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第16話

 第16話です。

男子部vs女子部、3勝3敗で迎えた第7戦目……鉄平とアンナの試合が始まろうとしていた。




 アンナと鉄平の試合が始まった。両者ともオーソドックススタイルである。由起の指示通りフットワークを使い身体を振るアンナに対し……
鉄平は、なんと両足をキャンバスにべったりと付けフットワークもとらず、アンナの動きに合わせるかのようにその場から動かなかった。

アンナは左手の届くギリギリの距離からジャブを定期的に放ちつつも、

(全く動こうとしない……どういうつもりなの?)

鉄平の、この行動の意図が読めないでいた。

「城之内さん、気にせず攻め続けて!」

青コーナーサイドから由起の指示が飛ぶ。それを聞いたアンナは更にもう一段階スピードを上げジャブを放っていく。



バンッ、パスッ!



初めての試合とは思えない落ち着きようで、練習通りの動きを見せるイタリアンハーフの少女。が、そのジャブは全て同い年の少年の堅いガードに阻まれ有効打にはならない。


「うーん……」

 そんな第1Rの立ち上がりを見ながら、リングの外でナミは軽く唸る。

(鉄平……まさか狙ってる?)

鉄平の様子を観察しつつ、ナミの中で1つのある疑念がよぎっていく。

「どうかしました? 下司さん」

ナミの唸り声に気付いたのか、夕貴が声を掛けてきた。

「え? えーっと……ううん、なんでもない」

この時ナミは、夕貴に自分の中に浮かんだ疑念を伝えようかと考え……やはりやめた。今ひとつ確証が持てなかったからだ。

「彼、なにか狙ってる。カウンター、かな? 多分」

「ッ!?」

この一言に、ナミは驚いた表情で巨乳の少女の方を振り向く。夕貴の呟いた一言……それこそ、まさにナミが抱いた疑念そのものだったからである。

「加藤さん……」

「やっぱり? 似てるんですよ、今の彼……お義兄ちゃんの現役時代のスタイルに」

そう言いながら苦笑を漏らす夕貴。ナミは今更ながら、加藤 夕貴という少女の非凡さに対し感心を抱かざるを得なかった。

(ホント、大した眼力だわ。この娘)

短く感心すると、その視線を再びリング上で闘っている2人に戻し、

「わたしも鉄平の狙いはカウンターだと思う。それも……多分アンナの右をクロスするつもりよ」

夕貴の予想に具体性を付け加えてみせた。


ナミは鉄平の狙いを伝えておくべきだと判断し、由起の下へ向かおうと行動に移す。が、ちょうどその時……



グシャアッ!



時すでに遅く、お互いがストレートのモーションの状態で、アンナの右頬に鉄平の左拳が交差する形でねじ込まれていた。一方、アンナの放ったストレートは鉄平の顔の横を通り過ぎている。

「ぶはぁッ」

頬肉を不細工に歪まされ、口から唾液を撒き散らしながらアンナの身体は重力に引き付けられるかのように、横倒しにキャンバスに沈んでいく。そのあまりの威力に、アンナの目は完全に宙を泳いでしまっていた。


「ダウン!」

 植木のダウンコールが部室内に高らかに宣告される。鉄平は倒れ伏すアンナを抑揚のない目で一瞥すると、植木に指示されニュートラルコーナーへと向かっていった。

「ワン…ツー…」

周囲が湧き上がる中、カウントが数え上げられていく。その間、アンナは倒れ伏したままぴくりとも反応しない。ただ荒い息遣いで、規則的に肩を上下させるだけだった。

「スリー…フォー…」

カウントが進む。ニュートラルコーナーに佇む鉄平は、無言のまま視線を未だ動かないアンナへと向け続ける。

「城之内さん、立って!」

エプロンコーナーから、由起が一喝し両手をバンッ! とキャンバスに叩きつける音が聞こえてくる。



ピクッ……



植木のカウントが5に入ろうとした時、今まで反応のなかったアンナの腕が動く。そしてそのまま身体を起こし始めていった。

「セブン…エイト…」

ぷるぷると震えながら身を起こすアンナへ、無情にもカウントは進んでいく。

「ナイン…」

カウント9になった時点で、アンナは何とかファイティングポーズを構える事が出来た。ハァハァと肩で息を吐くが、光の戻った双眸はしっかりと植木を見据えている。

「やれるか?」

「ハイッ」

返事もしっかりしている。まだ大丈夫と判断し、植木は「ボックス!」と試合開始を両者に促した。


 試合再開の合図を受け、鉄平はゆっくりとした足並みでアンナ目掛けて歩み寄る。アンナはまだ少しフラついていた。右ストレートをクロスカウンターされたのだから、仕方もないと言うものだ。
本来ならKOされていても不思議ではないダメージなのだから……

だが、アンナは身体のダメージよりも理解の面に於いて不可解な事態が起きた……という事の方にこそ、意識が向かっていた。

(私の方が先にパンチを出してたのに、なんで鉄平ちゃんが私を見下ろしてたの?)

アンナは自分がカウンターを貰った事に気付いていなかったのだ。いや、正確にはクロスカウンターを貰った直後からカウント4の辺りまでの記憶が無かった。

(なんで私倒れてたの?)

鉄平と対峙する中、アンナは思考がぐちゃぐちゃになり混乱の極みにあった。パンチを打っていた方が逆に倒れる、なんて事があるのか? 母に習った武術に、こんなタイプの技は無かった。いや、あるのかも知れないが、少なくともアンナは習った事がない。


 考えれば考える程に混乱の度合いは増し、アンナは急に向かい合う少年の事が怖く思えてきた。何せ、パンチを打っていた筈なのに気付けば倒されていた……という、得体の知れない技を使う相手なのである。
そんな、頭の整理のついていないアンナへ鉄平は無言の圧力を引っさげて徐々に近付いてくる。

「う……」

圧力に気圧されたのか、はたまたクロスカウンターの恐怖が脳裏をよぎったのか。アンナは鉄平が近寄ってきた分だけ後ずさり、一定の間合いを保つ。その足はダメージなのか恐怖によるものか、微かに震えていた。
ダメージであれ気後れであれ、鉄平にしてみれば明らかにKOのチャンスである。チャンスの筈なのだが一気に攻めようとはせず、まるで更なる恐怖心を煽るかのようにジリ……ジリ……と近寄るだけであった。



カァァァァン!



 アンナにとっては長く感じられた第1Rの終了を告げるゴングが鳴り、重い足取りで青コーナーへと戻っていく。マウスピースを外してもらい、うがいをする。その間も、アンナは浮かぬ表情を浮かべたままだった。そこへ……



パァンッ!



アンナの頬に由起の平手打ちが入り、乾いた音が部室内に響いた。由起のこの行動に、叩かれたアンナのみならず周囲からも驚きの声が聞こえる。


「なにいつまでもボケッとした顔をしてるの!? たった1回のダウンぐらいで」

 強烈だった。平手打ちが、ではない。由起の言葉が、だ。ボクシングの試合に於いてダウンさせられる、という事は重要な勝敗要素の1つである。試合の流れが傾いてしまうのは勿論の事、選手自身の士気に影響する場合もある。
しかも初めてのダウンともなれば、下手をすればパニックに陥るかも知れない。由起はそれを、“たった1回”と言い捨てたのだ。

「貴女は右ストレートにカウンターパンチを合わされたの。何故だか分かる? “来ると分かったパンチだった”からよ。さっきの葉月さんと同じ……つまり狙われたの」

そう言うと由起は自分の身体をアンナに近付け、対角の赤コーナー側から見えないようにした。

「先輩……?」

アンナには由起のこの行動が理解出来なかったが、由起はそんなアンナの唇に人差し指を当てて押し黙らせる。

「いい? 狙われたのは“右”ストレートよ。だから、次のRからは使っちゃ駄目。その代わり……」

由起はアンナに何事かを耳打ちし、お互いに頷きあう。そしてマウスピースを銜えさせると、そのままロープを潜り外へと出た。



カァァァァン!



 第2Rのゴングが鳴り、両者ともコーナーを出る。1Rの時と変わらない速度で歩み寄る鉄平に対し、

「行くよ、鉄平ちゃん!」

アンナは大声で叫び、先程とは打って変わって一気に間合いを詰めていった。

「ッ!?」

これには意表を突かれたのか、鉄平の顔に動揺の色が見える。まさか突っ込んでくるとは思わなかったからだ。
左の届く間合いまで詰めると、アンナは果敢にジャブを繰り出していく。が、1R同様にブロッキングされてしまい有効打は奪えない。それでもアンナは手を出し続けた。ただひたすら左ジャブである。


 鉄平は右ストレートを待っていた。いずれこの展開に痺れを切らして大きいパンチを打ち込んでくる。それを狙い打つ! そう思っていたのだが、今回は右が全くといっていいほど来ない。
予想が外れ、緻密に計算していた作戦が使えず当の鉄平の方が逆に焦りを感じ始めていた。この試合に関して、極力手数を減らし最小のパンチだけで勝つ事を己に課してリングに上がっていたからである。

「くッ」

鉄平は、速射砲の如く放たれてくるジャブから逃れる為に一旦後退し、間合いを離す。そこへ……

「ストップ」

植木の声が掛かった。何事かと植木の方を見る鉄平。そこで出た植木の一言は、誰もが耳を疑うに充分な一言だった。

「我聞、減点ッ」

「バカな!?」

これには、さすがの桃生も声を荒げ抗議をする。今回鉄平に戦法を指示したのは、他ならぬ彼だったからである。が、

「このRに入って我聞は1発のパンチも出していない。クリーンヒットはないが、ずっと防戦一方の展開だった。よって、闘う意思がないものと見なす! だからこその減点だ」

植木は鉄平のこの行為を、消極的で戦闘意思のないものと取ったのであった。そう取られてしまっては鉄平も、さしもの桃生でさえも受け入れざるを得なかった。

「次に同じような状況になったら戦闘拒否として即刻試合を止めるぞ、いいな? じゃあ気を取り直して……ボックス!」


 注意を受けた後試合が再開される中、鉄平は作戦を変更せざるを得ないな……と内心で舌打ちしたい気持ちとアンナを、由起を、女子ボクシング部に賞賛を送りたい気持ちを共有していた。

試合が再開されていく。何が起こったのか良く分からなかったが、自分にとって悪くない方向へ話が進んだ、という事だけはアンナにも理解出来た。
これはチャンスだと思う事にして、アンナは再びジャブを連打していく。だが、鉄平は身体を巧みに左右へと振り的を絞らせない。それどころか、



パァンッ!



返す“右”ジャブでアンナの顔を跳ね飛ばしていた。

「くぁ……」

アンナがフラッとよろめく。KO必死のクロスカウンターにも耐えてみせたアンナが、たった1発のジャブでよろめかされたのだ。信じられない、といった表情の女子部員たち。
そんな中、ナミと夕貴、由起、そして柊だけはそんな鉄平の謎のからくりに気付いていた。

「あれが鉄平の本気(マジ)モード……本来のファイトスタイルなのよ」

ナミは鉄平のからくりのタネ明かしを始めるに際し、まずは鉄平の今のフォームを見るよう促す。鉄平は左構え……即ち、サウスポースタイルへと変わっていたのだ。

「つまり、利き腕でジャブを打ってくる。そういう事でいいんだよな? 下司」

生粋の左利きである柊が、ナミの言おうとしている事を代弁する。

「そういう事。利き腕で打ってくるリードブロー……つまりジャブは、速い上に威力があるパンチに早変わりってわけ」


 ナミの言葉通り、本来のスタイルに戻った鉄平はアンナを右ジャブでひたすら刻んでいた。

「はぅッ、あぐッ! ぶへぇ」

何発も打たれ、アンナの左目の瞼が徐々に腫れ上がっていく。左目の視界が塞がれてきた事で焦りが出てきたのか、アンナも必死に手を出す。
が、遠近感がしっかりと掴めずフォームも乱れたパンチではまともに当てる事さえ困難を極めた。
それでもアンナは左手を懸命に出し続けていく。

そんな痛々しいまでのアンナの姿に、ギャラリーからも次第に応援の声が上がっていく。さながら判官贔屓といった所か。だが、そんな背中を押してくれる応援も、次の瞬間には無意味な物と化してしまった。
アンナが執拗に左ジャブを繰り出した結果……



グシャアッ!



鉄平の右拳が、アンナの頬に深々とめり込んでいた。

「ぶぇ……ぇ」

腕がガクッと下がり、だらしなく声を上げる金髪の少女。口から唾液を撒き散らせながらフラフラと後ろへ、酔っ払いのような千鳥足で退がっていく。
アンナの放つ左ジャブのタイミングを掴んだ鉄平は、そこへ右ジャブを合わせてきたのだった。


 ジャブ同士のカウンターではあるが、元々男女の筋力差の上に鉄平は利き腕でのジャブである。威力の程は、今更語るまでもないだろう。続いて左フックが、千鳥足のアンナの顔面に叩き込まれる。



カクンッ!



衝撃で膝が折れ、身体が前のめりに傾き始める。そんなグロッギー状態となったアンナ目掛けて、鉄平は容赦なく右拳を振り上げていく。次の瞬間、



バシィィンッ!



打ち下ろし気味の右ストレートがアンナの顔面を思い切りひしゃげさせていた。

「ぶふッ! ……ぅぅ」

右ストレートをしたたかに打ちつけられたアンナは、汗と唾液を飛散させその場で膝を突く。そして表情の飛んだ顔のまま、静かに崩れ落ちていった。


「ダウーーン!」

 植木はダウンをコールし、鉄平をニュートラルコーナーへ退かせるとうつ伏せに倒れているアンナへカウントを数え始めていく。

「ワン…ツー…スリー…」

カウントが数えられるも、アンナに動きはない。1度目の時と同様由起が必死に呼びかけるが、今度は反応すら示さなかった。

「フォー…ファイブ…シックス…」

カウントが6に差し掛かった時、アンナに動きが見えた。が、それは起き上がるような類のものではなく……身体がビクンッ! と一度震えたかと思うと、

「う゛ぇ……ごぼッ」



どろり……



大量の唾液を纏ったマウスピースが、噛む力を失った主の口から脱出し外の世界へと飛び出していく。一方の主は、口元を唾液でまみれさせ虚ろな視線を中空へ彷徨わせたままだった。

「セブン…エイト…」

カウントも残り2つとなった時点でアンナの肩がピクッ、とだけ動く。ヘッドギアの隙間から覗く金髪がひと房、ハラリとキャンバスに垂れ落ちた。それはまるで、動けなくなった主の無念を代弁するかのよう。
そして……

「ナイン…テン!」

植木は最後のカウントを数え終えると、両腕を数回交差させ試合終了を告げた。



カンカンカンカンカンカーン!



 レフェリーの動きに合わせ、アンナのKO負けを決定づけるゴングの鐘の音が高々と鳴り響いていく。

「城之内さん!」

由起がロープを潜り、倒れたまま動かないイタリアンハーフの少女の下へ駆け寄る。

「せん、…ぱ、い」

由起が駆け寄ってきたのが分かったのだろう、アンナはまだ虚ろな目のまま力なく顔を向ける。辛うじて失神には至っていないようだ。

「いいから。もう動かないで」

無理に身体を引き摺るように動こうとするアンナを、由起は制止し仰向けにゆっくりと寝かせた。





 ぼーっ、とした表情で天井を見上げるアンナ。見える光景はぐにゃりと歪んでいて、軽く吐き気を覚える。悪酔いでもしたかのようだ。そんな視界にはぼやけた照明と歪んだ由起の顔と……そしてヘッドギアを外した、打たれた痕のない顔で見下ろす鉄平の姿が映されていた。

「て……ぺい、ちゃ………」

ダメージのせいで朦朧とした意識の中、呂律の回っていない口調で自分を倒した相手の名前を呼ぶ。それに応えるように鉄平はアンナの下まで来ると由起と反対側に位置し、片膝をつけその顔を覗き込んできた。

「つよいね……ぜんぜ…あいて、に……ならな………か、た…よ………」

アンナは腫れた顔で精一杯笑ってみせる。だが、その全身は小刻みに震え上手く笑顔を作る事が出来なかった。

「……待ってる」

そんなアンナに対し、鉄平は一言だけを伝える。

「え?」

「俺へのリベンジならいつでも受ける。だから……強くなれ、城之内」

それだけを言うと、鉄平は由起にアンナの事を託し赤コーナーへと引き返していった。

多くの拍手に迎えられ、次第にダメージも抜けたアンナは自分の足でリングを降りるも、大事を取って順子の寝ていたベンチで横になるよう指示された。それに従いベンチに横たわると、腫れた部分に冷やしたタオルを乗せて貰う。





 数々のドラマに彩られてきた男子部対女子部の試合も、遂に最終戦……東 久野と桃生 誠との試合を残すのみとなった。男子ボクシング部主将対空手部主将……『光陵の双璧』と密かに囁かれてきた2人の大物による大将戦は、まさに最後を飾るに相応しいと言えよう。
準備を終えた東は、

「3勝4敗か……いい感じに追い込まれたわね」

何故か不適な笑みを浮かべてリングへと向かっていくのだった。





to be continued……
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チャパロット

Author:チャパロット
基本的に携帯サイトで書かせて頂いているもののリメイク(?)ですが、ちょくちょく文を変更してたりします(あと拙いですが自作絵なども)。
何かある方は、ckcwb305あっとまーくsutv.zaq.ne.jpにご連絡下さい。

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