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第14話

 第14話です。

男子ボクシング部vs女子ボクシング部の試合も、2試合までが終了。3試合目も柊が予想を裏切る大健闘を見せ……
いよいよ、ナミの出番を迎える事となった。




「勝者……青コーナー、高頭(たかとう)!」

 3Rを闘い切り、リング中央に並んだ柊(しゅう)と柳澤(やなぎさわ)。余裕の表情でアゴから流れる汗を拭う柊とは対照的に、柳澤は頭をうな垂れ憔悴していた。
勝者として植木(うえき)に左腕を上げられた瞬間、ギャラリーから拍手が沸き起こり柊は照れ臭そうな顔をした……気がする。大内山 由起(おおうちやま ゆき)に促されリングを降りた柊は、ナミの方を向き

「勝っちまったよ、オレ……」

いつもの口調で伝えると、ヘッドギアとグローブを外して貰う為、奥に退いていく。


 今日の男子部との試合、女子ボクシング部が正式に認可される条件である『2勝以上の勝利』を、加藤 夕貴(かとう ゆうき)と柊が早くも達成してしまったのである。
正直な所、U-15全国ベスト4の柳澤が相手と分かった時点で柊の勝ちはないだろう……とナミは思っていた。が、結果を見れば1発もクリーンヒットを許さず完全なポイント勝ちを収めて見せたのだ。

(もしかして……柊って、天才……?)

ナミは、そう思わざるを得なかった。





 とりあえず柊の事は置いておいて、いよいよ自分の順番が回ってきた! と準備を始めるナミ。ヘッドギアとグローブを着けられ、若干緊張の面持ちでリングに上がる。いくら部に認可される条件を既にクリアしたといえど、さすがに女子ボクシング部発足者としての面子……というものもある。
だが、それより何よりも夕貴の見ている前で負けたくはなかったのだ。

リングインしたナミは、部室内全体をゆっくり見回す。女子ボクシング部の部員たち、端の方で観戦している片山 那智(かたやま なち)、まだベンチで横になっている桜 順子(さくら じゅんこ)、部室を囲む大勢のギャラリー、レフェリー役の植木、そして対角に控える対戦相手……
青コーナーでぐるりと一周した後、

「ぃよっしゃあーーッ!」



バンッ!!



ナミは突如大声で吠え、グローブに包まれた両の拳をそれなりに膨らみを帯びた胸の前で思い切り打ちつけ、気合いを入れた。





「では、これより第4試合、剛田 和人(ごうだ かずと) 対 下司(しもつかさ) ナミ、フライ級3分3Rを開始する!」

 浜崎のコールが部室内に響く。ナミは大きく深呼吸をし、由起からマウスピースを受け取ると自分の口の中に入れしっかりと噛み締めていく。



カァァァァン!



試合開始のゴングが鳴り、ナミと剛田はリング中央でグローブを合わせると同時にお互い距離を取った。まずは様子見で左ジャブを1発放ってみる。



シュッ!



剛田はナミのジャブを辛うじてブロッキングする。しっかりアップしたおかげか、身体のキレは悪くない。剛田がジャブを余裕で捌けなかった事で、相手は現時点で自分のスピードに対処出来ていない事も把握出来た。

(よし、ちょっと強引にでも押してみるか!)

剛田とて強豪・光陵男子ボクシング部の選手である。長引かせたらすぐにでも何らかの対応をしてくるに違いないだろう。その前にアドバンテージを引き込む為、ナミは多少強引にでも攻める……という選択肢をあの一瞬のやり取りの後、迷う事なく選び取る。
この決断の早さは、ボクサーとしてのナミの長所と言って良かった。


攻めると決めれば躊躇は要らない。構える腕に力を込めると、ナミは剛田目掛けて一直線に突進した。それを見た剛田は同じく腕に力を込めナミを迎え撃つ。
ナミはウィービングで剛田の迎撃を掻い潜り、自分のリーチギリギリまで迫ると左ジャブを放つ。



ガッ!



剛田も咄嗟にガードを固め攻撃を防ぐ。ナミは続けて“同じ”ジャブを繰り出した。1発目と同じ速度、同じ軌道で向かってくるジャブなど当たる訳がない。今度は剛田にも欲が出たのか、ジャブをパーリングで弾き飛ばしカウンターを叩き込んでやろうと考えパーリングの体勢に入る。が……

その瞳に映る相手は、衝撃を伝えてくる筈だった左拳を“当たる寸前に引いて”おり、今まさに右を発射する寸前であった。ジャブを弾く筈だった右腕は空しく虚空を払いのけ、左腕は絶好のタイミングでカウンターを放つべく既に振りかぶろうとしている最中。
ナミの2発目のジャブはフェイントだったのである。見事なまでに引っ掛かった剛田は、だが振りかぶった左腕の勢いを止める事が出来ずに、迫り来る右ストレートをかわす事もブロックする事も叶わず……



グシャアッ!



赤い弾丸をその頬に深々と抉り込まれる事となった。しかも、カウンターを狙ったつもりが逆にカウンターされてしまいダメージも増した状態である。

「ぶほぅッ」

頬肉が衝撃で醜く押し出され、剛田の口からマウスピースが覗く。その威力に剛田の身体がグラリ……と傾き、そこへナミの怒涛のラッシュが襲い掛かった。

左のボディーフックを2発、身体が折れた所に左右のショートフック、更に懐に潜り込み右アッパーを再びボディーへ。休みなく、反撃の余裕をも与えず、ナミはひたすらにパンチを叩き込み続ける。


「下司のラッシュに捕まっちまったか。こりゃ決まったかな?」

 試合を外で観戦していた我聞 鉄平(がもん てっぺい)がボソッと独り言を呟く。そんな鉄平の後ろへ、金色の頭髪をした影がこっそり忍び寄り……

「ナミちゃん、スゴイ手数だよね」

鉄平の真横に肩を並べ、体操着姿のアンナは気さくに話しかけた。

「うわッ!?」

試合の観戦に集中していた為か、アンナの接近に気付かなかった鉄平は驚きのあまり横へ飛び退く。間を置いて相手がアンナと分かると、

「なんだ、驚かすなよ……」

少し顔を赤くしながら元いた場所……つまりアンナの真横に戻って試合の観戦を再開した。これから闘う者同士がリング外で肩を並べて試合を観る様子は、傍から見ても不自然だったのだが……

「えへへ、ビックリさせてゴメンね」

軽く舌を出して謝るアンナには、少なくともそんな周りの目などどうでも良い事のようだ。

鉄平はそんなアンナの愛くるしい仕草に赤くなり、

(やっぱり可愛いよなぁ)

などと思いながらも外見は努めて冷静な雰囲気を出してみせる。
そんな鉄平の気持ちなど露知らず、ナミがラッシュで剛田を追い詰めていく光景を見ながら

「ねぇ鉄平ちゃん。ナミちゃんって、やっぱり強いの?」

アンナは突然の質問をぶつけてきた。アンナとしては、以前から疑問に思っていた事である。


『ナミは本当に強いのか?』


U-15全国準優勝とはいうが、アンナが直接ナミの闘いを見たのは夕貴とのスパーリングのみであり、しかもたった1発のボディーブローで胃の物を吐かされているのだ。個人的に、別にナミが強かろうが弱かろうがどちらでも一向に構わない。ただ、気になっただけの事であった。

「そうだな」

鉄平はアゴに手を添え考える仕草を見せ、

「総合的には強い……んだろうな、きっと」

微妙に歯切れの悪い答えを出した。

「総合的?」

鉄平の言葉の意味の意図が読めず、アンナは小首を傾げる。

「ああ。例えば、今のあいつだ」

そう言うと、今リング上で闘っているナミの方を見るよう促す。

「あれ。ああやってラッシュで相手を追い詰めてる時の下司は……正直俺でも持て余す」

「それって、誰でもそうじゃないの? あんなに次から次へとパンチを打たれたんじゃ……」

アンナは当然だよね? とでも言いたげな顔をした。

「そこだ。逆に聞くが、お前にあれだけの時間休みなしで連続してパンチが打てるか?」

アンナの表情と言葉に対し、鉄平は真剣な面持ちでアンナを見つめ、問い返す。アンナは自分がナミのような連打を続けていく場面を思い描いてみる………無理だった。途中で腕の振りが鈍り、息も切れる。何より、打っていく内に段々と上下の打ち分けがバラバラになっていくのが手に取るように分かった。

「……無理、かも………」

考えていく内、アンナは今の自分にあの連打は出来そうにないな……と、素直に思う。

「コンビネーションやラッシュの類ってのは、要するに『無呼吸運動』なんだ」

降参した風なアンナの表情を見やり、鉄平は解説を始めた。

「『無呼吸運動』ってのは、読んだ通り息を止めてする運動の事だ。で、あいつはあんな小っこい身体で俺より肺活量があるんだよ。まずこれがあいつのラッシュの秘密その1。そしてもうひとつ……」

鉄平はそこで一旦言葉を切る。気になったアンナが鉄平に続きを催促しようとしたその時……



ゴシャッ!



鈍い打撃音と同時に、アッパーモーションのナミとキャンバスに沈んでいく剛田、という光景がリング上で展開されていた。周りから歓声が上がる中、ナミはグローブで頬から伝う汗を拭い去るとニュートラルコーナーへと歩き出した。

「ダウン! ワン…ツー…」

植木が倒れ伏す剛田にダウンカウントを数え始める。



「さっき言いかけた、あいつのラッシュの秘密その2だが……」

 ニュートラルコーナーのトップロープに両腕を掛け悠然と佇むナミの姿に見入っていたアンナは、鉄平の突然の会話再開に反応が遅れてしまい、「え? あ……う、うん?」と、間の抜けた返事を返してしまう。

「昔本人に聞いたんだが、なんでも“打つべき場所がなんとなく見える”んだそうだ」

アンナの慌てた様子を見て苦笑しつつ、こういうのって、きっと天性の才能なんだろうな……と、鉄平は最後に呟くのだった。


 カウント8で立ってきた剛田だったが、ダメージが残っているらしく少しフラつく姿が目立つ。ナミにしてみれば絶好のKOチャンスである。これを見逃す手はなかった。
試合再開の掛け声と同時に猛然とダッシュし、懐に潜り込むナミ。剛田も負けじと、左右のワン・ツーをナミの顔に打ちつける。



バンッ、バシンッ!



「う、くッ」

剛田のワン・ツーをモロに貰い、軽く動きを止めるナミ。が、それも一瞬の事ですぐさま左のボディーフックを叩きつける。



ドスゥッ!



「ぐえッ」

ダメージの残っている剛田は耐え切れず、苦悶の表情を浮かべながら膝が折れる。そこへさらにもう1発、左フックを脇腹へ受けた瞬間、剛田のガードは下がりアゴをナミの胸元辺りまで下げてしまっていた。
ナミは身体を捻り僅かな溜めを作ると、体勢を下げ右腕を振りかぶる。次に身体を逆方向へ捻り、、体勢を上げその反動を利用して右腕を振り上げていく。
そして振り子の要領で加速をつけた右拳を、下がってきた剛田のアゴに思い切り叩きつけた。



グシャアッ!



またもリング上で鈍い音が響き、血と唾液と、それらを纏ったマウスピースを噴き上げた剛田は重力に導かれるようにその身体を沈めていった。
ドォンッ! と派手な音を立て、再び倒れ伏した剛田はその四肢を伸ばし、仰向けに倒れている。

「ダウーーン!」

植木のコールと共にナミは再びニュートラルコーナーへと歩を進めた。そして、植木はこのR2度目のダウンカウントを数えようとしたが……その表情を見てカウントは不要と判断するや否や、頭上で両手を数回交差させた。

「勝者、青コーナー下司!」



カンカンカンカンカンカーン!



 植木の試合終了のコールとゴングを受け、ナミは両腕を思い切り上に突き上げ全身で勝利をアピールする。それを見たギャラリーは、更に一際大きな歓声を勝者たる少女に送るのだった。





「ふぅ……なんとか体裁は保てたわ」

ナミは青コーナーに戻り、由起にヘッドギアとグローブを外して貰いながら女子部員たちに笑顔を見せる。その後ろでは、ダメージが大きかったのか剛田が男子部員に肩を担がれリングを後にしていく。
ナミは、その剛田の姿に中学時代の自分と重ね合わせ、一瞬だけ切なそうな表情を見せたが、すぐさま払拭してリングを降りていった。

ナミの勝利で女子ボクシング部は立て続けの3連勝を勝ち取る事に成功。これに続くのは……慣れないヘッドギアとグローブを装着し、落ち着かないのかしきりにヘッドギアの位置を直したりポンポン、と軽くグローブを打ち合わせ頼りない表情を見せる葉月 越花(はづき えつか)だった。

「わ、私の番だよどうしよう……?」

何が“どうしよう”なのかは分からないが、とにかく落ち着きがない事だけは窺い知れる。

「とにかく、今までアンタも練習はしてきてるんだから少しは自信を持ちなさいよ! 負けたって誰も責めたりしないから」

手当てを受けている最中のナミが、越花に落ち着くよう諭す。

「う、うん……」

ナミの一言で、越花は少しばかり表情が和らいでいく。少し気持ちが落ち着いた越花は、由起に促されリングインし中央へと向かった。が、まだ対戦相手が上がってきていない。どうしたのかと周りを見てみると……
対戦者らしき1人の男子部員が桃生に詰め寄っていた。見た感じは爽やかなスポーツ少年のような印象を受ける。


「主将……俺、どうしてもあの娘を殴らなきゃいけないんですか?」

 越花は聞き耳を立ててみると、あの男子部員は桃生と何やら闘いたくない、と言っているように聞こえてきていた。

「そうだ。変更はない、ぐだぐだ言わずに早くリングに上がれ!」

が、桃生はそんな男子部員の意見を一蹴し早くリングへ上がるよう伝える。毅然とした独裁ぶりは、相変わらず健在のようだ。

「でも! 試合とはいえあんな女の子を殴る為に俺の……男の拳はあるんじゃないです!!」

桃生に対しまだ抵抗の意思を示す男子部員。思わぬハプニングに、ギャラリーや他の男子部員からざわめきが聞こえ始める。

「なんだ? なにゴネてんだアイツ。もう葉月はリングに上がってんだぜ? 早く上がれよな……」

痺れを切らしたのか、柊も女子部員たちにのみ聞こえる程度の声量で呟いていた。


 一方、まだ抵抗を続ける男子部員に対し桃生は溜息を吐くと、何やら耳打ちをし……ようやく納得したのか、男子部員がリングに上がって準備を始めていく。

「遅れてすみませんでした」

男子部員は先に待機していた植木と越花に対し、頭を下げ謝罪してきた。

「ううん、気にしてないよ。私じゃ相手には不足かも知れないけど、今日はよろしくお願いします」

越花もつられて両手を腿の前で揃え、ペコリと頭を下げる。その途端、男子部員は顔を真っ赤に染め上げ「あ、ああ。よろしく」とだけ言うと、そっぽを向いてしまった。

「?」

越花は訳が分からず首を傾げる。注意が終わると、両者ともややぎこちなくグローブタッチを交わしコーナーへ戻るとセコンドの指示を受けていく。そんな中、

「葉月さん、なかなかやるじゃない」

由起にいきなりそんな事を言われた。
何がです? と訊ねる越花に、由起は体操着の胸元を指差し、

「ココ。チラッと見せたんでしょ? 前野(まえの)君、真っ赤っかになってたもの。動揺作戦に出るなんて、策士よねぇ」

ニヤッと意地の悪い笑みを見せた。

「ッ!?」

由起の言いたい事を察してしまった越花は、顔を赤くして言葉を失いバッ! とグローブで見映えの良い胸元を隠すのだった。

「まぁ、その話は置いといて……」

由起は自分で振っておきながら、話を横に置くジェスチャーをしてみせ話を戻すと、越花に作戦を伝えた。


 その頃、ナミは試合が終わり緊張が解けたのか、急にブルルッと震えたかと思うと、「ちょっとトイレに行ってくる」と言って部室を出て行ってしまった。

「では第5試合、前野 裕也(まえの ゆうや) 対 葉月 越花、フェザー級3分3Rを開始する!」



カァァァァン!



試合開始のゴングが鳴り、両者中央でグローブを合わせ………





「あースッキリした。さて、越花の試合はどうなってるかしら?」

 トイレを済ませ、ナミは急いで部室に戻る。

(開始のゴングが途中で聞こえてきたから、今はちょうど1分が過ぎたくらいかな? もしかしたらもう終わってたりして……)

なんてね、と自分の頭を軽く小突き、ギャラリーの波を掻き分け部室のドアを開ける。その瞬間……



カンカンカンカンカンカーン!



ナミの耳にゴングを打ち鳴らす音が飛び込んできた。

「…………へ?」

まさかと思いリングに視線を移すと、そこには絵に描いたような大の字でキャンバスに伏せる越花の姿があった。




to be continued……
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チャパロット

Author:チャパロット
基本的に携帯サイトで書かせて頂いているもののリメイク(?)ですが、ちょくちょく文を変更してたりします(あと拙いですが自作絵なども)。
何かある方は、ckcwb305あっとまーくsutv.zaq.ne.jpにご連絡下さい。

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