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第42話 『梨佳子の真意』

 プロボクシング編、第42話です。前回から随分と間が開いてしまいました、申し訳ございません。また頑張って更新していきたいな、と思う次第です。



<拍手返信>
・ぴーこ様:いつもコメントありがとうございます。こちらの都合で返信が遅れに遅れた事、この場でお詫びさせて下さい。
今回のデビュー戦では、ナミの方に一日の長があった事も手伝って惜しくも敗れてしまった梨佳子。ですが、梨佳子も結構高いポテンシャルを秘めてると思いますので、これから主戦場は違えど活躍してくれる事でしょう。





アマチュア実績豊富なナミと無名の梨佳子、2人のプロデビュー戦は周囲の予想と反してナミの劣勢で幕を開けた。
だが、次第に地力の差を見せつけるように挽回し始め、2回のダウンを奪い試合は判定へ。
その時、本気で殴り合った2人は顔を綻ばせリング中央で抱き合うのであった。














「お邪魔しまーす。うわぁ、久しぶり」

 下司 ナミと上原 梨佳子、小学校以来の再会となったプロボクシングのデビュー戦から約1週間後。リングでの約束通り、梨佳子が下司家へ遊びにやって来た。
携帯の番号を知らなかった梨佳子から家の電話へ連絡が入り、ナミはすぐさま最寄り駅へ直行。途中アイスクリームの有名チェーン店で土産を買い、昔話に花を咲かせながら2人は玄関を通った。

「あらあらいらっしゃい。梨佳子ちゃん、久しぶりね」

玄関に入るなり、エプロン姿の母・野枝(のえ)による出迎え。怖いからと試合を観に行かなかった野枝にしてみれば、やはり小学校の卒業式以来の再会になる。

「は、はい。ご無沙汰してます。お邪魔します」

1週間経ったとはいえまだ腫れが完全に癒えた訳ではなく、湿布やらを貼り付けた顔で含羞(はにか)んだ表情を作った。
親友と本気で殴り合った事に対する後ろめたさも、多少なりと含まれていたかも知れないややぎこちない挨拶の後、梨佳子はナミの部屋へと招き入れられた。

正確には、ナミとサラの2人部屋というべきであろうか。

「ちょっと散らかってるけど、気にしないで入って入って」

サラが読み散らかした漫画本やナミが愛用しているダンベル等を隅に追いやり、梨佳子の座るスペースを作る。
用意された座布団の上に一旦正座し、梨佳子はすぐに足を崩すと楽な姿勢を取った。

「ねえ、ちょっと狭くなった? 昔はもっと広かったような気がしたけど」

「そう? 特に物が増えたって事もないけど」

同じく座布団の上に足を崩して座ったナミは、特に目新しくもない部屋をキョロキョロ見回す。

「小学生の頃の記憶だものね。小さく感じて当たり前か」

お互い大きくなったわね、と感慨深い溜息を漏らす梨佳子の顔を見ながら、ナミは静かに頷いた。



 野枝から紅茶とクッキーを受け取った2人は、暫くの間無言でそれらを口へ運んでいた。やがてひと息ついた頃合いを見計らって、ナミから会話を切り出した。

「でも、まさか梨佳子がボクシングだなんてねえ。あんなに大人しいタイプだったのに」

つい1週間前の試合の様子を思い返すと、まだ実は夢幻だったのでは? と思えてしまう。しかし、眼前の親友の顔に貼られた湿布や絆創膏を見れば、あの試合は間違いなく現実なのだと理解出来た。

「うん。引っ越した後、どうにかナミとの接点を繋いでおきたくてね」

梨佳子が言うには、接点を繋ぐ以外にナミに頼っていた自分の弱さを克服したくて、近場にあった天川(あまかわ)ボクシングジムへの入会を決めたとの事。
またアマチュア経験が皆無だったのは、単に通う学校にボクシング部がなかったから、との事だった。

「なるほどね。あとさ、もうひとつ疑問……アンタがわたしをデビュー戦の相手に指名した、って噂を聞いたんだけど、ホント?」

試合前から密かに気になっていた内容を、思い切って質問するナミ。すると、梨佳子は申し訳なさそうな態度で俯き真相を赤裸々に暴露した。

「えっとぉ……うん、それ本当。あたしがナミを指名したの。あたしがどれだけやれるようになったのか、試してみたくなっちゃって」

梨佳子曰く、ジムでのトレーニングを積んでいくうちに自分の実力を試したい、との欲望が膨らんだのだという。
ナミより少し遅れてプロボクサーとなった梨佳子は、デビュー戦の相手探しに難儀しているナミの噂を偶然聞き、強硬に会長を説き伏せたとの話だった。

「はぁ、そんな流れだったとは」

「それと、あたし貴女に対して散々挑発とかしたでしょ? 多分、あれぐらいしないと本気でやってくれないんじゃないか、って思って……」

彼女とて本意ではなかったのだろう、申し訳なさそうに本心を語る。ただ、梨佳子の言う通りあの挑発がなければ、恐らくは最後まで彼女を対等のプロボクサーと見る事はなかっただろう。
その事に関しては、逆に頭を下げるナミであった。



「ただいまぁ。あ~疲れたぁ~~」

 ナミと梨佳子がTVを見ながら談笑していると、ぐったり感全開のサラが帰ってきた。

「おかえり、サラ」
「お邪魔してます。お久しぶり」

部屋へ入ってくるなり不意打ちのように挨拶してきた姉とその親友。しかも、つい1週間前に本気の試合をした者同士という取り合わせが、ダブルでサラを驚かせた。

「うぇえ? りかちゃん!?」

部活疲れも吹き飛んだのか、サラが大声を上げる。梨佳子とは顔馴染みなのだが、先日の試合では姉の敵として結構な罵声を浴びせたりもしていた。

もしかしたら、試合中に聞こえていたかも……

そう思うと、若干の後ろめたさも出てくるというものだ。

「ずいぶん大きくなったのね。サラちゃんもボクシングやってるんだって?」

だが、そんな妹の思いとは裏腹に梨佳子の態度は久方ぶりに会った友達、という自然な風。

(おや? この様子なら大丈夫かも)

梨佳子の態度に安心したサラは、以後輪の中に打ち解け楽しいひと時を過ごした。
だが、それが間違いだと知るのは梨佳子が帰ろうとした時である。



「久しぶりにいっぱい話せて楽しかった。ありがとうね」

 夕食を振る舞って貰った梨佳子は、玄関で靴に足を通し改めて野枝に感謝の意を示す。そして駅までナミと共に送った際、梨佳子は戦慄の走る一言を紡いだ。

「それにしても、あの試合でサラちゃんにあそこまで言われたんだから、もしかしたらヒールの素質あるのかもね。あたし」

「……え?」

「ナミとの試合の時。よぉく聞こえてたわよ?」

言葉に続いて、梨佳子はにっこりと満面の笑みを浮かべる。それが、サラには暗く空恐ろしいもののように見えた。
またね、と残し改札を通っていくのを見送りながら、サラは改めて有名な故事に思いを馳せずにはいられない。

口は災いの元

と……



 梨佳子が家に来た翌日。ナミは久しぶりに女子ボクシング部室を訪れた。プロデビュー戦のダメージを癒すよう静養期間と称して、現主将である葉月 越花から部室への一週間出入り禁止を突きつけられていたからである。

「あれ、部室ってこんな感じだったっけ?」

静養期間を終え久しぶりに足を踏み入れた部室は、特に変わった訳でもないのにどこか見知らぬ場所であるかのよう。
誰もいないその空間は、ナミに僅かばかりの疎外感を感じさせる。しかし、それも束の間の事であった。

「ナミじゃない。もうダメージはいいの?」

制服のままサンドバッグへ向かい、無意識にファイティングポーズを構えたナミの後ろから、桜 順子の声が響く。

「え? ああ順子。うん、おかげさまでね。みんなはロード?」

視線をサンドバッグから部活仲間の方へ移すと、ナミは他の部員たちの行き先を確認。そうよ、と肯定しながら順子は片手で持つには重そうな甕(かめ)を1つ、部室の中へと運んできた。

「……なに、それ?」

順子の持ち込んできた甕に目をやるナミ。中華風の模様が面一杯にびっしりと描かれた、いかにも酒などが浸されていそうな代物。
どう見ても、一般家庭では扱わなさそうなものであった。

「紹興酒の甕(かめ)よ。店長に無理言ってもらってきたの」

「なんでまたそんなモノを」

「大内山先輩に催促されてたのよ。ま、もらえたのは先輩がいなくなった後なんだけどさ」

今はもう卒業してしまった、光陵女子ボクシング部マネージャー兼トレーナーの大内山 由起。
その彼女が言うには、甕の口を指で掴んで持ち上げる事によってナチュラルな握力が鍛えられるのだそうだ。

「ぐッ! ぐぬぬ………」

試しに実践してみると、指がギリギリ瓶の口に引っ掛かるくらい広く、安定感がない。これで落とさずに持ち上げるとなれば、相当な困難が伴うのは理解出来た。

「古典的なトレーニングだけど、効果はあるそうよ」

甕を床に置くナミへ、順子が身体をほぐしながら話す。が、どうも甕を持ってきた本人ですら半信半疑であるようだった。

 

 ナミと順子が適当に会話を交わしている間に、部室の外からは数人の喧騒が響く。どうやら、部員たちがロードワークから帰ってきたらしい。

「あ、ナミちゃん!」

先頭を入ってきた越花が、普段通りの間延び口調でナミを歓迎する。続く部員たちの挨拶も、軒並み好意的なものであった。
そんな中で、初顔と思われる者が5人ほど。

「ねえ越花、あの娘たちが新入生?」

主将らしく部員たちに指示を出している越花へ、長椅子に腰かけたままナミが訊ねる。

「え? あ、うん。そうだよ。紹介するね」

後の指示をマネージャーの中森 陽子に任せ、越花は新入部員の一年生を呼んだ。そうしてナミの前に並んだ一年生は、越花の促しでそれぞれ簡単な自己紹介を始めた。

「宇都宮 弘美(うつのみや ひろみ)ですの。会えて光栄ですわ、下司 ナミ……先輩」

緩くウェーブのかかったロングヘアーを大袈裟に掻き揚げてみせ、高慢な口調で挨拶する新入生。その表情と鋭い眼光は、いかにも自信に満ちた態度を醸し出していた。

「石動(いするぎ)です。よろしくご指導下さい、下司先輩」

弘美の隣にいた、肩に掛かるかぐらいのミディアムヘアーの少女が、まるで弘美の言葉を遮るように紹介する。
どこか、あまり弘美をナミと話させたくないような、そんな意図を感じた。

「うん。よろしく、石動さん。ちなみに下の名前は?」

「………どうしても言わなければ、いけませんか?」

体格からするにバンタム級辺りだろうか。そんな身体を小さく窄めさせ、明らかに嫌そうな表情をしていた。

「まぁ、別にいいわよ。入部届け見れば分かる事だし」

名前にコンプレックスでもあるのだろうと察したナミは、敢えてこれ以上の詮索は止めにした。

「加納 智代(かのう ともよ)といいます。あの、私、運動不足解消の目的なんですけど、いいんですよね?」

頭頂部に赤いカチューシャを着けた、見るからに気の弱そうな少女が続いて挨拶する。
部員が増える以上、誰もが試合を目的とした者ばかりでもないのは当然。
元々がプロ思考のナミには、わざわざ健康目的でボクシングを選ぶ感性が今ひとつ理解出来なかったりするのだが、越花が許容したのなら文句などなかった。

「えっと、抹権(まつけん)ひかるです。中学校までは地味だったので、心機一転したいと思いました。よろしくお願いします」

他の新入生に比べて特に個性を感じさせない少女が、顔を真っ赤にして必死に自己紹介する。髪型がやや弘美と似通っている以外に、外見的個性を見出す事はナミには叶わなかった。

そして、最後の1人となったショートカットの少女が口を開く。
この時、横に控えていた越花が僅かに口元を歪めていた事にナミは気付かなかった。

「おほん! 某(それがし)、壱年は参組に属す伊藤 紀子(いとう のりこ)と申しまする。中学の折はそこなる宇都宮、石動の両名を指導致しておりました。非才の身なれど、粉骨砕身し当部に尽くす所存故、宜しく御指導賜りたく存じまする」

「……え?」

椅子に座っていたナミは、思わず眉間に皺を寄せてしまう。あまりに現代離れした物言いに、一瞬日本語と認識出来なかったのだ。

「『ぐんし』とかいうのになるんだって」

どういう意味なんだろうね? と小首を傾げる越花。確かに意味は分からないが、ただ1つだけ確実に理解出来た事はある。

今年の新入生は思いっきりアクの強い面々だ

という事。また騒がしくなりそうね、と表面上は呆れつつ、内心では期待に胸を膨らませるナミであった。





to be continued……
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Author:チャパロット
基本的に携帯サイトで書かせて頂いているもののリメイク(?)ですが、ちょくちょく文を変更してたりします(あと拙いですが自作絵なども)。
何かある方は、ckcwb305あっとまーくsutv.zaq.ne.jpにご連絡下さい。

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