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第46話 『この出会いのもたらすものは』

 プロボクシング編、第46話です。恐らくこれが2012年最後の更新になるかと思います。今年は本当に色々ありましたが、来年もマイペースで物語を紡いでいければいいな……と思う次第です。


<拍手返信>
・ぴーこ様:ナミを残して古巣を去っていく植木。作中でも書きましたけど、やはりボクサーとしての未練があってのトレーナー転身で、ナミが残留したのは意外だったけど自分に嘘はつけなかったのでしょうね。





古巣の山之井ジムから、新たに自分のジムを新設すると宣言した吉川 宗観。それに併せて植木 四五郎も吉川ジムでプロトレーナーになると告げる。
山之井会長の後押しがあったのも驚いたが、自分のジムに来ないか? との誘いにもナミは困惑してしまう。
重大な決断を迫られた彼女が下した決断……それは、山之井ジムへの残留だった。












 季節は流れ、2012年も7月に入った。光陵女子ボクシング部は夏のI・H予選に向け、出場権を賭けて部内選考の真っ最中。
例の如く軽い階級から順に試合を行い、バンタム級までの出場選手が出揃った。

まず最軽量級のピン級、該当者が比我 秋奈がただ1人だった為そのまま決定。同階級の桜 順子がプロテストを控えているので、今年は部内選考を辞退する形となった。

次のライト・フライ級は、桃生 詩織と新人戦を余裕で優勝したサラブレッド、宇都宮 弘美とが対戦。
ポイントギリギリの僅差ながらも、詩織が逃げ切り先輩の意地を見せた。
前生徒会長であり男子ボクシング部主将としても成績を残した兄・誠と違い、物静かで目立つ事もない妹・詩織。
しかし、光陵高校や所属する山之井ボクシングジムでひたすらしごかれ、長所を伸ばし短所を矯正し、成長を続けてきた。
そして何よりも、中学時代の親友に対するライバル心が、よりストイックさを彼女に追求させたのだ。

天命館(てんみょうかん)高校女子ボクシング部、猿渡 巫女(さるわたり みこ)

一年生の時の新人戦では、ボクサーとしての純度の違い、また心構えの差から詩織は手も足も出なかった。
完敗という他はない。
だが、詩織は耐えた。
去年は葉月 雪菜に部内選考で及ばなかったものの、この日の為に再び寡黙に耐え漸く掴んだ、念願の切符といえよう。

続くフライ級はその葉月 雪菜が階級を上げ、下司 ナミの妹である下司 サラと対戦。詩織同様、サラも姉のナミに対していつか超えると豪語しているだけあってか、その練習ぶりは凄まじいの一言。
最初に部室に来て準備を整え、帰る時も最後まで残って自主トレーニングを課すという徹底したボクシング漬けであった。
他の面々と違い、まだ特定のボクシングジムに所属していないサラは、トレーナーの知念 心に組んで貰ったメニューを頼りにひたすら励み続けた。
その甲斐あって、サラはメキメキと実力を付けてきている。その上達は、さすがナミの妹だと認めない訳にはいかない。
ただ、惜しむらくは致命的なまでの実戦不足。
ナミがプロボクサーになった為、彼女と実戦形式のスパーリングを顧問の植木 四五郎が許してくれず、雪菜や詩織など特定の選手としか手合わせをしていない。
何度か他校との練習試合も経験したが、一年生の時にベスト16、二年生に至っては優勝というI・H全国常連の猛者を相手取るには、些か役者不足の感は否めなかった。
事実、雪菜の緩急ある攻めや巧みなフェイントテクニックに翻弄され、パンチを返しても堅固なブロッキングに全て阻まれ、或いはクリンチに持ち込まれて有効打を取らせて貰えない。
逆に雪菜のパンチはいいようにサラを捉え、倒れるまではいかないものの鼻血を滲ませ、2Rが終わるまでに3回のスタンディングダウンを取られてストップ。
全く手も足も出ないまま、サラは悔し涙に濡れる結果となった。

バンタム級は三年生の杉山 都亀と、一年生の石動 花子とが出場の椅子を賭け熾烈な闘いを展開。元陸上部期待の星だった俊足を活かしてのアウトボクシングに徹底する都亀と、得意のインファイトに持ち込みたい花子の、ボクシングでは良く見る構図といえよう。
去年の夏合宿に於いてアキレス腱のトラウマを克服して以降、階級に似合わないスピーディーなフットワークを手に入れた都亀。
その際大いに世話になった湘南スポーツセンターの新米トレーナー、大江戸 進(おおえど すすむ)に心酔してしまった彼女は、今でも月に何回かは足を運んで指導を受けている。
進の理論的トレーニングは都亀の基礎能力を的確に、かつ大幅にアップさせた。それはこの部内選考でも如実に現れ、何と生粋のインファイターたる花子の突撃にも当たり負けしなかったのである。
ボクシング歴こそ差がある2人だが、半年前まで中学生だった花子と今の都亀とでは、基礎能力で開きがあるのは明白。
3R6分間を闘い抜き、都亀が花子にポイント勝ちを収めた。

フェザー級は2代目主将、葉月 越花と二年生の室町 晶が去年に引き続き2度目の対戦となった。
去年は晶の豪腕ぶりに苦労しつつも、両手利きの利点を活かしたスイッチで翻弄、判定勝ちを拾った越花。
しかし、今回は誰もが予想していなかった形で決着を迎える事となった。
即ち、越花が晶をKOに切って落としたのである。しかも1R、晶の右ストレートに合わせて左フックをカウンターで合わせる、高等な技術を用いて。
ヘッドギア越しにも晶の顔がブレるのが何人かの目に映り、脱力した身体がキャンバスに崩れ落ちていく様を、その場にいた全員が目撃している。
唇の隙間からだらしなく唾液の糸を垂らし、完全に失神している晶の姿。そして、それを成した越花の対照的に無傷な姿を見て、皆少なからず戦慄を覚えた事だろう。
ともかく、決定打となったカウンターの左フックは狂気の沙汰という他ない。
パワー、スピード、スタミナ、テクニック、その全てが着実かつ格段に上がっていた。ボクシングテクニックに至っては、獅堂ボクシングジムに通うようになり会長の獅堂 孝次郎や娘のきららからの指導もあって、格段の進歩を遂げている。
晶も相応に成長していたのだが、越花のそれが遥かに上回ったというべきだろう。
先程のカウンターの時も、晶の放った右腕の外側へサイドステップ……いや、“左前へ踏み出して”かわしざま、身体ごとぶつけるような左フックをテンプルへ叩きつけていた。
相手のパンチに向かうなど、一歩間違えれば自分がKOされてもおかしくない愚行。
かわす自信があったのか、それとも被弾も覚悟の上だったのか。
或いは偶然の産物だったのかも知れない。ともあれ、越花はとんでもない賭けに勝ち、晶をKOせしめた事実だけが今の真実だった。

最後にライト級だが、今年は該当選手が城之内 アンナただ1人だった為、そのまま代表となっている。
去年があと一歩という所で日本一を取り逃したアンナは、これが高校生活最後のチャンスとあって気合いの入り方が違った。
まだ伸びる身長に比例して減量も大変になるのも、彼女は寧ろ望む所と豪語している。



 女子ボクシング部が目標に向け活気づいていた頃、一足早くプロの世界に身を置いている下司 ナミはというと……

「ふぅッ、ふぅッ、ふぅッ」

マスクで鼻と口を塞ぎ、未だ取り潰される気配のない旧校舎の階段をただ1人、全速力で走っていた。
ボクサー・下司 ナミの基盤を構築たらしめてくれたトレーナー・吉川 宗観が独立の為に古巣の山之井ボクシングジムを去る際、伝授されたトレーニング法である。
マスクをする事によって呼吸の際の酸素量を少なくし、肺や心臓に負荷をかける事で心肺機能を高めるのだという。
他にも階段ダッシュは普通の道を走るより足腰に負担が掛かる為、筋力アップに効果があるとの事だった。

「植木先輩や自分も、現役の頃は同じトレーニングをしていたよ。ただし、最初からあまり飛ばし過ぎないように」

山之井ジムを去る彼の最後の教えを忠実にこなしていく。ただ、それは明らかにオーバーワークに過ぎた。

理由は2つ。

1つは2戦目が近付いている事。
そしてもう1つ、こちらはより深刻といえるだろう。

新たにチーフトレーナーとして就いた女性、池田との練習方針の相違だった。宗観や山之井会長が課すものと比べ、練習内容が物足りなく感じるのである。
それはナミだけでなく、馬剃 佐羽(ばそり さわ)や秋奈、詩織らも同様のようであるらしい。
皆、少なからず宗観の指導法を受けてきた者たち。実は宗観の課題は厳しいもので、だがそれを続けてきた結果感覚が麻痺をしているとしても、仕方のない事といえよう。
ただ、それを抜きにしても池田の練習内容はプロ、或いはプロを目指す彼女らにとって満足いくものとはいえなかったのだ。

「大内山先輩が就いてくれたら最高なんだけどなぁ」

つい詮無き要望を口ずさんでしまう。池田も彼女なりに頑張っているのだろうが、練習内容にも満足出来ない上にウマが合わないとあって、案の定長続きしないような気がするナミであった。



 プロ第2戦目も刻一刻と近付いてきたプレッシャー、また池田の課す練習内容の不満も重なって、ナミのオーバーワークはその度合いを増してきていた。
以前なら宗観や植木が状態を見て注意なりフォローなりを入れてくれたのだが、今はそれもない。山之井会長は他の選手を見るのに手一杯らしく、今回は管理の殆どを池田に一任している。
そして肝心要の池田といえば、担当選手の抱える精神的不安には気付いていなかった。

「はぁ、はぁ、はぁ」

試合が近付くのと比例してオーバーワークを繰り返す悪循環。マスクを付けてのロードワークや階段ダッシュ、自主トレで蓄積した疲労は、そんな少女へ突如として跳ね返ってきた。

ある日の早朝、変わらずマスクをしてロードワークに出た時の事。いつもの公園に到着した瞬間、急に目の前が暗くなり全身の力が抜けたナミは、その場で崩れ落ちた。





「……ん…ぅ……?」

暗闇に染み込んでくる幾筋もの光、鼓膜を叩く車の音。それらがナミの霞んでいた意識をはっきりさせていく。
どうやら意識が飛んでいたらしい。

「あ、気がついたのね?」

少し遠い所から、喧騒に混じって透き通った声が聞こえる。そちらに向こうと首をずらしたナミは、そこでようやく自分がベンチで寝ている事に気付いた。

「あ、あのっ」

ナミが慌てて起き上がろうとするのを、光を背にした人物が制止する。逆光で顔が良く見えないが、シルエットと声質からその人が女性と分かった。

「まったく、結構な無茶をする娘みたいね。これをしたままどれだけの距離を走ってきたの?」

女性が横になっているナミの隣へ座る。その手には、倒れる前まで着けていたナミのマスクが。

「か、返して!」

カァァッと頬を赤くしたナミが語気を荒げて手を伸ばす。女性の手の中にあったそれを取り返し、まだ気怠さの残る身体を起こそうとするナミ。
だが、やはり女性に押さえ込まれてしまった。

「んもぅ! まだ駄目。頭クラクラしてるでしょ?」

まだ酸欠から回復してない筈なんだからと言葉を続け、女性は優しい視線を落としてくる。
爽やかに整えられたショートカットに柔らかい物腰。
白で統一されたジャージ姿が涼やかで、いかにも大人の女性だと感じさせる雰囲気を纏っていた。

「ねぇ、あなたなにかスポーツやってる? 寝かせた時、筋肉の付き方がそれらしい感じだったから」

ナミはどうやらポーッと呆けた視線を向けていたらしい。興味を持ったのか、相手の女性が目を合わせて訊ねてくる。

「え? え~っと……ボクシングを」

ジッと見つめる女性の瞳に自分の姿が映っているのが見え、妙な感覚を味わいながら質問に答えた。

「あら! あなたボクシングしてるの?」

ナミがボクシングをしていると聞いて、目を輝かせ女性はさらに顔を近付けてくる。一応プロボクサーだと付け加えると、目の光はさらに輝きを増したように見えた。

「すごい巡り合わせね。私も昔はプロボクサーだったのよ?」

「そうなんですか!?」

女性が呟いたまさかの一言に、今度はナミが目を輝かせる。身近に女子プロボクサーがいないナミとしては、この女性に興味と親近感が湧いたらしい。
色々と質問してみたいと思ったのだが、そろそろ戻らないと学校への時間が危うくなる。

「あ、そろそろ戻らなきゃ学校が……お姉さん、また明日ここで会えませんか? もっとお話聞かせて欲しいし」

強引に明日会う約束を取り付け、ナミは介抱ありがとうと家路を走っていった。元気に走り去っていくナミの姿を見送りながら、女性は踵を返す。
奇妙な出会いを果たした2人は、その後予想外のスピードで再会する事となった。



無事に遅刻する事なく登校したナミ。その姿を見かけるや否や、植木が声を掛けてきた。

「おう、ナミ坊。今日ジム行く前にちょっとだけ部室に寄ってくれ。伝えなきゃならん事があるから」

ジムに入るのが18:00頃となっていたナミとしては、断る理由など見当たらない。

「う、うん。分かった」

簡素に頷くと、ナミはそっぽを向き足早に植木の下を立ち去っていく。

(うーん。どうも例の話以降顔を合わせようとしねえな、あいつ)

事情はどうあれ、自分と後輩は彼女の下を去る裏切り者に違いはない。この対応も仕方ないと、ナミの真意を勘違いしたまま校長室へ向かうのだった。

そして放課後。植木は皆を集めミーティングの前に1人の女性を連れてきた。

「「あッ!」」

顔を合わせた途端、同時に上がる声2つ。ナミと女性のものだった。

「紹介する。これから監督として俺の跡を継ぐ事になった、新名 孝子(しんみょう たかこ)さんだ。よろしくしてやってくれ」





to be continued……
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Author:チャパロット
基本的に携帯サイトで書かせて頂いているもののリメイク(?)ですが、ちょくちょく文を変更してたりします(あと拙いですが自作絵なども)。
何かある方は、ckcwb305あっとまーくsutv.zaq.ne.jpにご連絡下さい。

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