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第53話 『追い出しスパーリング(2) プロの洗礼』

 プロボクシング編、第53話です。



≪拍手返信≫
フリード様:遅くなりましたがコメントありがとうございます。いつも読んで頂けて感謝の言葉もありません。女子ボクシング方面の小説サイト(ブログ)も少なくなってきてますが、お互いに頑張っていきましょう。





三年生と一・二年生合同の追い出しスパーリング。数多くのギャラリーが見守る中、次々と試合が始まっては終わっていく。
そしていよいよ初代主将を務めた現役女子プロボクサー・下司 ナミの出番となった。













「今回は植木先生の許可でノーヘッドギアだが、俺が見て危ないと思ったらすぐ止める。いいな?」

 光陵女子ボクシング部の部室内、その中央を占めるリング上に緊張感が走る。三年生vs一・二年生連合の追い出しスパーリング。
その第4試合、部の発起人であり初代主将の下司 ナミとサラブレッドの一年生・宇都宮 弘美はリング中央で向かい合っていた。

「下司…先輩。今日はプロの実力をじっくり教えて下さいましね?」

裕也からの注意事項を聞き終え、各コーナーへ一旦戻ろうとする前に弘美から挑発的とも取れるセリフが飛び出す。彼女が高慢な態度を取るのは何もこれが初めて、という訳ではない。
寧ろよくある光景なので、弘美の為人を知る部員たちは特に気にした様子はなかった。

ただ、彼女の性格を知らない者もこの場には存在する。

東 久野と畑山 久美子の2人だ。

「なに、あの生意気な一年生は?」
「目上への態度がなってないわね」

弘美のセリフに、口を揃えて不満を漏らす。そんなOGたちを関わりの深い順子が宥めていた。



 無言で赤コーナーに戻ったナミは、弘美の挑発を気にした素振りも見せずトントンとその場で軽くステップ。

「この部室で誰かとグローブを交えるのも、これで最後かぁ……最後の相手がアイツで良かったかもね」

跳ねながら目を閉じ、感慨深げに独りごちるナミの様子を向かい合う陽子は微笑みながら見つめる。

「性格は違うのに、考え方はどこか似てるよね。宇都宮さんとナミさん」

何年前かに同じ事したじゃない? とパイプ椅子の上で呆けている柊に視線を向け、クスクスと口に手を当て笑う。

「あ~、そんな事もあったっけね」

陽子の指摘に、ナミは堪らず苦笑いをひとつ。まだ部室も出来たばかりの一年生の頃、I・H全国大会を控えた時期にナミは柊を相手に今と同じノーヘッドギアでの対戦をした事があった。
その時は経験の差が活きて柊に勝利。後に大事な時期に何をやってるのか! と心に叱責された事まで含め、今となっては良い思い出である。



ビーーーーーッ!



数年前の余韻を与えてくれる時間はそう長くなかったようで、セコンドアウトを告げるブザー音がナミを現実へ引き戻す。
陽子にマウスピースを銜えさせて貰うと、位置を直しリング中央へ。
眼前に歩み進んできた視線の先、弘美は気合いと闘争心と興味を綯い交ぜにしたギラギラした視線を返してきていた。



「ボックス!」

 裕也の指示とほぼ同時に挨拶代わりのグローブタッチを交わし、ナミと弘美はファイティングポーズを構える。
ナミ、弘美、共に右構えのオーソドックススタイル。タイプとしては共にボクサーファイターだが、ナミがインファイト寄りなのに対し弘美はアウトボクシング寄り。
ボクシング一家としてのエリート意識からスマートなスタイルを心掛けているのか、それともこれが自身にとってベストなスタイルなのか。
この勝負が終わった時には、全て理解出来る事だろう。

「シッ!」

お互いに様子を探る事10数秒、先制を仕掛けたのはナミ。まずは最初の交差で弘美の実力を測ろうと探りを入れたのだ。
深く踏み込んでの左ジャブは、だがあっさりスウェーで避けられてしまう。
プロとしてトレーニングを続け、必死に磨き続けてきた左ジャブである。
2発、3発と続けて放つそれを事も無げにかわしてみせた弘美のディフェンスは、なるほどエリートボクサーを頷かせた。

「シュッ、シッ」

開始20秒頃、それまでディフェンス一辺倒だった弘美も左ジャブで反撃を開始。
ナミのパンチをかわしざま放たれたそれは、すぐさまブロッキングされグローブのみを叩く。
バンッ! と小気味良い革の殴打音が鳴り、しかしクリーンヒットには至らない。

(なるほど、ミドルレンジは確かに巧いわ。だったら……)

ジャブの刺し合いでは埒が明かないと、ナミはやや強引にステップイン。接近戦はどのように対処してくるか? ナミにとってある意味最も興味のそそる部分だった。
突き放すように放たれた左ジャブを掻い潜り、ナミは右ストレートを繰り出す。

狙う先はがら空きのボディー!

しかし、その右拳は弘美を捉える事はなかった。それどころか、

「ぶぅッ!」

右頬に衝撃を受け、勢いを止められてしまった。

「巧い!」

外野の詩織が思わず声を上げる。ナミの放ったボディーストレート、それを弘美は冷静に左側へサイドステップしてかわし、死角から左フックをカウンターで叩きつけたのだ。
それが誘ってやった事なのか、それとも単に身体が勝手に反応した結果なのかは分からない。

しかし、いずれにせよ弘美の実力は間違いないものといえた。
ナミも打たれた衝撃からすぐに立て直し、弘美を視界に捉えた時には既に射程圏外。

アウトボクシングに忠実なヒット・アンド・アウェイ。弘美の真骨頂。
だが、ナミもただやられてばかりではない。
左ジャブを巧みに操り距離を潰し、絶えず弘美にプレッシャーを掛け続けていく。

「くッ」

間断ないジャブと身を押し潰さんと掛けられ続けるプレッシャーに、さしもの弘美も苦虫を噛み潰したような表情で後退を余儀なくされる。
必要に応じてスマートさだけでなくガチャガチャの殴り合いも出来る応用力の高さが、本来弘美の持つ特長。
だが、ナミのコンビネーションラッシュを前にして打ち勝てる自信は、さすがにないらしい。
プレッシャーから逃れたい一心、いっそ殴り合いに持ち込みたい衝動を何とか抑え、弘美は後退の選択肢を選んだ。

思えば、それが合図だったのだ……弘美は後にこの時の判断を後悔と共に述べる事となる。

「シッ!」

弘美が退いたのを機に、ナミがより果敢なインファイトを仕掛けプレッシャーもさらに苛烈さを増していく。いよいよナミが本気でプロの実力を見せ始めた、と三年生たちは直感した。



 ここから先は、文字通りワンサイドゲームだった。プレッシャーに抑え込まれ、また自身のリズムを掴むきっかけさえ与えられず、防戦を余儀なくされる弘美。
彼女のポテンシャルなら、時間を掛ければ万一にも歯車を組み直せたかも知れない。

しかしそれを阻む要素があった。

スタミナの枯渇である。心身共に絶えずナミの攻勢に晒され続け、更にボディーブローによる蓄積が重なり弘美のスタミナは見る見るうちに消耗していく。
そして、最終第3R終盤で完全に脚の止まった弘美は、ナミのワン・ツーをまともに浴びキャンバスへ沈んだのであった。

「はぁ、はぁ、はぁ、くそッ」

裕也のカウントが聞こえる間も必死に身体を動かそうともがく弘美だったが、悲しいかな身体は痙攣で波打つばかり。
なまじ意識がしっかりしているだけに、彼女の屈辱感はここに極まっていたかも知れない。
辛うじて持ち上げた右拳をキャンバスに叩きつけた所で、弘美の敗北を告げる10カウントが数えられ試合は終了した。

「どう? これがプロの実力ってやつよ。アンタもプロでやっていく腹積もりだったら、もっともっと身体を作りなさい」

試合が終わり陽子と教子がリング内に入ってくる中、ナミは未だ立ち上がれない弘美を見下ろす。射し込む後光に眉を顰めながら見上げるナミの表情は、3Rをフルに動いておきながら一切の息切れを起こしていなかった。

「あ…ありがとう……ございました………」

震える身体を僅かに起こし、弘美は震える声で初代主将へ礼を述べる。
柊の時とはまた違った、完全にスタミナ切れで動けなくなってのノックアウト。
己の未熟さとこれから伸ばすべき部分を示唆してくれた事への、彼女なりの感謝の言葉だった。



 追い出しスパーリングは続き、残す所あと2試合を残すのみとなった。リング上には三年生・知念 心と二年生・室町 晶が準備を整えて、試合開始を今か今かと待っていた。

「心、今日で決着をつけてあげる! 覚悟しな!!」

鼻息荒い晶は敵視する心へ勢い良く右拳を突き付け、見事に成長した胸が微かに揺れる。

「覚悟は知らないけど、決着って所は同感。卒業したらあんたと絡む機会も一気になくなるだろうし」

一方の心は涼しい表情で向けられた激情をかわす、変わらぬクールぶりを発揮。いわば2人のいつも通りのやり取りなのだが、決着という言葉を意識してか内に秘める熱はヒートアップしていた。



ビーーーーーッ!



待ちに待った試合開始のブザーが鳴り、2人は弾かれたようにリング中央までダッシュ。グローブタッチもなく同時に右ストレートを繰り出した。

「ぐッ」
「ぶぉッ!」

バンッ! と殴打音が重なり、頭を僅かに仰け反らせていく。そしてすぐに体勢を戻し、今度は左フックを同時に繰り出しそれぞれの頬を穿つ。
やや蒸し暑い部室内に、2人の汗が飛沫となって舞い上がった。

「あの二年生、いい気迫ですね」

「ええ。でも、それ以上に知念さんの闘いぶり……」

リング外で観戦を続ける畑山 久美子と東 久野が、お互いに顔を見合わせる。
初めて見る晶の気迫溢れるファイトを褒める久美子に対し、久野は心の闘い方に疑問を感じていた。
相手を見てのカウンター主体、いわば後の先を制するのが心の本来のスタイル。
少なくとも昔に手合わせした時はそう感じたのを覚えている。
ところが、今リング内で繰り広げられているのは、ボクシングというより我慢比べ。
ペース配分も何もない、殴り殴られの喧嘩。

「意地の張り合い、なんじゃないッスか? 多分」

いつの間に近付いてきたのか、訝しむ2人の横を柊が呟いた。2人の仲が悪いのはこの部の人間なら誰しも知っている事だし、特に今回は晶が決着と言い続けている。
卒業した2人を除いて、他の部員たちは1人の例外もなく心の心情を察していた。

これが心なりの、晶に対するけじめのつけ方なのだろう

と……



「ぶぅッ!」

 晶の右フックが炸裂し、心は唾液を噴きながら一歩後ろへ後退する。しかしすぐにワン・ツーで晶の顔を叩き、追撃を許さない。
パンチ力は晶に分があるものの、心はその不利を手数という手段で補った。
晶が1発打つのに対し、心は3、4発は返しているだろうか。
リング中央からほぼ動かず殴り合いを展開したまま、第1ラウンド終了のブザーが鳴り響く。

「「はぁ、はぁ、はぁ……」」

裕也がブザーと同時に身を挺して割って入り、2人は大きく息を切らす。
ヘッドギア越しにも分かるくらい顔に赤味が差し、口元からは血すら滲んでいるのが分かるほど、心も晶も疲弊していた。

「どう、このままいけそう?」

たった1Rで血が滲むまでに汚れたマウスピースを丁寧に引き抜き、陽子がウォーターボトルを心へ差し出す。

「はぁ、はぁ、はぁ、どうかな。あいつ、間違いなく強くなってる……それともあたしが衰えただけか」

ボトルに口をつけうがいをした後、独白のように陽子へ返す心。口元を僅かに吊り上げている辺り、幼い頃から良く知る晶の成長ぶりを喜んでいるように見える。
が、口ぶりから自分の劣化ぶりを嘆いているようにも取れる。

或いはその両方か。いずれにせよ、心はこの勝負に限っては徹底的に殴り合いに徹し、そしてねじ伏せる腹積もりのようだった。

「はぁ、はぁ、はぁ、くっそぉ……押し切れない。伊藤ちゃん、脚マッサージして」

一方の晶も心以上に息を切らし、教子に脚をマッサージするよう促す。この日の為に対アウトボクシングを練ってきたが、まさかの打ち合いに来てくれたのは意外だった。

嬉しい誤算というべきだろう。が、それ以上に意外だったのは真正面からの殴り合いにも関わらず心をKO出来ずにいた事だ。
心は決して打たれ強いボクサーではない。自分のパンチ力を以てすれば、10発といかないうちに倒れるものとタカを括っていた。
それが2分間を過ぎて尚、ダウンの1つも奪えないでいる。
打ち込んだパンチはとうに10を過ぎているというのに、出来た事といえば少しグラつかせただけ。

ショックだった。唯一自慢だったパンチで打たれ強くない心を倒し切れない、その事実は晶のプライドを傷付けた。

「心……絶対リングに沈めてやる!」

改めてKOを誓った所で「セコンドアウト」の掛け声が入り、グローブを思い切り打ち鳴らす。
そして、第2ラウンドが始まるとすぐにリング中央へ走っていった。










バグッ!



 部室内に強烈な殴打音が響く。同時に大量の唾液とマウスピースが吹き飛び、脱力したその身体は大きくグラつくと派手にロープへ絡ませた。

「ダウン!」

裕也のダウン宣告、一瞬遅れて室内外から湧き上がる大歓声。脚をガクガクと震わせ、殴り倒した赤グローブの方……心は天を向き唾液まみれのマウスピースを突き出しながらニュートラルコーナーへ歩き出した。

試合は流れて最終第3Rへ突入。変わらず真っ向からの殴り合いを続けていた2人はすっかり顔が腫れ、服にも血がプリントされるほどの激闘を展開。
そして、第2R終盤からある差が現れ始めた。

スタミナの差である。

元々練習嫌いでスタミナに難のある晶。二年生になってからは先輩としての体面もあってかしっかり練習してきた彼女だが、以前から選手と変わらない練習をこなしてきた心との差を埋めるには至らなかった。
それがこの大事な局面に於いて、大きく出てきてしまったのである。
ひたすらに殴り合い、スタミナも尽きてのダウンだけに、もはや晶に立ち上がるだけの余力すら残ってはいない。
ロープに身体を絡ませた恰好のまま荒い深呼吸を繰り返し、脚は痙攣すら起こしていた。

「エイト…ナイン…テン!」

結局ダウンした姿から身動き1つ出来ずに無情のテンカウントが数えられ、因縁の深い心と晶の勝負はここに決着。
と同時に陽子と教子が揃ってリング内へ入ってきた。

「室町先輩、大丈夫ですか?」

未だスタミナ切れで指一本動かせない晶の身体を、教子が気遣いながら優しく抱き起こす。ロープから引き離すとゆっくり寝かせ、ヘッドギアとグローブを手慣れた手つきで外すと肩に掛けたタオルで腫れた顔を拭いてやった。

「はぁ、はぁ、はぁ……負けた、かぁ。悔しい、な………」

教子に介抱されながら、自分が最後まで心に及ばなかった事に涙を滲ませる。

「悪いわね。あたしの勝ちよ、晶」

そんな晶を見下ろし、心がとどめの一言。これが本当の決着の瞬間だった。

「……分かってるわよ」

悔し涙を滲ませ、心の言葉にそっぽを向く晶。やがてゆっくり立ち上がると、変わらず顔を背けたまま右手を差し出す。
その行為に僅かな笑みを見せると右手を取り、胸の空く激しい打撃戦に周囲から拍手を受けるのであった。





to be continued……
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Author:チャパロット
基本的に携帯サイトで書かせて頂いているもののリメイク(?)ですが、ちょくちょく文を変更してたりします(あと拙いですが自作絵なども)。
何かある方は、ckcwb305あっとまーくsutv.zaq.ne.jpにご連絡下さい。

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