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第43話 『宇都宮 弘美の挑戦』

 プロボクシング編、第43話です。


<拍手返信>
・ぴーこ様:激しい試合をした2人が仲良く談笑する……こういうシチュエーション、私も大好きです。真剣に殴り合いを繰り広げた後、恨みつらみもなく互いに認め合えるのがスポーツとしての理想だと思うのですよ。
そしてまた何とも濃い新入部員の面々ですが、作者的にはやっと出せた! といった心境だったりw





プロデビュー戦を終えた2人、ナミと梨佳子。数年の時を経て、親友の仲を取り戻した彼女たちに、一時の安らぎがもたらされる。
一方で、光陵女子ボクシング部には新たな部員たちが集い始めていた。














 下司 ナミは、プロデビュー戦を終えてから古巣たる光陵高校の女子ボクシング部へ顔を出す機会が増えた。
幼馴染みである上原 梨佳子との試合内容は、お世辞にも褒められたものではない。その証拠に、山之井会長やチーフトレーナーの吉川 宗観らを交えての反省会は、実に長時間に渡った。

プロボクサーとなった代わりに何かを置き忘れてきたのではなかろうか? としきりに思うようになったナミは、初心に帰る意味も兼ねて再び部活動へ参加するようになったのである。

「こんにちは~」

この日は運悪く旧校舎・裏庭の掃き掃除の番に当たっていた為、ナミが部室のドアを開けたのは皆が既にロードワークを終えた後。
今まさに本格的な練習が始まろうという時であった。

「本日の練習内容は只今葉月主将の言われた通りである」

トレーナーの新入部員、伊藤 紀子(いとう のりこ)がずいと1歩前へ。そして、まるで応援団員の如く右拳を突き出しつつ声を張り上げた。

「では者共……練兵(れんぺい)始めえッ!」

刹那、



スパァァァンッ!



柊の光速のようなツッコミが紀子の頭を直撃した。

「な、何事!?」

「なーにが練兵だ。普通に言え普通に」

響く鈍痛に両手で頭を抑える紀子へ、柊が呆れ気味に言葉をぶつける。柊の言葉に、越花を含め何人かが同意を示すような素振り。
どうやら今回が初めて、という訳でもなさそうだった。



「はぁ……なんというか、今年の新入生は特にキャラが濃いわね」

 各自練習に入ってから、ベンチへ腰掛けたナミは静かに呟いた。未経験者の抹権(まつけん)ひかるや加納 智子(かのう ともこ)らは基礎トレーニングに終始。
一方で、ナミや心と同じくU-15の全国大会に出場経験のある宇都宮 弘美(うつのみや ひろみ)らは、思いきりの良いパンチの連打でサンドバッグを揺らしていた。
スムーズな体重移動(シフトウェイト)による重く小気味良いパンチ音は、なるほど期待の新人というべきか。

「そういえば、そろそろ新人戦よね。あの娘らも出るの?」

小休止に入り、中森 陽子や紀子らと共にスポーツタオルを部員たちに配っていたナミが、タオルを渡しつつ越花へ声を掛けた。

「あ! ありがとぉナミちゃん。え~っとね」

タオルを受け取るや、顔に付着した汗を拭き越花はベンチに座る。

「今年は弘美ちゃんとハナちゃんの2人が出るんだよ」

越花の隣にすかさず入り込み、越花と瓜二つの従姉妹……『ミニチュア越花』こと葉月 雪菜が、今年の新人戦の出場者を伝えてきた。

「ハナちゃん?」

聞き覚えのない名前に、小首を傾げながら思わずオウム返しに聞き返す。

「おい花子(はなこ)、水筒取ってくれよ」

ナミのオウム返しに雪菜が答えるより早く、柊の声が鼓膜を叩いた。口調自体は相変わらずのぶっきらぼうながら、どことなくからかっているようなニュアンスを感じる。

「高頭先輩ッ、下の名前で呼ぶのはやめて下さい!」

柊の言葉に、1人の少女が食いつく。U-15全国経験者のもう片方、肩に掛かる程度のミディアムヘアーをふわふわ揺らす石動(いするぎ)であった。

「ンだよ、いーじゃねーか。お前は花子なんだからさ」

口を尖らせる仕草をしつつ、やはりからかい口調の柊。早くも玩具にされているようだ。

「なに、あれ?」

「ハナちゃんね、下の名前あんまり好きじゃないんだって。だから石動って呼んでほしいみたい」

可愛いのにね、と付け足しながら雪菜がほっこりした表情で柊と花子を見る。

「なるほどね。ともかく、ご愁傷さま」

柊にとって体の良いからかい道具となった花子へ、ナミは静かに手を合わせるのであった。



 練習が再開され、ナミは特に弘美と花子の動きを目で追うようになった。さすが、他の一年生の中では飛び抜けて……いや、下手をすれば二年生の桃生 詩織や妹の下司 サラをも上回っているかも知れない。
それ程にこの2人は動きにキレがあるのだ。

弘美のパンチはスピーディーかつ目標へ的確に打ち込まれているし、花子のパンチはその1発1発が重く響く。
今年のI・H出場は難しいかも知れないものの、翌年には食い込んでくるのでは? と思わせるポテンシャルをナミは感じた。
そんな中、シングルボールを叩いていたはずの弘美がパンチンググローブをしたままの姿でナミの前へ。

「なにか用? まだブザー鳴ってないわよ」

ベンチに腰掛け両腕を組んだ恰好のナミが冷ややかに言い放つ。弘美の纏う挑発的な空気が、自然とそうさせた。

「下司“前”主将、プロで初勝利も果たしたという貴女のその実力……わたくしに見せて頂けませんこと?」

貴女に憧れてますの、と心にもなさそうな言い回しで座るナミを見下ろす弘美。

「なにそれ。スパーの相手でもしてほしいわけ?」

後輩の挑発的な態度が癇に障ったのか、僅かに語気を荒げる。ただならぬ雰囲気が立ち込めたのを察知したのか、部室内が徐々にざわめき始めた。

「やめとけ宇都宮。オレに断られたからって、今度は下司か? 相手にもならねーよ」

静かなステッピングでナミと弘美の間に割って入るなり、柊が呆れと怒り半々といった風で諭す。
どうやら、ナミがいない間に柊にも同様の挑発を仕掛けたらしい。その時は柊にやる気がなかったのと顧問たる植木が仲裁に入った事によって幕を下ろしたのだが……

「わたくしから逃げたような方は黙ってて下さいません? 今は下司先輩に話してますの」

弘美にとって、柊の答えは逃げと捉えたようだった。そして、そんな弘美の不遜な態度がナミの癇に障る結果を呼ぶ。

「先輩に対してその口の聞き方はなに? いいわ、今回だけ……」
「気が変わった、胸貸してやるよ。宇都宮、準備してリング上がれ」

眉を吊り上げながらベンチを立ち上がろうとしたナミを遮るように、柊が淡々と横槍を入れる。ただ、心なしか全身から蒼白い炎が上がっているような、そんな空気の淀みを周囲は感じた。



「ちょっと柊! アンタ来週からまた選手団と合流するんでしょ? もしこんなのでなにかあったら……」

陽子に準備を手伝って貰う柊へ、ナミが食い下がろうと近付いた。ロンドンオリンピック・女子軽量級での日本代表が決まっている柊は、来週から選手団と合流してインタビューやら撮影やら練習やらと、多忙を極める事となる。
オリンピック初の女子ボクシング競技、その中でも唯一の女子高生ボクサーとして柊は破格の注目を受けているといっていい。
もし万一にも怪我などしてしまっては、大事な時期に差し支えてしまう……そういった気遣いの部分も食い下がる理由の1つとしてあった。
尤も、1番の理由は先輩に対する弘美の態度が許容範囲を軽く突き抜けていたからなのだが……

「いやぁ、あいつ人にケンカ売る才能あるな。まあ心配しなくても2分もかからねーッて」

10ozの試合用グローブのマジックテープを留めて貰いながら、柊はナミの心配事をサラリと一蹴する。
柊もその可愛らしい外見に似合わず気性が荒い所があるのは承知しているので、ナミとしてもこれ以上引き止める理由はなかった。

「分かった。ただし、念の為レフェリーはわたしがするから」



 弘美の挑発から端を発した今回の実戦形式のスパーリング。青コーナーの方が好きだから、との個人的理由により柊は青コーナーへ。対する弘美は赤コーナーへ入った。
柊のセコンドには心が、弘美のセコンドには紀子がそれぞれ付き、レフェリーをナミが行う。

「全くしようのない奴よ。此度の件、非を受けるべきはそなただと某はっきりと申しておく。しかれど孤立させるもまた哀れ故、不肖ながら某が供を致そう」

赤コーナーで不遜な笑みを浮かべヘッドギア越しに柊を見据える弘美に、紀子は溜息混じりの苦言を呈する。
が、当の弘美は「なに言ってるのか分かりませんわよ」と軽く聞き流していた。

「わたくしの実力、じっくり堪能させて差し上げますわ。高頭先輩」



ビーーーーッ!



 顧問不在の中、最上級生と最下級生との異例なスパーリングが幕を開けた。

弘美はごく普通に右構えのオーソドックススタイル。
対して、柊は左構えのサウスポースタイル。

去年のI・H終了後に拳を交えて以来、柊の闘いぶりを見ていなかったナミとしては、レフェリーという立場上公平を期しながらもその一挙手一投足に注目してしまう。

(前はずいぶん差をつけられた感じだったけど、今ならどう?)

アマチュア最高峰のオリンピック、その代表の座を自らの実力で奪ってみせた柊。その天才ぶりには改めて戦慄を覚えたものだったが、ナミとて山之井ジムでみっちりとトレーニングを積み重ねプロでも初勝利を飾っている。
以前からの差は縮まりこそすれ、開くなどとは考えられない。

いや、そう考えたくないだけなのかも知れない……

「花…石動さん、宇都宮さんって強いの?」

イタリアンハーフのアンナが、真面目な表情で花子へ声を掛ける。その右手には順子がバイト先から貰ってきた紹興酒の甕(かめ)の口が掴まれ、腕で上げ下げしていた。
順子が持ってきて以来、アンナはこの甕をとてもお気に入りになってしまったらしい。

「え…は、はい。強いですよ、あいつ。性格はアレですけど」

アンナの行動に若干引きながらも、花子は踏みとどまり解説を始めた。

「弘美の家って、いわゆるボクシング一家なんですよ。お父さんが元世界ランカーで、長男さんも世界ランカー。次男さんだって国内ランカーだし、とにかくそういった家庭環境だから強くなるのも当然! っていうか」

曰く、家族ぐるみでボクシング漬けという特殊な環境下で揉まれた弘美が弱い訳がない……との言だった。

「ボクシング一家かぁ。ちょっと想像つかないな」

肩にスポーツタオルを掛けた恰好の杉山 都亀が、端正な顔に真剣さを貼り付けリングへ視線を送る。
アキレス腱のトラウマを克服してより、メキメキと頭角を現してきた彼女。男装の麗人を想わせる容姿はそのままに、近頃女らしさをも内包するようになってきていた。

「「あ、動きそう」」

同じくリング内を注視していた下司 サラと桃生 詩織の2人が声を重ねたのを機に、皆が一斉に視線を集める。
弘美の左ジャブを冷静かつ最小限の動きだけでかわしていた柊が一旦距離を取り、逃がすまいと弘美が追撃。
柊はとにかく手を出さず、弘美の動きを見極めんとしているかのよう。

「ふふ、反撃の余裕もなさそうですわね、高頭先輩」

変わって弘美は、柊が打ち返してこない事に対してその余裕がないと判断。
執拗に下がる柊へひたすら食いついた。

(オリンピック代表だなんて言っても、所詮わたくしの相手ではありませんわ)

宇都宮 弘美、これまで公式戦はおろかスパーリングですら苦戦などただの1度も喫した事などない。
彼女がリングに立つ事と、常勝不敗とはイコールなのだ。

よって、柊が逃げ惑うのもいわば必然というもの!

そして、変わらず後退を続ける柊へ、弘美がスピードを上げ右ストレートのモーションに入る。
まさにサラと詩織が声を同じくした場面。2人の声で全員が注目した、その瞬間……



ドォッ!



たった今まで攻め続けていた筈の弘美の身体が、派手な音を立てキャンバスへと叩きつけられていた。

「ダ…ダウン……」

刹那、あまりにも刹那の攻守逆転劇に、呆気に取られつつもナミは2人の間へ割り込みダウンを宣告。
柊がニュートラルコーナーへ下がったのを確認すると、ナミは脱力したまま動かない弘美の方へ近づく。
呆けた顔に薄目を開け、口は頼りなく開かれたまま。
鼻を打たれたのだろう、一筋の血が重力に従って頬をなぞっていく。
伸びているのは一目瞭然だった。

「はいストップ。柊の勝ちよ」

立てていた予想以上の呆気ない幕切れに、ナミは軽く首を振り決着を告げるのであった。





to be continued……
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Author:チャパロット
基本的に携帯サイトで書かせて頂いているもののリメイク(?)ですが、ちょくちょく文を変更してたりします(あと拙いですが自作絵なども)。
何かある方は、ckcwb305あっとまーくsutv.zaq.ne.jpにご連絡下さい。

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