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第36話 『念願のデビュー戦、悩めるナミ』

 プロボクシング編、第36話です。



<拍手返信>
・ぴーこ様:アンナもようやくジムが決まりました。千恵子も同じジムメイトとしてお互いに成長していく事でしょう……多分。
いつの間にやら麗美が世界選手権に出場するレベルになってたのも謎ですが、さり気なくそれに勝ってしまう柊もさすがのチーt……
そしてナミが驚いたデビュー戦の対戦相手は一体? 今後をお楽しみにして頂ければ、と。



プロデビュー戦の相手が決まった! モチベーションの維持に限界を感じ始めていたナミは、喜び勇んで対戦相手の情報を手に取る。
しかし、添付されていた写真を見て背筋の凍りつくナミ。その口からは「梨佳子」という呟きが……









 2012年、3月初め。プロテストに合格し晴れてB級プロボクサーとなったものの、なかなか決まらない試合にテンションの下がり始めていた下司 ナミへ、漸く巡ってきた待望のデビュー戦。
しかし、その相手の写真を見て絶句してしまった。

「どうした、ナミ坊?」

満面の笑みが急速に掻き消えていくのを見て、山之井ジム会長・山之井 敦史は訝しげにナミの名を呼ぶ。

「なんであの娘が……」

思わず、用紙を持つ手がカタカタと震えを見せた。

上原 梨佳子(うえはら りかこ)

小学校時代の1番の親友で、ナミにボクシングの道を歩ませるきっかけを作った少女である。

それは小学四年生の事。当時梨佳子が大事にしていた人形をガキ大将がふざけ半分で奪い、取り戻すべく突っかかったナミはあえなく返り討ち。
塞ぎ込んでいた所へ、まだ現役選手だった植木が現れ八つ当たりをした際に右ストレートを伝授されたのが、全ての始まりだった。

時は過ぎ、小学校卒業と同時に親の転勤に伴い、梨佳子は別の県へ引っ越していった。
以降彼女との繋がりは断たれたのだが、まさか今このような巡り合わせが待っていようとは……



「ふむ、なるほどなぁ。そんな間柄だったのか」

 梨佳子とのエピソードを聞いた敦史は、顎に指を添え小さく頷く。ナミにはまだ伝えていないが、今回は梨佳子の所属するジムからの熱望によるものだった。

「梨佳子がボクシングしてたってだけでも驚きなのに……」

言葉に窮する。ナミの受けたショックは、それ程計り知れなかった。恐らく、十中八九分かった上で梨佳子は昔の親友に挑戦状を叩きつけてきたのだ。

一体どういうつもりなのか?

意図が読めず、困惑すら覚えながらナミは暫くソファーから立ち上がれなかった。



 ナミは、ジムを出て家路に着く間無言で下を俯いていた。結局、試合の申し出は承諾した。というより、選択の余地はなかった。
これを断れば、更にデビューが遠ざかるのである。それに、漸くの思いでオファーを取ってきてくれた、敦史の苦労を無駄にしてしまう。

それは避けたかった。

「ともかく、ウェイトだけはちゃんと合わせておかないとね」

試合は1ヶ月後。本来ならナミはフライ級のウェイトなのだが、梨佳子のウェイトがライト・フライ級寄りの為、48kg契約マッチという形を取っている。
つまり、ナミはフライ級の下限ギリギリである、48.99kgまで落とさなければならない。
フライ級の上限が50.80kgな為、約2kg余分に落とす必要があった。

「1ヶ月で約4kgかぁ。ある意味、こっちの方が強敵かも」



 翌日。ナミは久しぶりに女子ボクシング部室でサンドバッグを叩いていた。

「ああああああッ!」

酸素を吐き、止む事ないコンパクトなパンチの連打。バスバスバス、と革と革のぶつかる音が間断なく響く。
頭まですっぽりとウェアを被り、一心不乱にパンチを繰り出すその姿に、部員の何名かは言葉を失っていた。

「体重落ちそうか?」

入念に身体をほぐしながら、高頭 柊がナミに声をかける。

「ハァ、ハァ、ハァ……このペースでやっていけば、多分ね」

フードを跳ね退け、汗だくの素顔を晒し無表情に答えるナミ。もう1年半にはなるだろうか。ナミは高校最初の公式戦大会を、減量の失敗によって棄権している。
あの時より確実に身体も成長した今、48kgまで1ヶ月で落とすのは大変な事だった。

「ううん、絶対に落としてみせるわ。プロなんだもの」

タオルで垂れる汗を拭き、決意の眼差しで部室の中央を見る。リング上では、新主将・葉月 越花とトレーナー・知念 心とが実戦さながらのスパーリングを行っていた。
選手としては引退した心だが、こうやって積極的に近しい階級の部員へのスパーリングパートナーを務めてくれている。
3月に他校との練習試合がある為、出場選手たちの意気は高い。特に、越花は夏の県予選で負けた相手との再戦だけあって、熱の入り方が違った。
普段おっとりした性格の越花が、県予選敗退後泣きじゃくり「悔しい」とはっきり言ったのは、あれが初めてだったのではなかろうか?
ボクサーとしてのプライドも芽生えた越花は、そして今リング上で心を翻弄しつつあった。

世にも稀な、生粋の両手利きを活かしたスイッチはより精密に作用し、左右の切り替えに全く違和感がない。
さらに、彼女の入会した獅堂ボクシングジムの1人娘、天才・獅堂 きららに教えて貰ったのか、時折フリッカージャブも巧みに使いこなしていた。



ビーーーーーッ!



2分の終了を告げる自動タイマーと同時に、リング上の2人は打ち合いを止める。

「ハァ、ハァ。やるようになったじゃない、越花」

右拳を中学からの親友のグローブへ軽く当て、心が微笑む。アンナと同じくらい越花の成長に気を揉んでいる身として、心はこの結果を喜ばしいものに思えた。

「ハァ、ハァ。ありがと、心ちゃん」

ヘッドギアを外して貰い、越花は微かに微笑み返す。ただ、まだまだ満足出来る形にはなっていない。
微笑む瞳の奥底で、そう語っているようにナミには思えた。

「都亀、練習試合っていつだったっけ?」

ふと練習試合の日取りを知らない事に気付いたナミは、近くでロープスキッピングを終えた杉山 都亀に訊ねる。

「そうか、ナミさんは最近こっちに来てなかったから知らされてないのか。ちょうど10日後だよ。場所はここで、10時から」

男装の麗人を連想させる涼やかな顔で、都亀はナミに答えた。去年の夏合宿で左アキレス腱のトラウマを克服してからというもの、自信を取り戻しメキメキ地力をつけてきている都亀。
心なしか、端正な容姿に女らしさが加味されてきたように見える。

言うなれば大人の魅力といった所か。

今の自分にはないな……と内心感じながら、ナミは礼を述べ再びサンドバッグへ拳を振るっていった。



 10日後。光陵ボクシング部と大室高校ボクシング部との練習試合、その当日を迎えた。今回は、珍しく男女合同の練習試合という形で話題性は充分だった。
その証拠に、戦場となる女子ボクシング部室には有り得ない程の人集りが溢れ、熱気や雑音にむせるかのよう。
話題作りの一環として、男子部新主将・前野 裕也と女子部新主将・葉月 越花との共謀……もとい協力によるものと囁かれたものだが、真相は不明である。

今回、女子ボクシング部からの出場選手は、

桜 順子(ピン級)
比我 秋奈(ピン級)
桃生 詩織(ライト・フライ級)
下司 サラ(フライ級)
杉山 都亀(バンタム級)
葉月 越花(フェザー級)
室町 晶(ライト級)

以上6階級7名。

本来フェザー級の晶は、アンナに出場権を譲って貰いライト級への出場となっていた。

『男子の光陵、女子の洛西』と称される神奈川県の高校ボクシング事情だが、対戦校たる大室高校は男女共にそれらに次ぐ規模と実力を備えた、まず強豪といって良い。
少なくとも、大室高校側は光陵を大いに意識していた。

「今日はどうかお手柔らかにお願いします。胸を借りるつもりでいかせてもらいますので」

大室高校ボクシング部の顧問からして、口では殊勝な言い回しをしながらも敵愾心剥き出しの眼をしていたのだ。

(いかにもウチを喰ってやろう、って顔だな)

同じく柔らかい対応で握手を返し、植木は内心小さな溜息を漏らしていた。
ちなみに、男子と女子の試合を交互にする形を取り、レフェリーもアマチュアボクシング委員会の人間に依頼・派遣されてきている。

準備はすっかり整い、後は試合を待つばかり。そんな中、光陵陣営に身を置いていたナミは横にいた柊に肘で脇腹をつつかれた。

「なに、柊?」

「アレだろ? 越花のリベンジの相手って」

珍しく興味を示した様子で、柊が去年のI・H県予選で越花に勝ったという一年生を指差す。
そこには、しっとりとしたロングヘアーを靡かせ静かな表情で佇む、試合用コスチュームに身を包んだ少女が1人。
やや幼い雰囲気ながら、吊り上がり気味の眼や固く紡がれた口からはキツそうな性格を連想させた。

神楽 千秋(かぐら ちあき)

越花のリベンジの相手。だが、そんな千秋は事ある毎に溜息を吐いてばかり。その表情からは、明らかにやる気を感じさせない。

「なんか、あんまりやる気なさそうだねあの娘。相手が1回勝った越花ちゃんだからって、舐めてるのかな……?」

今回は裏方へ回っている葉月 雪菜が、溜息を連発する下級生の方を見て呟く。気のせいか、そのこめかみには青筋が立っているように見えた。

「どういう理由で溜息ばっかりなのかは知らないけど、集中出来ない奴は負けるだけよ」

グローブを着け、トップバッターの順子が軽いシャドーボクシングで身体を解しつつ会話に混ざる。
その言葉に等しく頷く一同。目の前の試合に集中しなければ、予想外のラッキーパンチで負ける事もあるのがボクシング。
この場にいるナミたちは、それを痛い程良く理解していた。



「それでは、光陵高校と大室高校との合同練習試合を行います。まずは女子ピン級、両選手リングへ」

 役員による開催宣言の後、部室外のギャラリーが騒ぎ出す。心によってヘッドギアを着けられた順子が、胸元で思いきりグローブを叩きリングへ。
ここに、光陵男女ボクシング部の長い練習試合が始まった。




「ダウンッ!」


 レフェリーの声が響き、ダウンを奪った者と奪われた者との間に割って入る。ドッと沸くギャラリーの歓声を遠い雑音程度に聞き流しながら、バンデージを巻いた両手を頬に添え椅子に座った姿勢の千秋は、また小さく溜息を吐いた。

(はぁ……なにやってんだろ。もうボクシングなんかやらないって決めたのに)

ダウンカウントを数えられている自分の先輩を冷ややかに見つめ、リングから別の方向へ視線を移す。

葉月 越花。去年のI・H県予選で1度勝った相手。
結果程に楽勝ではなかったが、はっきり言って相手ではなかった。
元々、積んできたキャリアからして違うのだから、当然の結果なのだと千秋は思う。

物心ついた時には、ボクシングジムのプロトレーナーの父によってスパルタ指導を受けてきた。
友達が楽しく買い物やデートで華やかに着飾っていた頃、彼女は地味なトレーニングウェアに身を包みひたすら走らされる毎日。
家族で優雅に外食し舌鼓を打っていた頃、ボクサーに減量は付き物と質素な食事しか与えられなかった。

そんな環境での生活を強いられた結果、千秋はボクシングを忌み嫌った。そうなるのも、無理らしからぬ事といえよう。
彼女は、ボクサーとしての自分より女としての自分をこそ欲したのだから。
そして、いつしかボクシングから離れていった筈の彼女は、何かと世話になっている先輩の頼みを断れずこうして再びリングへ上がる羽目に。
因果はどこまでも絡みついてくるのか……と内心苛立ちを孕み、試合終了のゴングを耳にしつつ何度目かの溜息を吐くのであった。





to be continued……
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コメント

No title

晶ちゃんの試合楽しみだワーww
どんな波乱、暴挙をオコシテクレルヤラ!?www

くぅ、申し訳ない。ネタバレすると、今回は越花がメインなので晶の試合は……晶スキーとしては不満かもですが、どうかお許しをorz
Secre

プロフィール

チャパロット

Author:チャパロット
基本的に携帯サイトで書かせて頂いているもののリメイク(?)ですが、ちょくちょく文を変更してたりします(あと拙いですが自作絵なども)。
何かある方は、ckcwb305あっとまーくsutv.zaq.ne.jpにご連絡下さい。

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