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第15話

 第15話です。

越花vs前野の試合は、案の定越花のKO負けに終わった。そして試合も後半戦に突入し、更なる激戦が繰り広げられていく。




 ナミの眼前には、リング上に大の字で倒れている越花と、その口からマウスピースを抜き取っている植木、そして申し訳なさそうな表情で佇む前野の姿があった。由起がロープを潜り、越花の元へと駆け寄っていく。

「ねぇ、なにがあったの? 一体……」

ゴングが鳴っていたから、試合は終わったのだろう。が、イマイチ状況が掴めないナミは近くにいた柊に詳細を求めた。


「見ての通りだよ。葉月があの前野ってのにKOされちまったんだよ」

 柊が言うには、最初は越花が積極的に攻めていたのだという。左、左、右……左、左、右……とジャブ、ストレートを打ち続けていた。それしか習っていないのだから、攻め手が単調になるのは仕方のない事といえよう。
が、そこを狙われたらしい……と柊は話す。単調な、しかも来ると分かりきっているタイミングでのストレートなど、格好のカウンターの餌食である。
ガードも何もなく、前野のカウンターをモロに貰ってしまった。右ストレートを打ち抜かれ、一瞬後には崩れ落ちて……後は見た通りだった。

詳細を聞いたナミは、リングロープを潜り越花の状態を遠巻きに観察した瞬間、

(あーー、ダメだわこりゃ………)

と手で顔を覆ってしまう。



越花は完全に目を回してノびてしまっていた。



 カウンターの衝撃も勿論あるだろうが、恐らくはダウンした際に頭を打ったのだろう。植木と由起と桃生の共通見解にて、越花を担架で降ろす事となり、男子部員たちがすぐさま準備を始める。
ゆっくりと越花を乗せ保健室へ搬送していく男子部員たち。そんな中、

「すいません。お、俺も付き添います!」

彼女をKOし、担架の乗員にした張本人である前野も一緒に部室を出ていくのだった。





 越花が担架で運ばれる、といった事態にギャラリーは一時騒然としたが、大した事はないと分かると興味は早くも次の試合に移っていく。ここからはライト級の3連戦である。

そのトップバッターは久美子。元キックボクサーの彼女は既に準備を終え、リング下で大きく深呼吸をしていた。

「久美子、そろそろいい?」

クラスメイトであり、セコンドでもある由起が身体を使ってロープを広げ久美子へ入場を促す。

「ありがとう、由起」

久美子は級友に軽く微笑むと、ロープを潜りリングへ上がった。





「それでは第5試合、坂田 一樹(さかた かずき) 対 畑山 久美子、ライト級3分3Rを開始する!」

 浜崎のコールが響き、次なる好勝負に期待してか部室内に緊張と静寂が広がる。

「久美子、口を開けて」

そんな中、由起は久美子の口の中にマウスピースを入れ、そしてロープを隔てた奥から右の手の平を自分の胸元辺りで構えた。

「サンキュ」

久美子はそう言いながら、



パンッ!



構えられた右手に軽く拳を打ち込むと坂田の方へと身を翻していく。



カァァァァン!



 試合開始のゴングが鳴り、久美子は口の中のマウスピースを左手で調整しながらリング中央へ進む。お互いオーソドックススタイルで向かい合い、距離を取り相手の動向を探っていく。
静寂に包まれた部室内に、2人のシューズの音と息遣いだけが鮮明に聞こえてくる。



シュッ!



最初に手を出したのは久美子だった。静寂を破る左ジャブが繰り出され……



ボグッ!



坂田のグローブに当たる。お返しとばかりに、今度は坂田からジャブが飛んできた。



バシッ!



「うッ……」

坂田のジャブに対し反応が遅れ、鼻先に鈍い痛みが走り涙目になる久美子。これを皮切りに、2人は静から動へと一気に加速していった。お互いパンチを打ち合い、絶え間なく身体を振り足を動かす。そんな一進一退の攻防が1分も過ぎた頃……



パンッ、バスンッ!



坂田の左ジャブから右フックの2連打が久美子の顔面に打ち込まれ、グローブで顔を押さえながらヨロヨロ、と2歩後退した。そして……



ブシュッ!



顔を押さえたグローブの隙間から鮮血が噴き出し、キャンバスに赤い小さな斑点を描く。グローブを離すと、その鼻孔からは一筋の血。赤いラインを描くそれは、口元を伝いアゴまで滴り落ちていった。

「ん……ふッ」

鼻孔が塞がれ呼吸が苦しくなったのか、久美子はもがくような声を出す。坂田はそのチャンスを逃す事なく、ボディーブローを主体とした攻めを敢行していく。
元々、坂田のパンチに反応し切れていなかった上に鼻からの出血という追い討ち。久美子の集中力は途切れ、何発もクリーンヒットを許してしまっていた。
顔や腹を打たれ、苦痛の表情と声を上げながら後退を余儀なくされる久美子に、しかしそれを遮る物があった。



ドンッ!



「ッ!?」

背中に衝撃を感じて後ろを見ると、そこには最初に久美子がいた青コーナーがそびえ立っていたのである。眼前には自分を倒す為、容赦なく拳を振るってくる坂田。後背には青コーナー。そしてそれを結ぶ4本のリングロープ。
逃げ場はない……絶体絶命のピンチである。

「くッ」

久美子はこれからラッシュが飛んでくる事を予想し、肩と両腕に力を込めガードを固めた。それと同時に、坂田が動き出し先程よりも激しいパンチのラッシュを久美子に叩きつけ始めていく。



バンッ、ドスッ、ガッ、ドムッ!



 坂田のパンチがグローブ越しの久美子に、着実にダメージを与える。パンチに晒されている間、久美子は反撃に転じる事も叶わずただひらすらガードを固めるのみとなっていた。
鼻からの出血は止まる事なく久美子の顔を、Tシャツを、坂田のグローブを赤く染め上げていく。

「ストーーップ!」

亀のようにガードを固めるのみであった久美子と、攻め続ける坂田の間に植木が声を上げながら身体を割り込ませて試合を一旦中断させた。坂田の猛打から逃れられた久美子だが、その代わりに

「ダウン!」

一方的な展開になっていた為か、植木は久美子に対しスタンディングダウンを宣告。それを聞いた久美子は顔の前で必死に固めていた両腕をだらん、と下ろしコーナーに凭れ掛かると顔を上げ大きく息を吐いた。


 カウントが数えられる中、

「久美子、カウント8まで休んで!」

すぐ後ろから由起の声が届いてきた為その指示に従い、カウント8までしっかり休むと両腕を上げる。

「まだやれるか?」

植木の問い掛けに対し、肩で息を吐きながら「はい」と首を縦に振る久美子。まだ試合続行を訴える少女の状態を確認した上で、

「ボックス!」

レフェリーとして試合続行のコールを出した。そして……



カァァァァン!



そこで1R終了を告げるゴングが響いた。


 久美子はそのまま用意されたスツールに腰を降ろし、マウスピースを抜き取られるとすぐさまタオルで鼻の周辺を拭かれていく。ある程度血が拭き取られると、由起は続いて鼻孔に綿棒を突っ込み止血の作業に入った。

「ふが……」

息苦しさと不快感で、つい間の抜けた声を出してしまう久美子。一応の止血を終え、由起は久美子に「ダメージは?」と今の状態を確認する。

「ん。大丈夫……まだやれる」

由起の確認に対し力強く頷く久美子。強がりややせ我慢で言った訳ではなさそうだ。由起もそんな久美子に頷いてみせると、洗い終えたマウスピースを銜えさせロープを潜り外に出ていった。



カァァァァン!



 第2Rのゴングが鳴り、久美子はまるで先程のダメージがないかのような勢いでコーナーを飛び出していく。そして積極的にジャブやストレートを放っていった。
一方の坂田も負けじと手を出し、1Rと同様打ち合いの様相を呈していく。そんな中、



バグンッ!



「うッ」
「ぐぅッ」

お互いの右ストレートがお互いの頬にめり込み、その場でたたらを踏む。久美子が体勢を立て直そうとしている間に、いち早く体勢を立て直した坂田が再び右ストレートを繰り出してきた。



バクンッ!



「ぶぇッ」

まだ完全に体勢を整えていなかった久美子はその右ストレートをモロに食らい、口から唾液を噴き出しながら後ろへとふらつく。ダメージのせいか少し目が泳いでいたが、レフェリーの植木からは死角になっていて気付かない。
そこへ、



グシャッ!



間髪入れず坂田の左フックが容赦なく久美子の頬を抉っていった。

「ぶふぅッ」

強烈なクリーンヒットに、今度はその口から唾液のみならずマウスピースまでをも吐き出す事となり、顔からは表情が飛ぶ。ガクンッ、と膝が折れ、久美子はその場に踏み止まるだけで精一杯であった。

「久美子さんッ!」

ベンチで横になっていた順子が起き上がり、悲鳴に似た声をあげる。



ゴッ!!



一気にとどめを刺そうと、坂田の繰り出した右のショートアッパーが久美子のアゴを跳ね上げた。パァッ、となす術なく跳ね上げられた顔から汗や唾液が舞い上がる。表情の飛んでいた久美子の目は完全に虚ろとなり、膝がガクガクと小刻みに揺れていた。


(これ以上はマズいな)

 久美子の状況を見た植木は、もうこれ以上の試合続行は危険と判断したのかストップをかけるべく行動を起こそうとした。が……崩れそうな身体を懸命に動かし、久美子は坂田の身体にその両腕を回し必死にしがみつく。
たかが女と侮った相手にしぶとく粘られ、半ば怒りの形相の坂田は対戦相手を振りほどこうともがくものの、久美子も必死にしがみついて離れない。それどころか、威力はないながらも脇腹に拳を打ちつけていた。

「ブレイク!」

組み合ったまま離れない2人に対し、植木は強制的に引き離す。離された久美子は足取りもおぼつかずフラッ、とよろめく。前髪で隠れてしまっている為、その表情は窺い知れない。

「ボックス!」

植木は一応試合続行のコールをかける。が、次に1発でもクリーンヒットがあればすぐにでも試合を止める腹積もりであった。そんな中、



パンッ!



なんと先に動いたのは久美子。しぶといが、フラフラでもう手を出してくる余力はないだろうと思っていた坂田は意表を突かれ久美子の左ジャブを貰ってしまう。
続けて右ストレートが速度をつけ坂田の顔に打ち込まれた。



バシィッ!



またも意表を突かれた形でストレートを食らってしまい、坂田は一歩後退させられてしまう。


 ちなみに攻めている久美子の顔に表情は未だ戻っておらず、その目も焦点が合わず虚ろなまま。恐らく、身体に染み付いた反復運動で勝手に動いているのだろう。
そして次の瞬間、その反復運動で染み付いた身体が、誰も予想だにしなかった行動に出る。

久美子は左足をダンッ! と強く踏み締め、身体を右側に開く。次に反対側に身体を捻り、右腕を後ろに大きく振る。左足を軸に、加速した身体ごと叩きつけるように……



グッシャアアッ!



坂田の側頭部に、久美子のしなやかで強烈な“右脚”が叩き込まれていた。


 これにはさすがに誰もが……あの桃生ですら……唖然となり、言葉を失う。



ドサァッ!



“右脚”を振り切られた坂田は、そのまま横倒しに倒れピクリとも動かない。完全にノびてしまっていた。

「ス、ストォップ!」

静まり返る部室内で、いち早く我に返った植木が試合を中断させる。あまりの出来事に呆気にとられながらも、

「は、畑山……反則負け!」

そう告げるのが精々であった。



カンカンカンカンカンカーン!



少し遅れて試合終了を告げるゴングが鳴り響き、

「………え?」

少しして久美子の顔に表情が戻る。その瞬間、気が抜けたのとダメージの蓄積のせいで、その場でペタン、と座り込んでしまうのだった。


「……お疲れ様」

 由起は座り込んだ久美子の下まで来ると、肩にタオルをかけてやる。

「あ、由起………試合は?」

「貴女の負けよ。残念だけど」

座り込む隣で倒れ伏し治療を受けている坂田を眺めながら負けを宣告され、大体の予想がついたのだろう。溜息をひとつ吐きながら、

「はぁ……もしかして私、やっちゃった?」

意識が混濁し、所々覚えていない事を認識した久美子は、恐る恐る由起に聞いてみた。

「うん」

隠しても仕方がないと、苦笑しながら首を縦に振る由起。軽く意識の飛んでいた久美子は、無意識のうちにキックボクシング部での反復運動を行っていたのであった。

「実に見事な上段廻し蹴りだったわ、畑山さん。貴女、空手部の方が性に合ってるんじゃない?」

皆がこの意外過ぎる結末に呆気に取られている中、ただ1人空手部主将・東 久野だけはカラカラと痛快に笑っていた。





 予想外の“ハイキックKO劇”に騒然とした部室内だったが、それでも次の試合へと移行していく。残すはあと2試合のみである。

「ありがと、ナミちゃん」

ナミにヘッドギアとグローブを着けてもらったアンナが礼を述べる。

「鉄平のヤツが相手だから正直キツいかも知れないけど、無茶はしないでね」

礼を素直に受けると、ナミはアンナに注意を促していく。それを聞きアンナは「大丈夫だよ」と笑顔を覗かせると、元気にリングへ向かっていった。


 アンナ、鉄平ともにリングインし、植木に試合場の注意を受けていく。それが終わると、両者グローブを合わせるよう指示された。

「よろしくね、鉄平ちゃん」

アンナが微笑みながら両手のグローブを差し出す。が、当の鉄平は無言でポンッ、と軽く合わせるだけでさっさとコーナーに引き返していった。
両者とも各コーナーへ戻り、後は試合開始のゴングを待つのみとなる。

「同じ一年生同士だけど、我聞君は数段格上の相手だと思って。とにかく足を使って、的を絞らせないようにね」

「ハイッ」

由起はアンナに指示を入れると、マウスピースを銜えさせ目元にかかっている金色の髪を端に分けてやった。





「それでは第6試合、我聞 鉄平 対 城之内 アンナ、ライト級3分3Rを開始する!」

 浜崎のコールの後……



カァァァァン!



アンナの初めての試合が開始されたのだった。





to be continued……
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チャパロット

Author:チャパロット
基本的に携帯サイトで書かせて頂いているもののリメイク(?)ですが、ちょくちょく文を変更してたりします(あと拙いですが自作絵なども)。
何かある方は、ckcwb305あっとまーくsutv.zaq.ne.jpにご連絡下さい。

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