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第40話 『ナミvs梨佳子、プロデビュー戦(2) 「ガッカリだよ……」』

 プロボクシング編、第40話です。



<拍手返信>
・ぴーこ様:プロボクシング編を銘打っておきながら、ようやくもって主人公のプロデビュー戦が始まりました。なんとも牛歩で申し訳ないです。
入場までの描写を思いつく限り細かく書いてみたつもりなのですが、緊張感が伝わったなら幸いですw
あと、四五兄ィはスカート好きの気があるのかもですねww



下司 ナミ、上原 梨佳子、小学校時代の親友同士によるプロデビュー戦が始まった。アマチュア経験豊富なナミに無名の梨佳子がどこまで食い下がれるか? という前評価だった。
だが、どこか気の迷いを残しているナミは梨佳子の予想外の実力を前に、苦戦を強いられる事となる。












 下司 ナミと上原 梨佳子、幼馴染みの親友同士による女子プロボクシングのデビュー戦。緒戦となる第1Rで、アマチュアでの実績豊富なナミが公式戦の成績もない梨佳子に対し、攻めあぐね完全にペースを掴まれてしまうという大方の予想を裏切る展開でスタートした。
インターバルに入り、ナミがスツールに腰掛けた瞬間、



パシィンッ!



チーフセコンド・吉川 宗観による平手打ちが飛んだ。

「痛ぅ……」

「なんだ、さっきの動きは? 君らしくもない。動きがてんでバラバラ、相手も見えていない。負けるぞ、こんなままでは」

ナミの口からマウスピースを引き抜き、女性トレーナーの池田へ洗い流すよう手渡しながら注意を与える。

「す、すみません」

叩かれた頬に赤味が差し、ジンジンと小さく疼く感触を覚えながら俯くナミ。
正直、情けない思いでいっぱいだった。
1Rでの立ち回りだけで、今日の試合内容は反省する事しきりというものだ。

「相手はお前さんの親友らしいから、躊躇してしまう気持ちも分からんではない……だがな、ここは同窓会の場じゃない。全てを得るか失うかを賭ける、真剣勝負のプロのリングなんだ。奴さんも手心を加えられるほど、弱い相手でもなかろう?」

後ろから、山之井 敦史会長が諭すような口調でナミに話し掛ける。顔にワセリンを塗って貰いながら、ナミは黙って言葉に耳を傾けた。

言いたい事は、ナミとて充分に理解している。

いざパンチを打たれるまで、心のどこかで梨佳子を同等のボクサーとして見られなかった。
驕っていた、といっていいかも知れない。
しかし、その驕りによって危うくダウン寸前にまで追い込まれたのだ。

「君が彼女の事をどう思おうと、彼女は君を全力で叩き潰しに来るぞ。甘えは捨てろ! でなければ、君に待つのはKO負けだ」

大きな手で両肩を掴み、宗観はナミへ激を飛ばす。これに、ナミは「はい!」と強い口調で返した。
手を抜いて勝てる相手でない事は、第1Rで充分思い知らされた。
パンチ力もあるし、フットワークやハンドスピードを含めたスピードもかなり厄介。そして何より、ひたすらジムで練磨してきたのであろうテクニックが秀でている。

自分がI・Hに出ていればナミの優勝はなかった、という言葉はジム側の売り文句だけではなかったらしい。

(昔の梨佳子のまま考えてたら、ジリジリやられてKOされる!)

宗観にマウスピースを銜えさせて貰い、ナミは今一度青コーナーで気を引き締め直した。



カァァァァァンッ!



 第2R開始のゴングが鳴り、ナミと梨佳子はコーナーから飛び出す。そして、中央を位置取っての応酬が再び始まった。



バンッ!



赤いグローブが、対戦相手の左頬を殴り潰す。気を引き締め直して臨んだ第2Rだったが、第1Rで受けたダメージと勢いに乗る梨佳子の攻勢を前に、ナミはどうしても押され気味だった。

ストレートをモロに食らい、纏わりついていた汗が霧状に四散する。
さらに追い打ちで迫ってきた左ショートフックをスウェーバックでかわし、パンチの戻り際に右ストレートで狙い打つ。
しかし、これはガッチリとブロッキングされヒットには至らない。
お互い一旦距離を取り、間髪入れず間合いを詰める。
そして、同じタイミングで右ストレートを放った。

「「ぶぅッ」」

同時に顔面を打たれ、これまた同時に小さな呻き声が漏れる。
パンチ力はほぼ互角。相打ちから体勢を戻し、今度は左フックを打ち合った。
ただ、今度は勝負の天秤が梨佳子の方へと傾く。
即ち、ダメージの蓄積からかナミの身体が僅かながら流れたのだ。
僅かばかりのバランスの崩れだったが、この時にはそれが致命的。



ガゴッ!



梨佳子の左フックの方が速くナミへ到達し、強烈な打撃音がリング内を駆け巡った。

「がふッ!」

カウンターでアゴを打ち抜かれ、ナミは脳を激しく揺らされてしまう。

「姉ちゃんッ!」

膝が落ち、そこからまたもラッシュに晒されていく姉の姿に、サラが絶叫じみた声を上げる。

「なにやってるの!? 姉ちゃん、リカちゃん相手になんで苦戦してるのよ!!」

ヒステリックに叫ぶサラを抑えるように、晶や詩織が抑えた。

「サラちゃん、落ち着いて!」
「相手が強いんだってば!」

声を揃えて宥める同級生たち。だが、サラは収まらない。

「相手が強いくらいもう分かったよ! でも、姉ちゃんはわたしの目標なの。わたしが勝つまで、姉ちゃんには強いボクサーでいて欲しいの……」

立ち上がった椅子へ座り、サラはようやく鎮まる。これに上級生たちは無言を通したが、サラの気持ちは痛い程伝わってきた。

皆、ナミを強いボクサーのままでいて欲しいと思っているのだ。

「アイツが簡単に負けるわけねーだろーが。とにかく観てろ」

仏頂面で腕を組みながら、諭すような柊の静かな一言。これにより、皆は再びリングへ視線を戻すのだった。
 


 ニュートラルコーナーへ追い込まれたナミは、やはり梨佳子の猛攻に対し劣勢を演じていた。いや、演じざるを得なかったというべきか。
第2Rも完全に梨佳子ペースで、動きがさらに鋭さを増してきている。
逆に、ナミはこの展開を覆す機会……即ち、逆転の1発を打ち込めないでいた。
幾つかパンチは入っているが、梨佳子の勢いを止める程のものではない。
コーナー際での攻防はほぼ互角の打ち合いが続いていたが、宗観や敦史は内心肝が冷える思いであった。

このままコーナーからの脱出が出来ない場合、もし打ち負ける事態になれば文字通り逃げ場はない。
そうなれば梨佳子のめった打ちに遭うのは必定で、最悪レフェリーストップ……試合終了という可能性も大いにあるのだ。
依然、ナミにとって厳しい時間帯であった。

「いけー、高原ぁーー!」
「KOだーーッ!」

梨佳子を応援する観客から、KOを期待する声援が徐々に高まっていく。
コーナー際での激しい打ち合いが続くうち、ナミは次第に押され始めた。

コーナーに追い込まれ、脱出しなければというプレッシャー。

背後をコーナーマット、両脇をリングロープに囲まれ思うようにパンチを振るえないもどかしさ。

そして何より、眼前で激しさを増していく梨佳子の手数が、彼女の得意なコンビネーションを結果として封じていたのである。



バクンッ!



ナミのコンパクトな左ボディーフックが梨佳子の脇腹を叩く。
連続で右ボディーフックを叩きつけるも、流れを手離すまいと梨佳子は左のショートアッパーでナミのアゴをかち上げた。

「かふッ」

小さく拳を振り抜かれ、脳を縦に揺らされたナミは視界がブレて珠の汗を飛散させる。

(やば……)

遅効性のボディーブローに比べ、アッパーは綺麗に決まれば1発でKO出来る可能性が高い。
さすがに意識を断ち切られる程ではなかったものの、全身を電流が駆け巡ったように動けなかった。

「もらったぁ!」

勿論、この千載一遇のチャンスをみすみす棒に振るような梨佳子ではなく、動きの止まったナミへ一気にとどめの右ストレートを放つ。
間一髪それを掻い潜り、ラグビーのタックルよろしく腰元へ抱きついた。

「はぁ、はぁ……」

息を荒げ、梨佳子の脇に腕を差し込むような形でクリンチしパンチを打ちにくくする。
さり気ない動作だが、これも立派なクリンチワークというべきだろう。
梨佳子側としては、ここは一刻も早くナミを振り解いて再びラッシュを仕掛けたい所。
だが、陣営の思惑とは裏腹に、クリンチされた当の梨佳子は特にリアクションを見せない。
いや、それどころか敢えて自ら身体を密着させた。
消耗し呼吸を整えるナミの右肩へ、アゴを乗せるように顔を近付けた梨佳子は一瞬だけ眉をしかめた後、その耳元へ囁く。
ナミにだけ聞こえるような小さな声で。

「はぁ、はぁ、ナミ……本気出してよ。それとも、もしかしてこれで本気なの?」

「え……?」

「もしこれで本気、だっていうんなら」

ここで一旦言葉を切り、レフェリーの「ブレイク!」という指示に絡めた腕の力を緩める。
そして、突き放しざまに決定的な一言を言い放った。

「……がっかりだよ……」



 梨佳子の、まず圧倒的といっていい優勢に観客が沸き上がる中、レフェリーによってクリンチから離れた所で第2Rは終了。
悠然と赤コーナーへ引き揚げる梨佳子に対し、ナミは若干腫れ始めた顔に屈辱の化粧を施し青コーナーへ歩いた。

(くやしい……)

スツールに座るなり、マウスピースを引き抜かれ下を俯く。

……がっかりだよ……

つい今し方聞かされたばかりの梨佳子の言葉が、頭の中で反芻される。そんな項垂れたナミの頭へ水をかけながら、宗観は顔の腫れの目立つ箇所へアイシングしつつ口を開いた。

「らしくないな。全く君らしくない試合内容だ、ナミ君。完全に相手にコントロールされている……いつもの勝ち気はどうした?」

語気は決して強くないが、いつもの寡黙な宗観とも違う。

「はぁ、はぁ、すみません……」

頭からかけられた水が額や頬を伝い、ナミは自然と謝る。梨佳子の言葉は、確かにナミのボクサーとしてのプライドを傷付けた。
頭からキャンバスへポタポタ落ちる水のようには、簡単には流れてくれない。だが、この悔しさは本人に返してやりたかった。

勿論、実力で!

「結構打たれましたけど、まだ大丈夫です。まだ、やらせてくれるんですよね?」

顔を上げ、覗き込むような宗観を見上げる。今までの迷いのようなものが吹き飛んだ、いつもの力強さに溢れた瞳だった。

「あ…? ああ。ふッ、ようやく覚悟が決まったようだな。だったら細かい指示はいらない、やるべき事をやれ」

「はいッ!」



カァァァァァンッ!



 試合は第3R、中盤戦へ突入した。序盤戦は、ほぼ一方的な梨佳子ペース。アマチュアで名を売ったナミを、圧倒してきたといっていい。
それは自ずと判官贔屓を誘発させる。観客の半分以上は、今や無名の梨佳子がアマチュアエリートに勝つ姿を期待していた。

ジリジリと様子を見るナミに対し、梨佳子は変わらず勢い任せの攻勢を仕掛けていく。
或いは、このRで決着がついたかも知れない。
だが、皮肉にも梨佳子の浴びせた痛烈な一言が、ナミの精神的葛藤を取り去ってしまった。
ナミの中に、昔の“弱い存在だった”上原 梨佳子はもういない。

今いるのは、本気で倒すべきプロボクサー・上原 梨佳子!

「どうしたの、ナミ。このまま終わりなの!?」

左ジャブを主軸に、ナミへパンチを浴びせていく梨佳子。
ガードを固めクリーンヒットだけは許さないものの、やはり手が出せず防戦一方の様相を呈していた。

「手を出せ! スタンディングダウンを取られるぞ!?」

キャンバスを平手でバンバン叩きつつ、青コーナー下から宗観の怒声が飛ぶ。
彼の指摘も尤もで、リング上ではレフェリーが止めそうなくらいのワンサイドゲームと化しつつあった。
変わらぬナミのピンチに、サラはより大きな悲鳴じみた声援を上げ越花らも気が気でない様子を見せている。

会場を覆う、梨佳子のKO勝ちを望む気運。
そんな中、腕を組み黙って観戦していた柊が口を開いた。

「やるなぁアイツ……」

「え……柊ちゃん、それってどういう意味?」

晶と隣り合って席に座り、ナミのピンチにハラハラしていたアンナが偶然にも柊の呟きを耳にしたらしい。

「いや、下司のヤツ、もらってねーんだ……1発も」

あくまで試合に集中しているせいか、柊の回答は何とも具体性に欠ける。
だが、アンナとてボクサーの端くれ。柊の言わんとする意味はすぐに理解出来た。

「もらってない、って事は、もしかしてナミちゃん」

反撃のチャンスを待ってる!? とアンナが口にした瞬間、会場内がひと際大きな歓声で震える。
何事かとリングへ視線を戻すと、つい今まで果断に攻め立てていた筈の梨佳子が、ナミの目の前で四つん這いにダウンしているのであった。





to be continued……
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Author:チャパロット
基本的に携帯サイトで書かせて頂いているもののリメイク(?)ですが、ちょくちょく文を変更してたりします(あと拙いですが自作絵なども)。
何かある方は、ckcwb305あっとまーくsutv.zaq.ne.jpにご連絡下さい。

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