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第37話 『越花の闘い ~vs神楽 千秋~』

 プロボクシング編、第37話です。


<拍手返信>
・ぴーこ様:ナミのデビュー戦の相手は、何の因果か小学生の頃の親友となりました。本当にやりにくい事この上なさそうです。
そして密かに越花の試合を期待されていたそうで……お待たせしました!
練習試合ではありますが、I・Hでのリベンジマッチという事で気合い入りまくってますので、どうかお楽しみに。





光陵高校と大室高校、男女合同の練習試合が始まった。この日に備え猛特訓を重ねてきた女子部新主将・葉月 越花は対戦相手、神楽 千秋へのリベンジに闘志を燃やす。
一方、頼まれて嫌々エントリーされた千秋は、心底面倒そうに溜息を繰り返していた。















カンカンカンカンカンカーン!



 今日何度目かの、けたたましく鳴り響く試合終了の鐘の音。2012年、3月。光陵高校と大室高校との男女合同練習試合は、プログラムのほぼ8割を消化した。
試合の殆どを光陵側が勝利し、格の違いを見せ付ける形で流れている。

女子も、下司 サラが判定負けを喫した以外は全て勝ち星を飾っていた。

そんな中、いよいよ女子ボクシング部新主将・葉月 越花の出番となった。
彼氏である男子ボクシング部新主将・前野 裕也に肩を揉まれ、椅子に腰掛けた越花はリベンジの炎を瞳に宿す。
その瞳の向く先には、既にグローブとヘッドギアを着け臨戦態勢の整った対戦相手……一年生の神楽 千秋の姿。

「越っちゃん、1回負けてるからって気負うな。いつも通りの動きが出せれば勝てる、絶対!」

優しく肩を解してくれる裕也の手に軽く手を添え、アドバイスに対し一つ一つ頷いていく。

「うん…うん、分かった。行ってくるね、裕くん」

赤コーナーに越花が、青コーナーに千秋が、それぞれ陣取りセコンドの指示を受ける。

「それでは、女子フェザー級2分3Rを開始します。1回目……」

委員会役員からのアナウンスが入り、マウスピースを口に含ませると両陣営のセコンドがリング外へと出る。
程なくして……



カァァァァァンッ!



注目の試合が始まった。



 ヘッドギアの隙間から流れるロングヘアーを絶えず揺らし、2人のボクサーはリング内をリズミカルに蹴っていく。
お互い右構えのオーソドックススタイルで、隙を窺うように一定の距離を保つ。
キュッ、キュッ、とキャンバスを蹴るシューズの摩擦音がやけに響く中、最初に仕掛けたのは千秋だった。

「シュッ!」

試合開始から約20秒、千秋の放った左ジャブが越花目掛けて襲い掛かる。
バスッとやや鈍い音。千秋のパンチは、越花のガードによって阻まれていた。
続いて2発、3発、4発と連続でジャブを打ち込む千秋。
越花は、それらを全てブロッキングで凌ぐ。

「シッ!」

お返しに左ジャブから右ストレートのワン・ツーを返していくものの、千秋は既に射程外へと退避していた。
攻守の切り替えの速さは、さすが父のスパルタ指導を受けてきた賜物というべきか。

「シュッ、シシュッ!」

一旦は距離を離した千秋だが、越花のワン・ツーをかわすと一転し一気に間合いを詰める。
右ストレートを打ち切り腕の伸びた体勢の越花目掛け、逆に右ストレートを打ち込み左ストレートと右フックを被せた。

「ぶッ、ぷぷぅッ!」

小気味良い3発の殴打音が顔面で爆ぜ、ヨロッと後退してしまう越花。

「速い!」

千秋のスピーディーなヒット・アンド・アウェイに、思わず雪菜が感嘆の声を上げる。
ナミに比肩する実力の雪菜からこの言葉が漏れた事は、即ち千秋の実力が本物であるとの証拠に他ならない。
案の定、その後も機を掴んだ千秋が一方的に越花へパンチを振るっていった。

「くッ、うぅ……」

いつの間にかロープへ詰められた越花は、猛威を増す千秋のパンチの雨になす術なく亀のようにガードを固めるばかり。
接近戦ではせっかくのスイッチも万全に機能しない。というより、そもそもスイッチの暇すら今の越花には与えられていなかった。

「この、ぉッ」

黙ってガードに徹したままでは、一方的にダウンを取られてしまう。ここはリスクを承知の上で、越花は打ち合う選択をした。



ガッ!



越花の放った左ジャブと千秋の放った左ジャブが、同時に相手へ着弾する。
続く右のパンチも互いの頬を穿つ。
両者とも軽く仰け反り、だが闘志を剥き出しにパンチの応酬を始めた。



カァァァァァンッ!



どれくらいの間を打ち合っただろうか。第1R終了のゴングとほぼ同時、レフェリーが両者を分けるように身体を割り込ませた事で、漸く2人は手を止める。
荒い呼吸のまま、越花と千秋は無言でグローブを打ち合わせ各々引き揚げていった。



「よし、よく耐えたね。ほら、口開けて」

 スツールにお尻を乗せ、コーナーマットに背を預けた越花の正面で中腰になった心がすかさずマウスピースを上歯から外す。
ヘッドギアから垂れてきた前髪を指で払いのけてやり、ウォーターボトルを口元にあてがった。

「ん……ペッ…はぁ、ふぅ、さすがに速いよ」

うがい水を吐き、やや苦しげに越花は対角の青コーナーを見やる。ふと、千秋と目が合った。向こうも越花の事を見ていたようだ。

「速いし上手いけど、私だってあれだけ練習を重ねてきたんだもん。負けないよ」

太ももを入念に手の平で揉み、筋肉疲労を抜いてくれる心へ言い聞かせるように呟く越花。自分の仕事を忘れずきっちりこなしながら、心は無言で親友の方を向き、小さく頷いてみせた。

「分かってる。とにかく、あんたの最大の武器が発揮出来るのはミドルレンジ。ジャブを厚めにして懐を取らせないよう注意。いい?」

心の指示に大きく頷いてみせ、越花はマウスピースを銜えさせて貰うとそのままゆっくりスツールから立ち上がる。
顔をポスポス叩き、気合いを入れるとファイティングポーズを構えた。



 第2Rが始まった。再びリング中央で対峙した越花と千秋は、最初と同じく互いの隙を窺うように静かなプレッシャーを掛けていく。

「シュッ!」

越花がふと“右ジャブ”を数発放つ。いつの間にか左右逆にスイッチしており、これに距離感を誤った千秋はまともに顔面を叩かれた。

「ぶぅっ」

顔へ響く衝撃に、頬や額に浮かんでいた珠の汗がパッと飛び散っていく。

(右!? 入れ替わったのに気付かなかった)

クリーンヒットを許した事と越花のスイッチに全く気付かなかった事、二重の意味で歯噛みしつつ千秋は一旦距離を開ける。
スピードもテクニックも、自分が負けているとは千秋は思わない。
パワーに関しては互角かも知れないが、そこはキャリアも含め幾らでもカバー出来る。
しかし、身長差・リーチの差は少々厄介だ。スイッチを巧みに活かし中距離以上での刺し合いを徹底されれば、負けはしないまでも勝ちに行くのは骨が折れる。

ボクシングを嫌う千秋に、判定までのんびり殴り合う気など毛頭なかった。機を見て一気に相手をKOしてしまって、さっさとリングを降りたい心境なのだ。

(面倒くさい。いいわ……ちょっとは殴られるだろうけど、一気に終わらせてこんな所とはさよならしよう)

間合いの外で構えたまま、千秋は小さく溜息をひとつ。そしてキッと越花を睨みつけるや、姿勢を低め一気に間合いを詰めていった。

「ッ!?」

来たッ! 越花は瞬間的にサウスポーのまま気を入れ集中し、迫る千秋へ右ジャブを連射。
何発ものジャブをガード越しにぶつけられ、しかし千秋は脚を止めない。
そして飛び込んだ懐。千秋はその低い姿勢のまま、越花の腹へ左ボディーフックを打ち込んだ。
左拳に、肝臓を強打する鈍い感触。と同時にテンプル……所謂こめかみへ鈍器の如き左拳が振り下ろされた。

「がッ!?」

一瞬、平衡感覚が失われる。千秋が越花の肝臓を穿ったと同時に、越花も千秋のこめかみへ打ち下ろしの左ストレートを打ち込んでいたのだ。

「ぐえッ……」

初めて打たれたレバーブロー、その焼け付くような感覚に越花は目を見開き動きを止めてしまう。
肝臓とこめかみ、どちらも人体の急所ながら、ここでヘッドギアの有無が命運を分けた。
即ち、千秋の方がいち早く体勢を立て直し、右ストレートを叩きつけたのである。



バクンッ!



千秋のグローブが、ヘッドギア越しに越花の左頬を押し潰す。無防備な越花は声にならない声を漏らし、唾液の糸を垂れ落としながらその場で割座の恰好に座り込んでしまった。

「ダウン! ニュートラルコーナーに」

2人の間にレフェリーが割って入り、千秋に下がるよう促す。
越花のダウンに、ギャラリーと大室高校陣営がワッと湧き上がる。

「越花ちゃん!」
「越っちゃん!!」

一方で、光陵陣営と裕也から響く悲鳴にも似た叫び声。レフェリーがカウントを数えるものの、立ち上がろうとする越花の動きは緩慢でダメージがあるのは明らか。
カウント8で立ち上がり構えた越花だが、心なしか上体がフラフラと頼りない。

「まだやれる?」

レフェリーの問いに、越花は無言で頷く。目に強い光があると感じたレフェリーは、構える越花のグローブを掴むと自分の服で軽く拭き、試合再開を告げた。



「よし、よく戻ってきたね。頑張ったよ」

 第2Rを耐え、疲れた様子でスツールに座り込んだ越花を労う心。ダウンしてからの約1分弱、疼く脇腹に顔をしかめながらも越花は千秋の猛攻を凌いでみせた。
しかしながら被弾数は第1Rの比ではなく、顔の所々に赤味が差し鼻の周囲には滲んだ血の後。
ダウンも奪われた上、ポイントでは相当な差がついた事だろう。しかし、越花は諦めていなかった。

「越花、あんたがあいつに勝つにはRSC狙いしかない。そこで……」

心がふと越花を覆い隠し、ヘッドギアに額をコツンと付けひそひそと小声で作戦を伝える。
いきなり唇が重なるかと思う程に密着してきた心に、一瞬ドキッとしつつ作戦を聞いた越花は小さく、だが力強く首を縦に振った。

「分かった。どっちにしても、このままじゃ負けちゃうもんね。タイミング難しそうだけど、精一杯やってみるよ」

『3回目、始めます』とのアナウンスに心はリング外へ出て、越花にマウスピースを銜えさせる。

グローブで位置を修正しながら、越花は最後の2分間を闘うべくコーナーから飛び出していった。



 リング中央でレフェリーに促され、お互いグローブを突き合わせる。再び右構えに戻した越花は、変わらず左ジャブを中心に中距離を維持。
一方、1秒でも早く試合を終わらせたい千秋は、ポイントで有利を取っているにも関わらず積極的な接近を繰り返した。
越花が下がり千秋が追う、この試合で終始続けられた展開。
それに終止符が打たれたのは、残り時間1分を切った頃である。

ガードを固めジャブを防ぎ続けてきた千秋が、ふとその中の1発を狙って右拳でパーリングしたのだ。
左拳を大きく払われバランスを崩した刹那、右頬に突き立つ重い衝撃。

「ぶふぁッ」

左フックを叩きつけられ、呻き声と共に弾かれるように越花は後退してしまう。
ロープ近くで何とか体勢を立て直したものの、眉をしかめ苦悶の表情がありありと浮かんでいた。

(チャンス!)

今こそ決め時と、千秋は腕に力を込め獲物へと肉薄。
まずはロープへ押し込もうと、左ジャブから右ストレートのワン・ツーを放った。
確実に獲物を仕留める為の、これは肉食獣の牙。
このパンチを皮切りに、全身全霊のラッシュで完全に相手の戦意を叩き潰す……千秋はそこまで考えていた。



ガッ!



左ジャブがガードの上を叩き、越花をロープに押し込む。
だが、ここで千秋に違和感を覚えた。
左拳に伝わる筈の衝撃が、予想外に軽かったからだ。
しかし、その違和感を拭う暇もなく右ストレートの発射態勢に。

繰り返し繰り返し反復してきた右ストレート、そのタイミングには一糸の乱れもない。
今回は、その精密さが裏目となった。

何と、ロープに押し込まれた越花がいつの間にか左構え……サウスポースタイルへとスイッチしていたのだ。

「ッ!?」

右拳から、殴打した手応え。しかし、それは越花の顔面ではなく、前面へ差し入れられた左肩を殴打したものだった。

「ふッ!」

肩に押し付けられた千秋の拳を、体重を掛けて押し返す越花。
バランスを崩したその腹へ、渾身の右ボディーアッパー。
さらに身体をくの字に折り無防備に晒されたアゴ目掛け、ショートストロークの左アッパーを叩きつけた。



ゴッ!



左拳がアゴへめり込み、僅かな溜めの後一気に暴力的な力が放たれる。
それは、この試合を運命づける1発となった。

「くはぁッ……」

下から突き上げてきた破壊的な衝撃に、大量の唾液を口から噴き出す。
脳を縦に揺らされ、つい先程まで鮮明だった筈の視界が急速にブラックアウトしていく。
両利きの越花が放ったカウンターの左アッパー。それは、いわば利き腕でのパンチと威力は大差ない。
幾ら彼女のパンチ力が平均的とはいえ、これだけキレイにアッパーが……しかもカウンターで炸裂したとあれば、大ダメージは確実。
それを証明するように、千秋の身体は大した踏ん張りを見せる事もなくその場で両膝を突き、力無くうつ伏せに蹲ってしまった。

「ダウン!」

レフェリーが慌てて2人の間に身体を割り込ませ、肩で息を切る越花にニュートラルコーナーへ下がるよう指示。

「はぁ、はぁ、はぁ。き…決まった……」

ロープに凭れたまま精根尽き果てた表情の越花は、それでもレフェリーの指示に従って定位置へと歩いていく。

手応えは完璧だった。

ダウンカウントが数え上げられる中、ヘッドギアがズレて右側の視界を遮っていた事に気付き、呼吸を整えつつ位置を直す。
疲労とダメージで今にも座り込みたい衝動を必死に抑え、越花はトップロープに両腕を乗せ心の方を見る。
口元に笑みを浮かべ、親指を突き立てるその姿に越花も軽くグローブを上げ応えた。

心が授けた最終Rへ向けての作戦……それは、ずばり“カウンター”だった。
それも、右ストレートのみを狙い撃つという、ピンポイントなもの。

何かと右ストレートを多用する千秋の癖を見つけた心は、その穴を突く作戦に出たのだ。
果たして、親友はピンチに追い込まれながらも最良のタイミングで絶妙なカウンターを打ってくれた。

心としては、つい顔を綻ばせたくなるシーン。しかし、それはまだ許されそうになかった。

千秋が、カウント9ギリギリで立ち上がったからだ。身体を丸め、必死に腕を上げるその姿は見ていて痛々しさを感じさせる。
何とも微妙な所だったが、レフェリーは続行を指示した。

「いけ越っちゃん! 一気に畳み掛けろ!!」

裕也の叫びに呼応するように、越花は尽きかけたスタミナを総動員して千秋へ迫っていく。
越花とてもう限界寸前で、いつ動きを止めてもおかしくない状態。
だが、今の千秋はそれすらも上回っていた。
実の所、もはや立ち上がっただけで限界だったのである。



バフッ、バコォッ!



力の伝わってこない、抜けた音がリング内を巡る。
越花の放った弱々しいワン・ツー。
スピード感の欠片もないそれが、千秋の顔面を捉えた。

もはやボクサーとして必要な機能、その一切を錆び付かせた両脚は、ぶつけられただけのパンチにすら耐えられずガクガクと痙攣を起こす。
そして、いとも簡単に尻もちをついた千秋を見て、レフェリーはすかさずストップの指示。
間髪入れず、両腕を頭上で何度も交差する。

正に、試合が終了を告げた瞬間だった。





to be continued……
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チャパロット

Author:チャパロット
基本的に携帯サイトで書かせて頂いているもののリメイク(?)ですが、ちょくちょく文を変更してたりします(あと拙いですが自作絵なども)。
何かある方は、ckcwb305あっとまーくsutv.zaq.ne.jpにご連絡下さい。

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