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第52話 『追い出しスパーリング(1) 先輩、後輩』

 プロボクシング編、第52話です。

全く何か月ぶりの本編更新でしょうね(汗) 来年の1月いっぱいでお世話になっている携帯小説サイト(光陵高校女子ボクシング部もそこが原点です)がサービス終了との事で、もっと尻を叩かなきゃいけない所なのですが、師走ともあって仕事がとても忙しく……ともかく、精一杯頑張っていきたいと思いますのでこれからもお付き合い下さい。

謝罪:携帯版でサラと雪菜がI・Hを賭けての部内選考で闘った、と書いてましたが正確には冬の国体出場を賭けて(本編で語られず)の間違いでした。お詫びと共にこちらでは訂正させて頂きます。





光陰矢の如し。月日は瞬く間に過ぎ、季節は2月。光陵高校に入学して3度目の冬、ナミたち三年生は歓送の意味を込めた一・二年生からの追い出しスパーリングを受ける。












「おい、女子ボクシング部が面白そうな事するらしいぜ」
「キャー! 杉山さんもリングに上がるのかしら!?」
「高頭も戻ってきてるし、金メダリストの試合も見れるかも知れないぞ」

 2013年、2月。光陵高校の生徒たちの間では、ある話題が大多数を占めた。数々の功績を立てた創設メンバーの三年生と、残る一・二年生連合による追い出しスパーリングの話題である。
それを2月に行う話は割とすぐに外部に漏れ、恐らく校内で最も注目を集める部の催し物だけに当日はギャラリーが殺到した。
現状プロボクサーが5人、オリンピック金メダリスト1人という部員が在籍しているクラブなど、古今例のない話だろう。

特に金メダリスト・高頭 柊の存在は際立っていた。

日本の誇る世界的スポーツヒロインとして一気に有名人となった彼女は、それこそつい数日前までメディアに担ぎ出され学校に登校すら出来なかったのだから。
となれば当然、対戦の決めようもない。そういう事情の為、三年生にも関わらず柊は今回の追い出しスパーリングの対象外となっている。
本人は不満顔を隠そうともしなかったが、こればかりは仕方がない。大人しく裏方に徹してもらう事となった。



 時刻が刻一刻と迫る。それに比例して、部室の内外にはギャラリーが殺到してきていた。ホワイトボードに書かれたプログラムは以下の通り。


第1試合、桜 順子vs桃生 詩織
第2試合、比我 秋奈vs抹権 ひかる
第3試合、葉月 雪菜vs下司 サラ
第4試合、下司 ナミvs宇都宮 弘美
第5試合、杉山 都亀vs加納 智代
第6試合、葉月 越花vs石動 花子
第7試合、知念 心vs室町 晶
第8試合、城之内 アンナvs植木 四五郎


計8試合の構成。1つの部のスパーリング大会にしては多い数といえよう。
ただ、中には柊目当てで観に来たギャラリーもいただけに、彼女が出ないと知ると明らかに失望感を露わにする者もいた。
しかし、そんな事は彼女らの知る由ではない。色々な思いが錯綜する中、リング内から「そろそろ始めようか」との声。

男子ボクシング部主将、前野 裕也(まえの ゆうや)だ。今回の話を恋人の越花から聞き、自らレフェリー役を買って出たのである。
他にも同部の我聞 鉄平(がもん てっぺい)、柳澤 翼(やなぎさわ よく)、部外者だが仲の良い間島 竜一(まじま りゅういち)、さらには新顧問の新名 孝子などが、スタッフという名目で参加。

そんな面子と大勢のギャラリーが注目するリング上に、いよいよ第1試合の2人が準備を終えて上がってきた。

赤コーナーには三年生・桜 順子。
青コーナーには二年生・桃生 詩織。

とりあえず格上という扱いで、三年生は全員赤コーナーへ入るようだ。
セコンド役として三年生には中森 陽子、そして一・二年生には伊藤 教子が入る。

「先輩。本気で行きますからその、覚悟して下さい!」

やや俯き加減に順子を見る現主将・詩織。一歩譲る控え目な性格は、入部した頃と変わらないらしい。

「はあ……あんたもっと自信持ったら? そんなだと後輩にナメられるわよ」

詩織の控え目な態度に、これからグローブを交えるというのについ溜息を吐いてしまう順子。しかし、これはこれで彼女の持ち味なのだろう、と頬を緩めた。



ビーーーーーッ!!



一旦各コーナーへ下がり、マウスピースを銜えさせて貰う。そして、ブザーの電子音が室内に響くと弾かれたように2人ともリング中央へ飛び出していく。

追い出しスパーリングの始まりであった。



 バグッ! と鈍い音が響き、詩織が2、3歩ほど後退する。下がった所を順子がすかさずステップインし、左ボディーアッパーから右ショートフックの連打。
追い出しスパーリング初戦となる順子と詩織の勝負は、最終第3Rに入っていた。
試合形式はアマチュア公式戦と同じく2分3Rで行われる。
特にポイントでの勝ち負けは設定していないが、KOだけは認めていた。

「くッ」

怯みながらも詩織は反撃の右フックを放つ。しかし順子はそれを素早くダッキングで潜り、反撃は虚しく空を切る。
そして、間髪入れず伸び上がるように放たれた右フックが、逆にカウンターとなって詩織のテンプルを穿った。
いかにヘッドギア越しといえど、これだけ鋭角に抉り込まれては耐えられるものではない。
詩織はたまらずその場で尻もちを着いてしまった。

「ダウン!」

すかさずレフェリーの裕也が身体を割り込ませ、順子をニュートラルコーナーへ下がらせる。指示に従って下がり、悠然とトップロープに腕を乗せ詩織を見下ろす順子の姿は、なるほどプロの風格を感じさせるものだった。

「はぁ、はぁ、はぁ」

カウントが進み、詩織は頭を振って立ち上がる。これがプロ仕様ならKOモノの当たりだったのだろうが、さすがにアマチュア仕様では難しいようだ。

或いは、階級の差もあったかも知れない。

いずれにせよ詩織は立って試合再開され、順子優勢で第3R終了のブザーが鳴り響いた。

「「はぁ、はぁ、はぁ」」

第1試合が終わり、順子と詩織は共に息を切らしながら視線を交わす。2人の間に言葉はない。だが、詩織は新しい主将として拳で卒業を祝い、順子は創設メンバーとして拳で後輩に部を託した。
それで充分だった。たった6分間の殴り合いだったが、それは2人にとって千の言葉より重く、また意味あるものとなっただろう。



 追い出しスパーリングは続く。第2試合、二年生になってから女子ボクシング部に入り、堅実かつ地味な練習を弱音1つ吐かずこなし、遂にはプロとなった比我 秋奈と抹権 ひかるとの勝負。
この1年で分かった事だが、何とひかるの動体視力は柊に劣らないレベルのものだった。のだが、生来の優し過ぎる性格と運動神経が平凡なせいで、今ひとつ……いやふたつ程成果が残せていない。

元々、殴り合いに向く性格ではないのだ。ただ、本人は至って真面目に弱気で地味な自分を変えたいと思っている。
そんなひかるを見て、どこか自分と似てるなと秋奈は思う。

「シュッ」

緊張でフォームもでたらめなひかるの左ジャブ。
それを右手で押さえ、秋奈はズイと前へ進む。
顔と顔が触れ合いそうな……いや、すでにヘッドギアの額をゴチンとぶつけ合う距離まで近付くと、緊張で固まったひかるの肩を2度叩いた。

「ひかるちゃん、肩の力抜いて。リラックスリラックス」

あくまでスパーだから、とウィンクをひとつ入れ秋奈は一定距離まで間を空ける。秋奈は秋奈なりに、先輩としての責務を果たしたいというのだろう。

結局、ひかるは秋奈に終始指導される形で3Rを闘い抜いた。

「はぁーっ! はぁーっ! はぁーっ!」

試合終了のブザーが鳴り、タンクの中の燃料を全て使い切ったひかるは大きく肩で呼吸を繰り返す。
脚もプルプル震え、もう立っているのすら辛そうな様子だった。

「お疲れ様。よく頑張ったね」

息も絶え絶えなひかるを抱きかかえ、微笑みかける秋奈。

「あ…ありがとう…ございました……」

極度の緊張と疲労で膝を震わせながら、ひかるは力を振り絞って頭を下げる。が膝は既に限界を迎えていたようで、そのまま前のめりに崩れていく。
何とか腕を支えにして四つん這いに保ったが、その後なかなか立つ事が出来なかった。



 部室内外から送られる拍手に、涙を浮かべながらひかるがリングを降りた後も、プログラムは着々と進んでいく。
続く第3試合は葉月 雪菜vs下司 サラ。
一年生の時に福島県代表としてI・H全国大会へ出場し、以後この光陵高校へ転校してきてからもフライ級の代表を経験してきた、全国クラスの実力者の雪菜。

対してサラは二年生の時に雪菜と冬の国体出場を賭けて闘い敗れ、知名度はないに等しい。ただ、当初は姉ほどの才能はないと見られていた彼女のここ最近の成長ぶりは、顧問の植木ですら舌を巻くほどだ。
姉妹だけあってかナミに匹敵するパンチの当て勘を備え、さらに徹底した走り込みが強靭な足腰を生む。
その証拠に、以前は全く歯が立たなかった雪菜を相手にしぶとく食い下がっていた。

「シッ、シュッ!」

雪菜のワン・ツーがサラを捉え、軽快な打撃音を奏でる。ヘッドギアに包まれた顔から汗が舞い、身体を仰け反らせ後退……せず、サラは闘志剥き出しの右ショートフックを返した。

「え!?」

パァンッ! と革と革のぶつかり合う乾いた打撃音。
サラから間髪入れない反撃など予想だにしなかったのだろう。
雪菜は半ば不意打ちの形でパンチを浴び、逆に2歩ほど後退してしまった。

「「ナイス!」」

リング外から、同期である桃生 詩織と室町 晶との二重奏。
息のあった親友たちの声援に後押しされ、勢い付いたサラは追撃態勢へ。
姉を生き写しにしたような怒涛のコンビネーションラッシュを仕掛けていった。










「ストーップ!」

 裕也がコーナー付近でリング上の2人に割って入る。コーナーに貼り付けられ、連打を浴びていたサラを危険と判断した為だ。姉を連想させるコンビネーションラッシュで雪菜に襲い掛かったサラだったが、やはりそこは熟練度と経験値の差が如実に現れた。
雪菜は冷静に猛攻をやり過ごし、ほとんどダメージも受けないまましたたかにサラの消耗を誘う。
果たして雪菜の思惑は嵌まり、サラの方が激しい無呼吸運動の代償を払う羽目となってしまった。
圧倒的に強い相手に勝てるかも知れない、という思いが彼女を熱くさせ、結果ペース配分を狂わせてしまったのである。
これは勿論サラの未熟さ故なのだが、雪菜の老獪さをこそ評価すべきであろう。

「はぁ、はぁ、はぁ……お疲れさま、サラちゃん」

全くのノーダメージという訳にもいかなかった雪菜が、間に割って入っている裕也を邪険に押し退けながらサラへ近寄り激励を述べる。
ちなみに裕也を邪険に扱ったのは、従姉妹の越花と付き合っている事を未だに納得出来ないでいる表れであった。

「はぁっ、はぁっ、はぁっ……まだまだ、だったみたい」

ロープに身体を預け、雪菜以上に疲弊したサラは悔しそうに呟く。彼女なりに必勝を期しての指名だったのは、この悔しがりようを見れば容易に想像がつく。
ただ、いつまでも引き摺るような精神状態でもないようで、雪菜へ向き直ると深々と頭を下げた。

「ありがとうございました。ご卒業、おめでとうございます! またいつでも遊びに来て下さいッ」

嗚咽を殺し、精一杯の大声で感謝を表す。

またいつでも来て自分を強くして欲しい

サラの本心からの感謝であった。



 第3試合が終わり、続く第4試合。サラの姉でありこの女子ボクシング部の発起人であり、最初の主将も務めた下司 ナミとボクシング一家のサラブレッド、一年生の宇都宮 弘美との対戦。
弘美からの指名で決まったこのカードだが、ここでとんでもない事が起こった。

いや、弘美がまたもやらかした……というべきであろう。

なんと、リングに上がった2人はヘッドギアをしていないではないか! これには、さすがにギャラリーがざわついた。

「おい、頭の防具してねえぜ」
「あれってメチャクチャ危ないんじゃないの?」

色々な会話が飛び交うギャラリーの最後方、そんな部室内のやり取りを見て顔を見合わせる2人がいた。

「また面白い事をしてるみたいね、下司さんは」
「ホント、あれから2年も経ったのに変わらないですね。彼女」

ノーヘッドギアという事態にもさして慌てた様子を見せず、2人は堂々とギャラリーを掻き分け部室へ。
そしてドアを開けると、数秒の間を経て歓喜の声で迎えられた。

「久野さん! 久美子さん!!」

ちょうどドアに最も近い場所を陣取っていた順子が、歓喜と驚愕の入り混じった声を上げる。
それもその筈、2人はこの部と関係のある人物だったからだ。

元空手部主将、光陵高校OGで順子と同じボクシングジムの東 久野(あずま ひさの)
そして順子の幼馴染みで光陵高校在籍時は共にキックボクシング部所属、今は転校し遥か広島の地へいる筈の畑山 久美子(はたけやま くみこ)

いわば、順子にとって姉のような存在といっていい2人だった。

突然のサプライズに感涙に咽ぶ順子の後ろで、部員たちはきょとんとした表情で硬直。
まず久野に対して現三年生を除く下級生が。
久美子に至っては三年生の秋奈と心すら「誰?」といった風だった。
正確には心は女子部設立の際の関門として行われた、桃生 誠率いる男子部との試合で久美子を見ていた筈だが、さすがに記憶も風化している。
アンナに説明された後も、「ああ、あのハイキックの人か」という感想を述べるのみだった。



 ともかく、大内山 由起を除く全ての光陵女子ボクシング部在籍者が集まった部室内。その視線は例外なくリング上へ向けられていく。
下司 ナミ、その高校最後の闘い……舞台の開幕は、もうまもなくとなる。





to be continued……
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コメント

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No title

相変わらず面白いですね。私もこんな風にすごい迫力で書けたらな…
次回のナミと弘美のスパー、楽しみにしてます。
Secre

プロフィール

チャパロット

Author:チャパロット
基本的に携帯サイトで書かせて頂いているもののリメイク(?)ですが、ちょくちょく文を変更してたりします(あと拙いですが自作絵なども)。
何かある方は、ckcwb305あっとまーくsutv.zaq.ne.jpにご連絡下さい。

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