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第38話 『デビュー戦、迫る』

 プロボクシング編、第38話です。



<拍手返信>
・ぴーこ様:今回は見事に越花がリベンジを果たしました。そして裕也とは恐らく学校内でも割と有名なバカップルとして語られているかと。そしてそれを見る度、雪菜が歯ぎしりする……というコント的展開がw





光陵高校vs大室高校の合同練習試合も大詰め。新主将、越花のリベンジマッチは対戦相手、神楽 千秋の実力差に厳しい闘いを余儀なくされる。
窮地に陥った越花は、心のアドバイスを実践。ロープ際でのカウンターアッパーが決め手となり、見事逆転KO勝ちを納めるのであった。













「越花、よく頑張った」
「千秋ッ! 千秋大丈夫!?」

 試合終了を告げるゴングと同時に、光陵高校と大室高校の両陣営セコンドがリング内へと雪崩れ込む。

一方はニュートラルコーナーでぐったりしている勝者を迎える為。
もう一方は、尻もちを着いたままの恰好で呆然としている敗者の様子を確認する為。

2人の少女が織り成した、リングの上の激戦にギャラリーからは惜しみない拍手が注がれていく。賞賛されるような好勝負に、男子や女子といった差別などないのだ。
未だ女子ボクシングに対して否定的な風潮の見られる現状、これで少しでも改めてくれる事を願いつつ、植木は越花をスツールに座らせた。

「只今の試合、3R・RSCで葉月選手の勝ちとなりました」

本格的なアナウンスと同時に越花の片腕が上げられ、再び拍手が巻き起こる。ヘトヘトの様子でそれに応えると、越花はレフェリーを隔てて立つ千秋へ右手を差し出した。

「これで1対1、貸し借りはなくなったね」

赤心を口にし、腫れぼったくなった顔に笑顔を貼り付ける越花。勝者の方からこういう言い方をされて、普通なら腹のひとつも立てようものだ。
しかし、不思議とそういった感情が湧いてこないのは、彼女の持つ雰囲気ゆえなのかも知れない。
そもそも、顔も腫れボロボロになったその姿を見せられては、千秋としても反論のしようがなかった。

「葉月…先輩って、言うべきよね。一応は年上なんだし……私、はっきり言ってボクシングなんて大嫌い」

握手を求めてきた越花へ向かい合い、しかし千秋は下を俯いたままボソボソと口を開く。その肩が微かに震えているのを見た越花は、右手を差し出したまま黙って千秋の言葉を待った。

「でも、誰かに負けたまま辞めるのは逃げたみたいでもっと嫌! だから……」

俯いていた顔を上げ、千秋は凛とした表情で越花の右手を取り、「だから、次は勝つわ!」と強気に伝えるのであった。

またいつかリングで、と再戦を約束し2人はリングを降りる。途中、

「きゃッ」

ロープに足を引っ掛けた越花が盛大にすっ転んだ。

「ちょ、大丈夫!? 越花ちゃん」

瓜二つの容姿の従姉妹、雪菜が慌てて越花に駆け寄り、抱き起こす。

「え、えへへ。脚引っ掛けちゃった。もうヘトヘトみたい」

苦笑いを見せ、照れたように舌を出す越花。千秋との試合は、彼女の心身をそれ程に疲弊させるものだったのだろう。
フェザー級の越花を起こすには雪菜の体格では大変なようで、へたり込んだ身体を何とか起こそうと四苦八苦していた。そこへ、

「雪菜さん、あとは俺が代わるよ」

苦戦している雪菜と代わるように前野 裕也が身体を入れ込む。そして、その身体を両腕で包むように胸元まで持ち上げた。

「……ふえッ!?」

いきなりの浮遊感に、越花は目を白黒させる。それは、所謂“お嫁さんだっこ”の体勢だったからだ。間近に見える裕也の顔に、思わず赤面してしまう。

「ゆ、裕くん、恥ずかしいよぉ」

バンデージを巻いたままの両手をお腹に乗せ、さすがに恥ずかしさでもぞもぞと身体をくねらせる。しかし、裕也はそんな越花を意にも介さず抱き続け、「ちょっと保健室まで送ってくる。ヤナ、後頼むな」と告げ部室を出て行った。

羨望や嫉妬など、多種多様な感情を抱かせたまま退室した光陵の男女ボクシング部新主将たちを見送った後、ヤナこと柳澤 翼(やなぎさわ よく)は誰に聞かせるでもなく独りごちる。

「ふん。見せつけてくれるじゃないか、前野の奴」

わざとらしく髪を掻き上げ、しかし僅かながら笑みを覗かせる翼。そこには、寧ろ良くやったというニュアンスが含まれているかのようだった。

「ぐぬぬ、前野 裕也ぁ……」

一方で、裕也に出番を取られた形の雪菜は歯軋りして悔しがったものの、そちらは他の部員たちに宥められていた。

「まぁいいか。さあ、出番だそ我聞……我聞?」

呼び掛けにも返事のない鉄平の様子に訝る翼。横から顔を覗き込むと、長椅子に座ったままの鉄平は出入口を向いたまま、

「いいなぁ、裕也の奴。俺もあんな風に城之内を抱っこしてぇよ……」

などとブツブツぼやいていた。





 大室高校との練習試合は、プログラムのほぼ全てを光陵高校が制するという形で幕を閉じ、それから1日後。1番の激戦だったであろう越花も、近いうちに病院で精密検査を受けるとの事。
雪菜によれば、それ程心配する事もなさそうだ、という事だった。次はわたしの番だと自身に言い聞かせるナミだが、練習に身が入らない。



バスッ!



「あぅッ」

山之井ジムのリング上に上がり、コンビネーション練習をしていたナミはパンチとパンチの合間に頬を思い切りはたかれた。
メイントレーナー、吉川 宗観の嵌めたパンチングミットによって。

「もっと集中しろ! なんだこのぬるいコンビネーションは? 今のが試合だったら君はKOされてるぞ!!」

身の入っていないナミに、宗観が怒声を浴びせる。

「す、すみませんッ……」

これが試合だったら、間違いなく意識を飛ばされていただろう。あんなに大人しかった、大の親友のパンチによって。
そう、ナミがプロボクサーとして初めて闘うのは小学生時代の親友・上原 梨佳子(うえはら りかこ)なのだ。

前日計量の日まで、もう残り僅か。にも関わらず、未だに梨佳子とグローブを交えるという事実に実感が沸かない。

どれだけ善戦しても負ければそれが結果、全てが閉ざされる。負けたくないから必死に練習するのだと、かつて言い切った。

あれは一体いつだっただろうか。思えば、偉そうな事を言ったなとナミは思う。
いざ自分の身になって、親友と試合する段を迎えて、勝敗以前にリングで向かい合うのすら靄が掛かったように希薄なのだから。

「……もういい、今日は上がれ。ナミくん」

これ以上はやる意味がないと言わんばかりに、宗観はナミを残しリングを降りていく。その後ろ姿を、ナミは無言で見送るのみだった。

「はぁ。なにやってるんだろ、わたし」

クールダウンを終え、ナミはジムワークの締めとして計量台に乗りウェイトを量る。カタンと重りが音を立て、目盛りが示した数字は50.31。
リミットの48.99kgに、まだ1kg以上残っていた。

「これくらいなら……」

計量日までには間に合うだろう、と心の中で呟きナミはシャワー室へ向かっていった。



 4月になった。ナミは最上級生、つまり三年生となったのだが浮かれ気分には到底なれそうもない。昼に前日計量があり、明日にはプロデビュー戦が控えているからだ。
プログラム前半戦、最後から2番目の試合となるので、女子のプロデビュー戦にしては破格の位置。

それだけ、ナミが注目を受けているのか。それとも主催ジム側が梨佳子を売り込もうとしているのか。

「もうチケット取ってあるから、応援は任せてね」

ドンと胸を叩き、どこか頼もしげな雪菜。葉月家で纏めて人数分のチケットを買ったのだそうだ。

「あ、ありがと。頑張るよ」

恐らくは越花の差し金だろう。明日は大事な新入生勧誘の期間ともなるのに、部活自体休止にする徹底ぶりだった。
普通なら、部員たちの応援はナミの活力となる所である。しかし、それを差し引いても梨佳子と殴り合うという現実は、ナミに黒い陰を落とした。
雪菜はそんなナミの陰に気づいたが、敢えて口は出さない。今までと違って、頭部を護るヘッドギアもなければ、グローブも小さくなる。
それは、即ちダメージが増大する証。
嫌でもKO率は増す。
初めてのプロの試合、不安な気持ちに耐えているのだろう……雪菜はそう思う。

これは、幾ら周りが口でどうこう言おうと根本的な解決にはなり得ない。
ボクシングは、後ろでセコンドが就いてくれているといっても、基本的にはやはり1対1の闘い。

身を削って闘うのは、結局はリングへ上がる選手なのだから。

しかし、この時の雪菜の見当は外れていた。



 新学期のHRも終わり、ナミはその足で山之井ジムへ向かう。梨佳子が埼玉県在住な事、お互い高校生である事を考慮し、計量を行うのは東京・後楽園ホールの一室。

時刻も余裕を持って15:00となっていた。

「おう、来たかナミ坊。ウェイトの最終チェックするから準備してこい」

ジムの出入口を抜け受付を通り、2階の練習場へ入ると、会長である山之井 敦史がナミを迎える。本番前に最後のリミット確認をするべく、ナミは言われた通り女子更衣室へ。
制服を脱いで下着姿になると、一応そっとドアを開き敦史以外に誰もいないか確かめてみた。

「ん? 心配するな、誰もいやしねえって。宗観には外で車回してくるように言ってあるから」

手招きでナミを呼び、敦史は計量台へ乗るよう指示。小さい頃から面倒を見てもらって、全幅の信頼を寄せる敦史でもさすがに下着姿は恥ずかしく、縮こまった仕草でちょこんと台に乗った。

目盛りが止まり、指し示した数字は48.85。ギリギリだがパス出来る数字であった。

「OK、これなら大丈夫だ。じゃあ行くか」

リングに立つ資格は得たと、敦史は皺のある顔を綻ばせナミに向ける。それに釣られるように僅かな笑みを覗かせ、ナミは再び制服に着替え外へ。
暖気していた車の運転席から宗観が姿を現し、3人は東京へ向かうのであった。



 後楽園ホールの一室、女子高生同士のプロデビュー戦という触れ込みで話題を博しているのだろう。ただの計量なのに、新聞記者らしき人たちが結構な数詰めていた。
そんな中、ナミはいよいよ幼馴染みの親友と再会する。

「梨佳子……?」

呟きが聞こえたのか、濃紺のセーラー服に身を包んだ1人の少女が、ナミと目線を絡ませてきた。
ばっさりとボーイッシュに切り揃えられた髪型に昔の名残は見られないが、左目尻に浮かぶ泣きぼくろは間違いなく梨佳子の面影を残すものであった。

「久しぶり、ナミ。驚いたでしょ? まさかあたしがプロボクサーになって貴女の前に立つだなんて」

梨佳子が口を開く。しかし、そこには明らかな敵意が混じっていた。
眉を吊り上げ、半ば睨み付けるような梨佳子の全身から、どこか冷ややかな闘志が漂っているようにも見える。

(梨佳子。わたしと殴り合う覚悟はとっくに出来てるって訳?)

幼馴染みの固い決意に比べ、ナミは未だに殴り倒す程の覚悟には至っていない。自分の中の梨佳子はあくまで『守る対象』であって、本気で殴り合う対象とはどうしても捉えられないのだ。

こんな心情を知ったら、梨佳子は自分をさぞ軽蔑する事だろう。
普段のナミらしからぬ活気のなさに小さな溜息を吐き、宗観は教え子の尻を叩く。

「いッ!? よ、吉川コーチ……」

突然お尻を叩かれた事に驚き、素っ頓狂な声を上げ宗観の方を見るナミ。
ビビるな、と言われたような気がした。



「下司選手……48.85kg。リミットOKです」

 計量台に乗ったナミは、パスの宣言に思わずガッツポーズを見せる。何はともあれ、これでリングに上がる資格が出来たのだ。
試合に出られる安堵や、嫌でも梨佳子と闘わなければならなくなった不安とが、心の中で渦巻いているのを深呼吸で落ち着かせ制服に腕を通す。
お互い制服姿に戻った所で、眩いフラッシュを焚かれ記者たちが群がってきた。

「幾つか質問させて貰っていいかな? 今回女子高生同士、しかもお互いにデビュー戦って事で注目を受けてるんだけど……2人とも実は幼馴染み、って噂は本当?」

記者の言葉に、ナミは一瞬身を強ばらせる。その一方で、梨佳子は平静な仕草で質問した記者へ正対。返答を始めた。

「よく調べましたね、そんな事。はい、あたしとナミ……下司選手とは小学生の時の親友でした」

記者たちからざわめきが上がる。それは対戦を盛り上げる絶好のスパイスだったからだ。
どちらも女子高生かつデビュー戦、しかも互いに幼馴染みとくれば、宣伝材料としては文句なしの一級品といえよう。
しかも、ナミがI・H優勝経験者であるのに比べ梨佳子はまるで無名という対照的な存在。
日本人の判官贔屓を引き寄せるに、これ以上のシチュエーションはない。

しかし、判官贔屓はともかく一抹の不安は過ぎる。

「上原選手、失礼ですが相手の下司選手は昨年のI・Hで日本一に輝いた実績もある、本物の実力者です。勝算はあるのでしょうか?」

ある記者から、尤もな質問が投げかけられた。梨佳子の陣営がナミをわざわざ指名した、というのは既に周知の事実である。

「彼女がI・Hで優勝出来たのも、あたしが出てなかったからです。ご心配なく、明日は絶対KOで勝ちますから!」

自信満々の笑みを見せ「明日を楽しみにね」とナミを一瞥すると、梨佳子はセコンド陣と共に部屋を出ていく。
泣いても笑っても、運命の試合は翌日に迫っていた。





to be continued……
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コメント

No title

ツンデレ?wにならないといいねー、頑張って梨佳子ちゃんwww

…とようやくコメント書き込めた…wiiのセンサーバーがくるってまともに文字書けない状態が…。
センサーバーって店に売って無いようで任天堂に問い合わせて購入wwww

Re: No title

ナミよりその幼馴染みの方を応援とな!? 哀れ主人公w
なにやら色々と大変だったようですが、復旧されて何よりです。
Secre

プロフィール

チャパロット

Author:チャパロット
基本的に携帯サイトで書かせて頂いているもののリメイク(?)ですが、ちょくちょく文を変更してたりします(あと拙いですが自作絵なども)。
何かある方は、ckcwb305あっとまーくsutv.zaq.ne.jpにご連絡下さい。

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