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第41話 『ナミvs梨佳子、プロデビュー戦(3) 本領発揮』

 プロボクシング編、第41話です。



<拍手返信>
・ぴーこ様:I・H日本一にもなったナミのまさかの苦戦、そりゃサラも吠えるってものですよ。同じ気持ちになって頂けたなら物書きとして嬉しい限りです。
でもようやく主人公の底力も発揮され始めました。いよいよ逆転のフラグが!?





ナミと梨佳子のデビュー戦。序盤は完全に梨佳子ペースで試合は進み、逆にナミは空回り気味。
防戦一方のナミに対し、梨佳子はクリンチに際して「ガッカリだよ」と失望感を漏らす。その一言で吹っ切れたナミは、第3Rから動きが変わり、遂に逆転のダウンを奪うのであった。











「ダウン! 下司、コーナーへ下がって」

 下司 ナミと上原 梨佳子のプロデビュー戦は、この第3R半ばを過ぎた辺りで大きな動きを見せた。
無名の梨佳子が大方の予想に反し、アマチュア経験豊富なナミを第1、第2Rと圧倒。
続く第3Rでも、一方的といっていい猛攻を浴びせていたのが、気付けばノックダウンを奪われていたのである。

「ワン…ツー…」

四つん這いのままの姿勢で、レフェリーのダウンカウントが頭上から降り注ぐ。そんな中、梨佳子は立ち上がる動きを見せなかった。

(な、なにこれ…なんで踏ん張れなかったの……?)

終始試合を支配し、今またナミをロープへと追い詰めた梨佳子。強かった筈の親友の、どこか本気を感じさせない立ち回りに少なからず失望感を抱き、もう終わらせようと一気に畳みかけ右ストレートのモーションに入った、まさにその時。
眼前の親友の身体が唐突に沈んだと同時、肝臓の辺りと右耳付近に鈍い衝撃が走った。
視界がブレたかと思えば、両膝がまるで自分のものではないように力無く重力に屈し、訳も分からずキャンバスを間近で見る事となったのである。

(正直、運が良かった。まさかダウンしてくれるなんて)

ニュートラルコーナーで呼吸を整えながら、ナミは思いがけず舞い降りたラッキーに感謝した。
梨佳子のパンチのタイミングを概ね把握した彼女は、隙を突いて左ボディーフックから顔面への左フックという、得意の左のダブルで反撃。
その際、偶然にも左フックが梨佳子の右耳の後ろを痛打したらしい。

それは俗に言う『アンダー・ジ・イヤー』というパンチで、相手は三半規管を揺らされ一時的に平衡感覚を保てなくなる、というものであった。

狙った訳では決してなかったが、前へ踏み込んできた梨佳子の攻め気が不運にも己に大ダメージを負わせる形となったのである。

(こんなの、ただの出会い頭よ。効いてない)


こんなダウン、攻め気を出し過ぎた隙につけ込まれただけだ


意識のはっきりしてきた梨佳子は、頭を軽く振りカウント8でしっかりと立ち上がる。やれるか? とのレフェリーの問いに無言で頷くと、グローブをシャツで軽く拭かれた後「ボックス!」のかけ声が掛かった。



 形の上ではダウンを喫したが、ダメージならナミの方が受けていると己を奮い立たせ、梨佳子は果敢に攻勢へ出ていく。
だが、ここで彼女は思いも寄らない展開を強いられる事となった。
よりダメージの深い筈のナミが、梨佳子をスピードで翻弄する場面が顕著に見られるようになってきたのである。

ダウンを機に、梨佳子のパンチはその悉くが空を切るばかりで、逆に防戦一方だったナミのパンチは確実にヒットしていく。
圧倒的ともいえた梨佳子の勢いは、この時削がれつつあった。

「ぷふぅッ!」

ナミの右ストレートが頬を抉り、唾液の雫を迸らせながら梨佳子は身体を泳がせる。追撃で飛んできた左ショートアッパーは紙一重でかわし、反撃の左フックを放つ。
しかし、それはいとも簡単にブロッキングされてしまう。
構わず連打で右ボディーアッパーを打とうとするも、それより速くナミの右ボディーフックが綺麗な弧を描き、逆に脇腹を叩かれた。

「ぐッ」

くぐもった声を漏らし、梨佳子は鈍痛に顔をしかめる。
ダウンしてからというもの、梨佳子のコンビネーションは振るわずナミのそれは逆にキレを増していくように、観客には映った。
事実、第3Rが終わった頃には枢機はナミの方へ傾いたといっていい。



「くそッ。手強いとは思ってたが、まさか下司がこれほどとはな」

 第4Rへ突入し、梨佳子を送り出した後赤コーナーで、チーフセコンドである天川(あまかわ)会長は誰ともなく独りごちた。
これに、他の2人のセコンドはお互いに顔を見合わせ困惑。

「か、会長。それはどういう……」

意図を読めなかった1人が、思わず会長へ訊ねようとする。そんなセコンドの言葉を遮るように会長はチラリと顔を向け、すぐさまリングへ向き直すと述懐し始めた。

「この試合、元々分の悪い賭けみたいなものだったんだよ。梨佳子の飲み込みの速さはお前も知ってるだろ?」

会長の静かな言葉に含まれた迫力を感じ、セコンドはつい喉を鳴らしながら頷く。
初めてジムへ姿を見せた時、梨佳子はお世辞にも長続きするようには思えない、気弱な少女だった。
だが、見た目によらず厳しいトレーニングにも弱音を吐く事なく食らいつき、その飲み込みは周囲を驚かせるものであった。

才能、といっていい。

事実、プロになって最初の試合にかの有名な下司 ナミを指名しても、梨佳子ならばと不安を覚えなかった。
その点、会長も同意見だった筈……

「だがな、考えてもみろ。梨佳子は言ってみれば実戦経験がない。対する下司はそりゃあ豊富だ。ポテンシャルで勝ってたとしても、駆け引きとかいった経験値の差は絶望的に開きがあるんだよ」

セコンドは押し黙って、失速し劣勢を挽回出来ずにいる梨佳子へ視線を向ける。

「だからこそ、あいつは序盤戦で決着をつけるべく最初から全力で攻めまくったのさ」

確かに、駆け引きに持ち込む暇すら与えない間断なき攻勢に出れば、ナミとてそれに対処せざるを得ない。
梨佳子のセンスを以てすれば、ナミを翻弄するのも決して不可能ではないだろう。
事実、第3Rで不測のダウンを喫するまでは、梨佳子が完璧に試合を支配していたのだから。
そういう意味では、ナミの粘り強さは予想以上だった。

「あれだけの攻めでKOしきれなかったのは確かに誤算ですが、まだ流れはこっちが掴んでるじゃないですか。ここからはディフェンス重視で逃げに徹すれば、ポイントで勝てますよ」

やや高揚した口調で、セコンドは会長の弱気な発言に食ってかかる。ダウンは奪われたが、ポイント狙いのアウトボクシングも梨佳子なら無難にこなすだろう。
そうなれば、最終的な勝利が自ずと梨佳子へもたらされるのは必然。

何も、KOにばかり拘る必要など全くないのでは? そう力説したが、当の会長は力なく首を横に振った。

「無理だ。スタミナが保たん」

悲痛さを言外に匂わせた会長の一言。それによって、セコンドの男性は愕然とした。つまり、ナミのプレッシャーは梨佳子のなけなしのスタミナを容赦なく、かつ加速度的に刮(こそ)いでいくのだ。

改めて、攻守逆転し教え子を攻め立てるエメラルドグリーンのコスチュームの少女を見やる。
梨佳子と同じ17歳とは思えない、歴戦のオーラが見えたような気がした。



カァァァァァンッ!



 第4R、第5Rと進むにつれスタミナ切れが顕著に現れてきた梨佳子に比べ、まるで永久機関を思わせるスタミナで果断に攻め続けるナミ。
2人の表情は、この最終第6Rに入った頃にはすっかり正反対のものとなっていた。

疲労感漂う梨佳子のジャブは、もはや見る影もない程に鈍い。
それは、あたかも錆びついたなまくら刀を思わせた。
一方、対するナミは腫れの見える顔に生気を漲らせ、些かも衰えない……いや、気持ちが吹っ切れた分序盤よりも鋭さの増したパンチを、スタミナの限り打ち振るう。



ブンッ!



梨佳子の右ストレートを外へ掻い潜り、右耳に空を裂く音を聞きながら、ナミはがら空きの脇腹を右ボディーアッパーで突き上げる。
ひと呼吸置いて、ワン・ツーを顔面に浴びせグラついた所へ左足を1歩踏み込ませ接近。
体重移動(シフトウェイト)で体重を乗せつつ左腕を軽く引き……

「フンッ!」

筋肉を絞るように口から空気を吐き、全身を捻って弧を描く軌道で左拳を下から突き上げた。



ガゴッ!



梨佳子のアゴに、ナミの放った青い閃光が突き立つ。
口から声にならない声と唾液の霧、さらには血の滲んだマウスピースを思い切りはみ出させ、梨佳子は天井を仰ぐ形でヨロヨロと後退。
膝が落ちた所で、その身体はロープに支えられる。

「よし、助かっ…ああ!?」

ロープに支えられダウンを堪えたと喜ぶ赤コーナー陣営だったが、それは次の瞬間霧散した。
ロープを支えにした梨佳子は、尚その重力に耐えられず右腕をロープに引っ掛けたまま、両膝を折りその場で正座するように座り込んでしまったのである。

「ダウン!」

梨佳子が膝を屈したと同時にレフェリーが素早く割って入り、ナミに下がるよう指示。
2度目のダウンを喫した親友の姿を見下ろし、ナミは呼吸を整えながら左拳を小さく突き上げガッツポーズを作ってみせると、そのままニュートラルコーナーへと下がった。



「やったーッ! さすが姉ちゃん!!」


 ナミのパフォーマンスで湧き上がる観客席の一座で、サラはひと際大きな声を張り上げる。劣勢の時は半狂乱だったくせにと呆れつつも、このダウンは決定的と仲間たちも少なからず浮かれ顔を覗かせていた。

「まぁでも、サラさんの気持ちも分かるわ。このダウンで、ほぼ勝敗は決したでしょうし」

ダウンカウントが読み上げられる光景を眼下に映し、大内山 由起がはしゃぐサラの肩に手を乗せ呟く。
客観的に分析して、梨佳子のスタミナはとうに枯渇し、また第6Rの残り時間を考えても、逆転の目は限りなく0に近い。
ボクシングにラッキーパンチは付き物だが、よほど勝負運に恵まれていない限り歯牙にかける必要もないと由起は思う。

序盤1R、2Rのポイントを梨佳子に取られていても、3R以降はナミが取っている。加えて、2度に渡る梨佳子のノックダウンが決定的優劣の差。

以上の分析により、由起はナミの勝利を確信した。故に、サラに同調したのである。



 腕に掛かっていたロープを手繰るように、梨佳子はカウント8で立ち上がった。「やれるか?」と言うレフェリーに向かって、必死に続行を訴え試合再開まで漕ぎ着けたは良かったものの、疲労とダメージで脚の痙攣が止まらない梨佳子に、正直逆転の手立てはない。

(まったく…こんなになってまでなんで立つかな、あたし。どう見たって巻き返しなんて出来やしないのに)

呼吸を荒げフラフラの身体に鞭を打って、やや自虐気味に笑みを浮かべながら梨佳子はナミへと向かう。
会場内のボルテージは最高潮に達し、中央のリングで闘う女子ボクサーへと声援が注がれていく。
ただ、その大半は自分がKOされるのを心待ちにしているものだと、梨佳子には理解出来た。

(このままKOされて客に喜ばれるだなんて癪だわ。勝てないにしても、判定まで粘ってやる)

些か反感的な感情が芽生え、梨佳子は最後の力を振り絞ってナミに対抗。
対するナミも、梨佳子をKOするべく気勢に乗って燃料を惜しみなく投入していく。
お互い一歩も引かないパンチの応酬に、両者の名前が連呼され会場内は割れんばかりのヒートアップ。
それは、とても女子の6回戦とは思えない盛り上がりといえた。

ナミと梨佳子の右ストレートが、お互いの顔面に炸裂する。
肉を打つ鈍い殴打音が鳴り、次の瞬間には汗を撒き散らして頭が弾かれていく。
反発しあう磁石の如く数歩離れた所で……



カンカンカンカンカンカーン!



試合終了を告げる鐘の音が、何度も何度も打ち鳴らされた。



 小学校を卒業して以来、約5年ぶりに再会し本気の殴り合いを終えたナミと梨佳子。お互い肩で息を切らし、腫れの目立つ汗だくの顔に浮かぶその表情は、等しく笑みを浮かべていた。

「はぁ、はぁ、はぁ……梨佳子」
「はぁ、はぁ、はぁ……ナミ」

試合終了のゴングが乱打される中、暫し見つめ合った親友同士はどちらともなく抱擁を交わす。
そして、全く同じタイミングで口を開いた。

「「ナイスファイト!」」

その後、疲労困憊で腰を落としそうになった梨佳子を、ナミは背中に回した腕に力を込めて引き寄せる。

「はぁ、はぁ、ふぅ…ナミはやっぱり強いね。頑張ったけど、結局倒せなかったよ」

抱き寄せられるに任せ、梨佳子はナミへ顔を寄せ柔らかい口調で呟く。

「梨佳子?」

刺々しさの消えた梨佳子の口調に、ナミは一瞬キョトンとした表情を覗かせる。柔らかいその口調と表情は、確かにナミの知る心優しい少女のものであったからだ。
この時、漸く自分の中にある梨佳子と眼前の梨佳子とが完全に合致した。

「梨佳子……ありがとう。ホントにありがとう!」

自然と涙が滲み出てくるのをグローブで拭い、ナミは梨佳子へ感謝の言葉を伝える。

試合が終わった安堵からなのか? 
それとも数年ぶりに親友と再会出来たからなのか?

涙の理由は分からない。ただ、ナミはひたすら梨佳子へ感謝の言葉を紡ぎ続けるのであった。



 暫く健闘を称える抱擁を交わした後、ナミと梨佳子は名残惜しそうに各コーナーへ引き揚げた。

「よくやったな、ナミ君」

マウスピースを引き抜いて貰い、頭にタオルを被せられワシャワシャと拭かれる上から、幾分か険しさの和らいだ宗観の声が響く。
もしかしたら、彼のそんな声は初めて聞いたかも知れない。

「わぷふッ、ありがとうございます」

宗観に自分の闘いぶりを認めて貰えたような気がして、ついナミも喜色を表に出してしまう。

「最初はどうなる事かとヒヤヒヤしたもんだがな。四五郎のデビュー戦より心臓に悪かったぞ、お前さん」

ニヤニヤと笑みを浮かべながら、敦史はウォーターボトルをナミへ差し出し口へとあてがってきた。

「んぐ……こくん。はぁ、悪かったわね会長(おや)っさん。もしかして、ちょっと寿命縮めちゃった?」

カラカラに渇いた喉へ含んだ水をゆっくりと流し込んでから、ナミは敦史へ悪態を吐いてみせる。そのやり取りの後、少ししてから3人はそれぞれに笑いあった。



 思い掛けない好勝負の余韻を残す会場内に、やがて集計を終えジャッジペーパーを手にしたレフェリーがリング中央へ。

「只今の試合、3対0のユナニマスデシジョンをもちまして、勝者……青コーナー、下司ァァ…ナミィィィ!」

レフェリーによる判定結果を読み上げられた後、青コーナー陣営が湧く。そして、レフェリーがナミの片腕を高々と上げると、会場内からドッとひと際大きな歓声が沸き上がった。

「初勝利おめでとう、ナミ」

惜しくも敗者となった梨佳子が、ナミの方へ歩み寄り改めて健闘を称える。

「ありがとう梨佳子。でも、梨佳子もすごく強かったよ」

親友の賛辞を素直に受け、ナミも梨佳子の肩を軽く叩いてみせた。

「やっぱりナミはあたしの目標だわ。あ、それはそうとまた近いうちにそっちに遊びに行くからね」

さり気なく来訪の旨を伝え、じゃあねと梨佳子は振り返り四方の観客席へ一礼。そのままリングを降りていった。

「あ、遊びに来るって……」

母ちゃんに伝えておかないと、と苦笑いを浮かべつつ梨佳子に倣うように四方へ一礼していく。



女子プロボクサー、下司 ナミ。初勝利の瞬間であった。





to be continued……
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チャパロット

Author:チャパロット
基本的に携帯サイトで書かせて頂いているもののリメイク(?)ですが、ちょくちょく文を変更してたりします(あと拙いですが自作絵なども)。
何かある方は、ckcwb305あっとまーくsutv.zaq.ne.jpにご連絡下さい。

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