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第33話 『山之井ジム、大人たちの秘密のお話』

 プロボクシング編、第33話です。



<拍手返信>
・クリロベー様:香澄の新イラスト気に入って頂けてありがとうございます。ただ残念ながら選手としてはもう……
・ぴーこ様:きららを贔屓にして頂けて、本当にありがとうごさいます。本編では天才ボクサー(笑)みたいな戦績しか残せてないので、何とか挽回のチャンスを上げたいと思う次第です。
ぴーこ様も香澄を気に入ってもらえたそうで、だが時すでに遅し……まぁ、試合シーン以外の所でなら出番はあるかも、ですね(汗)




2011年、12月。いよいよ、ナミのプロテストが始まった。
実技テストの相手となるのは、現役女子プロボクサー・菅谷 鮎美。当初こそ互角な内容だったが、第2Rから本気を見せ始めた鮎美に、ナミは押され出す。
プロの底の深さ、その片鱗を見せ付けられた形で、ナミのプロテストは終了を迎えるのであった。












「う~ッス。今日も邪魔するぜ、会長(おや)っさん」

 練習場のドアが無造作に開け放たれ、熱気と汗の匂いが充満したそこへ気怠そうな声が響く。
季節は、2012年2月。ようやく残業の山を片付けた植木が、凝り固まった身体をほぐすべく山之井ジムに顔を見せたのはPM22:00頃の事。
無事にテストを合格し、晴れてプロボクサーとなったナミは、一足違いで帰っている。
時間としては遅いが、似たような目的でストレス解消にやってきていた数人の青年男性が、未だ活発に汗を流していた。

濃紺のスーツから銀色のトレーニングウェアに着替え、手慣れた手付きでバンデージを両拳に巻き、練習場へ出る。
そこで、今し方他の練習生のコーチングを終えた吉川 宗観がやってきた。

「よう、宗観。今日もちょっと借りるぜ」

「先輩……ちょっといいですか?」

気さくな表情の植木と比べ、宗観のそれは酷く重苦しい。何かあるのは一目瞭然だった。
宗観に促され、植木は会長室へと招かれる。そこでは、当ジム会長である山之井 敦史がデスクの前に散乱した何枚かの用紙とにらめっこをしていた。

「よう会長っさん。何か用があるんだって?」

敦史が自室に籠もっている時、用紙とにらめっこは日常的光景なので、気兼ねなく声をかける植木。

「おお、来たか四五郎。お前さんにちょっと話があってな」

応接用のソファーに招かれ、植木は遠慮なく腰掛ける。向かい合って敦史と宗観が座ると、早速敦史が話を切り出した。

「なあ四五郎。お前さん、プロのトレーナーになる気はないか?」

「……は? なんだよ、いきなり」

現役時代は師として、また引退後は良き理解者として長年敦史と付き合ってきた植木。それだけに、彼の言葉の意図を把握するのは容易なのだが、今回の意図はさすがに読めなかった。

今、山之井ジムにトレーナーが不足しているとは思えない。敦史と宗観を除いても、まだ3人はいた筈である。
それに、私立高校の数学教師という地位に就いて、まだ5年も経っていない。植木は、今の仕事が気に入っているのだ。

即断、とはいかなかった。

「会長っさん、イマイチ話が見えてこねえんだが」

ソファーで腕を組み、植木は敦史の方を見つめる。

何故今になってプロトレーナーへの転職を勧めてくるのか?

口に出さず、目で問いかけていた。敦史はそれに答えず、隣の宗観へ視線を送る。
宗観が小さく頷いたのを見て、そこでようやく植木の無言の問い掛けへ回答した。

「まだ正式な日取りが決まった訳じゃないんだが……宗観がウチから独立してジムを持つ事になった」

敦史の回答に、植木は暫し口を噤む。練習場から聞こえてくる、サンドバッグを叩く音やリズミカルに地面を叩く縄飛びの音が絶えず鼓膜を打つ。
しかし、植木の耳にこの喧騒は届いていなかった。

彼が沈黙を破るまでに、軽く1分は要しただろうか。今度は、後輩の方を見やった。

「宗観、お前……よくもまあ決断したモンだな」

「ありがとうございます、先輩」

植木にとって、宗観は後輩であり大事な親友であり、信頼の置けるトレーナーである。その彼が、古巣の山之井ジムから飛び出し、新たに主として居を構えるのだ。
祝福しない理由はなかった。

しかし、一方で幾つかの疑問も浮かぶ。

「それはそうと、だ。ジムの場所や建築費、雇用体制とかは具体的に出来てるのか? 出資者は? ナミ坊のデビュー戦もまだ決まってなかったろ?」

「え、えっと、それはですね……」
「おいおい四五郎、そんなに一気に質問してやるな。今すぐ独立、ってわけじゃねえんだから」

まくし立てるような質問攻めに辟易した様子の宗観を、敦史がフォローした。

「ひとつずつちゃんと答えてやるから慌てるな。まず、独立後の場所だ。緒原(おばら)さんトコの向かいに教会風のジムがあったろ?」

敦史の言葉に、植木は具体的な場所を思い浮かべてみた。

緒原ナックルジム。神奈川県内で最大規模のボクシングジム。皆に内緒で、高頭 柊が通っているジムでもある。
スタッフ、設備、資金力、そして選手層、全てが突出しているといえよう。
その向かいに、一見して教会風の外装をしたボクシングジムがあった。

名を聖ヘレナボクシングジムという。

明らかに内容とそぐわない外装、また向かいが県内最大のジムとあって、かなり経営不振が続いていたらしい。
近々、そこが閉鎖し土地が空くとの事で、宗観はそこに改めて居を構えるのだそうだ。

「お前、チャレンジャーだな。よりによってそんな場所に……」

植木は呆れ顔で後輩の顔を見る。

「で、こいつのジムを建てる出資者なんだが、まさかの大物が現れたんだよ。なんと、棗(なつめ)の跡取りだ」

「なッ!?」

思わずソファーから立ち上がり、植木は敦史と宗観を交互に見てしまった。

棗といえば、たった一代で身ひとつから巨万の富を得たという、日本で知らぬ者のない資産家。
その男、棗 泰三(たいぞう)は大の格闘技好きで、色々な興行やイベントに多額の出資をしてきた。
そんな彼も1年程前に急死し、今は遺産の全てを3人姉妹の長女・希美(のぞみ)が相続している。
つまり、今回の出資に棗 希美が挙手してきたという事。

「はぁ……まさか棗の名前が出てくるとはなぁ。で、どういった風の吹き回しなんだ?」

実は山之井ジムが一時期、経営難に陥った時期があり、その際に棗 泰三の援助を受けた縁がある。つまり全くの無縁という訳でもないのだが、その後は色々な形で借りを返す羽目になったらしい。
恐らく、娘の希美もただの慈善事業という訳ではないだろう。

「ええ。ジムが経営の暁には、何人か知り合いの女子プロボクサーを預かって活躍させて欲しい……との条件を提示されました」

宗観が出資の交換条件を述べる。それに対し、植木は正直拍子抜けした。てっきり、もっととんでもない条件が飛び出すと思っていたからだ。
ジム開設からいきなり数人のプロ選手を抱えられるのは、宗観としても願ったり叶ったりだろう。
活躍させろ、というフレーズには少々引っかかるが、ナミをしっかり育ててきた手腕を持つ宗観である。
危惧はなかった。



「雇用体制なんかは、今から詰めたってしょうがないから飛ばす。で、目下お前さんが1番気になってるナミ坊のデビュー戦なんだが」

 植木の質問に逐一答えてきた敦史だったが、ここで一旦言葉を切り……

「まだ決まってない」

簡潔過ぎる一言で片付けた。

U-15全国準優勝、I・H日本一など、アマチュアでの肩書きには事欠かないナミ。そんな新鋭の大物新人に自分の選手をぶつけよう、という近隣のジムはなかなかいないらしく、相当難航しているらしい。

「そっか。まあそうだよな。わざわざ負ける可能性の高い相手を狙う理由はないよなぁ」

どことなく得心のいった表情で、植木は天を仰ぎ溜息をひとつ。ひと通り回答を得ると、植木は本来の目的を思い出し会長室を後にする。
ドアを開け練習場へ出ようとした、その時。

「先輩。自分には先輩の助けが必要なんです。トレーナーの件、よろしくお願いします」

宗観が深々と頭を下げていた。

「ああ……考えとく」










 城之内 アンナは、がっくり肩を落としトボトボと歩道を歩いていた。女子ボクシング部のOGである東 久野と、城之内家の使用人・白鷺 たえ子の孫娘でライバル認定する間柄の白鷺 美智子。
その2人のプロテストに感化されプロボクサーを志したアンナは、実は密かに聖ヘレナボクシングジムへの入会を考えていた。
しかし、いざ向かってみると、そこは既に『Closed』の掛札。ガラス張りの中を覗き込んでみても、器材やらリングやらは軒並み無くなっている。
さすがに閉鎖したのだと察したアンナは、期待していた分失意に落ちながら戻ってきた、という次第だった。

暗くなった夕闇を見上げ、しきりに溜息を吐く。ナミがプロテストに合格して以降、光陵女子ボクシング部内でも動きがあった。
即ち、ボクシングジムへの入会である。

まず、葉月 越花と雪菜の2人が新たに復活した獅堂ジムへ。
そして、比我 秋奈がナミのいる山之井ジムへ、それぞれ籍を置いたのだ。
その中で、越花と秋奈は共に明確なプロ志望を宣言している。
アンナはといえば、ばあやこと白鷺 たえ子の了承がなかなか得られなかった為、他のメンバーより出遅れてしまった。
両親とも家を留守にしている以上、決定権はたえ子に委ねられている。
粘り強い説得の結果ようやく了承を得、期待に胸を膨らませ向かえば、意中のジムは閉鎖というまさかの結果。
向かいの緒原ナックルジムにすべきかとも考えたが、気分的に控えた。

「はぁ……ツイてないなぁ」

街灯や通り過ぎる車のライトに揺れる金髪をキラキラ反射させ、アンナは再び溜息を吐く。そんな道のり、遠くから「キャッ」という声と共に誰かがこける音が聞こえてきた。

「あ、あのッ、大丈夫ですか?」

こけた人物へ走り寄り、アンナはエコ袋から零れた野菜やらを拾いつつ訊ねた。

「え? ええ。ありがとうございます」

きょとんとした表情を見せ、主婦らしき人物がアンナに礼を述べる。どう見ても外国人のアンナが流暢に日本語を話すのを、意外に思ったのかも知れない。
スポーティーに整えられたショートカット、均整の取れた熟れた肢体、目立つ胸の膨らみ。巨乳好きのアンナは、思わずそちらへと視線を向けてしまう。
ただ、まだ若いであろうその顔には、不釣り合いに厚い化粧が施されていた。

「あ、えっと、ありがとうございました」

アンナが自分の胸に見入っているのを知ってか知らずか、気にした様子も見せず女性は頭を下げる。
こけた後にもかかわらず、小走りに去っていくその姿を見送りながら、アンナはひとつ気掛かりに感じた。

(あの人、顔にアザがあった。それに少し腫れてる感じも……)

化粧でも隠し切れないそれは、まるでアンナが試合を終えた後の腫れやアザと良く似ていた。

(でも、優しい感じの人だったな。おっぱいも大っきいし。また会えるかな)

言葉に言い表せない感情を抱き、アンナは女性の走り去っていった道をのんびり歩く。
もう1度会える事を願いながら。

そして、それは本人の予想を遥か上回る早さで叶う事となる。



 翌朝。ロードワークの為屋敷から出た所で、何と昨夕の女性と鉢合わせした。

「「あッ」」

2人、全く同じタイミングで声を上げる。普段着姿のその女性の手には、地図と赤ペン。

「お、おはようございますッ」

やや上擦った声で挨拶するアンナに、女性は柔らかな笑みを浮かべ挨拶を返す。改めて見ると、体格はアンナと大して変わらない。
全体的に優しげな雰囲気は、包容力ある大人の女性を連想させるに充分というよう。

「貴女ここの人? 私、昨日こちらに越してきました、中山 梨沙(なかやま りさ)です。よろしくね」





to be continued……
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コメント

お久しぶりです!中々お訪ねできなくて…。久しぶりに読んでみて、懐かしさがこみあげてきましたよ!

イラストも綺麗だし!今までは自分の中で(貧困な)イメージをするしかなかったのですが、これから容易く脳内変換できます。
ナミと柊が気に入っています♪
でも随分間が空いてしまったので、また一から読み直そうかなあと思っています。
また似たような感想送りつけるかもしれません!頑張ってください!

おお~~、お久しぶりです!! またわざわざ読みに来て頂けるなんて、同じく懐かしさを感じると共に大変ありがたいです。
文章にあるキーワードで外見を想像するのももちろん楽しいのだろうとは思うのですが、敢えてキャラ絵はちょくちょく描いてますw
これからもまた交流出来れば嬉しいと思ってますので、また気兼ねなくお越しください。
Secre

プロフィール

チャパロット

Author:チャパロット
基本的に携帯サイトで書かせて頂いているもののリメイク(?)ですが、ちょくちょく文を変更してたりします(あと拙いですが自作絵なども)。
何かある方は、ckcwb305あっとまーくsutv.zaq.ne.jpにご連絡下さい。

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