の女性。

「あらあらいらっしゃい。越花がお友達連れてくるなんて珍しい」

越花の母親は、ナミを見ると丁寧に頭を下げ、

「越花がいつもお世話になってます。この子、こう見えて頑固で負けず嫌いな所があるので手を焼かせるかも知れないけど、よろしくしてあげてね」

越花のような間延び口調で挨拶をしてきた。

「いえ、こちらこそ……」

それに釣られたのか、ナミも頭を下げていた。


 お互い挨拶が済み、越花は改めて自分の部屋にナミを招き入れていく。部屋に入ると、年頃の女の子らしい雰囲気の空間が広がっていた。所々に犬グッズが並んでいる辺り、よほどの犬好きである事が窺える。
壁には木製の板が掛かっており、そこには一面にびっしりと写真……風景画が撮られてあった。

(うわ、キレイ………)

ナミは、その綺麗に収められた写真の数々に思わず見とれてしまう。そうした中、隣の勉強机の上にとても高価そうなカメラが置いてあるのを見つけた。恐らくはこれで撮ったのだろう。

越花の高校初めての友人は、この埃ひとつ付いていない、新品と見紛うばかりのカメラを見てよほど大事にしているのだろう、写真を撮る事が大好きなのだろう、と感じた。

その後越花と何気ない会話を交わし、時間が来たので帰る旨を告げると、「送るよ」と越花も一緒に外に出てきた。この時、ナミはてっきり駅まで送ってくれるものとばかり思っていたのだが……

「お待たせしました」

高級そうな車に乗った、燕尾服に身を包んだ初老の男がナミと越花の前に現れた。その男性は後部座席へ2人を誘い、そのまま出発していく。
越花曰く、この男性は葉月家で古くから使用人をしてくれている人物で、運転手も兼ねているのだという。
また、彼女もこの車で毎日送迎して貰っている、という事だった。

(そりゃあ朝練にもちゃんと出てこれるハズだわ……)

これだけ遠い道程をしっかり通ってきている真実を初めて知らされ、どこか得心のいった表情を見せるナミ。

納得のいった上で、車内で越花と色々談笑している内に家の近くに着いた事を告げられ、燕尾服の男性と越花に礼を述べナミは帰路へと着いていった。


 明日からはいつも通り越花も登校出来る、との事で一安心する。が、結局彼女の父親に会う事は叶わなかった。何でも娘がボクシングをする事を認めた翌日早朝に、スケジュールの関係で海外に行ってしまったらしい。
せめて挨拶ぐらいはしておきたかったな、とも思う。そんなちょっとした後悔の念を抱きつつ、サッとシャワーを浴びジムへ行く準備をする。

(部活は中止と言われたけど、ジムワークまで中止と言われた訳じゃないもんね)

にひひと笑いながら、身体を拭き部屋へと戻ると携帯電話のライトが点滅しているのが視界に入った。濡れ髪のまま携帯を手に取ると、どうやらメールが入っていたようですぐさま内容を確認してみる。

どうやら送り主は柊だ。そこには、アンナが明日には学校に出て来れる事と、顔の腫れが想像以上に酷く皆がビックリしないか……といった内容が書かれていた。

ナミは柊に越花の件を送信すると、さっさと着替えを済ませ元気に家を飛び出していくのだった。




 光陵高校女子ボクシング部の本当の闘いは、まだこれからである。





to be continued……
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Author:チャパロット
基本的に携帯サイトで書かせて頂いているもののリメイク(?)ですが、ちょくちょく文を変更してたりします(あと拙いですが自作絵なども)。
何かある方は、ckcwb305あっとまーくsutv.zaq.ne.jpにご連絡下さい。

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