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第50話 『天才の帰還』

 プロボクシング編、第50話です。

<拍手返信>
・匿名様:コメントありがとうございます。約2ヵ月も経っての返信も失礼甚だしいのですが、ご容赦下さい。
以前は携帯小説サイトの方に随分ストックがあった為に割と早い期間での掲載も可能だったのですが、生活が変わって中々執筆出来ず、あれやこれやとストックも尽き……といった次第です。

・ぴーこ様:もしかしたら新一年生の中でも1番インパクトのあるキャラかも知れません>教子
でもこれぐらいじゃなきゃ埋もれかねないかな? とも思ったり(^^;





長らくのコーチだった吉川 宗観のジム離脱、女性トレーナーの池田との不和、それに伴うオーバーワーク。
幾多の問題を抱えたナミのプロ第2戦は、やはり苦戦の内容。親友の梨佳子の声援も力に変え辛くも判定で勝利したナミだったが、その闘いぶりを見た棗 希美はスカウトを見送るのであった。












 下司 ナミが僅差の判定で辛くもプロ第2戦を制してから、夜を2つ越えた。試合後、家に帰った時にサラを除く家族の全員が口を開けたまま慌てていたのが印象に残っている。
結構打たれたからなぁ、と鏡に映る自分の顔を見つめるナミ。湿布やら絆創膏やらをペタペタ貼っても、尚分かる程度に顔が腫れていた。

「ひっど。これが女の子の顔?」

思わず鏡に向かって独白してしまう。そんな自虐的な気分に浸っていると、母から「ナミ、四五郎くんから電話よ」と呼び出された。

「えッ……!?」

四五郎と聞くと、どことなく気持ちが平静でいられない。移籍話以降、彼と1対1で話す機会はなかった。
いや、意図して避けてきたというべきか。
形の上では決別しているので、今までのような距離で接するのに抵抗感が拭えないのも理由の1つである。
が、今回はみっともない試合をしてしまった事に対する説教の方が、より平常心を失わせた。

「も…もしもし?」

理由はあれど出ない訳にもいかず、ナミは渋々受話器越しに話し出す。

「よ、よう。元気そうだなナミ坊。その、なんだ……よくやったな。僅差だろうが勝ちは勝ちだ」

意外な切り出しだった。普段なら、あんな試合内容だとまず小言から始まるのが彼の常とナミは見ていたから。

「あ、ありがと……」

予想の外を行く植木の切り出しに、ナミはぎこちなく返す。

「それでだな。お前、明日から2、3日学校休め。結構打たれたろ? 熱出る可能性が高いから」

あと精密検査もちゃんと受けろよ、と心配そうに続く植木の声。そう言われれば、どこか気怠さ……妙な熱っぽさを感じる。
あれだけ打たれたのだ、熱の1つ出ても不思議ではない。ましてや、今回はヘッドギアもないプロでの試合。
植木はプロの世界の先輩でもある事だし、ここは素直に聞く事とした。



 翌日。果たして植木の言う通り発熱にうなされる事となったナミ。ただ、母の看病もあり熱自体は1日で下がった。
精密検査も特に問題なく、熱が下がると珍しく妹のサラや弟のタクトらを伴って近くで1番広い公園へ向かった。
この公園はストリートバスケを楽しめる設備が整っていて、ナイターでも遊べるようライトも設置されている。
神奈川でバスケットを楽しむ者たちにとって、ささやかな聖地ともいうべき所だろう。

そして、ナミが高頭 柊と初めて出会った場所でもある。

「サラ、姉ちゃんと組めよ。1対2だ」

でもあんまり激しく動くなよ、と試合明けのナミに釘を刺し、タクトは持参したバスケットボールを器用に人差し指の上で回す。
女姉弟たちと違い、タクトはボクシングに明るくない。が、それでも姉が無茶を通せる状態でない事くらいは分かった。

「ちょっとバスケ部入ってて背が高いからって、わたしたちを抜けるなんて愉快な冗談はやめてよね? 姉ちゃん、フォロー任せた!」

勝ち気に眉を釣り上げ、サラはずいとタクトの前に乗り出す。有無を言わせず前に出たのは、サラなりに姉を気遣っての事であった。



 ダン、ダン、とボールの弾む音が閑静なコートに響く。サラが必死に食らいつくが、そこはさすがに現役のバスケ部員。タクトは巧みなドリブルで掠らせもしない。
ちなみにナミはやはり体調が回復していないせいか、思うように動けないでいる。姉弟たちを誘っておきながら、今夜は見学せざるを得ないと感じるナミであった。

「あっ」

サラの声が上がる。タクトがバランスを崩しながら強引にシュートを打ったのだ。ただ、これはゴールリングに直撃しボールは大きく高く跳ね上がっていく。
リバウンドを我が物とすべく、サラとタクトがボールの落下を待ち構える。
だが、そのボールは2人の下へ落ちてこなかった。

「ふッ!」

短い吐息と共に遠くから走ってきたであろう、軽快に地を蹴る足音が消える。代わりに一陣の風を伴って小さな身体は遥か高みへ。
そして空中のボールを左手で覆うと……



ズガシュッ!



豪快にリングの中へ叩き込んだ。

「へッ、ナイスリバウン!」

いきなりの乱入に唖然とする3人へ、ふと上から降り注ぐ声。未だリングに片手でぶら下がったままの、乱入者からのものである。

「よう。珍しいトコで会ったな」

ぶっきらぼうな物言い。照明の逆光でシルエットになってはいるが、その声と口調は3人ともよく知るものだった。

「し、柊!?」

高頭 柊(たかとう しゅう)

ナミの同級生で部活仲間。天才的なセンスとストイックなトレーニングでメキメキと頭角を現した彼女は、幸運にもロンドンオリンピック・女子ボクシングの特別顧問である新田 裕希子(にった ゆきこ)に見初められる。
そしてオリンピック初となる女子ボクシングの、唯一の高校生代表として遥かロンドンの地へ行っていたはず……

「やっぱいいよな、この感触」

この空気も、と呟きながら柊はトンッと地面へ降り立つ。体重を感じさせない軽快な着地から、柊はナミらへ近付いてきた。

「あ、あ、あんた! な、なんでこ、こんな所に……」

全く予期しなかった相手との、まさに不意打ちというべき邂逅。絞るように出たナミの言葉が吃(ども)ってしまったのも、仕方のない事といえよう。

「ンだよ、オレがココに来ちゃいけねーのかよ」

期待していた反応と違ったのだろう、柊は少し膨れ面で地面に転がっていたボールを拾い上げる。

「今日ようやく帰って来れたんだ。随分間が空いちまったからよ、久しぶりに日課をしに来たらお前らがいた、ってだけの話」

事情を説明しながら拾ったボールをリング目掛けてシュートする柊。その表情は、心底うんざりしたものだった。
彼女がそんな表情を浮かべた理由は、実はナミらにも思い当たっていた。

あれだけ連日のように取材やらTV出演やらを強いられては……

「しょうがないんじゃない? 今やアンタは国民的スター、ってやつなんだから」

ほんの少し嫌がらせを含めたナミの物言いに、柊が眉を顰める。

「あはは、ごめんごめん。改めておめでとう……金メダル!」

茶化した事に詫び、ナミは柊を祝福した。



そう。彼女、高頭 柊は女子で唯一の金メダリストに輝いたのである。



ナミの茶化した理由や連日の取材・TV出演という話は、正にこの一事によるものであった。
実は今回のオリンピック、男子にも1名金メダリストがいるのだが何といっても女子ボクシング開催はロンドンが初。
全てのアマチュアボクサーにとって注目するべきこの大会で、唯一の女子高生選手が唯一の金メダルに輝いたのだ。
宣伝するにこれ以上の時の人はいないだろう。

「サンキュ。でも、またすぐ東京に行かなきゃなんねーんだよなぁ」

ナミの祝福に笑みを見せた柊だがそれも僅かな間。これからの予定を思うと、弥が上にも気分が沈むというものだった。

「有名人も楽じゃないわね。となると、また当分学校には?」

「ああ。行けそうにねーな」

ナミの問いに、やれやれと肩を竦め首を振る柊。

「なぁ、お前ら今からオレの家に来ねえか?」



 柊が突然の提案をしたのは、日課としているシュート100本をキッチリこなし終わった後。サラが本物の金メダルを見てみたいと騒いだのがきっかけである。
残念ながら本物は今オリンピック協会に預けていてないが、写真なら数十枚と撮って貰ったそうで、それでも見たいと姉弟全員が希望した結果だった。

柊の家は公園から遠くない、いかにも高級そうなマンション。ちなみに、彼女らの部活仲間でナミとは同じ山之井ジムのジムメイトである、比我 秋奈(ひが あきな)も同じマンションの住人との事。
ついでだからと途中で秋奈も誘い、4人は柊の部屋へ上がった。

「お邪魔します」

部屋は綺麗に片付いていて、だが機能優先で女子高生らしさをあまり感じさせない質素なレイアウト。
ただ、ぬいぐるみや小物などを散りばめたファンシーな部屋よりはよほど彼女らしいと、何故か誰もが納得したものだった。

「適当に座っててくれ」

そう言うや、柊はキッチンへ向かう。少しして全員分の茶をトレイに乗せた部屋の主は、静かに自分用のクッションへ腰を下ろした。

「ほら。好きに見ていいぞ」

クッションにあぐらをかき、柊は白封筒を机の上に置く。厚みはかなりのもので、相当な量の写真を連想させた。
早速封筒の中の写真を手に取る面々。

大会用のコスチュームに身を包み構えた姿、カウンターをジャストミートさせている試合のワンシーン
他の日本人選手やスタッフらとの集合写真
そして表彰台の1番高みで金色のメダルを掲げている栄光の瞬間……

被写体としての柊は、そのどれもが活き活きして一級品の輝きを放っているのが写真越しにも分かった。そんな中、表彰台に立つ1枚に奇妙な違和感を覚えるナミ。

「あれ? これって……」

それは表彰台の最下段。そこに立っている人物に見覚えがあったからだ。柊はああ、と茶を一口啜った後、その違和感を速やかに除いてみせた。

「麗美だよ。アイツも本戦に出てきたんだ」

曹 麗美(ツァオ リーメイ)

2年前、ナミたちがまだ一年生だった時に日本へ留学してきていた中国の女の子。ナミの中学時代の先輩である中村 香澄(なかむら かすみ)がいる、都和泉高校へ留学していた麗美の姿は初めて会った時に比べ逞しくなったように見える。
或いは、オリンピックの表彰台という付加作用がそう感じさせるのかも知れない。
そしてもう1人の表彰者、銀メダリストの事も柊は話してくれた。

カスミ・アンダーソン

アメリカ代表の白人女性で、実はこれも柊に少なからず因縁がある選手なのだという。一年生のI・H全国大会後、縁あって知り合った新田 裕希子(にった ゆきこ)の提案で、日本に海外修行中のカスミと試合形式のスパーリングをしたという話だった。
尋常でない速さ故に、“ステルス”と呼ばれる右ストレートを武器に闘う完成度の高いボクサーで、柊もずいぶん手こずったと語る。
だが、最後には結局カウンターで切って落とした辺り、柊の動体視力と反応速度の非凡さを改めて思い知らされる面々であった。



 ひとしきり写真鑑賞やオリンピック話を終えた一同の話題は、自然とナミの第2戦へ移っていった。

「んで相手の左アッパーが強烈でさぁ……」

ナミは最初話すのを躊躇った。あまりにもお粗末かつ不満だらけの試合内容だったからである。だが、オレだけ話すのは不公平だと柊に食いつかれては、話さない訳にもいかない。
仕方なく内容を覚えている限り伝え始めた。

「そっか。吉川さんとセンセーがなぁ」

ナミの話の合間、柊がとても意外そうな顔を覗かせる。植木 四五郎と吉川 宗観、いわば山之井ジムの古株といっていい2人の離脱及び新規ジム立ち上げ。
柊にとって初耳のこの話題は、眼前の同級生のこれからを案じさせるに充分な内容といえた。



「今の柊がどれだけ強くなったのか、ちょっとスパーしてみたいわね」

 そうナミが呟いたのは、ひとしきり会話が終わり茶を楽しんでいた頃。今の所、2人の本気の対決は1勝1敗。
ナミとしては、一足先に世界の舞台で活躍した友人の実力を見てみたかった……ただそれだけの軽い気持ちだった。

だが、

「オレは……ヤだな。お前とやるとドッと疲れるし、なにより友達とやり合うのはちょっとキツい」

当の柊は明確に拒否を示す。出来るなら今後もゴメンだね、と肩を竦めてみせた。
残念そうな顔を見せつつも納得したナミに、内心で胸を撫で下ろす柊。

口ではああ言ったが、本当の理由は別にある。

(多分、今やったら相手にならねーだろうし。それに……)

目標もなくなっちまったしな、と寂寥感を垣間見せる柊であった。



 翌日。久しぶりに学校へ姿を現した柊に全生徒・全職員がこれ以上ない讃辞を送り、辟易する彼女は一躍ヒロインとして祭り上げられた。
久しぶりに顔を出した部活でも尋常でないギャラリーが湧き、他の部員たちの方が呆れたという一幕もあった。
結局まともに部活練習も出来ないまま、さらに翌日にはTV出演があるからと柊は明らかに不満顔で東京へと旅立つのであった。


これ以降、彼女が学校に姿を見せない日々が続いていく事となる。





to be continued……
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Author:チャパロット
基本的に携帯サイトで書かせて頂いているもののリメイク(?)ですが、ちょくちょく文を変更してたりします(あと拙いですが自作絵なども)。
何かある方は、ckcwb305あっとまーくsutv.zaq.ne.jpにご連絡下さい。

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