スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

第39話 『ナミvs梨佳子、プロデビュー戦(1) 眩しいライトの下で』

 プロボクシング編、第39話です。


<拍手返信>
・ぴーこ様:越花がどう思っているかは別として、少なくとも千秋の方は彼女にライバル意識を持った事でしょう。
そしてやはり裕くんは爆散すべきかw

いよいよ勝負の時が迫ってきたナミと梨佳子。妙に自信ありげな梨佳子の実力やいかに……?





ナミと梨佳子、小学生の頃から親友だった2人は、意外な形での再会を果たした。お互いにプロボクサーとなり、初勝利を賭けて雌雄を決する対戦相手として……
そして、前日計量の場で顔を合わせた梨佳子は、記者たちを前に言い放った。

「絶対にKOで勝ちますから」









 後楽園ホールの一室、青コーナー側控え室。雑多に混み合った人溜まりの中、ナミの姿はそこにあった。
この日の為にと、兄弟子たる植木 四五郎がプレゼントしてくれた試合用コスチュームに身を包み、メインセコンドとなる吉川 宗観にバンデージを両拳へ巻いてもらう。

「どうだ? ナミ君」

キツくないか、と言外に訊ねてくる宗観に「はい、大丈夫です」と頷く。昨晩は、思っていたよりスッキリとよく眠れた。
今も、不思議と落ち着いている。寧ろこの落ち着きようが気持ち悪いくらいだと、つい他人事のように思う。

朝、携帯電話にメールが届いていた。柊からだった。珍しいなと思いつつ、画面を開く。


『ともかくがんばれ』


デコレーションもなにもない、あまりに素っ気ない一言だけが画面を占領していた。

朝から声を出して笑った。柊らしいと思った。何故か、それでナミは気持ちが晴れたような感覚を覚えたのである。

ここまでくれば、後は闘うまでだ。



 インスペクター(監査員)によるバンデージチェックも済み、拳をグローブへ通していく。コーナーの色に合わせた、鮮やかな光沢を反射させた青色のグローブ。
アマチュアのものより小さくなったそれを暫し眺めた後、宗観と向かい合い向けられた掌へパンチを放ち始めた。
パンッ、パシンッ、と肉を打つ革の音が控え室に響く。他の選手との相部屋の為、あまり大きな動きは取れない。
コンパクトなパンチに終始し、自身の出番まで待った。

「よし、この辺にしておこう」

程良く汗をかき身体の暖まった頃合いを見て、宗観がナミにストップをかける。その言葉に従い、ナミはパンチを止め足踏みのようにその場でフットワークを踏んだ。

「にしても、また派手なコスを選んだもんだな。四五郎の奴も」

一歩引いてナミと宗観のやりとりを見ていた会長、山之井 敦史が腕を組みながら教え子の格好をまじまじと見る。

エメラルドグリーンのスポーツブラに、同色のトランクス。
黄色いベルトラインから前後に分かれたサテン生地がスカート状に翻り、その下には黒のスポーツ用スパッツを穿く。
そして、足には白を基調に金糸で刺繍されたショートタイプのリングシューズ。

「プレゼントされた時は普通に可愛いなって思ったんだけど……改めて見てみるとホント、四五兄ィの趣味出てるわよね」

舌をチロッと出し、やや恥ずかしそうに自分の身体を覆う生地に視線を落とすナミ。

「いや、まあ……似合ってると思うぞ」

照れ臭そうに鼻の頭を指で掻きつつ、宗観は気難しい表情で褒める。そんな事をしているうちに、控え室のドアが静かに開け放たれ係員が姿を現した。

「第5試合、始まります。下司選手、準備して下さい」



 薄暗い通路の中を、敦史を先頭にナミ、宗観、女性トレーナーの池田の順で進む。物静かな廊下に、コッコッと靴の音がひと際甲高い。
ふと見た脇の壁には、拳大の不自然な痕が幾つも浮かび上がっていた。
それは不安を紛らわす為、数多のボクサーがパンチを打ち込み刻みつけてきた痕である事を、ナミは知っている。
実際、ナミもU-15の全国大会に出場した時に不安を抱え、この壁へ軽くパンチを打ちつけた経験を持っていた。
験担ぎといった心境で壁へ2、3発打ち込むと、昂る気持ちを鎮め歩を進めていく。

階段を上り、静寂の支配していた通路を進んでいくと、やがて小さな歓声がナミの鼓膜を刺激。やがてそれは音量を増し……



ワアアアアアアーーッ!!



リングへと続く花道に姿を現したと同時に、まるで耳をつんざく程の大音量となった。

「ナミちゃ~~ん!」
「下司さーん、頑張れーー!」

会場から、越花を始めとした部員たちの声や卒業した大内山 由起、かつてI・Hで激闘を繰り広げた中学時代の先輩・中村 香澄らの声、さらには我聞 鉄平や馬剃 佐羽らといったジムメイトの声援までが見える。
そして……

「ナミ坊ッ、落ち着いていけぇ! 大事なデビュー戦だ、絶対落とすなよーーッ!!」

部員たちの輪の中から、ひと際大きな植木の激励が飛んできた。声のした方向へ軽く左拳を上げて応え、ナミは歓声渦巻くリングへの道を歩いていく。

花道の終着点、即ちこれから舞台となるリングを見上げつつ、足元に置かれた箱の中へ入りその場を何度も踏み締める。
リングの上で滑らないよう、松ヤニを靴底へ馴染ませるのだ。

「ナミ君」と一足先に階段を上がった宗観がロープを広げてくれ、ナミに上ってくるよう誘導。
カンカンと鉄の階段を踏む甲高い音が響き、広げてくれたロープを潜り……世界チャンピオンを目指す少女はその第一歩となるプロのリングへと躍り出た。

「これが……プロのリング………?」

四方から振り注ぐ眩いまでの照明。耳をつんざく程の大歓声。視界一面に広がる、やや薄汚れた白いキャンバスや四方を囲むコーナー、4本のリングロープ。

「後楽園のリングなんて、これが初めてって訳でもないのに……なんか違う」

U-15の全国大会の時も、プロテストの時にもこのリングに上がった。ただ、ここまで熱の入った声援はなかった。
まるで、全く知らないアウェイの地に来たかのような違和感。
ヘッドギアのないクリアな視界も、逆に不安を感じさせる。
そんな中、反対方向からひと際高い歓声が上がりナミは浮き上がっていた意識を現実へ引き戻された。

セコンド陣に囲まれた梨佳子が姿を見せ、観客席からの応援にも反応せずリングへ向かってくるのが見えたからだ。
ナミと同じく松ヤニをシューズの底へ馴染ませ、階段を上りロープを潜ってリング内へ舞い降りるその姿は、嫌が応にもナミを緊張させた。



 リング中央でレフェリーからの諸注意を聞く間、ナミと梨佳子はお互いに視線を外さなかった。身長にして、ほんの少しナミが上だろうか。

白地に黒のサイドラインの入ったスポーツブラ、同色で揃えた膝丈までのトランクス。
一転して黒に赤のメーカーロゴをあしらったショートタイプのリングシューズ。

やや汗ばんだ身体を見れば、開始から飛ばしてきそうな雰囲気を醸し出している。
全身についた張りのありそうな筋肉は、梨佳子がどれだけ真剣にボクシングと向き合ってきたのかを雄弁に語っていた。

「では、お互いクリーンなファイトを心掛けるように」

レフェリーの合図と同時に、2人は自身の両拳を相手と軽く突き合わせ各コーナーへ下がっていく。
青コーナーへ戻ったナミは、コーナーマットへ背を凭れさせ宗観と向き合った。

「情報が極端に少ない、全く未知数の相手だ。ただ、B級テストにジム推薦で1発合格した程だし、向こうの会長も太鼓判を押して挑んできている。まずはリングの感触に慣れるのを兼ねて中距離を維持。左で様子を見ていこう」

宗観の戦術に、ナミは「はい!」と頷く。ナミも概ね同意見だった。

「ただ今より、女子48kg契約、6回戦を行います」

リングアナから、マイク越しにコールが上がり自然と客席からの声が静まる。

「青コーナー、107ポンド4分の1ぃ…山之井所属、下司ぁ……ナミィ!」

リングコールに合わせ、ナミはコーナーから少し前へ進み四方の観客席へお辞儀。
女子としては有名なナミのコールに、知り合い以外からも歓声が沸き上がった。

「赤コーナー、106ポンド4分の3ん…天川(あまかわ)所属、上原ぁ……梨佳子ぉ!」

対する梨佳子は、リングコールに合わせ右腕を僅かに掲げたのみ。観客へ向けてアピールをするでもなく、かといって応えられない程に緊張している、といった風でもない。
力強い光を放つ梨佳子の両眼は、ひと時も離れる事なく対角を……即ち、これから勝敗を賭け殴り合うナミへと向けられていた。

早くゴングを鳴らせ

そう訴えているかのような表情であった。

「セコンドアウト」

会場にマイク越しのアナウンス。マウスピースを銜えさせて貰い、位置を微調整しつつ上歯へ押し込む。
軽く目を閉じ胸元で両拳を打ち鳴らすと、瞼を開け視界の中の一点だけを見つめる。そして……

(梨佳子、勝負よ!)



カァァァァァンッ!



ナミにとって、梨佳子にとって、プロ初勝利とプライドを賭けた重い1戦の火蓋は切って落とされた。



 リング中央で右拳を軽くタッチするや、両者は一旦距離を開けた。ナミ、梨佳子、共に右構えのオーソドックススタイルで、左側へサークリングしつつ様子を窺う。
リング内を蹴るシューズの摩擦音がやけに鼓膜を刺激する中、梨佳子が強襲してきた。

「くッ!」

つい今まで頭のあった場所を、梨佳子の左ジャブが穿つ。
さらに2発、梨佳子が踏み込んでジャブを放ってきた。
1発をスウェーバックで、もう1発をヘッドスリップでかわす。
しかし2発目は完全にかわし損ねたのか、左耳の辺りの髪がバサッと乱暴に跳ねた。
左耳に微かな痺れが走る。

「シュッ、シッ!」

ヘッドスリップで崩した体勢を戻しざま、ナミも負けじと左ジャブで応戦した。
ジャッ、とグローブにごく僅かな感触。
ナミの返したジャブのうちの1発が、クリーンヒットこそなかったものの梨佳子の頬を掠ったようだ。
薄紙1枚程度の差で緒戦の刺し合いは制したものの、クリーンヒットはなし。
梨佳子は取り乱した風もなく、果敢に肉薄し左ジャブを主軸とした攻勢を仕掛けてきた。

梨佳子のパンチは速く、またコンパクトな連打に打ち返す隙が見出せない。
肩の動きと視線でストレートが飛んでくると踏んだナミは、すかさず顔面をグローブで覆いガード。
しかし、次の瞬間梨佳子のパンチはがら空きの腹に刺さっていた。

「くはッ」

ストレートのモーションはフェイント、梨佳子の本命は左ボディーアッパーだったのだ。
腹筋でダメージを抑えて尚、ズシンと響く鈍痛。
スピードだけでなく、梨佳子はパンチ力もあるらしい。

(くッ、やられた)

あっさりとフェイントに惑わされてしまい、本当の意味でのオープニングヒットを許してしまったナミ。
逆に勢いに任せ、梨佳子はさらなる攻勢を仕掛けるべくプレッシャーを掛けつつワン・ツーを放ってきた。
ここで押されると、ペースは完全に梨佳子に掴まれてしまう。
そう直感したナミは、ワン・ツーをかわしカウンター狙いの右フックを返した。
しかし……



バクンッ!



さらに飛んできた梨佳子の左ストレートの方が速く目標へ到達、ナミはカウンターで右頬を思い切り押し潰されてしまった。

「がほッ」

衝撃で顔の肉が波打ち、バランスを崩し2歩ほど後ずさってしまう。
これがこのRに於ける明暗を分けたようで、完全に勢いに乗った梨佳子は凄まじいまでのラッシュを仕掛けてきた。
その姿は、さながら獲物に牙を剥き爪を突き立てる猛禽類のよう。
カウンターのダメージもありリズムも狂わされたナミは、身体を丸めひたすらガードに徹する。
直感通り、流れは完全に梨佳子へ傾いてしまった。
ガードを固めながらも、隙を見つけては捌いて距離を取ろうとするも、流れに乗る梨佳子の食いつきはしつこく逃れるのは困難。
それを物語るように、梨佳子のパンチは度々ナミの顔面を捉えていた。

反対に、ナミの繰り出す反撃は梨佳子にヒットしない。

(くそッ、当たらない)

梨佳子は、自分の思っていた以上にレベルの高いボクサーになっていたようだ。
リズムに乗れず、ペースを掴まれたまま防戦一方の状態が続き、ナミは徐々に焦りを感じてしまう。

「シュッ!}

心の中に芽生えた焦りを払拭するように、ナミは右ストレートを打ち返す。
ともかく、1発当てて流れを引き戻さない事にはジリ貧のまま。
そう思うあまりの、これは無理な反撃であった。



バンッ!



放った右拳に鈍く伝わる感触。グローブの先には鼻っ柱を殴られた梨佳子の姿がある事だろう。
しかし、それを確認する事は叶わなかった。

「ぶひゅうッ」

殴った感触と共に、左頬を殴られた衝撃も伝わってきたからである。
ナミのストレートと、梨佳子の放った右ストレートが相打ちになったのだ。
頬肉を押し潰され、タコ口にさせられた隙間から唾液の珠が噴き出す。
視界が揺れ、踏ん張りが効かなくなったのか膝がカクッと折れる。

がむしゃらにバックダッシュしながら腕を伸ばし、ロープに無理やり身体を預ける事で、ナミは辛うじて膝折れを回避した。

「なにやってんだ!? 動きがバラッバラじゃねーか下司ぁ!!」

予想外に苦戦しているナミの姿を見兼ねたのか、観客席の柊が声高に叫ぶ。
柊の張り裂けるような叱咤を皮切りに、他の部員たちや香澄たちからも一斉に声援が上がった。
誰もが、ナミの動きが本来とはかけ離れたものだと感じていたのだ。

いつもの果敢さが見られない

梨佳子がそれだけ巧いのかとも考えられるが、それを差し引いても精彩を欠く動きにしか映らなかった。
お互いのストレートで顔面を穿った2人だが、それまでに受けたダメージ差からか、梨佳子の方がいち早くリカバー。
ロープを背負った形のナミへ一直線に向かった。

「ぐッ、はぅ!」

ガード越しに打ち込まれるパンチが、ナミの身体をロープへ押し込む。
ギシギシとロープの軋む音、グローブを叩く革の打撃音、リング外から押し寄せる声援、その三重奏がナミにさらなる焦りを助長させる。
幼馴染みの、予想を遥か上回る実力に辟易しつつ、パンチの雨を辛うじて捌くと同時に左のショートフックを被せ、危地から脱した。

「シッ、シュッ」

ロープ際から脱したナミは、すかさずワン・ツーでフォロー。
当たりは浅かったが、梨佳子の顔面を打った隙に距離を離す。



カァァァァァンッ!



梨佳子がナミへ迫ろうとした所で第1R終了のゴングが鳴り、レフェリーが両者へ割って入った。
こうして、2人のデビュー戦は梨佳子有利のまま、第2Rへ移行していくのであった。





to be continued……
スポンサーサイト

コメント

Secre

プロフィール

チャパロット

Author:チャパロット
基本的に携帯サイトで書かせて頂いているもののリメイク(?)ですが、ちょくちょく文を変更してたりします(あと拙いですが自作絵なども)。
何かある方は、ckcwb305あっとまーくsutv.zaq.ne.jpにご連絡下さい。

最新記事
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QRコード
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。