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第13話

 第13話です。

遂に始まった男子ボクシング部対女子ボクシング部。トップバッターとしてリングに上がる順子はどう闘うのか……?




 時刻はAM11:00。いよいよ女子ボクシング部の正式なクラブ認可を賭けた、男子ボクシング部との試合が始まった。これから始まるであろう激闘を期待してか、周りのギャラリーから歓声が沸き起こる中ヘッドギアとグローブを身に着けた桜 順子(さくら じゅんこ)が、トップバッターとしてリングに上がっていった。

「いい? 休まず身体を動かして、相手に的を絞らせないように。常に手を出していくのよ」

ロープひとつ隔てた向こうから、畑山 久美子(はたけやま くみこ)は緊張した面持ちの順子にアドバイスを与える。どうやら一晩で彼女の精神面のケアをするのは無理だったようだ。


 今回、全試合のセコンドを買って出てくれた大内山 由起(おおうちやま ゆき)が、固まった順子の肩を揉み解す。が、あまり効果は期待出来そうになかった。

「両者、前へ」

レフェリー役の植木 四五郎(うえき しごろう)の指示で順子と対戦相手がリング中央で向かい合い、注意を受けていく。その間、順子は緊張の為か完全に相手から目を背けてしまっている。更に、足が震えているのが誰の目にも明らかだった。


 注意を聞き終え青コーナーに戻ってきた順子。この日の為に各自作らせておいたマウスピースを、由起の指を介して順子の口に銜えさせられる。まだ口の中に異物が納まる感覚に慣れていないせいか、順子は不自由そうにモゴモゴと口の中を動かしていた。





「これより第1試合、日高 耕一(ひだか こういち) 対 桜 順子、ミニマム級3分3Rを開始する!」

 男子部副主将、浜崎 淳士(はまさき あつし)のコールの後……



カァァァァン!




遂に第1試合のゴングが鳴り響いた。勢い良く赤コーナーを飛び出してくる日高とは対照的に、地に足着かず……といった足取りでコーナーを出る順子。
時間の許す限り練習したフットワークも、まるで意味を持たないかのようなベタ足である。

「桜さん、止まってちゃ駄目! 相手をよく見て動くの!!」

セコンドの由起から指示が飛ぶ。が、場の雰囲気に飲み込まれてしまっている今の順子に、正常な判断と行動はとても出来そうになかった。1人浮き足立つ順子に、対戦相手である日高は様子見で左ジャブを放っていく。



バンッ、バシィッ!



「あうッ、んくッ」

完全に舞い上がってしまっている順子は、ガードもままならない状態で日高のジャブをまともに貰い目元から火花が飛び出るような錯覚を覚える。続いて飛んでくる右ストレートに対し、

「順子、ガードォ!」

久美子の怒声が辛うじて順子の耳に届いたのか、間一髪の所で顔をグローブで覆いブロッキングに成功していた。が、両手で顔を庇ったまま順子から反撃に出る気配は見られない。
ここぞとばかりに、日高は亀のように身を固めた順子に対しパンチの雨を浴びせていく。



パンッ、バシッ、パスッ、ビシッ……



襲い来るパンチの雨に、それでも順子は固めたガードを崩す事はしない。ひたすら耐えるのみであった。


 顔面のガードを崩すのは困難だと考えたのだろう。日高はガラ空きになっている腹に標的を変え、右のボディーフックを順子の脇腹へと打ち込んでいく。



ドスッ!



「うぐぅッ」

左の脇腹を打たれ、初めて感じる痛みに顔を歪め意思に反して声を出す順子。日高は、続いてもう1発、更にもう1発……と順子の腹にパンチを叩きつける。

「うぐ、かふッ、ぐはぁ……」

一気に3発ものボディーフックを打ち込まれた順子は、痛みと苦しみに耐え切れずヨロヨロと後ろに下がっていく。何が起こったのか、どうしていいのか分からず混乱する順子。今彼女の意識は、

『顔のガードを固める事』

にのみしか向いていなかった。手を出す事、身体を動かし相手に的を絞らせない事など、完全に頭から抜け落ちていた。


 後ろに退いた順子へ日高のジャブが2発、軽く打ち込まれる。先程のパンチに比べれば全然威力のないもので、順子のブロックは崩れない。が、次の瞬間……



バッシィィンッ!



今までのものとは全く違う強烈な衝撃を、順子はグローブ越しに感じた。先のジャブで距離を測り、フルスイングの右ストレートを打ちつけたのだ。



「ぐはぁッ」



ガードを固めていたにも関わらず、予想以上の衝撃を受け順子は更に後退を余儀なくされていく。ブロックした両手が痺れ、またボディーブローのダメージが残っている為か、徐々にガードが下がり始めてきていた。
順子の後退した姿にダメージがあると見て取ったのか、日高は次々と追い討ちを掛けていく。



バンッ、ドカッ、グシャッ、ズシンッ、ドスゥッ!



全弾フルスイングの日高のパンチに、遂に今まで堅守してきたガードは破られ順子はその顔を曝け出す事になった。そこへ大きく振りかぶった右拳……それが迫ってくると感じた瞬間、順子は身を竦め恐怖に顔を歪めながら、

「ひッ」

と短い声を発してしまった。そして……



バシィィンッ!



日高の右は、完璧に順子の顔面を打ち抜いていた。マウスピースを吹き飛ばされ、順子は身体を半回転させて日高に背中を見せる。力の脱力した順子の身体は、そのままロープと抱き合うような形でズルズルと崩れ落ちていった。


「ダウーーン!」

 植木のダウンコールと共に日高はニュートラルコーナーに向かい、周りから歓声と悲鳴が沸き上がる。順子はロープに身体を預けた形のまま、ロープの反動で揺られるのみであった。

「ワン…ツー…スリー…」

植木はダウンしている順子の側でカウントを数え始める。

「順子、しっかりして!」

久美子が悲鳴にも似た声を上げ、

「桜さん、立って!」

由起はリングマットをバンバン叩きながら順子に立ち上がるよう指示する。カウントが5を数えた辺りから、それまでピクリとも動かなかった順子が反応を示した。グローブでロープを掴み、必死に身体を起こす。その鼻からはポタ、ポタ、と血が垂れ流れていく。そしてカウント9でファイティングポーズを取る事に成功した。


 植木は順子の表情を見る。意識はあるようだが、目が澱んでいるようだ。また立ち上がったものの、身体もフラフラしていてこれ以上の試合は危険と判断し、両手を上空で交差させた。



カンカンカンカンカンカーーン!



試合終了のゴングが鳴り、歓声が上がる。と同時に順子の身体がフラッと右へ寄り崩れ落ちそうになった。それを由起が抱き止め、ゆっくりとリングに横たわらせる。
ヘッドギアとグローブを外し、血の付いた顔をタオルで拭き取る。少しすると、順子の口から「ごめん……」という言葉が漏れてきていた。

「まぁ、思ってたよりは根性見せたわよ……アンタ」

ナミはなるべく明るく、正直な感想を述べる。

「桜さん。あたしが仇を討ってくるから見てて」

加藤 夕貴(かとう ゆうき)は順子の手を握りながらそう告げると、順子は無言でギュッ、と手を握り返すのだった。





 順子を部室にあるベンチに寝かせ、空いた青コーナーでは準備を終えた夕貴が次の対戦に備え軽く身体を動かしていた。動く度に軽く……いや結構弾む胸を見るや、男子生徒や男子部員たちから感嘆の声が上がる。

「男ってヤツぁ……なんで女の胸が揺れるのがあんなに好きなんだろうな………?」

と、男子どもの歓声を耳にした高頭 柊(たかとう しゅう)は、呆れ顔で悪態を吐いていた。





「それでは第2試合、河本 慎二(かわもと しんじ) 対 加藤 夕貴、ライト・フライ級3分3Rを開始する!」



カァァァァン!



 ゴングの音と共にリング中央へ歩み寄る両者。順子の雪辱を晴らす事を誓った夕貴だったが、意外にも先制してきたのは河本の方だった。左ジャブが数発、夕貴に向けて放たれる。



スッ、バンッ!



順子と違い充分に場馴れしている夕貴である。落ち着いた表情で河本のジャブをかわし、冷静にブロッキングすると、お返しとばかりにサウスポースタイルから右ジャブを打ち込んだ。
河本もさすがに名門校・光陵の部員らしく、キッチリ夕貴のジャブをブロッキングする。が、女子とは思えない予想外の威力に戸惑いの表情が見て取れた。
夕貴は更に右ジャブを散らして河本の隙を作ろうとするが、河本は上体を左右に振り的を絞らせない。その間河本もジャブやフックで応戦し、何発かをヒットさせてきた。さすがは名門・光陵ボクシング部といえよう。



カァァァァン!



 結局夕貴のパンチは1発も当たらず、第1Rが終了した。スツールに腰を下ろし、口からマウスピースを抜いて貰いうがいをする。

「加藤さん……」

先程の1Rでの攻防を見て、微妙に動きが悪いように感じたナミは心配になり夕貴に声を掛ける。が、夕貴はナミの声には反応せず、座っている間もずっと対角にいる河本へ視線を向けたままだった。
由起が指示を入れ、時折コクッと頷きを見せる。そしてマウスピースを口に入れ……



カァァァァン!



第2Rのゴングと同時に、夕貴はマットを蹴った。



ギュンッ!



 相手が立ち上がったか否か? といった状態の中、夕貴は一気に河本をコーナーに詰める形となる。河本はおろか、周囲の男子部員からも驚きの声が上がる。そして、ダッシュの加速を利用しての左ストレートを河本の腹へ叩き付けた。



ドスゥッ!



「ぐえぇッ」

河本は夕貴の拳とコーナーマットにプレスされ、身体をくの字に折り曲げて悶絶してしまう。間髪入れずに右アッパー、左フックを立て続けに打ち付けていった。



ガツッ、バクン!



元々女子とは思えない夕貴のハードパンチが、悶絶している河本の顔面に叩き込まれその度に顔を大きく揺らす。だが夕貴の攻撃はこれだけで留まらず、右フック、左ボディーアッパーを連続で放っていく。これも的確にヒットし、ガードもままならず逃げ場所もない河本。
何発も顔にクリーンヒットを貰い、脳を揺さぶられその場に立ち尽くす事しか今の河本には許されなかった。

とどめと言わんばかりに夕貴は左拳を引き絞る。そこへ、

「ストーーップ!」

植木が両者の間へ身体を割り込ませてきた。その時、夕貴は足元にタオルが落ちている事に気付く。赤コーナー側から棄権の意思表示としてタオルを投げ込まれていたのだ。



カンカンカンカンカンカーーン!



 終了のゴングを聞きながら、夕貴は河本に背を向け青コーナーへ悠然と戻っていく。

「お疲れさま」

青コーナーに戻った夕貴に、由起は労いの言葉を掛ける。ヘッドギアを外して貰った夕貴は、皆に向かい汗を迸らせながら笑顔を見せ、ガッツポーズを取ってみせた。





 夕貴がリングを降りていく一方、次の試合に臨む柊は1人黙々と準備に取り掛かる。

「柊ちゃん、頑張ってね」

夕貴は汗を拭きつつ、幼馴染みの少女に激励の言葉を掛ける。

「おう」

柊は一言だけ返し、臨戦態勢を整えていく。無骨なヘッドギアとボクシンググローブを装着した柊は、だがその美しい外観を少しも損なう事はなかった。
リングインする柊の麗しき姿に、ギャラリーの方々から感嘆の声が沸き起こる。だが……ナミは資料に目を通し、対戦相手のデータを見る。



『柳澤 翼(やなぎさわ よく)』



U-15全国大会ベスト4と、経歴に記されていた。

(相手が悪過ぎる………)

それに続くデータを見ていくにつれ、ナミはそう思わずにはいられなかった。





 リング中央で植木からの注意を受けている際、

「君、メチャクチャ可愛いね。試合終わったら俺とつき合わねぇ?」

柳澤が声を掛けてきた。植木から「私語は慎め!」と注意されるも、柳澤は聞こうともしない。

「悪ぃけど。オレ、自分より弱ぇヤツに用はねーんだよな」

尚も続く柳澤の言葉に対する、これが柊の即答であった。

「な!?」

容姿と口調とのギャップに、また弱い者扱いされた事に……いわば二重の意味で驚きを隠せない柳澤。埒が明かないと、植木は両者をさっさとコーナーに戻らせた。

青コーナーに戻ってきた柊の、相変わらずの悪態に

「アンタ大物よね。初めての試合でしょうに……」

と、ナミは苦笑しながら柊に話しかける。

「あ? お前にゃ負けるっての」

そのナミに対してどういう意味か、柊はナミにそう返すと由起からマウスピースを受け取っていた。

(なんせ、なにもねー所からたった1人で女子ボクシング部を作ろう……なんて考えやがったんだからな)

柊は心の中で、ナミにそう呟くと柳澤の方へと振り返っていく。





「第3試合、柳澤 翼 対 高頭 柊、ライト・フライ級3分3Rを開始する!」

 浜崎の言葉の後……



カァァァァン!



試合開始のゴングが鳴り、柊はコーナーから出た。両者リング中央で向かい合い、フットワークを使ってお互いの隙を窺っていく。柳澤はともかく、柊も初めての試合だとはとても思えない、落ち着き払った様子を見せていた。
オーソドックススタイルの柳澤とサウスポースタイルの柊。お互いに周囲を回るのみで、手を出す気配が見られない。柳澤はサウスポーと闘うのは初めてなのか、戸惑いの表情を浮かべているのが見て取れる。
一方、柊も自分から手を出す事はせず、まるで相手の出方を待っているかのような立ち回りである。

「柊ちゃん、手を出して!」

青コーナーサイドから夕貴が柊に攻めるよう指示を出す。が、それでも柊から攻める気配は一向に感じられない。

「いつまで見合っているつもりだ柳澤。さっさと攻めろ!」

対する赤コーナーからも、桃生の檄が飛ぶ。その声で意を決したのか、遂に柳澤が左ジャブを2発、3発と柊に放った。さすがにU-15全国ベスト4はただの飾りではなく、キレのあるジャブである。ナミにも夕貴にも、今の柊に捌くのはさすがに無理だと思う程の速度だった。が……



スッ、ブンッ!



当たったと思われた柳澤の左は、つい一瞬前まで柊の顔があった筈の空間を穿っていた。


「ッ!?」

 ナミも夕貴も、桃生や植木ですら、これには我が目を疑ってしまう。そこにいた筈の柊が、僅かな距離を右に避けていたからである。経験者であれば、柳澤のジャブの速度がかなりのものである事は理解出来る。ましてや、ボクシングを始めて1ヵ月も経っていない筈の柊がおいそれとかわせるような代物ではない事も……
だが、現実に柊はかわしてみせた。それどころか、



パンッ、パシンッ!



柊はジャブを打った体勢のまま空いている柳澤の左頬に、右ジャブを2発打ち込むとすぐさま距離を離した。見事なアウトボクシングである。皆が予想もしていなかった動きに唖然としている中、ただ1人部室の端でその様子を見ていた片山 那智(かたやま なち)だけは、

「ふふ、相変わらず良い“眼”をしてるね……」

含みのある笑みを浮かべそう呟いていた。



カァァァァン!



1R終了のゴングが鳴り、柊は青コーナーへ戻りスツールに腰を降ろすと由起にマウスピースを取り出して貰う。軽く汗をかいているものの、パンチを貰った痕は全くなかった。

「いい感じじゃない? とても初めての試合とは思えないわ」

部員たちが予想以上の健闘に沸き立つ中、ナミが感心した面持ちで柊に話しかける。

「ん?ああ、そうか? こんなモンだろ」

口に含んだ水を吐き出しながら、柊はあどけた口調で返してくると由起にマウスピースを要求し……

「ま、適当にやってくるよ」

左手を軽く振ると、コーナーから飛び出していった。


 第2Rも柳澤のパンチは柊を捕らえる事なく空を切るばかりで、その合間に柊がジャブをヒットさせる……という展開に終始し、終了間際には柳澤の左頬や瞼がうっすらと腫れてきていた。
第2Rが終わった時点で柊はたった1発の被弾も許さず、周りの評価も自然と変わっていく。


『高頭の実力は本物だ』と……


 第3Rに入っても攻防に変化は見られず、完全に柊の独壇場となっていく。そして……



カンカンカンカンカンカーーン!



終始柊の優勢のまま、試合終了のゴングが響く。顔の腫れ具合、疲労度合いから見て、勝敗の行方は誰の目にも明らかだった。




to be continued……
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Author:チャパロット
基本的に携帯サイトで書かせて頂いているもののリメイク(?)ですが、ちょくちょく文を変更してたりします(あと拙いですが自作絵なども)。
何かある方は、ckcwb305あっとまーくsutv.zaq.ne.jpにご連絡下さい。

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