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第45話 『突き付けられた選択』

 プロボクシング編、第45話です。


<拍手返信>
・ぴーこ様:リベンジも含めた弘美の今後の活躍も書ければいいな、とは思ってます。そして2戦目の話が浮上した所に今回の問題……ホントホ〇ル並にゴタゴタの絶えない作品ですw
・Mamoru様:感想ありがとうございます。ファンと言って下さる2人の出番がもっと増やせればいいとは思うのですけどね。
・ヨシコ様:前にリリィという同じタイプのお嬢が出てるだけに、今回は配色に変化を加えてみました。あと、合同誌の感想もありがとうございます。
今回は物語性をあまり考えず、ゴリゴリ殴り合う話を書きたかったのであんな内容となりました。



新入部員、宇都宮 弘美の挑発から始まったスパーリングは、天狗の鼻を柊に折られる形で幕を閉じた。
一方、兄貴分であった筈の植木にそわそわと落ち着かない奇妙な感情が芽生え始めてきているのをナミは自覚。
気恥ずかしさからジムへの同行も断り、その練習後。彼女はチーフトレーナーの吉川 宗観から突然のコーチ降板を告げられるのであった。














「………え? なんで、なんですか」


 山之井ジムの会長室で、下司 ナミの絶望感漂う声が静かに響く。プロ第2戦の話が持ち上がってきた彼女へ、入会した時から指導してきたトレーナー、吉川 宗観が告げた一言。

君のトレーナーを降板する

この一言が、ナミの声を絶望感たらしめた。

ボクシングの道を示してくれたのは植木 四五郎だが、ボクサーとしてのナミを構築してくれたのは、この宗観である。
いわば、ナミにとって宗観はボクサーとして最も信頼の置けるパートナーといって差し支えない。
故に、彼のトレーナー降板は半身をもがれるようなものだった。

「なんで」と再び消え入るようなか細い声で呟くナミ。

「ここから独立して、新たにジムを持つ事になった」

宗観の手短な声が、重く深く全身に染み込んでいく。ある意味、全く想定外な一言といえた。
宗観に独立の意思があったなど、長年教わってきた身を以てしても気付かなかったのだから。
彼の事を思えば、恐らくこれは喜ばしい話なのだろう。しかし、この時のナミには「会長っさんやわたしを見捨てるのか!?」と勝手な感情の方が先に沸いた。
そして、さらに彼女へ追い打ちのような一言が突き刺さる。

「それでな、ナミ坊。俺もこいつにプロのトレーナーにならないか? って誘いを受けたんだ。で、あれこれ考えた結果、話に乗る事にした」

ナミの表情が強張っていく。宗観の話だけでも意表を突かれたというのに、ここでまさか植木までもが山之井ジムの離脱を宣言するとは思わなかったからだ。

「四五兄ィまで!? なんッ…でも、だったら教師はどうするの? ボクシング部の顧問は?」

矢継ぎ早に口を通る言葉は、およそまともな質問になっていない。それだけ、今のナミは混乱していたといえる。
自分にとって、とても大事な時間を共有した者たちの突然の離脱。その喪失感を考えれば、とても平静でなどいられなかった。

「教師は今年度……ナミ坊らの卒業と合わせて辞めるつもりだ。プロボクサーを引退してもう1つの念願だった教師にもなれたけど、やっぱり俺はボクシングを忘れられねえらしい」

最初、宗観から打診があった時はお世辞にも乗り気とはいえなかった。が、いざ思考を巡らしてみれば、ものの数日も経たずそれはとんでもない魅力的な誘いであるように思えてきた。
試合中の不幸な事故により、早くして引退を余儀なくされた彼である。ゆくゆくは世界を相手どって闘えると期待されていた選手だけに、植木の早期引退は業界及びファンを落胆させた。

だが、何よりも悲嘆に暮れ空虚を味わったのは、他の誰でもない彼自身。納得のいく結末を迎えられなかった植木に、未練が残っていないとは思えない。

故に、魅力的な提案と変わっていったのだろう。

「俺はプロのトレーナーになる。そして俺は……俺はお前を世界の頂点に連れていきたい!」

「…………え?」

決意を込めた植木の言葉に、思わず目をパチクリさせるナミ。植木の放った言葉……それはつまり、ナミにジムの移籍を要請するものだった。

「えっ、と。それって」

わたしにココから移れって事? という言葉が続かない。会長を前にしてのあからさまな引き抜きに、ナミは思わずそちらへ視線を送る。
どこか助け舟を出して欲しそうな、そんな仕草だった。その意図を汲んでか、両腕を組んだまま座して沈黙の人であった山之井 敦史がここでようやく口を開く。

「まず、ナミ坊にはちゃんと話しておかないとな。」

組んでいた腕を解き、間を作って今度は両肘を机に突いてみせる。

「宗観に独立を勧めたのは俺だ。いちトレーナーとして終わるには勿体ねえと思ってたからな。あと、四五郎にトレーナー転向を勧めたのも俺だ。お前さんがリングで輝いてる時の話をしてて、喜びの中に嫉妬が混じってるのは何となく気付いてたからな」

「おい、会長っさん!」

会長の言葉を遮るように植木が机を軽く叩く。ただ図星を突かれたのだろう、その表情は苦虫を噛んだようなものであった。

「正直、俺もトシだ。あと10年、現役で会長やってられるか? はっきり言って自信はねえ。半次(はんじ)の野郎より早く退く気はねえがな」

植木の様子にクスと笑い、会長は続けて言葉を紡ぐ。ちなみに半次とは、現役のプロボクサーだった頃から鎬を削ってきた沼田ボクシングジム会長、田沼 半次の事である。
現在遠縁の姪となる弥栄 千恵子や、城之内 アンナに中山 梨沙らの所属するジムでもあった。

「それに……いや、コイツは今はいいや。ナミ坊、四五郎や宗観が立ち上げる新しい環境に身を置くか、それとも変わらずウチに残るか、もしくは全く別の所へ行くか。お前さんの自由だ、自身で決めてくれ」

ナミは言葉が出なかった。会長の真意が見えないからだ。宗観の独立を促したのも、植木にプロのトレーナーへの転向を勧めたのも、全て彼だという。
引退している植木はともかくとしても、宗観の離脱は間違いなくジムにとっての痛手である。

今まで親身に指導してくれた、宗観のいなくなる山之井ジムへの残留か?
もしくは彼の立ち上げる新しいジムへの移籍か?

これは究極の選択といえた。



 ナミが俯き気味に沈黙したまま、どれくらいの時が経っただろう。まだ指導する練習生がいるとの理由で、池田は退席し持ち場へ帰った。
沈黙を続けるナミの姿に、無理もないと植木が動く。

「今後の進退を決める重要な決断だ。さすがにすぐって訳にはいかねえよな。まあもうちょっと後でも……」
「待って!」

返答を後日に引き伸ばしても構わない。そう言おうとした彼の言葉を、ナミは遮った。その表情に、沈黙前の動揺はない。
彼女が、この選択に決断を下した事を全員が見て取った。

「ふぅーー……分かった、聞こう」

一度大きく長い溜息を吐き、植木はナミの方を向き直す。あとの2人もそれに倣い、教え子の導き出した答えを待つ。

「あんまり悩むのって好きじゃないしガラでもないから。もう決めた」

3人の男たちの視線を一身に浴び、ナミは背筋に汗が流れるのを感じた。許されるなら答えたくない。会長と宗観、どちらか一方とは確実に敵となるから。
それぞれの感情はどうあれ、世界チャンピオンを目指す以上互いのジムの選手同士がぶつかり合うのは、自然の成り行きというものである。

言いたくない。しかし、現実は残酷だ。現実は、ナミに答えを強要するのである。

「わたし……わたし、ここに残る! 吉川コーチや四五兄ィと一緒にはいけない!!」

山之井ジムに残る

それがナミの下した決断であった。

「なッ……」

この答えに思わず狼狽えたのは、他の誰でもない山之井 敦史。彼は、てっきりナミが宗観らと行くものと思っていたからだ。

「わたしはココに残る。吉川コーチや四五兄ィとは一緒にいけないわ」

会長の驚愕を尻目に、ナミはもう一度自分の意志を告げる。彼らと袂を分かつという、それは固い決意の現れだった。
この言葉に、どこか安堵したような微笑みを浮かべ植木と宗観は互いに視線を交わす。
一緒に来ないのは残念だが、会長は自分たちにとっても恩師。自分たちが去る今、せめてナミが残る選択をしてくれた事に、幾らか心痛が慰められたと思ったのだろう。



「そうか。これから君とは敵味方に別れる事になるかな」


 目を伏せ、静かに宗観が呟く。分かっていても、改めて言葉に出されるとそれは重い。どんな選手が彼の元に集まるかは分からないが、仮にもフライ級やライト・フライ級の女子が来たならその選手と当たる可能性も充分考えられる。
それ以外でも、佐羽や秋奈らの階級で被れば、やはり敵味方。彼女らも宗観のコーチングを受けてきただけに、この事実は無視出来ない筈だ。

「そうなりますね。でも、わたし負けるつもりはないですから」

後ろ髪を引かれるような感情はまだ消し去れる筈もないが、それでもナミは宗観の呟きに気丈な態度で返した。
もし宗観の育てたボクサーと闘う事になっても、負けるつもりなどない……ナミの、これが宗観との決別の意思表示だった。
とにかくも、宗観と植木は山之井ボクシングジムから独立し吉川ボクシングジムを新しく立ち上げ、ナミは古巣の山之井ジムへ残留する道を選んだ。
後日、ナミへの指導は女性トレーナーの池田が引き継ぎ、会長はフォローに回る旨が通知されナミを愕然とさせた。
ウマが合わないという一抹の不安は、ナミの心中をより掻き回した。恐らく会長も分かっての苦肉の策だろう。
これからのプロ生活を共にするには厳しい相手だが、嫌だからとわがままも言っていられない。

ともかく、ナミとしては一刻も早く試合がしたかった。宗観と植木の抜けた空虚感を紛らわせる為に……



 宗観の独立という身近の問題が一応の決着を見、季節は5月。神奈川県恒例の、高校ボクシング新人戦が始まった。
今年はライト・フライ級の宇都宮 弘美とバンタム級の石動 花子、2名が参加する。中学時代から経験があり、どちらもU-15全国大会優勝と実力は折り紙つき。
結果としては、2人とも全く危なげなく優勝を飾った。

「ふん、歯応えのない大会でしたわ」

「先輩方の指導のおかげで優勝出来ました!」

それぞれ極端な優勝の感想を述べる後輩たち。この2人を掛け合わせて割ればちょうどいい性格になるのに、と晶などは肩を竦めたものだが、心辺りが性格面を突っ込むと膨れ顔で黙ってしまった。
このやり取りに一同は笑い合う。しかし、そんな中で植木だけは曇った笑顔だった。

今年度いっぱいで教師を辞める事は、もう既に伝えてある。当然女子ボクシング部の顧問も同様。となれば、後任を頼まなければならない。
しかし、これが難航した。現在の男子ボクシング部の顧問に兼任をお願いしようかとも考えたが、さすがに男子と違って女子の機微を理解しての指導となると負担が大きいらしく断られた。
他にはボクシングの知識もない教師ばかりで、皆尻込みしてしまう始末。

はぁ、と思わず溜息が漏れる。それを偶然ナミに目撃されてしまった。

「やっぱり受けてくれる先生、いないの?」

さり気なく近付き、顔を覗き込んでくるナミ。

「ん? まあな。でも、まだ焦る必要はねえって」

本当は焦っていた。本当は一刻も早く後任に引き継ぎをして、自分はトレーナーの勉強に専念したかった。
だが、そんな真意はおくびにも出さず、心配するなとナミの頭をくしゃくしゃに撫で回す。むきー! と暴れるナミに苦笑しつつも、やはり気付かれない程度の溜息を吐いた。



 結局後任探しに難航したまま、季節は夏へ差し掛かろうとしている。そんな折、植木とナミの人生を転機させる、1人の人物が現れようとしていた。





to be continued……
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Author:チャパロット
基本的に携帯サイトで書かせて頂いているもののリメイク(?)ですが、ちょくちょく文を変更してたりします(あと拙いですが自作絵なども)。
何かある方は、ckcwb305あっとまーくsutv.zaq.ne.jpにご連絡下さい。

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