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第17話

 第17話です。

男子部vs女子部も最終戦……桃生と東の試合を残すのみとなった。今、その雌雄を決する闘いが始まる。




 男子ボクシング部対女子ボクシング部の試合も、遂に最後のカードを残すのみとなった。

ボクシング部主将・桃生は赤コーナーに……

今回助っ人として参戦した空手部主将・東は青コーナーに……

それぞれ準備を終え、後は開始のゴングを待つばかりである。

「東先輩、これを」

由起は東の口にマウスピースを入れる。グローブで位置を調整し、由起に軽く頷く。

「これより最終戦、桃生 誠 対 東 久野、ライト級3分3Rを開始する!」

浜崎が今日最後の対戦カードを読み上げ……



カァァァァン!



試合開始のゴングが鳴り響いた。


 リング中央で軽くグローブを合わせ、一旦距離を離す。皆が息を呑む中、両者は相手の様子を見るように間合いを計る、という静かな立ち上がりを見せていた。



キュッ、キキュッ!



シューズがマットを蹴る音が響く。そんな状態が30秒も続いた頃……



ビュッ!



沈黙を破り、桃生が鋭い左ジャブを繰り出してきた。

「ッ!?」

東は間一髪の所で桃生のジャブをかわす。

(くッ、速い。さすがに口だけじゃないわ)

続けて桃生はジャブを連射してきた。東はそれをかわし、またはブロッキングし1発の有効打を許さない。彼女もまた空手の全国大会常連の実力者なのだ。

『鬼東』の名は伊達ではなかった。


 先手を許す形となった東だが、気を取り直して攻め手に回る。丁寧な左ジャブを数発、桃生へ放っていく。が、さすがにボクシング部主将というべきか。僅かに上体を振るだけでかわしてみせた。
だが、それくらいは想定の範囲内だったのか、東は不適な笑みを浮かべる。

(バカ正直なジャブ程度じゃまず当たりそうにないわね。なら、これはどうかしら?)

意を決すると、東は一段階スピードを上げ果敢にも正面からの打ち合いに挑んだ。桃生は万が一に備え、ガードを高めに構えると東の打ち合いに応じた。
お互いにジャブの刺し合いが始まる。最初は互角のように思えていた刺し合いも、



バシンッ、バンッ!



徐々に東の方が被弾する場面が出てくる。ことパンチの技術に於いては、やはり桃生に一日の長があるようだ。東も負けじと左を出すものの、桃生から有効打を取る事は出来なかった。

左の刺し合いでは敵わないと判断すると、東はガードを固め先の試合で見せたナミの真似をするように、桃生の懐へ潜り込む為強引にダッシュする。その瞬間……



パァンッ!



ダッシュの出始めに桃生は右ストレートを合わせてきた。

「ぐッ」

ガード越しにビリビリと衝撃を受け、その場で動きを止める東。桃生は、東が痺れを切らして突進してくる、まさにその瞬間を狙ったのである。
対した洞察力と判断力だった。

東としては左の刺し合いは分が悪い、懐に潜り込もうとすると右ストレートが飛んでくる。八方塞がりとなっていた。



カァァァァン!



東が攻めあぐねている内に、1R終了のゴングが響く。東は青コーナーに戻り、用意したスツールに腰を下ろさず立ったままマウスピースを外して貰う。表情からは、少し苛立っているようにも見えた。


 コーナーに向かい合い、広げられた両手はトップロープを掴んだ状態で立ち尽くす東の、苛立ちを含んだ表情を見て由起も声を掛けにくそうにしている。そんな時、

「東先輩」

ナミが由起の横から声を掛けてきた。

「なに? 下司さん」

眉を吊り上げ、だがいつもと変わりない口調でナミの方を向く東。

「懐に潜り込む、という戦法は間違ってないです。ただ、潜り込む時はもっと身を屈めないとさっきの二の舞になりますよ」

東の雰囲気に臆する事なく、ナミはアドバイスする。少なくともボクシングに関してはナミの方が先輩なのだから……

「詳しく教えて頂戴」

苛立った表情を幾分か崩すと、東は素直にナミのアドバイスへと耳を傾けるのだった。





「セコンドアウト!」

浜崎から、セコンドにリングから出るよう指示が入る。由起はリング外へ出ると、東の口にマウスピースを入れてやる。

「……という感じでやってみて下さい」

ナミはインターバルの間に、東へアドバイスを送るとリングから離れた。



カァァァァン!



 第2R開始のゴングが鳴る。と同時に、東は桃生目掛けて一気に走り寄っていった。

「あ、あれって……」

その姿を見て声を上げたのは夕貴である。そう、それは夕貴が第2R開始直後に見せた動きと全く同じだったのだ。桃生は迎撃態勢を取り、突っ込んでくる東に右ストレートを叩き込む。



ゴッ!



ナミの指示通り東は低い姿勢で突進していた為、その額にストレートが打ちつけられた。

「ぐぅッ」

ヘッドギア越しにパンチの鈍い痛みが伝わってくる。が、耐えられないような痛みではない。東は突進を止めず、その結果桃生の右拳は逆に弾かれる形となった。

「なッ!?」

東の勢いを止められず右腕が弾かれた桃生は、背筋に冷たい汗が流れるのを感じた。東は桃生の右側へ方向転換し、脇腹へ左のボディーフックを叩きつけた。



ドスッ!



「ぐはッ」

桃生への初ヒットであった。東の拳が突き刺さり、苦痛の表情を浮かべる桃生。その隙に、東は身体を密着させるように接近し、息を吸い込むと頭を桃生の胸元へねじ込み腹へ左右のショートパンチを連打した。



ドムドムドムドムドム……



これにはさすがの桃生も堪らず、恥も外聞もなく東の身体にしがみつく。

「ハァ、ハァ」

たった数発のショートパンチだったが、予想以上に効いているようだ。この時、桃生は

(なんだこの拳は!? なんて堅さをしているんだ)

そう思っていた。


 東は空手家である。普段から素手で堅い物を殴り、その拳を強化してきたのだろう。ボクシングでも似た事はするが、空手家とは比べるべくもなかった。

「ブレイク!」

植木が両者の身体を引き離す。

「ボックス!」

そして再開の指示を出すと、東はすかさず間合いを詰めようと動き出していた。

(させん!)

これ以上先程のショートパンチを連打されては動きが鈍くなってしまう。そう考えた桃生は、



ガツンッ!



突進してくる東のアゴを、左のショートアッパーですくい上げた。

「がふッ……」

突如襲ってきた下からのパンチに、東の動きが止まる。今までジャブ・ストレートといった直線系のパンチしか出していなかったのが、いきなり下からの攻撃である。咄嗟に反応出来ずに食らってしまったのだった。
一瞬動きの止まった東へ、間髪入れず



バクンッ!



桃生の右フックが頬へと叩き込まれた。

「ぶッ」

コンパクトに放たれたフックは、だが見た目以上の威力があったらしい。東はその場で身体を軽く震わせてしまう。その隙を桃生が見逃す筈もなく、打ち抜いた右を再び引くと……



グシャアッ!



東の顔面に桃生の右ストレートが突き刺さった。

「おぶッ!」

これにはさすがに東も堪らず、よろよろと後ろずさると、



ドスンッ!



足を絡ませ尻もちをついてしまった。


「ダウンッ!」

 植木のコールが入り、桃生は少し苦しそうな表情で汗を浮かべニュートラルコーナーへ退いていく。攻めのムードとなっていた東の、まさかのダウンに男子部員たちからは歓喜の声が、一方女子部員たちからは悲痛の声が上がっていた。

「ワン…ツー…」

カウントが数えられる中、東は軽く頭を振りグローブをマットに押し付け立ち上がろうとする。が、



ドンッ!



上げたお尻を再びマットへと落としてしまった。それを3回繰り返し、思った以上にダメージが大きい事に驚く。

「ファイブ…シックス…」

気付けばカウントは残り半分を切っていた。東は四つん這いになり赤コーナーの近くまでにじり寄ると、ロープに腕を絡めて這い上がっていく。

「セブン…エイト…」

カウントが進む中、必死に立ち上がる。そしてロープに身を預けた状態でファイティングポーズを構えた。

「大丈夫か?」

植木が確認を取る。

「勿論よ。こんなの効いてないわ」

植木の確認に、東は強気に言い放ち試合続行を訴える。

「ボックス!」

この答えに植木はまだ大丈夫と判断、ひとつ頷くと試合を続行させた。


 東はあくまで打ち合いを望みその場から出ようとするが、自分の意思通りには足が動いてくれない。

(くそッ!)



バンッ!



言う事を聞かない脚に、東は思い切りその拳を叩きつける。自分の脚に喝を入れ、ようやく動き出した頃には既に桃生の接近を許してしまっていた。
今、東は赤コーナーを背負う形となっている。先程とは正反対の状態だった。

「くッ」

東は左へ逃げようと動きを見せるが、



バシッ!



右フックを打ちつけられてしまった。そしてそのまま押し戻すように、



ドンッ!



コーナーに背中をぶつけられてしまう。

「かはッ」

背中をぶつけた衝撃で、東は一瞬息が詰まる。体勢を立て直した時には、もう桃生の拳が寸前まで迫ってきていた。



バンッ!



慌てて身を反らすと、桃生のパンチはコーナーマットへと叩き付けられていく。その一瞬を狙い、今度は東から桃生へと抱きついていった。

「ハァ、ハァ……」

桃生は振りほどこうとするも、東も懸命にしがみついて離さない。

「ブレイク!」

すかさず植木が2人を分ける。そこで、



カァァァァン!



第2R終了のゴングが鳴った。


 両者とも息を切らせ、各コーナーへと戻る。由起はすぐさまスツールを用意しようとする。が、東はまたも座ろうとはしない。マウスピースを抜き取り、うがいをさせる。そして、吐き出した水には赤い物が混在していた。

よく見れば、マウスピースにも同様の物が付着しているのが分かる。どうやら口の中を切ったようであった。

水分を含んだからか、口の端から血が滲み出てきている。由起はとりあえず大きく深呼吸をさせ、呼吸を整えるよう促した。

「はぁ……やっぱり強いわね、桃生君」

深呼吸を終え、東は独り言のように呟く。

「次で最後。このRは“ボクシングをやめる”わ!」

意味不明な独り言を言い捨てると、由起にマウスピースを要求。そして……



カァァァァン!



最終Rが開始される。東は2R同様にまたスタートダッシュを敢行。桃生を赤コーナーよりに詰めると、ガードをアゴ先から胸元まで下げ足のスタンスを少し広げた。

東はボクシングのスタイルから、慣れ親しんだ空手のスタイルに戻したのである。これには、この場にいる全ての人……桃生や植木も含め……が動揺してしまった。

その動揺は一瞬の逡巡を呼び、隙となって桃生に降り注ぐ。

「ウリャアァアッ!」

その隙をモノにするべく、東は裂帛(れっぱく)の掛け声一閃、気迫の籠った右の中段正拳突きを桃生へと打ち込んだ。



ガスンッ!



桃生は腕でブロッキングする。が、今までとは違う威力・打ち方に戸惑いを隠し切れずにいた。そこへ、次々に左右の正拳突きを連打される。



ドスンッ、ズシンッ、ゴンッ!



腰を落としての正拳突きは、その1発1発が驚異的な威力を誇り、桃生は今まで受けた事のないダメージに端正な顔を歪めていく。空手のスタイルへと動きを変えた東は、ボクシングで闘っていた時とはまるで動きが違っていた。


熟練の度合の差であろうか。


いつの間にか完全にコーナーを背負った桃生は、反撃の暇もなくただひらすらにガードに徹していた。否、徹さざるを得なかった。こんな威力のパンチをまともに貰ってしまったら、致命打になりかねない。

だが、桃生の考えは甘かった。



バァンッ!



桃生のガードが不意に横へ弾かれたのである。東は正拳突きを止め、両腕へフック……というよりは鉤突きの方が適切かも知れない……を放ったのだ。

邪魔なガードを払いのけ、無防備となったその腹へ……



ズドンッ!



必殺の正拳突きが炸裂した。

「うげぇッ」

桃生はみっともない呻き声を上げ、東の身体に凭れ掛かる。そして、ずるずると引きずるようにキャンバスへと沈んでいった。


「ダウン!」

 東の気勢にあてられ、静まり返った部室内に植木のダウンコールが高らかに響く。次いで、次第に女子部員とギャラリーから歓声が沸き起こるのだった。

この光景に、男子部員たちは言葉を失ってしまう。そんな光と影を分けるリング上から、植木のダウンカウントが読み上げられていく。

「ワン…ツー…スリー…」

桃生は両腕を支えにして、なんとか身体を起こそうと踏ん張る。

「フォー…ファイブ…シックス…」

だが腹のダメージが大きいらしく、力が入らない。その間にも、カウントは無情に進む。

「セブン…」

「ぬがぁッ!」

この時、残った力を振り絞り桃生は立ち上がってきた。そしてファイティングポーズを構える。

「やれるか? 桃生」

植木が確認を取る。

「はい……」

桃生は抑揚のない声でそう告げる。足を見ると微かに震えているのが見て取れた。が、目はまだ光を失ってはいないし相手に屈服した感じもない。


「ふぅ……ボックス!」

 植木は軽く溜息を吐くと、試合続行を促した。勢いに乗る東は、だが一気には向かって来なかった。いや、行けなかった。2Rでのダメージと先程のラッシュでスタミナのほとんどを使ってしまったからである。

一方の桃生も、腹のダメージが残っており前に進めない。それでも、桃生は前に出た。一歩一歩、ゆっくりと前に出続けた。

今の桃生を突き動かすのは、ボクシング部主将としての……そして男としてのプライドだったのかも知れない。

やっとの思いでニュートラルコーナーから出られずにいた東の下へ到達した桃生は、



パンッ!



鼻先にジャブを打たれた。



パシィッ!



お返しとばかりに東の鼻先にジャブをぶつける。汗が飛び散り、大きく肩で息をする2人。そんな2人の、お互いプライドを賭けた最後の打ち合いが始まった。



パンッ、バシッ、ポスッ……



完全にスタミナの切れた2人は相手のパンチを避ける事も出来ず貰い続け、だがその手を休める事はなかった。既に迫力の失せた打撃音が響く度、両者は身体を震わせる。

そして……



バシィンッ!



桃生の最後の気力を振り絞った右ストレートが、東を打ち抜いた。残った意識のひとかけらと共に……

「う…ぅあ………」

汗を東の顔から表情が消え、口からはズルリと唾液と血を纏わせたマウスピースがゆっくりと零れていく。その身体は桃生へ預けるように凭れ掛かり……



カンカンカンカンカンカーン!



遂に最終第3R終了を告げるゴングが高らかに鳴り響いた。その瞬間、東の身体を支えていた桃生も耐え切れず彼女もろともキャンバスに倒れ込んでしまった。
そんな状態の中眠るように目を閉じる東を見つめ、桃生は健闘を称えギュッ、と抱きしめるのだった。


 2人はそれぞれセコンドに抱えられ、介抱を受けていく。

「う……」

キャンバスに横たわっていた東がゆっくりと目を覚ます。

「東先輩、気が付きましたか?」

そこには、心配そうに顔を覗き込む由起がいた。

「大内山さん……試合は?」

激しい試合だっただけに東のダメージの程を心配する由起であったが、その口調は思ったよりしっかりしている。

「えっと、判定の結果ドロー……引き分けです。もう2人とも試合続行不可能ですし」

由起はそう告げると頭を揺らさないようにそっと起こしてやり、桃生の方を見えるようにしてやる。その桃生もスツールに腰を下ろし、ぐったりと下を俯いていた。

「そう……引き分け、なのね」

東は桃生の姿を見るとどこか安堵の表情を見せ、以降は静かに由起の治療を受ける事にした。





「以上、3勝4敗1分けを以て、女子ボクシング部の勝利とする!」

浜崎の宣言と共に、全8試合が無事に終了した。それを受け、ギャラリーたちから全選手に対し惜しみない拍手喝采が送られる事となった。





to be continued……
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チャパロット

Author:チャパロット
基本的に携帯サイトで書かせて頂いているもののリメイク(?)ですが、ちょくちょく文を変更してたりします(あと拙いですが自作絵なども)。
何かある方は、ckcwb305あっとまーくsutv.zaq.ne.jpにご連絡下さい。

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