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第32話 『いざ、プロテストへ』

 プロボクシング編、第32話です。また、【登場人物紹介】のイラストを一部差し替えました。該当キャラは以下の通りです。

・桜 順子
・畑山 久美子
・葉月 越花
・杉山都亀&中森 陽子
・知念 心
・東 久野

※知念 心の色合いが個人的に納得いかなかったので、新たに差し替えさせて頂きました。




プロボクサーになる事を頑なに誓う姉。姉を越える事を改めて胸に秘める妹。
大人たちの心配をよそに、子供たちは信念を曲げようとはしなかった。下司の両親と植木は酒を酌み交わし、娘たちの行く先を植木に託すのであった。









【腕を鉤型に曲げ、下から突き上げるパンチの名前は?】
【ステップを踏み、リズムに乗って動く方法を何という?】


 静かな部屋に、カリカリとペンを走らせる音だけが響く。視線の先にあるペーパー用紙、そこに記載された幾つかの質問を、受験者たちは事も無げに解答していった。

2011年、12月。下司 ナミは、2ヶ月前に訪れた東京・後楽園ホールへ再び足を運んでいた。
ただし、今回はプロテスト受験者としてである。身体検査や適正階級の振り分け等を終え、今は一室を使ってのペーパーテストの最中。

(四五兄ィや吉川コーチから聞いてはいたけど、ホント基本的な事ばっかり。やる意味あるのかしら? こんなテスト)

すらすらとペンを走らせながら、ナミはそう感じていた。早く実技テストに入りたい。そればかりを考え、ひたすらに解答を書き殴っていった。


ペーパーテストも滞りなく終わり、次はいよいよ実技テスト。女性の受験者はナミを含め5名。その内、B級テストを受けるのはナミだけであった。
B級ライセンスは、アマチュアで多少なりと実績のあった選手にテスト資格が与えられる。ただ、基礎体力やテクニックなど、求められるものはC級テストよりも厳しく難易度は高い。
とはいえ、これまで培ってきたものを出せば、全く問題ない程度のレベルであった。

基礎体力テストも余裕でクリアし、ナミは次の実技テストに備え準備に入った。『10』と番号の打たれたビブスを上から被り、白地のトランクスに同色のシューズ、両拳にはバンデージを巻いた上に赤のグローブを、頭には黒光りするヘッドギアを、それぞれ纏っていく。

「頭、キツくないか? ナミ君」

後頭部のマジックテープを締めながら、トレーナーの吉川 宗観が具合を確かめる。
問題ないです、と返し、ナミはあちこちと違和感がないかを確かめてみた。どこも違和感はなかった。
リングへ上がる準備が整い、後は出番が回ってくるのを待つばかり。

「あ、すみません。下司さん、ですよね?」

そんな中、ナミに話しかけてくる人物が近寄ってきた。

「あ、はい。そうですけど」

ねずみ色のTシャツ、黒地に赤ラインのロングトランクス、群青色のシューズ姿のショートカットの女性は、どこか気恥ずかしそうな雰囲気で胸を撫で下ろす。
手にバンデージを巻いている所を見ると、彼女も選手のようだ。

クリッとした大きな目に、フニフニの頬。かなりの童顔である。
だが、それに不釣り合いな盛り上がった巨乳。

ナミの脳内データベースに該当する人物ではなかった。

「初めまして。今日あなたの相手を務める、菅谷 鮎美(すがや あゆみ)といいます。よろしくお願いします!」

ぺこりと頭を下げ、次いで握手を求めてくる菅谷 鮎美と名乗る童顔女性。

「え、えっと……こちらこそよろしくお願いします」

城之内 アンナと同種の人懐っこさを感じながら、ナミは握手に応じる。信じ難い事ながら、ナミよりも幼い容貌のこの女性は、現役のB級プロボクサーらしい。

「もっと色々話をしたいんですけど、あたしも準備しないといけないので、一旦失礼しますね」

握手を済ますと、鮎美はさも名残惜しいといった表情で去っていった。

「い、一体なんだったの、あれ」

半ば呆れ顔で、走り去った道を眺めるナミ。その隣で、宗観はただ静かに立っているだけだった。



 実技テストが始まり、何組目かのスパーリングを終えたリング上から、ナミを呼ぶアナウンスが聞こえた。
それに応じ、青コーナー側の階段前に置かれた滑り止めの松ヤニをシューズの足裏に馴染ませる。
カンカンと金属製の階段を上がり、宗観に広げて貰ったロープをすり抜けリングへと躍り出た。

「懐かしいな、この感触」

踏めば微かに沈むマットの上で、ナミはリング全体を見渡してみる。後楽園ホールのリングに上がったのは、U-15以来か。
あの決勝戦で、初めて負けた時の事を思い出す。あの時、初めて自分を負かす相手と出会い、ボクシングの厳しさを知った。
あれから約3年、今度はプロボクサーになる為の試練に挑む。ナミは、慣れた足取りでリングへ舞い降りた鮎美の姿を見て、もう一度気を引き締め直した。



「スパーリングは2分の2R。あくまで技術を見るのであって、倒したら合格という訳ではないので注意して」


 レフェリーから、テストに関する注意事項を言い渡されるナミ。B級プロボクサーに相応しい技量とスタミナが備わっているか、それがテストの合否に関わってくるのだ。
諸注意を終え、レフェリーはナミと鮎美にグローブを合わせるよう促す。

「下司さん、あなたの実力を見せてください」

ヘッドギアの奥から、柔らかな笑顔を覗かせ両拳を差し出す鮎美。

「お願いします!」

ナミも大きな声で一礼し自分の拳をポンと合わせると、両陣営は各コーナーへ引き下がった。

「リラックスして。今まで教えてきた事を7割も出せば、間違いなく合格出来る」

青コーナーでナミと向かい合い、両肩をマッサージしながら宗観が声をかける。1つ1つに無言で頷き、ナミは差し出されたマウスピースを口に含ませて貰う。
グローブでしっかり押し込み、上の歯に固定させていく。程なくアナウンスが入り……



カァァァァンッ!



鐘の音が実技テストの開始を高らかに宣言した。



 静かな空間に、キャンバスを蹴るシューズの摩擦音が派手に響く。

「始まったね」

観客席の一部を陣取る集団の中、息を飲むような声で越花が呟いた。

「ああ」

その呟きに、柊は短く答える。2ヶ月前の世界女子ボクシング選手権大会でまさかの優勝を成し遂げた彼女は、大した負傷もなく部活仲間の応援に駆けつけていた。
正式にロンドンオリンピック・女子軽量級の代表となった今の柊は、本来このような時間など取れる立場ではない。
しかし、どうしてもという柊の強い希望をトレーナーである元ライト級1位の女子プロボクサー、新田 祐希子が認めた為、今この場にいる事が叶ったのである。

越花や柊以外にも、光陵女子ボクシング部の面々や桃生 誠、前野 裕也などの男子ボクシング部、我聞 鉄平や馬剃 佐羽らジムメイト、かつて激闘を繰り広げた中村 香澄や樋口 静留なども同じくナミの応援に来ていた。

皆、ナミに何かしらの影響を受けた者ばかりである。そんな顔ぶれに見守られる中、ナミは眼前の相手に集中していた。

両者とも右構えのオーソドックススタイルで、リズムを取り隙を窺う。
スパーリング開始から10秒、先に仕掛けたのは鮎美の方だった。

「シュッ」

口から空気を吐く音と共に、鮎美の放つ左ジャブが獲物に襲い掛かる。
それをパーリングで弾き、逆に左ジャブを刺し返していく。
しかし、鮎美は既に射程圏外まで退いていたようで不発に終わった。
距離を離す鮎美に食いつき、更にワン・ツーで追い討ちをかけるナミ。
それを強固なガードで防ぎ、続いて飛んできた左フックをお返しとばかりパーリングで大きく弾く。
左拳をはたき落とされたナミは一瞬バランスを崩し、鮎美の右ストレートで鼻っ柱を叩かれた。
バゴッと殴打の音が鳴り、目から火花が飛ぶような錯覚を覚えるナミ。
鼻を打たれた不可抗力で涙ぐみながら、追撃に備えすぐさま体制を立て直す。
しかし、鮎美は追い討ちをかけるつもりはなかったらしく、トントンとフットワークを刻んでいた。

ダメージはたかが知れている。手加減されたパンチだというのは、容易に想像がついた。
舐めている、という訳ではないだろう。
これはあくまでプロテスト、相手は現役のプロボクサーなのだから。
しかし、悔しさは込み上げてくる。

この人を本気にさせてみたい

ナミは、密かにそう決意した。

軽快なフットワークを取る鮎美に、ナミは猛追しパンチを繰り出し続ける。
普通にパンチを打ったのでは、恐らく鮎美は捕まらない。
しきりにフェイントを仕掛け、手数でプレッシャーを与えていく。

「くッ」

手数によるナミのプレッシャーに、鮎美の表情が変わった。
間断なく打ち込まれるコンビネーションブローに、反撃の機会を見出せず防戦に回らざるを得なかったからだ。
上体を振ってかわし、或いはガードを固めて防ぎ、クリーンヒットはまだ許していない。
が、それだけの事。
このままの状況が続けば、いずれ1発良いのを貰うだろう。
その時が均衡の崩れる時だと、鮎美は直感した。
カウンターを狙うにも、今はタイミングが合わない。



カァァァァンッ!



結局、ナミのラッシュは収まる気配を見せないまま、第1Rはそのまま終了。
凡そ40秒近くをラッシュで押し切ったナミのスタミナに、審査員一同が感嘆の声を上げる。
1番驚いたのは、それだけの無呼吸運動を続けたナミ本人が、大して息を切らしていない事だった。

「よし、いい感じだ」

宗観がナミの口から手早くマウスピースを引き抜き、ウォーターボトルを差し出す。水を口に含み、軽くうがいをしながら宗観の言葉に無言で頷く。

「でも、さすがに手強いです。手加減されててアレなんですから」

そういうナミの視線の先、対角でセコンドと話している鮎美は、全然余裕のある風。

「まぁ、相手が相手だからな。それより、オフェンスはいいとしてディフェンスがまだ荒い。もっとしっかりガードを固めて、相手をよく見るんだ」

宗観は、身振り手振りを使ってナミに注意を喚起する。その1つ1つにしっかり返事し、洗ったマウスピースを銜えスツールから立ち上がった。



 第2Rが始まり、また肉迫するものだとばかり思っていたナミが、中間距離での刺し合いに入った事は、見学に来ていた一部の部員たちの意気を削ぐ形となった。
猪突を信条とするアンナや晶、ナミの動きを消極的と見る越花やサラが不満を露わにする。

「なに言ってるの、これはあくまでもテストなのよ? ただ勝てばいいってモノでもないの」

一部の不満声に、呆れた様子を隠そうともせず由起が諫める。

「ディフェンステクニックも印象づけようという魂胆なのだろう。オフェンスは先程、充分に見せつけたからな」

口元で両手の指を絡ませた姿勢の桃生が、リングに視線を向けたまま解説する。
まさかの桃生の解説に、何人かがびっくりしたようなリアクションを見せた。
そんな中、ただ黙って観戦していた柊から「動くぞ」と呟かれた為、全員が釣られて視線を注ぐ。

果たして、鮎美は意図を察したかのように猛然とナミへ襲い掛かった。
左ジャブを数発打ち込んで距離を測り、狙い澄ました威力抜群の右ストレート!

「くッ…え!?」

ジャブはしっかり両腕でブロッキングし、ストレートには肩でのショルダーブロックで確実に止めにかかる。
しかし、この後起こった事にナミは瞠目した。せざるを得なかった。
肩から伝わる衝撃で視界が揺らぎ、身体が浮いたような錯覚を覚える。

否、事実“浮いていた”。

何という豪腕か。鮎美の一撃は、ナミの身体を丸ごと浮かせたのだ。
実際には爪先がキャンバスから離れるかどうか、というもので吹き飛ばされた訳ではない。
だが、当のナミにしてみれば、全身が空間からズレたかのように感じた事だろう。

「あッ、くぅ」

無事に着地はしたものの、浮遊感から戻れないナミへ鮎美が襲い掛かる。



バスンッ!



革と革のぶつかり合う音。
鮎美の繰り出した左フックは、偶然にか構えていたナミのグローブに防がれていた。
続く右ストレートは、ナミの頭上で鋭い風切り音を裂く。
寸での所で、ナミはしゃがみ込んで豪打をかわしたのだ。

「ぅわッ、とと!?」

しかし、無理な体勢でかわした為バランスを崩し、そのまま尻もちを着いてしまう。
これはスリップダウンと処理され、ナミに立つよう指示を出す。
九死に一生を得た形のナミは、冷や汗に身を震わせ立ち上がっていく。
今まで、ガードしてそのまま全身を浮かされるなどという経験はした事がない。
見た目の華奢な鮎美の、どこにそんな怪力が秘められているのか。
ともかく、まともに貰った時点で立っている自信はなかった。

レフェリーに再開を促され、両者は再び対峙する。
お互いの左ジャブが空を裂き、顔の前に右手を差し込んで防ぐ。
続くナミの左フックが鮎美の頬を浅く捉えた。
しかし、鮎美は全く意に介さず右ボディーストレートで反撃。

「うわッ!?」

浅かったとはいえ、フックが入ったにも関わらず余裕で反撃してきた鮎美のパンチ。
慌てて肘を差し込みブロッキングするが、ズシンと骨に響く鈍い衝撃で思わず眉をしかめてしまう。
跳ね飛ばされまいと腰を落とし、ナミは歯を食いしばり左ボディーフックから顔への左ショートフック、得意の2連打を叩き込んでいく。

鮎美は冷静にボディーフックを肘で防ぎ、返す顔面へのフックを素早いバックステップでかわす。
攻める時はパワー重視、守る時はスピードを駆使する鮎美の姿は、実に理に叶っている。
もっとも、それらを使い分けるのは至難ともいえるのだが……



カァァァァンッ!



一進一退の攻防を繰り広げ、見るべき所の多いハイレベルな4分間はあっという間に終わりを告げた。

「はぁ、はぁ、はぁ」
「はぁ、はぁ。お疲れ様でした、下司さん」

強烈なプレッシャーに耐え息を乱すナミへ、軽く息を切らした程度の鮎美がニッコリ微笑みながら肩をポンポン叩く。

「はぁ、はぁ。ありがとう……ございました」

まだまだ余裕を見せている鮎美に負けたと感じさせられながらも、ナミは練習の成果を出し切れた事に満足し鮎美と抱擁を交わした。
恐らくは合格しただろう。このスパーリングを観た誰もがそう思う内容で、ナミのプロテストは無事に終了したのであった。





to be continued……
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コメント

No title

ナミちゃん、多分合格おめでとー!!w
新キャラの娘もヤバいわネ!w

浮かすってw
単純なパンチの威力、夕貴たんとの比べ合いもみてみたいわねー。

差し替えイラスト、綺麗だわー、鬼東先輩の迫力圧倒的www

前回の久野と美智子の時と同じく、とてもスパーとは思えないガチっぷりでした。鮎美は今回が初登場ですが、これからも少なからず絡んでくるキャラになると思います。
今までも大概常識外れな描写は多かったですが、今回のは極めつけだったかも……パンチ力だけなら多分夕貴でしょうけど、全体的なパワーという意味では恐らく鮎美に軍配が上がるかと。

イラストの感想も重ね重ねありがとうございました。
Secre

プロフィール

チャパロット

Author:チャパロット
基本的に携帯サイトで書かせて頂いているもののリメイク(?)ですが、ちょくちょく文を変更してたりします(あと拙いですが自作絵なども)。
何かある方は、ckcwb305あっとまーくsutv.zaq.ne.jpにご連絡下さい。

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