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第47話 『植木 四五郎、その過去』

 プロボクシング編、第47話です。ちょっと昔と比べても圧倒的に執筆ペースが遅くなってまして、月イチでの更新がギリギリ……本当にもっと頑張らないと(^^;



<拍手返信>
・ヨシコ様:コメントありがとうございます。結構珍しい柊のガッツポーズですが、実はコスに付いた血が相手選手の返り血だなんて言えない!!w





プロ2戦目を前に起こった、幾つかの大きな問題。これらが重なってオーバーワークを繰り返し、遂にナミは倒れる。
そんな彼女を介抱したのは、奇しくも光陵高校の女子ボクシング部新顧問として赴任してきた、新名 孝子という若い女性であった。












 下司 ナミは、偶然の出会いというものに思いを馳せずにはいられなかった。プロ2戦目を前に積み重なった、吉川 宗観の辞任や新トレーナー池田との不和を原因としたオーバーワーク。
それらが重なりロードワーク途中で倒れた彼女を介抱してくれた、新名 孝子(しんみょう たかこ)と名乗る元女子プロボクサー。
命の恩人ともいえるその孝子が、植木の後任としてこの光陵高校へ赴任してきた偶然。
植木にとっては、肩の荷が1つ下りたといった所か。
ただ、その彼の表情が浮かないのに気付いたのは、恐らくナミだけであろう。

「新名さんには、今日の練習から早速指導に入ってもらう。彼女は元プロボクサーだし、校長が確かな筋のつてで交渉した人だから問題は……ない」

よろしく、と植木の説明の後、微笑み自己紹介する孝子。その笑みは、表現するならば妖艶。他人の感情の機微に敏感な知念 心や、感の鋭い中森 陽子らは、この孝子の笑みにあからさまな不快感を示していた。



「ねえ、どう思う姉ちゃん?」


 放課後。部室の更衣室で制服をハンガーに通しながら、下司 サラがナミに訊ねてきた。端から聞けば、『何に対して』なのか分からない問い。
しかし、そこはさすが姉妹である。サラの聞きたい事は理解出来た。

「まだ会ったばかりで分かるわけないでしょ? まあ面倒見は良いと思うけど」

ジャージの袖に腕を通し、ナミは簡潔に答える。倒れていた自分を介抱してくれたのは間違いないのだし、面倒見は悪くないと思う。
もしくは、とんでもないお節介なだけの可能性もあるだろうが……

「高頭先輩だったらどう見るのでしょうか」

スカートのホックを外しながら、二年生の桃生 詩織が独り言のように呟く。
今はこの場にいない三年生、高頭 柊。遠くロンドンの地にいるであろう彼女の観察眼なら、孝子をどうみるのだろうか?
確かに興味深い話であった。

ともあれ、今日の部活練習が終わる頃には第一印象も定まるだろうとの事でその場は纏まった。



「ダック、はいワン・ツー・スリー!  戻りが遅いッ!!」

 フックをダッキングでかわし、すぐに左右のストレートから左フックの3連打を繰り返すコンビネーションブローの基本練習。
その最中、杉山 都亀や桜 順子、葉月 越花ら三年生を中心に、孝子は逐一怒声を浴びせていた。
本番の試合さながらに飛んでくるフックが当たろうものなら、すかさず逆のミットで頬を張られてしまう。

新任の女性監督は、植木以上のスパルタ主義だった。

「右のガードもっと高く、アゴ固めてッ!」

孝子の怒声。次いで左ショートフックが飛んできて、ミット打ちで向かい合っていたアンナのアゴに寸止めされる。
言うまでもなく、アゴ先は人体の急所の1つ。ここを強打されると脳が揺らされ、脳震盪を起こしKOされてしまう可能性が高い。
故に利き腕はしっかりアゴをガードするようフォームの徹底は不可欠。
攻撃に際しては必殺の大砲となるが、戻りが遅ければそれだけ急所を晒してしまうのだ。

孝子のコーチングは理論的で、駄目な所は理由を添えて注意し、良い所はもっと伸ばすよう誉める。いわゆる『飴と鞭』がきっちり使い分けられていた。
教え方も丁寧で、初日の練習を終えた時点で全部員が納得した。納得せざるを得なかった。

植木の後任として全く問題ない

と……



「お疲れ様でしたぁッ!」

 クールダウンのロードワークと部室内清掃を終え、越花の号令に合わせて全員が礼を述べる。その相手は勿論、新監督となる孝子に対して。

「お疲れ様。みんな気をつけて帰ってね」

部活中の鬼コーチぶりとは打って変わった、まるで菩薩を彷彿とさせるかのような笑顔で孝子は皆を労い、その言葉を締めとした。





「植木先生」

部員たちが全員引き払い、未だ熱気の籠もる空虚な部室で、孝子は植木に近付き見上げるような姿勢で呼び掛ける。

「ん? な、なんだ、新名さん」

間近で覗き込んでくる孝子に、植木はつい一歩後ずさりながら答える。

「これからお暇ですか? よければ軽く飲みに……」

そういって、綺麗な指を操ってグラスに口付けのジェスチャーをしてみせた。



 PM9:30。業務を終えた植木と孝子は、駅から割と近い居酒屋でグラスを鳴らした。

「それじゃ、光陵女子ボクシング部の新監督就任と、“久しぶりの再会”を祝って……乾杯」

チンと小さく音を立て、2人はビールを喉に流していく。久方振りの冷えたビールは、しかし美味しいと植木は思えなかった。
向かい合う孝子の表情と違い、植木のそれはどこか曇っていたからだ。

「あら、植木さん。随分と暗い表情ですね? せっかく久しぶりに会ったというのに。もしかして、“あの事”をまだ気にしてるんですか……?」

植木との再会を本当に喜んでいるのか、それとも酒の力によるものなのか、孝子の舌が滑らかになる。
対して植木の曇った表情、それはまさに孝子の呟いた“あの事”と深く関係していた。彼にとって、それは忘れたくとも叶わない暗部。
今からもう10年は昔の話、植木がまだ現役のプロボクサーとして駆け出しといって良い頃の事である。



「おい四五郎、ちょっとこっちに来い」

 全身を真っ黒なサウナスーツで覆い姿見の前でフォームチェックをしていた植木は、フードを取って汗だくのまま山之井会長の元へ向かった。

「なんスか?」

俯き加減に近付き、会長の方へ鋭い眼光を向ける。無愛想で若々しく野性的で、例えるなら飢えた虎といった所か。

「おう、悪ぃな練習中。お客がどうしてもお前さんと手合せさせろって聞かなくてよ」

植木の眼光をサラリと受け流し、ほとほと困り果てたといった表情で山之井会長は呟いた。客? と思考を巡らす植木。確か今日来ていた客というと……

「初めまして植木さん。私、大杉 孝子(おおすぎ たかこ)といいます。いきなりでなんですけど、私とスパーリングをして下さい」

思考を切られた形で、植木は声の方を見る。そこには、白のTシャツの上に黒のタンクトップを合わせ、シャツと同じ白のトランクス、黒に赤いメーカーロゴが入ったリングシューズ姿の少女がいた。
肩に掛かるかといった長さの黒い髪、目鼻立ちの整ったその容貌は、およそボクシングとは縁のなさそうな雰囲気を感じさせる。
しかし手に巻かれた新品のバンデージを見れば、スパーリングを挑んできたのが幻聴でなかったと理解出来た。

「女がボクシングかい? やめとけよ、せっかくの顔が台無しになるぜ。せいぜいダイエット程度にサンドバッグ叩くぐらいの方がいいって」

鋭い眼光はそのままに、植木は孝子へ真面目に告げる。引退後と違い、この頃はまだ女性がボクシングをする事に理解を示していなかった植木。
彼が女子ボクシングを認めるのはまだ数年先、新田 裕希子(にった ゆきこ)と出会ってからである。

「はいそうですか、って諦めると思う? メディアの人たちも待ってるんだし、いいから早く準備してよ」

若干不機嫌そうな顔を作り、植木に早くリングに上がる準備をしろと言い放つ孝子。

何をもたもたしてるのよ

そう言いたげな顔であった。

孝子のどこか高慢な態度に、内心腹立ちながらも植木はどうするんスか? と会長の方へ助け舟を求める。断ってくれれば助かる、といった期待を込めて送った視線だったが……その期待は会長が首を縦に振った瞬間、綺麗さっぱり霧散してしまった。



 仕方なくグローブとヘッドギアを着け、ジムの中央に鎮座するリングへ上がった植木。女と殴り合う趣味など持ち合わせていない彼としては、こんな茶番じみたスパーリングはさっさと終わらせようと意識を集中……出来なかった。
まるでアイドルの追っかけと言わんばかりに、複数の取材陣が彼女を囲っていたからだ。

『プロデビューもいよいよ近付いてきた訳ですが、自信の程は?』

取材者の内の1人が、ややへつらうような態度で孝子に問う。この頃は、まだ女子ボクサーというのが希少な存在。
後に新田 祐希子が自身を餌にして懸命な普及活動を続けた結果、国内での女子ボクシングはジャンルとして確立出来たといっていい。
即ち、取材陣にとって孝子はただのドキュメンタリー番組の材料程度の価値しかなかったのだ。

「神奈川県屈指のホープ、植木選手にスパーリングして頂けるなんて感激です。今すっごくドキドキしてるんですよ?」

どこか腫れ物を扱うような取材陣の態度に気付いているのか否か、はしゃぐような声色で答える孝子。そんなリング外の不似合いな光景に、植木はチッと小さく舌打ちをした。
緊張感のない様子の孝子に不快感を覚え、腫れ物を扱うような態度の取材陣に腹が立ち、そして明るく振る舞う孝子の事が哀れに思え……色々な感情が入り混じった故の舌打ちであった。

「なあ、やるならさっさとリングに上がってくれねえか?」

明らかな不機嫌面を作り、植木は孝子を催促する。やはり、こんな茶番は早く終わらせたいと改めて思った。

「あら、ごめんなさい。すぐ行きますから」

不機嫌な空気をぶつけられ言葉で謝ってはいるものの、孝子の態度は些かも悪びれていない。
肝が据わっているのか、それともよほど自分の実力に自信があるのか。



「とりあえず3分2ラウンドでやるぞ。いいか、あくまでスパーリングだからな」

 リング中央で、2人の間に入った山之井会長が念を押す。ただ、これは植木に向けられての忠告だった。試合だろうとスパーリングだろうと、いざゴングがなれば植木は問答無用で標的を粉砕にかかる。
デビュー戦で対戦相手を担架退場させ、幾つかのジムにも出稽古を断られているのが、会長の危惧する所以である。
取り決めに2人は無言で頷くと、一旦各コーナーへ退いていく。

(頼むからやり過ぎてくれるなよ、四五郎。手加減してくれ)

流れで仕方なくとはいえ、植木を上げた事を後悔する山之井会長。
そして、その後悔はより深く会長や植木の胸に刻まれる事となる……





to be continued……
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Author:チャパロット
基本的に携帯サイトで書かせて頂いているもののリメイク(?)ですが、ちょくちょく文を変更してたりします(あと拙いですが自作絵なども)。
何かある方は、ckcwb305あっとまーくsutv.zaq.ne.jpにご連絡下さい。

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